番外編5 宮城旅行仙台編・最終日
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そんなことがあった翌日──宮城旅行、最終日
二泊でお世話になった別荘に別れを告げて、片倉号はどこかへ向かっていた
「どこに向かってるんですか?」
「水族館」
「え!!」
「夕華ならぜってー喜ぶと思った」
助手席で笑って、成実さんがお茶を飲む
兄様は私の隣で目を閉じたままだ
昨日の夜から兄様は言葉少なで、この数日の疲れが出たのかなと思って、そっとしているところではあるんだけど
「兄様、お疲れですか?」
「Ah?
……そんなんじゃねぇ、気にすんな」
「本当ですか?
昨日の夜から、なんとなく口数が少ないような気がして……」
「……妙な夢を見ちまっただけだ
心配するようなことじゃねぇ」
妙な夢……
その言葉に反応したのは、私と成実さんだけではなかった
「どした、小十郎
えらく急brakeじゃねぇか」
「は……失礼致しました」
「ひょっとしてお前も見たのか?
妙な夢ってやつ」
小十郎さんは答えない
それが答えであるような気がした
そもそも小十郎さんは、私たちに嘘をつかない
だから……何かを見たんだろうとは思うんだけど
「兄様はどんな夢を?」
「その口ぶりからすると、お前も見たのか」
「はい……昨日、夕飯の前に寝てしまって、その時に
私が見た夢は、安芸介家に養子に出されず、米沢城で一の姫として育つ夢でした」
「……」
兄様は何も言わずに視線を窓の外へ投げた
言うべきかどうかを迷っているのだろうと察せられて、私から催促はしないことにした
気になる人はもう一人いるからだ
「お前は?
小十郎、お前も見たんだろ?」
「……ありもしねぇ夢物語みてぇな話だった」
「私が見た夢だって、そうでしたよ」
「……小十郎が見たのは──竜の天下が成った後の世でした
満開の桜の下で、皆で花見などしておりまして
政宗様のお隣には、ご健勝の夕華様がおられた
海夜様や倫実様がご成長なさり、海夜様は我が家に嫁ぎ、倫実様は成実の跡を継ぎ──それでも変わらず、政宗様と夕華様はご兄妹で揃われ、花見をなさる
まるでこの小十郎の胸の内を見透かされていたかのような夢で」
兄様と一緒にお花見なんてしたことはなかった
大森伊達家ではやったけど、そこに兄様はいなかった
私と兄様が毎年必ず揃って花見をする──なんて羨ましい
「小十郎、お前……」
「心のどこかで願っていたのでしょうな
政宗様と夕華様に、何も背負うことのない、ただのご兄妹としての時間を過ごしていただきたかった……と」
「……」
「わずか数年で別れることになるとは、思ってもおりませんでした
妙な夢を見たのは、それゆえでしょう
おふたりがご兄妹としての時間を重ねていくことができればよかったと考えてきたのは、事実でもございまする」
赤信号で停まっていた車が動き出す
ブレーキを踏んだ時と違って、小十郎さんはゆっくりとアクセルを踏んだ
さて、残るは兄様の夢だけれど……
「……言いたくなければ、言わなくて大丈夫です
無理やり聞き出すものではないと思うので」
兄様の隻眼が私を見る
その瞳に頷いてやると、兄様はまた目を閉じて
「……ひでぇ夢だ
俺は右目を失わず、親父も死なねぇ
夕華も俺の妹として側にいて、伊達家は一枚岩で……」
「はい……」
「右目を失わなくても小十郎が側にいた
到底ありえねぇ夢だろ」
「小十郎の抜擢自体が、ちょっと異例だったもんな
そもそもあれも、病気の末に荒れたお前に対する荒療治みたいな感じだし
遠藤のジジイが引っ張ってこなけりゃ、小十郎が梵の側にいることはなかったのかもなぁ」
「小十郎さんは兄様の右目ですからね」
兄様が右目を失ったからこそ得られた光だったのだろう
では兄様が右目を失わなかったら?
はたして小十郎さんが、兄様の最もお側でお仕えしていたかというと、恐らくそうはならなかった
もちろんその後、兄様自身で小十郎さんの才を見出して重用すれば、その限りではなかったと思うけど
「小十郎は俺の右目だ
失ったからこそ得られた光……いや、新しく貰ったものだ」
兄様はしっかりとした声音でそう言い切った
あれはただの夢で、ありもしない幻だと
夢のようなことが現実に起こらなかったからこそ、兄様は得るべき人を得て、手にするべき天下を手にした
兄様自身がそう思っているんだから、私たちが「もしもの夢」に拘る必要はない
「……そうですね
私たちはやっぱり、現実で起きた出会い方、私たちの歩んだ歴史通りが一番ですね」
「でも夕華にタメ語で呼び捨てされる世界線は、やっぱりちょっと捨てがたいんだよな……」
「成実さんってば、まだそれ言ってるんですか……」
どんだけその私が気に入ったんだ
今更そうはなれないから諦めろというに
「Fum……俺に敬語を使わない夕華ねぇ」
「兄様まで気にならないでください」
「そうは言っても気になるモンだろ
なぁ小十郎?」
「なんで小十郎さんにまで同意を求めるんですか」
「そうですな……
夕華様は我々従者に対しても物腰柔らかで、分け隔てなく敬意を表してくださいますが、やはりそれは本来ありえぬことではございますゆえ」
「盛大なお目こぼしをもらえていた自覚はありますけど……」
「夕華」
兄様が私を呼ぶ
声音で分かってしまった、何を言い出すかなんて
今日から俺たちに対して敬語はなしだ、小十郎たちも呼び捨てにしろ、なんて言い出すに決まってる!
「小十郎たちに敬語は無しだ
さん付けもやめろ」
「絶対にそう言うと思ったんです!
無理です、無理ですからね!?
今更この態度を改められないですからね!?
そもそも小十郎さん達だって、改めようとして出来なかった私をご存知ですよね!?」
「それはそれ、これはこれだろ」
「なんで成実さんまでそっち側なんですか!」
「なんでって言われても、それが本来の正しい姿だからとしか」
こ、このぉ……!
私の癖を正すいい機会だと言わんばかりに!
ぐぬぬ、と歯噛みして、それならと条件をつけることにした
「今日一日だけならやります」
「限定かよ」
「だって無理ですって!
十年もこれで通してきたのに!」
「無理かぁ」
「ではまず、今日一日で慣れるところからです
慣れてしまえば自然と直りましょう」
「直す気でいる……」
そんなに駄目だったか、これ……
私の中でほとんど愛称みたいになっているし、従者とはいえ年上の人を呼び捨てにするのってどうなの、と思う部分もあるし……
「三人とも強情すぎません?」
「むしろお前が強情だぞ」
「うっ」
「なんで呼び方ひとつにそこまでこだわるかねぇ?
こじゅーろー、しげざねー、つなもとーって呼び捨てたらいいだけなのに」
「綱元さんを呼び捨てにするの、怖いんですが……」
「なんでだよ」
怒られないとは思うんだけど……でもなんだか、こう……
この綱元を呼び捨てとは偉くなられましたな云々と言われないかという……
そりゃ私のほうが立場的には偉いんだと思うけど、偉ぶった言動なんて私に出来ようはずもない
「……き、今日だけなんだから」
「──」
「おぉい小十郎!
急ブレーキが過ぎるだろ!!」
「す、すまねぇ……うっかりハンドル操作をミスるよりマシだと思って……」
「……兄様、やっぱりこれ、危険だと思うの」
「そうだな……」
運転が一気に怪しくなった小十郎を、兄様が後ろから呆れたように見ている
はたして私たち、無事に生きて帰れるだろうか
「小十郎」
「は……」
「小十郎?
返事の声が小さいの
ひょっとして具合が悪いの?」
「具合はどこも悪くありませぬ……
強いて言えば心臓に悪……いえ、なんでも……」
「なぁ小十郎、俺たちまだ死にたくねぇからさ……
代わるぜ、運転……?」
「いや平気だ
申し訳こざいませぬ、ここからは安全運転に務める所存なれば」
「大丈夫?
無理はしちゃ駄目よ
成実だって運転は上手なんだもの」
「……ごめん俺も事故るかもしんねぇ
小十郎、頑張ってくれ」
「揃いも揃って頼りねぇこったぜ……」
様子のおかしい前方二人に、兄様はため息をついた
本当に、私たちは無事に生きて帰れるのだろうか……
二泊でお世話になった別荘に別れを告げて、片倉号はどこかへ向かっていた
「どこに向かってるんですか?」
「水族館」
「え!!」
「夕華ならぜってー喜ぶと思った」
助手席で笑って、成実さんがお茶を飲む
兄様は私の隣で目を閉じたままだ
昨日の夜から兄様は言葉少なで、この数日の疲れが出たのかなと思って、そっとしているところではあるんだけど
「兄様、お疲れですか?」
「Ah?
……そんなんじゃねぇ、気にすんな」
「本当ですか?
昨日の夜から、なんとなく口数が少ないような気がして……」
「……妙な夢を見ちまっただけだ
心配するようなことじゃねぇ」
妙な夢……
その言葉に反応したのは、私と成実さんだけではなかった
「どした、小十郎
えらく急brakeじゃねぇか」
「は……失礼致しました」
「ひょっとしてお前も見たのか?
妙な夢ってやつ」
小十郎さんは答えない
それが答えであるような気がした
そもそも小十郎さんは、私たちに嘘をつかない
だから……何かを見たんだろうとは思うんだけど
「兄様はどんな夢を?」
「その口ぶりからすると、お前も見たのか」
「はい……昨日、夕飯の前に寝てしまって、その時に
私が見た夢は、安芸介家に養子に出されず、米沢城で一の姫として育つ夢でした」
「……」
兄様は何も言わずに視線を窓の外へ投げた
言うべきかどうかを迷っているのだろうと察せられて、私から催促はしないことにした
気になる人はもう一人いるからだ
「お前は?
小十郎、お前も見たんだろ?」
「……ありもしねぇ夢物語みてぇな話だった」
「私が見た夢だって、そうでしたよ」
「……小十郎が見たのは──竜の天下が成った後の世でした
満開の桜の下で、皆で花見などしておりまして
政宗様のお隣には、ご健勝の夕華様がおられた
海夜様や倫実様がご成長なさり、海夜様は我が家に嫁ぎ、倫実様は成実の跡を継ぎ──それでも変わらず、政宗様と夕華様はご兄妹で揃われ、花見をなさる
まるでこの小十郎の胸の内を見透かされていたかのような夢で」
兄様と一緒にお花見なんてしたことはなかった
大森伊達家ではやったけど、そこに兄様はいなかった
私と兄様が毎年必ず揃って花見をする──なんて羨ましい
「小十郎、お前……」
「心のどこかで願っていたのでしょうな
政宗様と夕華様に、何も背負うことのない、ただのご兄妹としての時間を過ごしていただきたかった……と」
「……」
「わずか数年で別れることになるとは、思ってもおりませんでした
妙な夢を見たのは、それゆえでしょう
おふたりがご兄妹としての時間を重ねていくことができればよかったと考えてきたのは、事実でもございまする」
赤信号で停まっていた車が動き出す
ブレーキを踏んだ時と違って、小十郎さんはゆっくりとアクセルを踏んだ
さて、残るは兄様の夢だけれど……
「……言いたくなければ、言わなくて大丈夫です
無理やり聞き出すものではないと思うので」
兄様の隻眼が私を見る
その瞳に頷いてやると、兄様はまた目を閉じて
「……ひでぇ夢だ
俺は右目を失わず、親父も死なねぇ
夕華も俺の妹として側にいて、伊達家は一枚岩で……」
「はい……」
「右目を失わなくても小十郎が側にいた
到底ありえねぇ夢だろ」
「小十郎の抜擢自体が、ちょっと異例だったもんな
そもそもあれも、病気の末に荒れたお前に対する荒療治みたいな感じだし
遠藤のジジイが引っ張ってこなけりゃ、小十郎が梵の側にいることはなかったのかもなぁ」
「小十郎さんは兄様の右目ですからね」
兄様が右目を失ったからこそ得られた光だったのだろう
では兄様が右目を失わなかったら?
はたして小十郎さんが、兄様の最もお側でお仕えしていたかというと、恐らくそうはならなかった
もちろんその後、兄様自身で小十郎さんの才を見出して重用すれば、その限りではなかったと思うけど
「小十郎は俺の右目だ
失ったからこそ得られた光……いや、新しく貰ったものだ」
兄様はしっかりとした声音でそう言い切った
あれはただの夢で、ありもしない幻だと
夢のようなことが現実に起こらなかったからこそ、兄様は得るべき人を得て、手にするべき天下を手にした
兄様自身がそう思っているんだから、私たちが「もしもの夢」に拘る必要はない
「……そうですね
私たちはやっぱり、現実で起きた出会い方、私たちの歩んだ歴史通りが一番ですね」
「でも夕華にタメ語で呼び捨てされる世界線は、やっぱりちょっと捨てがたいんだよな……」
「成実さんってば、まだそれ言ってるんですか……」
どんだけその私が気に入ったんだ
今更そうはなれないから諦めろというに
「Fum……俺に敬語を使わない夕華ねぇ」
「兄様まで気にならないでください」
「そうは言っても気になるモンだろ
なぁ小十郎?」
「なんで小十郎さんにまで同意を求めるんですか」
「そうですな……
夕華様は我々従者に対しても物腰柔らかで、分け隔てなく敬意を表してくださいますが、やはりそれは本来ありえぬことではございますゆえ」
「盛大なお目こぼしをもらえていた自覚はありますけど……」
「夕華」
兄様が私を呼ぶ
声音で分かってしまった、何を言い出すかなんて
今日から俺たちに対して敬語はなしだ、小十郎たちも呼び捨てにしろ、なんて言い出すに決まってる!
「小十郎たちに敬語は無しだ
さん付けもやめろ」
「絶対にそう言うと思ったんです!
無理です、無理ですからね!?
今更この態度を改められないですからね!?
そもそも小十郎さん達だって、改めようとして出来なかった私をご存知ですよね!?」
「それはそれ、これはこれだろ」
「なんで成実さんまでそっち側なんですか!」
「なんでって言われても、それが本来の正しい姿だからとしか」
こ、このぉ……!
私の癖を正すいい機会だと言わんばかりに!
ぐぬぬ、と歯噛みして、それならと条件をつけることにした
「今日一日だけならやります」
「限定かよ」
「だって無理ですって!
十年もこれで通してきたのに!」
「無理かぁ」
「ではまず、今日一日で慣れるところからです
慣れてしまえば自然と直りましょう」
「直す気でいる……」
そんなに駄目だったか、これ……
私の中でほとんど愛称みたいになっているし、従者とはいえ年上の人を呼び捨てにするのってどうなの、と思う部分もあるし……
「三人とも強情すぎません?」
「むしろお前が強情だぞ」
「うっ」
「なんで呼び方ひとつにそこまでこだわるかねぇ?
こじゅーろー、しげざねー、つなもとーって呼び捨てたらいいだけなのに」
「綱元さんを呼び捨てにするの、怖いんですが……」
「なんでだよ」
怒られないとは思うんだけど……でもなんだか、こう……
この綱元を呼び捨てとは偉くなられましたな云々と言われないかという……
そりゃ私のほうが立場的には偉いんだと思うけど、偉ぶった言動なんて私に出来ようはずもない
「……き、今日だけなんだから」
「──」
「おぉい小十郎!
急ブレーキが過ぎるだろ!!」
「す、すまねぇ……うっかりハンドル操作をミスるよりマシだと思って……」
「……兄様、やっぱりこれ、危険だと思うの」
「そうだな……」
運転が一気に怪しくなった小十郎を、兄様が後ろから呆れたように見ている
はたして私たち、無事に生きて帰れるだろうか
「小十郎」
「は……」
「小十郎?
返事の声が小さいの
ひょっとして具合が悪いの?」
「具合はどこも悪くありませぬ……
強いて言えば心臓に悪……いえ、なんでも……」
「なぁ小十郎、俺たちまだ死にたくねぇからさ……
代わるぜ、運転……?」
「いや平気だ
申し訳こざいませぬ、ここからは安全運転に務める所存なれば」
「大丈夫?
無理はしちゃ駄目よ
成実だって運転は上手なんだもの」
「……ごめん俺も事故るかもしんねぇ
小十郎、頑張ってくれ」
「揃いも揃って頼りねぇこったぜ……」
様子のおかしい前方二人に、兄様はため息をついた
本当に、私たちは無事に生きて帰れるのだろうか……
