ロッカーで奇行でヤバイ【やや腐】

 ある春の日の昼下がり。べきせは町外れの森を後にした。触手の様子を見に行くという日課を終えたところである。
 放し飼いにしている触手は今日も元気だった。ぬめぬめしていた。いいことだ。いつも通り、べきせに反応を示すこともなかったが。
 ――この前は全身をぐちょぐちょにされたが……。あのときだけだった。
 認識はしているはずなのに、反応を見せない。そんなところも可愛らしい。思わず頬が緩んだ。
 そんな日課を終え、手が空いた。このあとの予定もない。何をして過ごそうか。
 ――あいつのところで暇潰すか。
 友人の一人、とれものことを思い浮かべる。どうせ彼も暇しているだろう。
 とれもは店をやっている。住居のすぐ隣に耳かき店なるものを構えている。
 なんだそれ、と初めて聞かされたときには思ったものだ。詳しく聞いたことも、施術を受けたこともない。さほど興味がないのだ。とれももべきせの仕事について触れてくることはない。
 べきせは今日のように暇なとき、よくとれもの店に行く。しかし、客が来店しているところは見たことがない。一度も、だ。
 それどころか、あの覇気のない店主は白昼堂々と居眠りしていることも珍しくない。
 経営は成り立っているのか。そもそも来客はあるのか。甚だ疑問である。

 
 暖かい。日差しが眩しい。自然と早足になる。
 さほど時間もかからないうちに着いた。控えめな看板が視界に入る。
 とれも以外には誰もいないことを確信しているので、べきせは遠慮せずに扉を開けた。カランと鐘が鳴った。
 明るくも暗くもない室内に、空調の音のみが響いている。静かすぎる、と来る度に思う。
 靴を脱いで空の下駄箱に押し込む。奥にある従業員用の部屋を覗いた。
 唯一の従業員たる友人は、いつもこの部屋にいる。
 大抵は寝ているか、本を読んでいる。あるいは、わけの分からないことをしている。三択だ。
 しかし。

「いないのか? 珍しいな」

 明かりはついておらず、無人だった。
 部屋を見渡す。
 積み上げられた段ボールに、よく分からない器具が並ぶ棚。タオルの束、椅子とテーブル。水道。
 物は多いがしっかり整頓されており、片付いた印象を受ける。
 見渡す視線の終わり、部屋の隅にあるロッカーが目についた。
 ――あの中にいたりして? あいつ、狭いところ好きだよな……。
 ロッカーに近付く。扉に手をかける。開けると――。
 人が入っていた。
 赤い髪に、穏やかそうな顔つき。ワイシャツにネクタイという、自営業の癖に勤め人のような格好の青年。とれもだ。
 狭い空間に器用にも体を収めて寝ている。
 ――本当にいるのかよ。体痛めないのか?
 腕を掴んで引っ張り出すと、相手は目を開けた。眠たげな両目が目の前のべきせを捉える。

「……べきせ? ……おはようございます」
「おはようボケナス店主。今日も暇そうで何よりだ」
「今日も辛口ですねぇ。……んん」

 伸びをするとれも。骨がパキパキ鳴った。
 この変人には狭いところを好む性質がある。家ではよく家具と壁の隙間に挟まっていたり、机の下で縮こまっていたりする。
 もうその奇癖にも慣れたが、最初は何度もドン引きしたものだ。

「ロッカーで寝るのも意外と悪くないですね。狭くて暗くて落ち着きます」
「そうか。よかったな」
「ただ体があちこち痛みますねぇ」

 とれもは首をさすりながら言葉を続けた。

「よくロッカーにいるって分かりましたね。探したんじゃないですか?」
「すぐ分かったぞ。どうせ狭いとこだろうって」

 開けっぱなしのロッカーに視線を向ける。上の棚にスマホが置いてある以外、中は空だった。元々使っていないのだろうか。

「ふふ、簡単に見つかってしまいましたね」

 微笑みながらそう言ったとれもは嬉しそうだった。

 
 ロッカーの前で話していると、店の入口のほうから鐘の音が聞こえた。続いて人の声。

「とれもさーん、いるー?」

 妥木だぼくだ。
 ――隠れよう。
 鉢合わせるわけにはいかない。
 反射的にべきせは、とれもを目の前のロッカーに押し込み、

「おわっ」

 自分も身を滑り込ませ、音を立てないように扉を閉めた。
 耳を澄ませて外の様子を窺う。

「とれもさん?」

 妥木の声が近づいている。部屋に入ってきたようだ。体がこわばる。

「いないのか。……うーん、待たせてもらおうかしら……」

 ――待たせてもらうな。帰れ。
 叫びたいのを抑えて心の中で呟く。
 呼吸を殺してじっとしていると、次第に足音は遠ざかっていった。妥木は部屋から出ていったらしい。
 べきせは安堵の息をついた。
 そして気づいた。何か言いたげなとれもにじっと見つめられている。それから、向かい合って密着していることにも。
 ――近いな。

「なんだ」

 小声で問いかける。とれもも小声で応えた。

「……妥木を避けてるんですか? 何も私まで――むぐっ」

 顔を掴んで言葉を止めさせた。
 とれもと妥木は顔見知り以上の仲ではある。どのくらい親しいのかは分からない。

「やっぱり喋るな。くすぐったい」

 理不尽すぎませんか、と視線で訴えるとれもを無視する。とはいえ巻き込んでしまった以上、隠れた理由は伝えたほうがいい。

「……詳しくは言えないが、今あいつと顔を合わせるわけにはいかないんだ」

 先月のことだ。森に迷い込んだのか、妥木が触手に襲われた。それから妥木はべきせに一つ、要求を突きつけてきた。これは自称飼い主たるべきせの管理不行き届きだ、だから責任を取って同じ目に遭え、と。
 それを渋々受け入れ、触手に撫で回されてきたのが先日のこと。その日は熱を出したが数日で回復した。
 それ以来、べきせはどうにも妥木と対面するのが気まずくなり、一方的に避けている。彼女とは隣同士に住んでいるが、タイミングをずらせば案外と会わない。
 理由になっていない理由を聞かされたとれもは、微妙な表情を浮かべた。納得したような、していないような。だが頬を挟まれたままなので、変な顔になっている。
 ――面白いな。
 そこでようやくとれもは顔を掴んでいるべきせの手をタップした。解放要求だろう。

「発言を許可する」

 手を離すと、

「ありがたき幸せ……?」

 とれもは真顔で言った。それがなんだか可笑しくて、思わず噴き出してしまう。声を潜めながら笑うべきせをとれもは不思議そうに見つめていた。

「っふふ……きみのそういうところ、嫌いじゃないよ」
「それはどうも……?」

 とれもは首をかしげた。自分の何を褒められたのかを分かっていない。そこがまた面白い。
 ……それはさておき。
 妥木はまだ店内にいるはずだ。帰ったと確信できるまで、ここから出るわけにはいかない。しばらくはこのままロッカーにいる羽目になりそうだ。
 ――どうしたものか……。
 至近距離にあるとれもの青白い顔をよそ目に、べきせは考え込んだ。


 * * *


 とれもは困惑した。それから受け入れた。
 友人によってロッカーに押し込まれ、その本人も入ってきたというこの状況を。
 いつものように来客の見込みのない店を開け、雑務を終えた。狭い場所に安らぎを覚える性分に従い、試しにロッカーの中に入ってみた。
 いつの間にか眠っていたらしい。
 気付いたときにはその友人――べきせに起こされていた。
 飼育員を自称しているこの若い男は、何かの面倒を見ているらしい。何を飼育しているのかは知らない。
 そんな彼はよくとれもの元を訪ねてくる。一緒に過ごすことも少なくはない。特に何をしているわけでもないが、その時間をとれもは気に入っている。

「…………」

 目の前のべきせは何か考えているようだ。目を伏せた顔がとれもの視界を埋めている。
 ついさっきまで笑っていたのに、今は静かだ。二人とも黙っているため、ロッカーの中は静寂に満ちている。
 この窮屈な状況に思うところがないわけではない。しかし、基本的にとれもは自身を取り巻く環境にあまり関心を持たない。
 一応の理由を説明された今は、ただ現状に動きが生じるのを待っている。
 べきせが顔を上げた。自然と視線が合う。

「隙間あるよな? 外を見れないか?」

 奥側にいるとれもなら、扉に開いている細い穴から外を覗けるかもしれない。

「試してみましょう」

 屈めていた上半身を前に出す。同時にべきせが身を低くした。
 右手を壁につき、左手を扉に置いた。
 扉に顔をくっつけるようにして覗き込む。連続して開いている細長い穴から、角度を変えて上下左右へと首を動かす。

「どうだ?」
「あまりよく見えませんね」

 このロッカーは部屋の端に位置している。そのため部屋全体を見渡せそうな気がする。しかし、実際は細切れの隙間から僅かに見えるのみであった。
 
「一瞬だけライトつけますね」

 背後の棚に手を伸ばし、スマホを手繰り寄せる。べきせが来る前、ロッカーに入ったときに置いたものだ。
 最低限の明るさでライトをつける。それでもこの薄暗い空間ではかなり眩しい。
 外を照らして少しでも見やすくなるように試みたが、大して変わらなかった。

「……駄目でした」

 扉から顔を離し、元の体勢に戻る。ライトを消そうとして、手を止めた。

「そう都合よくはいかないか。――眩しっ」

 中腰の姿勢をとっていたべきせも壁に手をつきながら立ち上がった。
 その足先を見てふと思いついた。

「入口に靴を置いたままですよね? 誰かがいるのは妥木だぼくも分かっているのでは?」

 あ、と呟くべきせ。
 一瞬の間を置いて、いや、と言葉を続けた。

「あの大雑把なやつのことだし、気付いてないだろう。万が一気付いたとしても、ロッカーに隠れてるとは思わないはず」
「あー……」

 そう言われるとそんな気もする。不思議なものだ。
 確かに妥木は大雑把な性格をしている。おおらかと言い換えれば聞こえは良いが……。
 妥木の行動をイメージしてみる。
 店に入り、真っ先にこの部屋へ。とれもが大抵暇していることは彼女も知っている。他には誰もいないと思い込んでいるはずで、入口の下駄箱などいちいち見ない。
 部屋をざっと見渡して、とれもが見当たらないことを確認。
 まさかロッカーの中にいるとは微塵も思わない。すぐに戻ってくるだろうと、特に探さずに待つ。あるいは、日時を改めて出直す。
 どちらを選んだかは分からない。
 こんな感じだろうか。

「あり得ますね」
「だろ? ――ていうか何しに来たんだ、やつは」
「さあ……」

 心当たりはある。妥木には貸している物があるので、それを返しに来たのかもしれない。だが、面倒なのでわざわざ言いはしない。
 スマホのライトを消し、ポケットにしまった。再び薄暗さが訪れる。
 一度明るさの恩恵を受けたので、余計に目が慣れない。暗闇と自分の境界さえ曖昧になりそうだ。
 服を軽く払い、体の所在を確かめる。手を握っては開く。腕を動かして、可動性を確認する。

「何そわそわしてるんだ」

 右腕を掴まれ、動きを止めた。その反応から察するにべきせは平気そうだ。

「どうも目が慣れなくて」
「ふーん? そのうち慣れるだろ」

 目の前に向かって恐る恐る手を伸ばすと、何かに触れた。温かい。弾力がある。
 位置から考えると、これは――。

「――顔」
「そうだ。分かったら手を離せ」

 顔の持ち主から命じられ、手を下ろした。

「目の前にいたんですね」
「最初からそうだろうがよ、この天然」

 だんだんと目が慣れてきて、べきせの姿を何分かぶりに視認した。
 片目は長い前髪に半分隠れておりよく分からない。もう片方の左目――鮮やかな色合いで綺麗だと思う――がとれもを睨めつけている。
 急激に気まずさを感じたとれもは、空気を変えようと話を切り出した。

「……解決策を思いつきました。私が外に出て様子を見てきて、妥木がいたら応対してきます。ロッカーの中で寝ていたと言えばいいでしょう、事実ですし。……無論、べきせのことは言いませんので、誰もいないことにします。どうでしょうか」

 我ながら完璧な提案だと思う。成り行きでこんなことになってしまったが、とれもまでロッカーに入る必要は、そもそもない。
 しかしべきせは頷かなかった。

「一旦出た瞬間にやつが来たら困る。嫌だ」

 ロッカーの奥側にとれも、扉側にべきせという位置関係だ。とれもが外に出るには一度べきせも出なければならない。その僅かな瞬間のリスクを彼は拒否している。

「そんなに会いたくないんですか……」
「……すまない」

 そう言われてはどうしようもない。
 ――なんとか言いくるめましょうか。でも、だいぶかかりそうですね……。
 そこまで労力を使いたくない。諦めることにした。諦めの早さがとれもという人間の特徴である。
 気が抜けた。脱力した拍子に、空気に漂う熱を感じた。
 狭い空間で他人としばらく密着しており、おまけに喋っているので、体温が上がっている。

「にしても、暑いですねぇ……」

 とれもは暑いところが苦手だ。人よりも暑さに弱いと自覚している。
 どのくらい弱いのか? ――暑さによって頭がおかしくなり、奇行に走ってしまう。
 とれも自身にはほぼ記憶が残らない。だが、いつも後から周囲に自分がした奇行を知らされ、精神的ダメージを受けている。
 なので夏には外出を控えている。なるべく空調の効いた屋内で過ごす。
 まだ春とはいえ、こんな状況では暑い。肌が汗ばんでいる。襟元を緩めた。

「大丈夫か? ここで奇行は止してくれよ」

 べきせが心配そうな声を出した。彼はとれもの奇行に幾度も振り回された経験がある。
 厚手のパーカーに上着を重ねたその姿は、見ているだけでますます暑くなる。せめてパーカーだけになってほしい。
 朦朧とする意識の中、とれもはべきせの上着に手を伸ばした。


 * * *

  
「脱いでください」
「え゙」

 べきせは当惑した。突然とれもがべきせの上着を掴んできたのだ。

「うわ! やめろバカ!」

 脱がそうとするとれもを押し留めようと、抵抗する。

「もうおかしくなったのか!?」
「私は正常です……!」
「異常なやつほどそう言うんだよ!」

 脱がそうとするとれもと、止めるべきせの力がせめぎ合う。突発的な攻防によってロッカー内がますます暑くなる。
 不意に、とれもの力が抜けた。
 服を握りしめていた両腕が下がった。頭がべきせの肩に押しつけられる。そのまま倒れ込んできた。
 慌てて腕を回し、とれもの体を支える。

「おい変態、しっかりしろ」

 返事はない。気を失ったのだろうか。

「重いな……」

 気絶した人間の体はやけに重たく感じる。意識がない分、体重全てが支える側にかかるからだろう、と思った。
 この窮屈な空間から出て外の空気に晒せば、とれもは元に戻るだろう。
 身を隠していたいという自分の事情よりも、友人の体調のほうが大事だ。
 ――やむを得ない。ロッカーから出よう。
 そう決心する。
 ……ところが。身動きが取れなくなってしまった。気絶したはずのとれもが、両腕をべきせの背中に回してきたのである。
 抱きしめるにしては力が強い。どちらかといえば、拘束だ。
 伏せられたままのとれもの顔からは、意図を掴めない。とはいえ奇行に意味を求めてもしょうがないのかもしれない。
 声をかけてみる。

「余計に暑くなるだろ。ていうか苦しいし離れろよ」
「嫌です。離れるくらいなら暴虐の限りを尽くします」
「はああ?」

 意味不明だ。完全に奇行中のうわごとである。しかし暴れられては困るので、大人しくせざるを得ない。

「………………」
「…………」
「……」

 ――苦しい。
 流石に無理やり引き剥がしてやろうかと考え始めた頃。ようやくとれもが動きを見せた。伏せていた顔を上げ、小さく呟く。

「べきせ……」

 耳元で囁かれ、ぎょっとした。思わずとれもの顔を見る。とれもも真っ直ぐべきせを見ている。ほんの僅かな距離で視線が交わった。

「綺麗な目って美味しそうですよね」

 よく分からない台詞と共にとれもの上気した顔が近付いてくる。
 次の瞬間。
 視界が覆われた。左目に何かが触れた。
 温かく濡れた感触が広がる。
 眼球への予期せぬ刺激に、一瞬遅れて全身が粟立つ。

「なっ……」

 ――目を……舐められた?
 思わぬ衝撃に硬直する。
 再びとれもの舌が迫る。
 眼球の丸みを舌先でなぞるように舐められた。
 瞼の間に舌がねじ込まれる。上瞼を押し上げられる。
 反射的に出た涙をも吸い取られた。

「涙ってしょっぱいですね」
「ちょ、やめろ! 舌引っこ抜くぞ!」

 なおも眼球を舐め続けようとするとれもの頭を掴んで引き剥がす。不服そうだ。

「止めないでください。人の行動を妨げてはいけないと、法律で定められているでしょう」
「んなわけあるか! いいから離れろ!」
「ケチ。ケチケチ山」
「黙れ」

 とれもが半歩下がった。久々の身の安全に安堵する。
 もっとも、距離は近いままではあるが。

「とりあえず出るぞ。大人しくしてろよ」

 一刻も早くとれもを正気に戻さなくてはならない。これ以上奇行の被害に遭いたくない。
 左目を拭いながらべきせはロッカーの扉に手を伸ばし、開けた。



「私が何をしていたのか教えてください」

 すっかり正気を取り戻したとれもが言った。
 ロッカーから出て既に数十分が経過している。

「奇行の内容を知って反省する義務が私にはあります」

 という言い分だ。
 ――真面目だな。
 といつも思う。自分ならそんな風にわざわざ傷を受けるような真似はしない、とも。
 しかし容赦なくありのままを伝えると、とれもは絶句した。無理もない。
 ……しばらくして。いつもより青白い顔色のとれもが口を開いた。

「お詫びとして、この両目を差し出します」
「……なんだって?」

 また妙なことを言い出した。
 思わず聞き返す。意を決したようにとれもは言った。

「私の目を舐めてください、べきせ」
「断る!」

 速攻でとれもから距離を取る。壁を背にしないように、慎重に位置を測りながら。じりじりと近づいてくるとれもに、後退するべきせ。
 決して捕まってはならない。人の眼球なんて頼まれても触りたくない。
 新たな攻防が発生したそのとき、幸運にも通知の音が鳴り響いた。べきせは常にスマホを消音にしているので、発信源はとれものスマホだろう。
 ポケットからスマホを取り出すとれも。

「……お、妥木だぼくからです」

 とれもが画面を見せる。メッセージアプリが表示されている。
 "さっき例のブツ返しに行ったんだけど いなかったから置いといたわよ"

「例のブツ?」
「エイリアンの着ぐるみです」
「……なんだそれ」

 わけが分からない。
 テーブルに置いてある大きな袋がそれのようだ。

「なんでも急に必要になったそうで。丁度持ってたので貸したんですよね」
「なんだそれ…………」

 とれもと妥木の間に変な繋がりがあることが判明した。着ぐるみ仲間とでも言うのだろうか。
 それより、とべきせは続けた。

「さっき、って書いてるけど、あいつが来たのはかなり前だよな」
「まあ、大雑把なんでしょう」
「…………」

 そのせいで酷い目に遭った。内心で罵詈雑言を並べる。
 ――いや。
 すぐに胸中の憎しみを中断した。そもそも、妥木から隠れたのはべきせの都合で、とれもごとロッカーに入ったのもべきせだ。
 ――自分のせいか。
 目を逸らしながら呼びかける。

「……とれも」

 名前を呼ばれたとれもは怪訝そうな顔をした。
 べきせが人の名前をちゃんと呼ぶのは非常に珍しい。いつもは即席で人にあだ名をつけるタイプだ。

「巻き込んで悪かった」

 とれもは面食らった顔をした。それから意識して出したような明るい声で返した。

「気にしないでください。……それより」
「うん」
「エイリアンの着ぐるみ、着ませんか」
「それは嫌だ」
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