自分語り

 どーも、礎数です。礎の数で、そすう、です。この名前、画数が多くて、正直書くのはめんどいです。なのでマル書いてソって書きがちっす。分かればいいんすよ、こういうのは。
 仕事はなんでも屋をやってます。犯罪以外は大抵なんでもやりますし、ご依頼とあれば即座に駆けつけますよ。現在お客様満足度99%です。それに料金もお手頃だと思うっす。なのでどうぞご贔屓にお願いするっす。
 最近の依頼だと、迷子の犬探しとか、不倫の調査で尾行とかをしました。なんか町の探偵みたいっすね。探偵として売り出すのもいいかもしれないっすね〜。なんでも屋兼探偵ってカッコよくないっすか?
 で、どうしてなんでも屋なんてやっているかというと、体質のせいで普通の会社勤めができないからっす。
 体質って? と思いますよね? 自分もそう思ってました。長年こうなんで、もう慣れましたけどね。
 自分、月に二日だけ、性別が変わるんです。普段は女だけど、第一・第三木曜日だけ男になるんすよ。なんじゃそりゃ、粗大ごみの回収日かってね。
 話せば長くなるんですけど、こうなったのはある実験薬を浴びちゃったのが原因っす。その時のことは今でもよく覚えてます。なんたってそれで人生が変わっちゃったんすからね。
 兄貴の伝手で研究所のバイトに行ったんです。あ、三つ上の兄貴がいて、その研究所で働いてるんすよ。まあそれは置いといて。
 その研究所は人間の能力を向上させる研究? をしているらしいっす。詳しくは知らないんすけど、界隈ではそれなりに評価されてるって聞きました。
 とまあ、そこで雑用のバイトをしてたんです。言われた物を持っていったり、書類を片付けたり、宅配便を受け取ったりしてたっすね。
 ある時、研究員の人に頼まれて開発中の秘薬を保管室まで取りに行ったんです。――そう、その秘薬が原因っす。性別転換薬だったらしいっす。
 秘薬を持って行く途中、地震が起きたんですよね。そこまで大きい地震ではなかったっすけど。ちょうどその時研究所でモルモットが脱走してて。地震にびっくりして、自分にタックルしてきたんです。どうやら近くにいたみたいなんすよね。
 それで、容器を落として、もろに浴びちゃったんです。ひえー! って感じっす。あ、モルモットにはかかってないっすよ。タックルかましてきた後、秒でどっかに逃げていきましたもん。
 秘薬を浴びたその日はなんともなかったんですよ。浴びた感じも、ただの水っぽかったですし。
 ところが次の日、朝起きたら性別変わってたんです。第三木曜日だったんすよ。いやもう、超びびりましたね。え、これ自分? なんで? って感じで、本当にヤバかったです。大慌てってレベルじゃなかったっすよ。地球崩壊っす。
 兄貴やら研究所の人やらが色々調べてくれて、本当は飲む秘薬を半端に浴びちゃったのが原因でこうなったっていうのが分かりました。なんで粗大ごみみたいなスケジュールなのかは分からずじまいっすけど。
 元に戻す薬は現在鋭意開発中らしいっす。もう一個同じのを作ってまた浴びればいいんじゃ? って思ったけど、そう簡単なものじゃないみたいです。よく分からんっすね。
 まあ、もう何年も前のことなので、すっかり慣れちゃいましたね。ははは。今はもう、あ、明日男かー、じゃ力仕事できるな、って感じっす。
 え、兄貴? 今も研究所にいますよ。その秘薬を開発したのもそうっす。別にそれがきっかけで辞めたりはしてないですよ。むしろ元に戻す薬の開発を進めてもらわないと、ね。
 ――ああ、なんか喋ってたらお腹空きました。お昼食べていいですか? おにぎりっす。
 一個いかがっす? たらこですよ。たらこおいしいですよね。好きっす。ちなみに兄貴に作らせました。
 野菜スティックもあるっすよ。え、野菜は嫌い? あはは、じゃ自分が食べます。
 後悔してないかって? 言うほどしてないっすよ。こういうもんだ、って割り切ってます。たらこおいしいっすね。……今の生活も悪くないですし。
 あ、ご飯粒ついてますよ。……そこっす。取れたっす。
 なんでも屋を始めたのは、ぶっちゃけノリっすね。自分、昔から割となんでもできるタイプなんですよ。人生で困難にぶつかったことがなかったんすよね。
 だからまあ、なんとかなるだろうって。あはは。今のところはなんとかなってるっす。毎日楽しいっすよ。
 え、男バージョンも見たいっすか? 来週の第一木曜日、楽しみにしててください。
 見た目は……、今より背がちょっと伸びて、髪が短くなりますね。あとは普通に男性っすね。身長は今の状態で177センチです。男バージョンだと180オーバーっすよ、ウケますね。
 あ、見た目は変わっても中身は全く変わらないっすよ。紛れもなく自分っす。
 どんなふうに体が変わるのかは、自分でも分からないっす。朝起きたら変わってるんです。変わる瞬間を確かめようとしても、どうしても起きていられなくて寝ちゃうんすよね。
 兄貴についててもらったことがあるんですけど、「瞬きした一瞬で変わってた」って。アホか! って感じっす。
 ――見た目と喋り方のギャップがすごい? あはは、よく言われます。うっふ〜ん♡って言ってそうななりのに、下っ端みたいな口調だって。
 自然とこの口調になっちゃうんすよね。まあ受けはいいんで、これでいいんすよ。

 …………ん〜、なんだか今日は三日分ぐらい喋ったっす。聞いてくれてありがとうございます。おかげさまですっきりしました。
 あ、これ自分の名刺っす。ご依頼お待ちしております。
 ではでは、本日はありがとうございました。またお会いしましょうっす。


 * * *


 残下ざんげは空き地から去っていく礎数の後ろ姿を見送った。
 礎数とは偶然知り合い、身の上話を聞くことになったのである。人の話を聞くのが好きな残下は喜んで耳を傾ける。
 結果、非常に面白い話を聞けた。謎の研究所に、聞いたこともない秘薬。そして、聞いただけでは到底信じられないような体質。
 大満足である。おにぎりももらえたし。
 残下は鼻歌交じりで帰路につく。――また来週、あの人間とは会える気がする。
 まだ暗くなるまでには時間がある。ゴミ漁りをしに行く夜中まで、何をしようかと考えを巡らせた。
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