真冬の出会い

「めんどいわね〜」

 エレベーターを下りた妥木だぼくはゴミ置き場へ向かった。
 真冬の張りつめた空気が全身に刺さる。寒い。
 しかしそれよりも、部屋からゴミ置き場まで往復する面倒くささのほうが大きい。
 ゴミ袋が勝手にゴミ置き場まで行ってくれればいいのに、といつも思っている。

「よいしょっと」

 他の人が出した粗大ゴミが置かれている。抱えていた炊飯器を空いているところに下ろした。ゴミ処理券の剥離紙を剥がしてしっかり貼りつける。
 これでよし。
 さて帰ろうと立ち上がる。
 突然、背後から声がした。

「お主、いいものを持っておるな」
「誰!?」

 間髪入れず叫ぶ。不審者は大抵これで怯む。その間に逃げるか、どつくかを判断すればいい。経験則である。
 妥木は勢いよく振り返った。
 そこにいたのは――。

「反射神経に優れておるの」

 子供だった。金髪に、紫色の着物を身に纏っている。可愛い。大人びた笑みがアンバランスだ。
 マンションの住人だろうか。それにしては雰囲気が浮いているような……。もしかすると侵入者か。

「誰? 何? ここの住人?」
「そう焦るでない。麻呂は――ダストハンター」
「何それ?」

 聞いたことのない言葉だ。
 ――ていうか麻呂って何よ。平安時代の人かしら?
 相手は含み笑いで答えた。

「簡単に言うなれば、ゴミを蘇らせるのが麻呂の生業――でおじゃる」
「蘇らせる? ゴミを持ち帰るってこと?」

 妥木の問いに相手は頷いた。そしてじっと妥木の足元を見つめている。

「その炊飯器、素晴らしいでおじゃるな」
「まさかこれ持って帰るつもりじゃないでしょうね」
「無論そのつもりでおじゃるが。むしろその曲線美を放っておくなど、この世に対する冒涜であろうぞ」
「壊れてるわよ、これ」
「些細なことであろうぞ。役目を終えた器にも価値はあるんでおじゃるよ」

 何やら熱く語っている。しかし、その内容は思いっきり犯罪だ。妥木には全く理解できない。
 上着のポケットからスマホを取り出した。

「一一〇番っと」
「無駄でおじゃる」

 通報されようというのに、あまりにも自信満々である。思わず手を止めた。口角を吊り上げた相手をよくよく見てみる。
 通報されても大丈夫な理由――。

「子供だから?」

 着物という珍しい格好と、どこか浮世離れした雰囲気。いいところの子供、という印象を受ける。

「子供ではない!!」

 急に怒り出した。しかし、容姿のおかげでそれさえも可愛らしく見える。
 ぷんぷん、と擬音が見えた気がした。アンテナのようなアホ毛が妥木を威嚇するように逆立っている。
 子供と言われて怒るあたりが一番子供っぽい。

「麻呂のどこが子供なんでおじゃるか。こんなに威厳に満ちているというのに」
「威厳……? どこが? よく分からないけれど、少なくとも大人には見えないわよ」
「な……」

 相手は凍りついた。アホ毛がぷるぷる震えている。
 ――表情豊かね。
 妥木はスマホを耳に当てた。

「もしもしおまわりさん? 怪しい人が――」

 相手は後退った。

「マ、マジで通報するんでおじゃるか?」
「そうだけど」
「ぐぬぬ。覚えてやがれでおじゃる〜!」

 捨て台詞を残し、相手は一目散に走り去っていった。方向はマンションの外だ。やはり住人ではないらしい。

「……何だったのかしら」

 妥木は相手が消えた方向を見ながら独りごちた。
 足元の炊飯器に視線を落とす。白くて丸いフォルムには、あまり傷はない。

「曲線美、ねえ」

 やはりよく分からない。


 * * *


「あ! この前の――」

 翌週。溜め込んでいた燃えないゴミを出しに来た妥木だぼくは、思わず声を上げた。見覚えのある姿が、ゴミのほうを向いてしゃがんでいる。
 その背中がギクリと跳ねた。ゆっくり妥木のほうに振り返る。相手は妥木を見て、大きな目を見開いた。

「おお! お主は――炊飯器!」
「誰が炊飯器よ!」
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