番外編6 宮城旅行のその後
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
本家にお土産を渡すついでのディナーも終わり、兄様が車で私の家へ送り届けてくれることになった
美味しいディナーだった……と、決して満腹感だけではない、ふわふわした心地のまま、助手席に乗り込む
成実さんはお仕事、終わったのかな?
「小十郎と綱元は別邸にさっき着いたらしい」
「じゃあ成実さんも家に帰ってるかもですね
けっこう長引いたんですね、会議……」
「そうだろうな
残業なんぞとは無縁の綱元が三時間の残業だ
明日が金曜で命拾いしたな」
「綱元さんは残業の鬱憤を私にぶつける人じゃないですよ」
「外回りを口実にお前を極限まで甘やかしてきただろうぜ」
「そっちか……」
まあそうだろうな……それが許されるのかはさておき
綱元さんは絶対定時で帰る人だ
そんな人が三時間の残業をしたなんて、明日は槍でも降るのか、という話で
明日が仕事だったら、朝から夕方まで綱元さんと二人でお出掛けだった可能性が高いな
そんで今度は拗ねた成実さんに帰宅後ぎゅうぎゅう抱き着かれるんだ……
「甘やかされるのも悪い気はしないですけど、流石に仕事とプライベートは分けたいところですね」
「それがいい
……ま、綱元の奴は、日中お前といられて嬉しそうな顔を隠そうとしねぇが」
「あはは……職場でも出先でも、新人の私に普段と変わらない態度ですもんね」
つまり新人の私に対して、綱元さんが恭しい態度を取るのだ
そりゃ私が本家の人間なのは、社内の一族も周知の事実だけど
それはそれとして、どっちが新人なんだという困惑を他所の人に与えてしまっている
「綱元さんの生きた証も、あの世界ではたくさん残ってるといいですね」
「こっちの世界じゃあ、双璧に存在感を取られがちなのは否めねぇ
俺としちゃ、アイツがいなかったら、ああも早く天下を獲れなかったと思ってる」
「手負いの兄様に刀を向けられるお人ですからね」
「……Ha.
あん時は意地でもそうしなけりゃならなかったんだ
少なくとも俺はそれがbetterだと踏んだ
成実なんざアテになりゃしねぇとわかってたからな」
「さすが兄様、ご明察です
兄様の言葉を借りるなら、腑抜けたツラしてましたよ
……でも私、あの時の成実さんを責められないなって思うんです
兄様が深手を負って倒れたとき、私だって気が気じゃなかったから……
付き合いの浅い私でも不安だったんです
成実さんはなおのこと……だって成実さんは、兄様の従弟で、机を並べた仲で、なにより兄様を守るべき立場だったから
守れなかったって自分を責めていて……」
もちろんそれは当時の成実さんが、まだまだ精神的に弱い部分を抱えていたからの話
今の成実さんだったら、「梵なら大丈夫だ、殺しても死なねぇ奴だから」とか何とか言って、陣頭指揮に回ってくれるはず
そう考えると、随分と頼もしくなったな
私も少しは成長できていたらいいけど
「アイツを強くしたのはお前だ」
「そうですね、それは否定しません
私を守るために成実さんは強くなってくれたんです
……だから成実さんが精神的に成熟した今、私の弱さが浮き彫りになるんでしょうね」
兄様は否定も肯定もしなかった
それが答えだ
成実さんは「そのままでいい、弱いままでいい」と今の私を肯定してくれるけど、私自身はそれが許せない
そのくせ目の前に立ちはだかる壁に立ち向かう勇気もなくて……
「今でこそ私も本家の人間として扱ってもらえていますけど、少し前まで私は末席の子だったから、一門からは居ないものとして扱われることばっかりで
ずっと考えてはいたんです──成実さんと再会する前から
今の私じゃ、成実さんの隣にはいられないって
成実さんと再会しても、その先を望めないんだったら、いっそ会わないほうがいいんじゃないか
そのほうが成実さんにとって幸せなんじゃないか……って
だからある意味では、成実さんが記憶を取り戻していなくて良かったと思っていました」
兄様は無言で私の独り言を聞いてくれた
私も窓の外に視線を投げたまま、口が動くのに任せて、抱えていた本音を吐き出していく
成実さんには到底言えないことでも、兄様なら聞いてくれるから
「……でも、無理だったんです
成実さんと再会したら、成実さんを慕う心が抑えきれなくなって
しかも成実さんがあの頃を思い出したから、そうなったらもう……成実さんと一緒にいること以外、考えられなくなってしまったんです」
周囲がそれを許さないことなんて知っていた
私と成実さんの関係は、一門には到底受け入れられないだろうと
ご当主様と最も近しい血筋を持つ成実さんと、名ばかりの伊達姓を持つ末席の私では、格が違いすぎる
わかっていた──私と一緒にいたって、成実さんは幸せになれない
私といることで成実さんが不幸になるのなら、一緒にいないほうがいい
何度も言い聞かせた
離れるべきだと……あの頃の続きを望むべきじゃないと
「離れるべきだと分かっているのに、そうする勇気もない
このまま一緒にいても成実さんを苦しめるだけだと分かっているのに、私と離れたことで成実さんが傷つくのは見たくない
それでもいつか──そう遠くない未来で、私たちはお互いのために、手を離さなければならないって
必ず訪れる『その瞬間』のために、なけなしの勇気を掻き集めて、臆病な自分を押し殺してでも離れなきゃって
……そう思っていたんです、ずっと
ご当主様に、私の望みを叶えてやると、言ってもらえるまで」
成実さんはずっと私と幸せになることを考えてくれていたのに、私は成実さんから逃げることばかり考えた
私一人が傷つけばいいと……成実さんなら、私以外の誰かとでも幸せになれるだろうから、と
今なら分かる
そんなことは絶対に有り得ないことだった
私たちが私たちである限り、お互いでしか幸せになれないのに
「成実さんと幸せになる未来を諦めなくてよかった
兄様たちと一緒にいられる日々も」
離そうとする私の手を、成実さんは何度だって握り直してくれた
その未来を諦めるなと兄様たちが力になってくれた
「……お前らは一緒にいる以外の選択肢なんざねぇだろう
あんまり成実の初恋をナメねぇほうがいいぜ
ありゃ筋金入りだ」
「本当にそうですよね、成実さんの覚悟を甘く見てました
噂では、私と成実さんが揃って伊達一門を抜けることを、兄様が最後の手段にしたとか?」
「気軽に会える関係じゃなくなるが、お前らの未来を消しちまうよりはよっぽど良い
ただまぁ……結果的には、お前の血筋に救われたか」
「素直に最初から本家で育ってたら、こんな悩みを抱えることもなかったのになって思いました」
「……そうだな
お前はもう、そういう星の下に生まれる定めなのかもしれねぇ
それでも必ず俺たちはお前を見つける
お前がお前である限り、何度でもな」
「はい」
そうして私を見つけてくれたら、みんなが私のために力を貸してくれるんだろう
私と成実さんのために
どんな分厚い壁もぶち壊して
だから私は成実さんの手を離す必要なんてないし、この先、何度生まれ変わっても、成実さんを探して手を掴んでいい
そうしていいんだと思えるだけの想いを、私は成実さんから、そして兄様や小十郎さん、綱元さん、原田さんからもらったつもりだ
──車は住宅街へ入っていく
その中に佇む我が家は、明かりがついていた
美味しいディナーだった……と、決して満腹感だけではない、ふわふわした心地のまま、助手席に乗り込む
成実さんはお仕事、終わったのかな?
「小十郎と綱元は別邸にさっき着いたらしい」
「じゃあ成実さんも家に帰ってるかもですね
けっこう長引いたんですね、会議……」
「そうだろうな
残業なんぞとは無縁の綱元が三時間の残業だ
明日が金曜で命拾いしたな」
「綱元さんは残業の鬱憤を私にぶつける人じゃないですよ」
「外回りを口実にお前を極限まで甘やかしてきただろうぜ」
「そっちか……」
まあそうだろうな……それが許されるのかはさておき
綱元さんは絶対定時で帰る人だ
そんな人が三時間の残業をしたなんて、明日は槍でも降るのか、という話で
明日が仕事だったら、朝から夕方まで綱元さんと二人でお出掛けだった可能性が高いな
そんで今度は拗ねた成実さんに帰宅後ぎゅうぎゅう抱き着かれるんだ……
「甘やかされるのも悪い気はしないですけど、流石に仕事とプライベートは分けたいところですね」
「それがいい
……ま、綱元の奴は、日中お前といられて嬉しそうな顔を隠そうとしねぇが」
「あはは……職場でも出先でも、新人の私に普段と変わらない態度ですもんね」
つまり新人の私に対して、綱元さんが恭しい態度を取るのだ
そりゃ私が本家の人間なのは、社内の一族も周知の事実だけど
それはそれとして、どっちが新人なんだという困惑を他所の人に与えてしまっている
「綱元さんの生きた証も、あの世界ではたくさん残ってるといいですね」
「こっちの世界じゃあ、双璧に存在感を取られがちなのは否めねぇ
俺としちゃ、アイツがいなかったら、ああも早く天下を獲れなかったと思ってる」
「手負いの兄様に刀を向けられるお人ですからね」
「……Ha.
あん時は意地でもそうしなけりゃならなかったんだ
少なくとも俺はそれがbetterだと踏んだ
成実なんざアテになりゃしねぇとわかってたからな」
「さすが兄様、ご明察です
兄様の言葉を借りるなら、腑抜けたツラしてましたよ
……でも私、あの時の成実さんを責められないなって思うんです
兄様が深手を負って倒れたとき、私だって気が気じゃなかったから……
付き合いの浅い私でも不安だったんです
成実さんはなおのこと……だって成実さんは、兄様の従弟で、机を並べた仲で、なにより兄様を守るべき立場だったから
守れなかったって自分を責めていて……」
もちろんそれは当時の成実さんが、まだまだ精神的に弱い部分を抱えていたからの話
今の成実さんだったら、「梵なら大丈夫だ、殺しても死なねぇ奴だから」とか何とか言って、陣頭指揮に回ってくれるはず
そう考えると、随分と頼もしくなったな
私も少しは成長できていたらいいけど
「アイツを強くしたのはお前だ」
「そうですね、それは否定しません
私を守るために成実さんは強くなってくれたんです
……だから成実さんが精神的に成熟した今、私の弱さが浮き彫りになるんでしょうね」
兄様は否定も肯定もしなかった
それが答えだ
成実さんは「そのままでいい、弱いままでいい」と今の私を肯定してくれるけど、私自身はそれが許せない
そのくせ目の前に立ちはだかる壁に立ち向かう勇気もなくて……
「今でこそ私も本家の人間として扱ってもらえていますけど、少し前まで私は末席の子だったから、一門からは居ないものとして扱われることばっかりで
ずっと考えてはいたんです──成実さんと再会する前から
今の私じゃ、成実さんの隣にはいられないって
成実さんと再会しても、その先を望めないんだったら、いっそ会わないほうがいいんじゃないか
そのほうが成実さんにとって幸せなんじゃないか……って
だからある意味では、成実さんが記憶を取り戻していなくて良かったと思っていました」
兄様は無言で私の独り言を聞いてくれた
私も窓の外に視線を投げたまま、口が動くのに任せて、抱えていた本音を吐き出していく
成実さんには到底言えないことでも、兄様なら聞いてくれるから
「……でも、無理だったんです
成実さんと再会したら、成実さんを慕う心が抑えきれなくなって
しかも成実さんがあの頃を思い出したから、そうなったらもう……成実さんと一緒にいること以外、考えられなくなってしまったんです」
周囲がそれを許さないことなんて知っていた
私と成実さんの関係は、一門には到底受け入れられないだろうと
ご当主様と最も近しい血筋を持つ成実さんと、名ばかりの伊達姓を持つ末席の私では、格が違いすぎる
わかっていた──私と一緒にいたって、成実さんは幸せになれない
私といることで成実さんが不幸になるのなら、一緒にいないほうがいい
何度も言い聞かせた
離れるべきだと……あの頃の続きを望むべきじゃないと
「離れるべきだと分かっているのに、そうする勇気もない
このまま一緒にいても成実さんを苦しめるだけだと分かっているのに、私と離れたことで成実さんが傷つくのは見たくない
それでもいつか──そう遠くない未来で、私たちはお互いのために、手を離さなければならないって
必ず訪れる『その瞬間』のために、なけなしの勇気を掻き集めて、臆病な自分を押し殺してでも離れなきゃって
……そう思っていたんです、ずっと
ご当主様に、私の望みを叶えてやると、言ってもらえるまで」
成実さんはずっと私と幸せになることを考えてくれていたのに、私は成実さんから逃げることばかり考えた
私一人が傷つけばいいと……成実さんなら、私以外の誰かとでも幸せになれるだろうから、と
今なら分かる
そんなことは絶対に有り得ないことだった
私たちが私たちである限り、お互いでしか幸せになれないのに
「成実さんと幸せになる未来を諦めなくてよかった
兄様たちと一緒にいられる日々も」
離そうとする私の手を、成実さんは何度だって握り直してくれた
その未来を諦めるなと兄様たちが力になってくれた
「……お前らは一緒にいる以外の選択肢なんざねぇだろう
あんまり成実の初恋をナメねぇほうがいいぜ
ありゃ筋金入りだ」
「本当にそうですよね、成実さんの覚悟を甘く見てました
噂では、私と成実さんが揃って伊達一門を抜けることを、兄様が最後の手段にしたとか?」
「気軽に会える関係じゃなくなるが、お前らの未来を消しちまうよりはよっぽど良い
ただまぁ……結果的には、お前の血筋に救われたか」
「素直に最初から本家で育ってたら、こんな悩みを抱えることもなかったのになって思いました」
「……そうだな
お前はもう、そういう星の下に生まれる定めなのかもしれねぇ
それでも必ず俺たちはお前を見つける
お前がお前である限り、何度でもな」
「はい」
そうして私を見つけてくれたら、みんなが私のために力を貸してくれるんだろう
私と成実さんのために
どんな分厚い壁もぶち壊して
だから私は成実さんの手を離す必要なんてないし、この先、何度生まれ変わっても、成実さんを探して手を掴んでいい
そうしていいんだと思えるだけの想いを、私は成実さんから、そして兄様や小十郎さん、綱元さん、原田さんからもらったつもりだ
──車は住宅街へ入っていく
その中に佇む我が家は、明かりがついていた
