番外編6 宮城旅行のその後
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
私は、私の生きた時代の亘理を知らない
大森城の城下町は、いくらかまだ思い出せるけれど、それも数百年を経てしまえば、面影もなくなってしまう
亘理要害──そう称された、かつての伊達成実の住居には、いまや神社が建つのみだ
街も城下町の風情は既になく、田舎の小さな町が広がるばかり
「……まあ、そんなもんなんだろうな
この世界の亘理伊達家ってのは」
私たち以外の誰も存在しない神社の中で、成実さんは寂しそうに笑った
伊達家は歴史的に言えば、上手く生き残ったほうなのだとは思う
それでもこの世界の亘理伊達家は最後、北海道開拓による屯田兵として、北の大地へと移っていった
北海道の地名にその名を残してはいるけれど、亘理の城は──石碑が立つ以外は、ただその石垣が残るのみ
「俺たちが生きたあの日ノ本では、大森城も亘理城も……青葉城も、残ってるといいけどな
何にも残ってねぇのは、寂しいもんだ」
「……そうですね」
「春なんかは亘理のほうに思い入れがあるんだろうな
大森城で生まれはしたけど、あいつに家督を譲る頃には、亘理のほうにも手を広げてたし」
「言ってましたね
塩田の開発でやりすぎて、本家から大目玉を食らったって」
「寝たきりのジジイ相手によくぞ説教なんざ垂れてくれたもんだぜ」
ちょっと恨みに思っていないでもないらしいのは、口ぶりから伝わった
兄様の跡を継いで伊達家の当主を務めていた忠宗も、言いたくないことを言わなければならなかっただろうに
ただまあ……何事もやり過ぎはよくないという話で
「夕華は『その後』を知ってるんだっけ?」
「はい、ざっくりとですけど
兄様たちじゃなくて、私だけがそれを知っているのは、やっぱり成島八幡のご加護なんですかね?」
「かもしれねぇな
あの世界は大森に博物館があって、そこに大森伊達家のあれやこれやが残ってるって話だったか
夕華に関するものも含めて」
「私の物は大森にも仙台にも残ってるみたいですね
どちらかと言うと大森の博物館のほうが多いみたいですけど」
「嫁入り道具もしっかり欠けずに残ってるくらいだもんな」
「そうですね……あっ」
嫁入り道具で思い出した
私が嫁入り道具に持っていったのは、なにもあの絢爛豪華な調度だけではない
二年の短さではあるものの、幾つもの戦場を共に駆け抜けてきた、もうひとつの相棒がいたはずだ
「あの、成実さん
早太ってどうなりました……?」
「……早太か」
成実さんはそう呟くと、重いため息をついた
もしかして、長生きできなかったのかな
脚が速くて力強くて、私の言うことも素直に聞いてくれる、いい馬だったのに
「早太は、そうだな……
お前の葬儀が終わったその日の夜、急死したんだ」
「えっ」
「厩番が夜中に俺の部屋まで駆け込んできて、早太がおかしいって叫んでよ
たしかにお前が病気で伏せってからは、海夜が乗馬の訓練で乗るくらいだった
体力が多少は衰えたかもしれねぇが……あの時でもまだ十四歳とかだったから、寿命とは考えにくくて」
「……つまり?」
「お前を追いかけて逝っちまったんだろうな
早太にとっちゃあ、お前だけがご主人様だったんだ
あの世でお前を乗せて、どこまでも駆けていきたかったんだろうよ」
……早太
私と共に戦場を駆け抜け、生き延びてきた、私の愛馬
奥州の馬は脚が速く、気が強い
その気質を宿しつつも、早太は素直ないい子だった
私を振り落としたことなんて一度もないし、厩に顔を見せれば甘えたように鳴いて私を呼び、顔を擦り寄せてくれた
私もそんな早太が可愛くて、手ずから人参を食べさせたものだ
「忠義者のいい馬だったな」
「……ほんとうに」
嫁入り道具として私に選ばれた早太は、豪華な飾り付けを施されて、堂々と花嫁行列を歩いたらしい
馬を連れて行きなさるとは、さすが武勇に秀でた姫君だ──とは、青葉城下に住む民たちの声だ
「いい馬だ」と兄様に太鼓判を押された私の愛馬は、最後まで私への忠節を貫いた名馬だった
そんな話を聞かされて、嬉しくならないはずがない
「ほんとうに……最高の愛馬でした」
目を閉じれば今でも思い出せる
体躯のいい芦毛の背に乗って、草原を駆けて風を切る光景を
兄様の愛馬である後藤黒と共に遠駆けしたこともある
成実さんの愛馬と共に並び、戦場を駆け抜けてきた
私の無茶な指示にも即座に反応してくれて
あの子の背に乗ってしまえば、私たちは人馬一体だった
「あの世で思う存分、私を乗せて走れていたらいいな……」
「そうだな」
よく晴れた九月の空は、真夏に比べて青を少しばかり薄くした
冬の時期は戦もないから、早太も元気を持て余し気味だっだっけ
青葉城の周辺で走り回って発散させてあげたこともあったな
その時は空の青も遠くて、雪が降ることもあって……
何もかもが遠くなってしまったけれど、早太との思い出は色褪せずに心の中に残っている
彼の馬生が少しでも良いものであったなら、私は何も言うことは無い
あなたの忠義は、しっかりと受け取った
ありがとう、早太
今もどこかで心のままに走っていることを願って──
大森城の城下町は、いくらかまだ思い出せるけれど、それも数百年を経てしまえば、面影もなくなってしまう
亘理要害──そう称された、かつての伊達成実の住居には、いまや神社が建つのみだ
街も城下町の風情は既になく、田舎の小さな町が広がるばかり
「……まあ、そんなもんなんだろうな
この世界の亘理伊達家ってのは」
私たち以外の誰も存在しない神社の中で、成実さんは寂しそうに笑った
伊達家は歴史的に言えば、上手く生き残ったほうなのだとは思う
それでもこの世界の亘理伊達家は最後、北海道開拓による屯田兵として、北の大地へと移っていった
北海道の地名にその名を残してはいるけれど、亘理の城は──石碑が立つ以外は、ただその石垣が残るのみ
「俺たちが生きたあの日ノ本では、大森城も亘理城も……青葉城も、残ってるといいけどな
何にも残ってねぇのは、寂しいもんだ」
「……そうですね」
「春なんかは亘理のほうに思い入れがあるんだろうな
大森城で生まれはしたけど、あいつに家督を譲る頃には、亘理のほうにも手を広げてたし」
「言ってましたね
塩田の開発でやりすぎて、本家から大目玉を食らったって」
「寝たきりのジジイ相手によくぞ説教なんざ垂れてくれたもんだぜ」
ちょっと恨みに思っていないでもないらしいのは、口ぶりから伝わった
兄様の跡を継いで伊達家の当主を務めていた忠宗も、言いたくないことを言わなければならなかっただろうに
ただまあ……何事もやり過ぎはよくないという話で
「夕華は『その後』を知ってるんだっけ?」
「はい、ざっくりとですけど
兄様たちじゃなくて、私だけがそれを知っているのは、やっぱり成島八幡のご加護なんですかね?」
「かもしれねぇな
あの世界は大森に博物館があって、そこに大森伊達家のあれやこれやが残ってるって話だったか
夕華に関するものも含めて」
「私の物は大森にも仙台にも残ってるみたいですね
どちらかと言うと大森の博物館のほうが多いみたいですけど」
「嫁入り道具もしっかり欠けずに残ってるくらいだもんな」
「そうですね……あっ」
嫁入り道具で思い出した
私が嫁入り道具に持っていったのは、なにもあの絢爛豪華な調度だけではない
二年の短さではあるものの、幾つもの戦場を共に駆け抜けてきた、もうひとつの相棒がいたはずだ
「あの、成実さん
早太ってどうなりました……?」
「……早太か」
成実さんはそう呟くと、重いため息をついた
もしかして、長生きできなかったのかな
脚が速くて力強くて、私の言うことも素直に聞いてくれる、いい馬だったのに
「早太は、そうだな……
お前の葬儀が終わったその日の夜、急死したんだ」
「えっ」
「厩番が夜中に俺の部屋まで駆け込んできて、早太がおかしいって叫んでよ
たしかにお前が病気で伏せってからは、海夜が乗馬の訓練で乗るくらいだった
体力が多少は衰えたかもしれねぇが……あの時でもまだ十四歳とかだったから、寿命とは考えにくくて」
「……つまり?」
「お前を追いかけて逝っちまったんだろうな
早太にとっちゃあ、お前だけがご主人様だったんだ
あの世でお前を乗せて、どこまでも駆けていきたかったんだろうよ」
……早太
私と共に戦場を駆け抜け、生き延びてきた、私の愛馬
奥州の馬は脚が速く、気が強い
その気質を宿しつつも、早太は素直ないい子だった
私を振り落としたことなんて一度もないし、厩に顔を見せれば甘えたように鳴いて私を呼び、顔を擦り寄せてくれた
私もそんな早太が可愛くて、手ずから人参を食べさせたものだ
「忠義者のいい馬だったな」
「……ほんとうに」
嫁入り道具として私に選ばれた早太は、豪華な飾り付けを施されて、堂々と花嫁行列を歩いたらしい
馬を連れて行きなさるとは、さすが武勇に秀でた姫君だ──とは、青葉城下に住む民たちの声だ
「いい馬だ」と兄様に太鼓判を押された私の愛馬は、最後まで私への忠節を貫いた名馬だった
そんな話を聞かされて、嬉しくならないはずがない
「ほんとうに……最高の愛馬でした」
目を閉じれば今でも思い出せる
体躯のいい芦毛の背に乗って、草原を駆けて風を切る光景を
兄様の愛馬である後藤黒と共に遠駆けしたこともある
成実さんの愛馬と共に並び、戦場を駆け抜けてきた
私の無茶な指示にも即座に反応してくれて
あの子の背に乗ってしまえば、私たちは人馬一体だった
「あの世で思う存分、私を乗せて走れていたらいいな……」
「そうだな」
よく晴れた九月の空は、真夏に比べて青を少しばかり薄くした
冬の時期は戦もないから、早太も元気を持て余し気味だっだっけ
青葉城の周辺で走り回って発散させてあげたこともあったな
その時は空の青も遠くて、雪が降ることもあって……
何もかもが遠くなってしまったけれど、早太との思い出は色褪せずに心の中に残っている
彼の馬生が少しでも良いものであったなら、私は何も言うことは無い
あなたの忠義は、しっかりと受け取った
ありがとう、早太
今もどこかで心のままに走っていることを願って──
