片付け初回【やや百合】
「困り人はおらぬか〜」
小声で呟きながら歩く。人助けを生業にしているるくらは、今日も困っている人を求め徘徊しているところである。
能力によりるくらは困っている人の位置が分かるのだが、今は反応がない。いいことではあるが、仕事がなくて暇である。
いっそ事件か事故を引き起こして……っていうのはモラル的に駄目だよね、と考えてしまう程度には暇を持て余している。
犯罪も実行しなければ罪にはならない。心の中であれこれ考えるのは自由である。――と、るくらはいつも思っている。
――ああ、暇だ〜。
よく晴れた空を見上げる。飛行機雲が一筋、走っている。日差しが眩しい。手をかざすと、血管が透けて見えそうだ。
――平和だ。とても平和だ。よいこと、だけども。
ぼーっとしていると、不意に感覚の変化があった。
「おっ」
能力のセンサーに反応が出た。困っている人が現れたようだ。幸いなことに現在地からさほど遠くない。るくらは小走りでその場所へ向かう。
「こっちの方向って……」
道中でだんだん目的地がどの辺りなのかがはっきりしてきた。妥木 やべきせが住むマンションの方だ。というか、正にそこが目的地らしい。
マンションの出入り口に人が立ち尽くしている。女性のようだ。なんだかよく知っている姿のような……。
――あれ、もしかして……。
「あ! るくらさん暇? 助けて!」
「妥木!」
よく知る人物だった。るくらの友人の一人である。どうやら妥木が今回の困り人らしい。
こういった、知り合いが対象だったというケースも稀によくある。
どうしたのと事情を尋ねると、妥木は慌ただしく説明した。
「アレが出たのよ」
「アレね」
「そう、アレよ。ゴ」
「キブリ」
「それ。今緊急避難中なの。るくらさん大丈夫な人? 叩きのめしてほしいんだけど」
「任せて〜」
「ありがとう」
一緒に妥木の部屋まで向かう。エレベーターに乗りながら詳しい事情を聞く。
「出たのは一匹?」
「そう、でっかいやつ! キモかったわ。どこからか突然出てきて、もう大変だわよ」
「やつら、不意に現れるよね〜」
その階に着いた。妥木の部屋の前で一度足を止める。るくらはリュックから透明なビニール袋を出して左手に装備した。右手にはティッシュを何枚か重ね持つ。
妥木が真剣な表情で言った。
「覚悟はいい? 開けるわよ?」
「ばっちこいだよ」
「本当に? ファイナルアンサー?」
「ファイナルアンサーだよ」
「……行くわよ!」
妥木がドアを恐る恐る開けた。るくらはまっすぐ入る。
汚い。散らかっている。辛うじて床は見えているものの、衣類が散らばっていて足場を慎重に探さないと踏んでしまいそうだ。
――なんで玄関に醤油差しがあるの?
内心でツッコミを入れつつるくらは奥に進む。ゴキブリの姿は見えない。
キッチンに着いた。散らかっている。物が多い。ビニール袋や包装紙が床を埋めている。
浴室の方向に検討をつけて進む。ドアは開け放たれていて、風通しがよい。中を覗くと、一人暮らしにしては多い量のシャンプーらしきボトルが見えた。
すぐ隣にあるトイレのドアを開ける。ここは比較的綺麗だった。
ここまでゴキブリはいない。
「いないね。隠れてるのかな」
「あと二部屋あるわよ。こっち」
後ろを着いてきていた妥木に導かれ家の奥に行く。
妥木が普段過ごしている部屋らしい。やはり汚い。衣類やペットボトルが散乱している。
隣のもう一部屋は衣装部屋のようだった。大量の服が積み重なって地層を形成している。普段着というよりコスチュームと称するほうがふさわしい衣装が多い。
そういえば妥木はいつもコスプレのような格好をしている。
今は普段着らしく、長袖のモコモコしたセーターとショートパンツを着ている。よく似合っている。同時に、冬に生足を出して寒くないの? とも思った。
対してるくらといえば。顔と手以外露出のない格好をしている。寒がりなので、冬は大抵こうである。
「すごい量の服だね〜」
「でしょ。どこに何があるのか分からないわ。いつも発掘して着てるのよ」
「あはは……」
当然のように言い放つ妥木に、苦笑するるくら。室内を見渡す。すると視界の端に黒いものがよぎった。ゴキブリだ。
「いた!」
「え!? どこ!?」
素早く身を翻しゴキブリのいる方へ足を踏み出す。ゴキブリはるくらたちから遠ざかるように床をカサカサと動いている。
勢いよくしゃがみ込んで右手をティッシュごと勢いよく押しつける。捕まえた。何度か叩いてから素早く包んで近くにあったガムテープを貼り付け、ビニール袋に突っ込み、口を結んで密閉する。
振り返って妥木にビニール袋を見せる。ティッシュに包まれているのでゴキブリ自体は見えないようになっている。
「叩きのめしたよ」
「ありがとう〜! 早業すぎておののいたわ」
「でもごめん、服の上でやっちゃった」
「大丈夫、気にしないで。床に置いてたのが悪いわ」
それより、と妥木は言葉を続けた。
「やつらは一匹いたら三十匹いるのよね? その辺に潜んでそうで怖いわ」
「隠れる場所だらけだね〜」
るくらは周りを見回す。物が多い上に散乱していて、何が出てくるか分からない。食べ物系のゴミがほとんどないのは幸いである。
「るくらさん。片付け、手伝ってくれない?」
「いいよ〜」
妥木の申し出を即決で受ける。この散らかりようは友人として見過ごせない。
「まず何からやればいいかしら」
悩む妥木に、るくらは考える。今日だけで完全に片付けることは不可能だろう。できる範囲で綺麗にするには……。
「明らかなゴミから捨てよう。ゴミ袋ある?」
「あるわよ」
妥木は服でできた地層の中からビニールごとゴミ袋を引っ張り出した。
――なんでそんなところにあるんだろう?
るくらは疑問を抱いた。
ゴミ袋を片手に、それぞれゴミ収集にかかる。
しばらくして、目立つゴミは拾い終わった。袋の半分に満たない程度が埋まった。
「次は服だね」
塚を形成している大量の衣類に視線を落とす。全て整理するのにはかなりの時間を要しそうだ。
「畳むのもしまうのも面倒なのよね……」
「元々どこにしまってたの?」
「あそこのクローゼットね」
妥木の指差す先には確かにクローゼットらしき扉があった。半端に開いている扉の前にも服の山があり、きっと開けるのも閉めるのも一苦労だろう。
「数を減らしてしまえるようにするって手があるよ。もう着ないって服はある?」
「……うーん。あるような、ないような……」
「じゃ一着ずつ畳みながら見ていこう」
「分かったわ」
手近な地層の一角から取り掛かる。分別しつつああだこうだ言いながら畳んでいき、服の山を減らしていく。初めは不慣れな手つきだった妥木も、だんだんと慣れてきたようでスムーズに畳んでいる。
かなりの時間をかけ、床にあった服の全てを攻略した。そしてついにクローゼットを開けられるようになった。その中はというと……。
「あれ、綺麗だね」
これまでの有様からは意外なほど、片付いていた。これならるくらが手をつける必要はなさそうである。
「……あ! 思い出したわ。前に片付けた時、クローゼットの中だけは散らかさないようにしようって決めたんだわ。それで逆にあまり使わなくなったのよね」
「なるほどね〜」
本人なりの理由があった。それならばどうしようかとるくらが考えていると、妥木が自然に言った。
「まあとりあえず畳んだ服、しまっちゃいましょう」
「いいの?」
「うん。せっかくあるスペースを使わないのはやっぱりもったいないし、また床に置いとくわけにもいかないからね」
「そっか〜」
それならばと、引き出しにどんどん畳んだ服をしまっていく。大容量の引き出しにはほとんどの服を収納できた。
「これで大体しまえたかしらね」
「そうだね〜」
ついにラスボスだった衣類の整頓をも終えた。
完璧ではないが、妥木の部屋は最初の状態に比べれば見違えるほど綺麗になった。散らばっていた物はなくなり、床の見える範囲が格段に増えた。
ひとまずはこれで終わりにしていいだろう。
るくらは妥木に告げた。
「だいぶ片付いたね。そろそろ終わりにしようか」
「すごい達成感あるわ」
「だよね〜。あの惨状からここまで綺麗にしたんだから、ね」
「なかなかの重労働だったわね〜。……かなり綺麗になったわ。こんなに片付いた部屋を見たのは、引っ越してきた時以来かも」
二人して綺麗になった部屋を見渡す。やり遂げたという満足感がじわじわと湧いてくる。
妥木はもう何年もここに住んでいるはずである。その何年もの間、散らかし放題だったらしい。
「あはは……。あとは、この状態を保てればいいんだけどね」
「それは無理だわね」
「即答だよ。もう少し粘ってみてよ」
「考えてみて。この私が散らかさずに過ごせると思う?」
なぜか自信満々で言う妥木。るくらはきちんと片付ける妥木の姿を想像しようとしたが、できなかった。逆に浮かんだのは、服に埋もれているところである。
「……ノーコメントで」
「でしょ? ――だから、るくらさん」
妥木はるくらの両手を取り握りしめ、まっすぐるくらの目を見据えて言った。
「――結婚しましょう」
「けっこ、えっ?????」
突然の求婚にるくらはリアクションを取れなかった。衝撃が頭の中を支配する。
妥木は瞳をキラキラさせてるくらに畳み掛ける。
「毎日私の部屋を片付けてちょうだい。あと虫が出たら倒してほしいし、ご飯も作ってほしいわ」
「ええと……」
「あ、求めてばかりじゃ駄目だわね。代わりに私は毎日るくらさんの背中流すわ。あと口座の暗証番号も教えるわ。どう?」
「同性婚って制度的に認められてないよ……」
「そうだったわ…………」
床に崩れ落ちる妥木。悲壮感が漂っている。いたたまれなくなったるくらは一つ提案をする。
「たまに片付け手伝いに来るよ」
「本当!?」
妥木は勢いよく立ち上がった。瞳も再びキラキラしている。復活が早い。
――エネルギーに溢れてるなあ。
るくらはそんな妥木を羨ましく、そして微笑ましく思う。元気な人と一緒にいて、自分まで元気になれたのかもしれない。心が和んだ。
「もうだいぶ遅いけれど、夜ご飯食べましょう。お礼に奢るわ」
「おおー。行こう行こう」
るくらはあまり遠慮せずにお礼を受け取るタイプである。遠慮するのも相手に悪いかな、と思ってのことである。
二人は綺麗になった部屋を後にした。
晴れて澄み切った夜空には星がいくらか浮かんでいた。
小声で呟きながら歩く。人助けを生業にしているるくらは、今日も困っている人を求め徘徊しているところである。
能力によりるくらは困っている人の位置が分かるのだが、今は反応がない。いいことではあるが、仕事がなくて暇である。
いっそ事件か事故を引き起こして……っていうのはモラル的に駄目だよね、と考えてしまう程度には暇を持て余している。
犯罪も実行しなければ罪にはならない。心の中であれこれ考えるのは自由である。――と、るくらはいつも思っている。
――ああ、暇だ〜。
よく晴れた空を見上げる。飛行機雲が一筋、走っている。日差しが眩しい。手をかざすと、血管が透けて見えそうだ。
――平和だ。とても平和だ。よいこと、だけども。
ぼーっとしていると、不意に感覚の変化があった。
「おっ」
能力のセンサーに反応が出た。困っている人が現れたようだ。幸いなことに現在地からさほど遠くない。るくらは小走りでその場所へ向かう。
「こっちの方向って……」
道中でだんだん目的地がどの辺りなのかがはっきりしてきた。
マンションの出入り口に人が立ち尽くしている。女性のようだ。なんだかよく知っている姿のような……。
――あれ、もしかして……。
「あ! るくらさん暇? 助けて!」
「妥木!」
よく知る人物だった。るくらの友人の一人である。どうやら妥木が今回の困り人らしい。
こういった、知り合いが対象だったというケースも稀によくある。
どうしたのと事情を尋ねると、妥木は慌ただしく説明した。
「アレが出たのよ」
「アレね」
「そう、アレよ。ゴ」
「キブリ」
「それ。今緊急避難中なの。るくらさん大丈夫な人? 叩きのめしてほしいんだけど」
「任せて〜」
「ありがとう」
一緒に妥木の部屋まで向かう。エレベーターに乗りながら詳しい事情を聞く。
「出たのは一匹?」
「そう、でっかいやつ! キモかったわ。どこからか突然出てきて、もう大変だわよ」
「やつら、不意に現れるよね〜」
その階に着いた。妥木の部屋の前で一度足を止める。るくらはリュックから透明なビニール袋を出して左手に装備した。右手にはティッシュを何枚か重ね持つ。
妥木が真剣な表情で言った。
「覚悟はいい? 開けるわよ?」
「ばっちこいだよ」
「本当に? ファイナルアンサー?」
「ファイナルアンサーだよ」
「……行くわよ!」
妥木がドアを恐る恐る開けた。るくらはまっすぐ入る。
汚い。散らかっている。辛うじて床は見えているものの、衣類が散らばっていて足場を慎重に探さないと踏んでしまいそうだ。
――なんで玄関に醤油差しがあるの?
内心でツッコミを入れつつるくらは奥に進む。ゴキブリの姿は見えない。
キッチンに着いた。散らかっている。物が多い。ビニール袋や包装紙が床を埋めている。
浴室の方向に検討をつけて進む。ドアは開け放たれていて、風通しがよい。中を覗くと、一人暮らしにしては多い量のシャンプーらしきボトルが見えた。
すぐ隣にあるトイレのドアを開ける。ここは比較的綺麗だった。
ここまでゴキブリはいない。
「いないね。隠れてるのかな」
「あと二部屋あるわよ。こっち」
後ろを着いてきていた妥木に導かれ家の奥に行く。
妥木が普段過ごしている部屋らしい。やはり汚い。衣類やペットボトルが散乱している。
隣のもう一部屋は衣装部屋のようだった。大量の服が積み重なって地層を形成している。普段着というよりコスチュームと称するほうがふさわしい衣装が多い。
そういえば妥木はいつもコスプレのような格好をしている。
今は普段着らしく、長袖のモコモコしたセーターとショートパンツを着ている。よく似合っている。同時に、冬に生足を出して寒くないの? とも思った。
対してるくらといえば。顔と手以外露出のない格好をしている。寒がりなので、冬は大抵こうである。
「すごい量の服だね〜」
「でしょ。どこに何があるのか分からないわ。いつも発掘して着てるのよ」
「あはは……」
当然のように言い放つ妥木に、苦笑するるくら。室内を見渡す。すると視界の端に黒いものがよぎった。ゴキブリだ。
「いた!」
「え!? どこ!?」
素早く身を翻しゴキブリのいる方へ足を踏み出す。ゴキブリはるくらたちから遠ざかるように床をカサカサと動いている。
勢いよくしゃがみ込んで右手をティッシュごと勢いよく押しつける。捕まえた。何度か叩いてから素早く包んで近くにあったガムテープを貼り付け、ビニール袋に突っ込み、口を結んで密閉する。
振り返って妥木にビニール袋を見せる。ティッシュに包まれているのでゴキブリ自体は見えないようになっている。
「叩きのめしたよ」
「ありがとう〜! 早業すぎておののいたわ」
「でもごめん、服の上でやっちゃった」
「大丈夫、気にしないで。床に置いてたのが悪いわ」
それより、と妥木は言葉を続けた。
「やつらは一匹いたら三十匹いるのよね? その辺に潜んでそうで怖いわ」
「隠れる場所だらけだね〜」
るくらは周りを見回す。物が多い上に散乱していて、何が出てくるか分からない。食べ物系のゴミがほとんどないのは幸いである。
「るくらさん。片付け、手伝ってくれない?」
「いいよ〜」
妥木の申し出を即決で受ける。この散らかりようは友人として見過ごせない。
「まず何からやればいいかしら」
悩む妥木に、るくらは考える。今日だけで完全に片付けることは不可能だろう。できる範囲で綺麗にするには……。
「明らかなゴミから捨てよう。ゴミ袋ある?」
「あるわよ」
妥木は服でできた地層の中からビニールごとゴミ袋を引っ張り出した。
――なんでそんなところにあるんだろう?
るくらは疑問を抱いた。
ゴミ袋を片手に、それぞれゴミ収集にかかる。
しばらくして、目立つゴミは拾い終わった。袋の半分に満たない程度が埋まった。
「次は服だね」
塚を形成している大量の衣類に視線を落とす。全て整理するのにはかなりの時間を要しそうだ。
「畳むのもしまうのも面倒なのよね……」
「元々どこにしまってたの?」
「あそこのクローゼットね」
妥木の指差す先には確かにクローゼットらしき扉があった。半端に開いている扉の前にも服の山があり、きっと開けるのも閉めるのも一苦労だろう。
「数を減らしてしまえるようにするって手があるよ。もう着ないって服はある?」
「……うーん。あるような、ないような……」
「じゃ一着ずつ畳みながら見ていこう」
「分かったわ」
手近な地層の一角から取り掛かる。分別しつつああだこうだ言いながら畳んでいき、服の山を減らしていく。初めは不慣れな手つきだった妥木も、だんだんと慣れてきたようでスムーズに畳んでいる。
かなりの時間をかけ、床にあった服の全てを攻略した。そしてついにクローゼットを開けられるようになった。その中はというと……。
「あれ、綺麗だね」
これまでの有様からは意外なほど、片付いていた。これならるくらが手をつける必要はなさそうである。
「……あ! 思い出したわ。前に片付けた時、クローゼットの中だけは散らかさないようにしようって決めたんだわ。それで逆にあまり使わなくなったのよね」
「なるほどね〜」
本人なりの理由があった。それならばどうしようかとるくらが考えていると、妥木が自然に言った。
「まあとりあえず畳んだ服、しまっちゃいましょう」
「いいの?」
「うん。せっかくあるスペースを使わないのはやっぱりもったいないし、また床に置いとくわけにもいかないからね」
「そっか〜」
それならばと、引き出しにどんどん畳んだ服をしまっていく。大容量の引き出しにはほとんどの服を収納できた。
「これで大体しまえたかしらね」
「そうだね〜」
ついにラスボスだった衣類の整頓をも終えた。
完璧ではないが、妥木の部屋は最初の状態に比べれば見違えるほど綺麗になった。散らばっていた物はなくなり、床の見える範囲が格段に増えた。
ひとまずはこれで終わりにしていいだろう。
るくらは妥木に告げた。
「だいぶ片付いたね。そろそろ終わりにしようか」
「すごい達成感あるわ」
「だよね〜。あの惨状からここまで綺麗にしたんだから、ね」
「なかなかの重労働だったわね〜。……かなり綺麗になったわ。こんなに片付いた部屋を見たのは、引っ越してきた時以来かも」
二人して綺麗になった部屋を見渡す。やり遂げたという満足感がじわじわと湧いてくる。
妥木はもう何年もここに住んでいるはずである。その何年もの間、散らかし放題だったらしい。
「あはは……。あとは、この状態を保てればいいんだけどね」
「それは無理だわね」
「即答だよ。もう少し粘ってみてよ」
「考えてみて。この私が散らかさずに過ごせると思う?」
なぜか自信満々で言う妥木。るくらはきちんと片付ける妥木の姿を想像しようとしたが、できなかった。逆に浮かんだのは、服に埋もれているところである。
「……ノーコメントで」
「でしょ? ――だから、るくらさん」
妥木はるくらの両手を取り握りしめ、まっすぐるくらの目を見据えて言った。
「――結婚しましょう」
「けっこ、えっ?????」
突然の求婚にるくらはリアクションを取れなかった。衝撃が頭の中を支配する。
妥木は瞳をキラキラさせてるくらに畳み掛ける。
「毎日私の部屋を片付けてちょうだい。あと虫が出たら倒してほしいし、ご飯も作ってほしいわ」
「ええと……」
「あ、求めてばかりじゃ駄目だわね。代わりに私は毎日るくらさんの背中流すわ。あと口座の暗証番号も教えるわ。どう?」
「同性婚って制度的に認められてないよ……」
「そうだったわ…………」
床に崩れ落ちる妥木。悲壮感が漂っている。いたたまれなくなったるくらは一つ提案をする。
「たまに片付け手伝いに来るよ」
「本当!?」
妥木は勢いよく立ち上がった。瞳も再びキラキラしている。復活が早い。
――エネルギーに溢れてるなあ。
るくらはそんな妥木を羨ましく、そして微笑ましく思う。元気な人と一緒にいて、自分まで元気になれたのかもしれない。心が和んだ。
「もうだいぶ遅いけれど、夜ご飯食べましょう。お礼に奢るわ」
「おおー。行こう行こう」
るくらはあまり遠慮せずにお礼を受け取るタイプである。遠慮するのも相手に悪いかな、と思ってのことである。
二人は綺麗になった部屋を後にした。
晴れて澄み切った夜空には星がいくらか浮かんでいた。
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