番外編5 宮城旅行仙台編・最終日
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兄様はその年、仙台と名付けた地に城をつくった
青葉城と名付けられたその城は、東と南を断崖に囲まれ、西側に山林が広がる地形を利用した山城
まさに守りやすく攻めにくい城であるし、その足元には平野が広がっている
平野部に城下町を敷いて、そこに奥州街道を引っ張ってくれば、流通網も完璧だ
城下町の建設も進んだ頃、私たちは拠点を米沢城から青葉城へ移した
「綺麗なお城……!」
「気に入ったか?」
「とっても!
兄様のお部屋はどこなの?」
「自分の部屋より俺の部屋を見てぇのか」
「あんまり遠かったら寂しいから、兄様のお部屋の近くに私もお部屋をもらおうと思ったの」
そうすれば兄様のお部屋に遊びに行くのも容易になる
兄様のお部屋には小十郎や成実もよく来るから、私も兄様も寂しくない
我ながらいい考えだと思って言ったら、兄様はため息をついて腕を組み、やれやれと頭を振った
「そろそろ兄離れが必要かもな」
「あ、甘えん坊みたいに言わないで!」
「どうだかなぁ
姫は昔っから梵にべったりだもんなぁ〜?」
「成実まで!
べったりなんかしてないわ!
だって兄様のところに行こうとしたら、母様の家臣が出てくるのよ
私、もう兄様に会えないのは嫌なの」
「……成実」
「う、悪かったよ……
小十郎、人を殺さんばかりに睨むのはやめてくれ」
小十郎の威圧に負けて、成実が項垂れる
意地悪なことを言う成実の自業自得だ
だって成実も兄様とずっと一緒にいたくせに
そう言ってやると、「好きでずっと一緒にいたんじゃない!」と怒られた
兄様と一緒が嫌だなんて、変なことを言う人だ
「そんなふうじゃ、可愛いお嫁さんが来てくれないのよ?」
「……可愛い嫁ねぇ」
「どうして私を見るのよ」
「いんや?
伊達家一の姫様は、どこへ嫁に行くんだろうと思ってよ」
「兄様の力になれるならどこでもいいわ」
「どこでもはよくないぞ」
「どこでもはよくありませぬ」
「どこでもはよくねぇだろ」
「どうしてこういう時だけ、息ぴったりなの?」
三人に詰められて、私は思わずたじろいだ
どこでもいいわけじゃないというのは、それはそうなのだけど、じゃあどこになるんだろう
たしかに遠藤様くらいのおじいさんには嫁ぎたくない
それなら小十郎?
一回り離れているけれど、それくらいなら許容範囲だとも思う
「小十郎なら?」
「こ、小十郎に一の姫様が!?」
「一回り離れてるぞ!?」
「じゃあ誰に嫁いだら文句ないの?
小十郎が駄目なら成実よ?」
「エッ俺?」
「成実に姫は勿体ねぇな……」
「おいコラ、本家に一番近い血筋に向かって勿体ねぇってなんだよ」
やいのやいの言いながら、兄様と成実は奥御殿へ歩いていく
昔と変わらず仲のいい従兄弟同士を見せつけられて、なんだかちょっと妬ける気分だ
そういえば兄様の側近は小十郎と成実だけなのだろうか
まさかそんなはずはないだろうと思うのだけど、兄様が紹介を忘れているだけなのか
「小十郎、兄様のお側には誰がいるの?」
「基本的にはこの小十郎がお側に控えております
政務では主に鬼庭綱元が、戦では成実が政宗様の補佐を務めまする」
「鬼庭綱元?
鬼庭というと、良直のおじい様の?」
「はい、良直殿の跡を継ぎ、鬼庭家の当主を務めております
引越し作業が落ち着きましたら、改めてご挨拶の場を設けさせていただければ」
「そうなのね、わかったわ
……よかった
兄様はもう、ひとりぼっちではないのね」
たくさんの頼もしい家臣たちに囲まれて、兄様はいよいよ天下へ名乗りを上げる
右目を失った頃の兄様では考えられなかった
天下へ打って出る前に、家督さえ継げるか分からなかったのだから
でも今、兄様には、同じ明日を見てくれる人がいる
共に竜の天下を目指してくれる人たちがいる
何よりもそれが嬉しい
「竜の天下、見てみたいわね」
「それが成る日まで、一の姫様にもご尽力を賜りたく存じまする」
「もちろんよ
兄様のお力になりたくて、私は母様と別れたんだもの」
奥御殿へと小十郎と一緒に向かいながら、私は微笑んだ
はじめは兄様と一緒にいたいという我儘だった
どんなに怒鳴られても、私は兄様のお側にいたかったから、めげなかった
「我儘も言ってみるものね」
「そうですな
ただ、あのような無茶は、二度となさいませんよう
生きた心地がしませんでしたゆえ」
「あれはあの一回きりなの!
ああでもしないと、黒川に連れて行かれてしまうから!」
「それは承知しております
……それでも心臓が止まるかと思いました
小十郎でさえそう思ったのですから、政宗様や成実などは尚更です」
「それは……そうよね、反省するわ
兄様にも成実にも心配をかけるのはよくないもの」
成実と私は、しょっちゅう顔を合わせていたわけではない
ただ兄様よりは顔を合わせやすい相手ではあったから、成実が米沢城に来たときは、私の相手もしてくれたのだ
歳も近かったから、ほとんど従兄弟というよりは、幼馴染みと言うほうが正しい
そして周囲に家族以外の男の子なんて成実しかいなかったから、私の淡い初恋を攫ったのも成実だ
「……そうだったのですか
それは存じ上げませんでした」
「兄様には内緒よ
拗ねて成実に八つ当たりしてしまうの」
「夕華様のこととなると、政宗様は途端に狭量になられますからな」
「それだけ私のことを大切にしてくれている証拠なの
兄様にあっちへ行けと言われるより、こっちへ来いと言ってもらえるほうが、私も嬉しい
小十郎に出会う前は、私でさえ遠ざけるくらい、周囲に誰も置きたがらなかったのよ
あのとき……あっちへ行けと怒鳴られても、嫌だと言って退かなかったら、兄様はもっと怒ったのかしら」
もちろんそんな勇気はなくて、そのくせ諦めが悪くて、毎日のように母様の用意した見張りを欺いては、兄様のお部屋へ向かった
やはり兄様は会ってくれなかったけど、それでも兄様が、自分の未来を完全に諦めたわけじゃないと知ったから、何とかして私も兄様の力になりたかった
「だからあの頃は、兄様のお側に居ても許される成実と小十郎が羨ましくて、疎ましかったの
ほんのちょっとだけよ、だって兄様のお側にいてくれたことにとても感謝しているんだから
……でもね、私だって兄様のお側にいたかったの
いつか私の手を兄様が引いて、桜の下を笑顔で歩いてくれる日がくるのを、待っていたんだもの」
「大切な思い出なのですな」
「そうなの、とっても大切な思い出なの
城の外に出るとなると、たくさんのお供を引き連れなきゃいけないでしょ?
私は昔、恥ずかしがり屋だったから、兄様と兄上様と成実以外の人には、なかなか懐けなくて
それに伊達を取り巻く環境も決して平穏とは言えなかったから、外へ桜を見に行けなかったの
だから兄様が私の手を引いて、米沢城内の桜を見せてくれたのよ」
「なるほど、それであのご発言に至るわけですな」
「そうなの
城の外に出るとなったら恥ずかしがり屋ではいけないから、私もこの性格を直すために頑張ったのよ」
もちろんそれに付き合わせたのは成実だ
彼は人懐っこい性格だったから、見知らぬ大人たちの間にも平気で突っ込んでいく
おかげで私もすっかり城内に顔が知れ渡って、誰に対しても気さくに話ができるようになった
好きになるのも仕方がない話だ
成実はまさに、私にとっての太陽みたいなものなのだと思う
「……一の姫様は、成実へ嫁がれるのが幸せやもしれませんな」
「えっ……そ、そうなったら舞い上がってしまうくらい嬉しいけど、兄様に半殺しにされないかしら、成実」
「それは一の姫様を貰い受けるための試練と言わざるを得ません
奥州筆頭の妹君を室に頂くのですから、相応の実力を示さねば」
「……ねぇ、もし私の婚期が遅れたなら、それは兄様のせいなんだと思うの」
「ははは、違いありませぬ」
「笑ってる場合じゃないのよ!」
なおも可笑しそうに肩を揺らす小十郎の背中をぽかぽかと殴って、奥御殿へ上がった
深呼吸をすれば、真新しい木の匂いが胸いっぱいに広がる
ここからが始まりだ
兄様の目指す天下への道は、今日ここから始まるのだ──
青葉城と名付けられたその城は、東と南を断崖に囲まれ、西側に山林が広がる地形を利用した山城
まさに守りやすく攻めにくい城であるし、その足元には平野が広がっている
平野部に城下町を敷いて、そこに奥州街道を引っ張ってくれば、流通網も完璧だ
城下町の建設も進んだ頃、私たちは拠点を米沢城から青葉城へ移した
「綺麗なお城……!」
「気に入ったか?」
「とっても!
兄様のお部屋はどこなの?」
「自分の部屋より俺の部屋を見てぇのか」
「あんまり遠かったら寂しいから、兄様のお部屋の近くに私もお部屋をもらおうと思ったの」
そうすれば兄様のお部屋に遊びに行くのも容易になる
兄様のお部屋には小十郎や成実もよく来るから、私も兄様も寂しくない
我ながらいい考えだと思って言ったら、兄様はため息をついて腕を組み、やれやれと頭を振った
「そろそろ兄離れが必要かもな」
「あ、甘えん坊みたいに言わないで!」
「どうだかなぁ
姫は昔っから梵にべったりだもんなぁ〜?」
「成実まで!
べったりなんかしてないわ!
だって兄様のところに行こうとしたら、母様の家臣が出てくるのよ
私、もう兄様に会えないのは嫌なの」
「……成実」
「う、悪かったよ……
小十郎、人を殺さんばかりに睨むのはやめてくれ」
小十郎の威圧に負けて、成実が項垂れる
意地悪なことを言う成実の自業自得だ
だって成実も兄様とずっと一緒にいたくせに
そう言ってやると、「好きでずっと一緒にいたんじゃない!」と怒られた
兄様と一緒が嫌だなんて、変なことを言う人だ
「そんなふうじゃ、可愛いお嫁さんが来てくれないのよ?」
「……可愛い嫁ねぇ」
「どうして私を見るのよ」
「いんや?
伊達家一の姫様は、どこへ嫁に行くんだろうと思ってよ」
「兄様の力になれるならどこでもいいわ」
「どこでもはよくないぞ」
「どこでもはよくありませぬ」
「どこでもはよくねぇだろ」
「どうしてこういう時だけ、息ぴったりなの?」
三人に詰められて、私は思わずたじろいだ
どこでもいいわけじゃないというのは、それはそうなのだけど、じゃあどこになるんだろう
たしかに遠藤様くらいのおじいさんには嫁ぎたくない
それなら小十郎?
一回り離れているけれど、それくらいなら許容範囲だとも思う
「小十郎なら?」
「こ、小十郎に一の姫様が!?」
「一回り離れてるぞ!?」
「じゃあ誰に嫁いだら文句ないの?
小十郎が駄目なら成実よ?」
「エッ俺?」
「成実に姫は勿体ねぇな……」
「おいコラ、本家に一番近い血筋に向かって勿体ねぇってなんだよ」
やいのやいの言いながら、兄様と成実は奥御殿へ歩いていく
昔と変わらず仲のいい従兄弟同士を見せつけられて、なんだかちょっと妬ける気分だ
そういえば兄様の側近は小十郎と成実だけなのだろうか
まさかそんなはずはないだろうと思うのだけど、兄様が紹介を忘れているだけなのか
「小十郎、兄様のお側には誰がいるの?」
「基本的にはこの小十郎がお側に控えております
政務では主に鬼庭綱元が、戦では成実が政宗様の補佐を務めまする」
「鬼庭綱元?
鬼庭というと、良直のおじい様の?」
「はい、良直殿の跡を継ぎ、鬼庭家の当主を務めております
引越し作業が落ち着きましたら、改めてご挨拶の場を設けさせていただければ」
「そうなのね、わかったわ
……よかった
兄様はもう、ひとりぼっちではないのね」
たくさんの頼もしい家臣たちに囲まれて、兄様はいよいよ天下へ名乗りを上げる
右目を失った頃の兄様では考えられなかった
天下へ打って出る前に、家督さえ継げるか分からなかったのだから
でも今、兄様には、同じ明日を見てくれる人がいる
共に竜の天下を目指してくれる人たちがいる
何よりもそれが嬉しい
「竜の天下、見てみたいわね」
「それが成る日まで、一の姫様にもご尽力を賜りたく存じまする」
「もちろんよ
兄様のお力になりたくて、私は母様と別れたんだもの」
奥御殿へと小十郎と一緒に向かいながら、私は微笑んだ
はじめは兄様と一緒にいたいという我儘だった
どんなに怒鳴られても、私は兄様のお側にいたかったから、めげなかった
「我儘も言ってみるものね」
「そうですな
ただ、あのような無茶は、二度となさいませんよう
生きた心地がしませんでしたゆえ」
「あれはあの一回きりなの!
ああでもしないと、黒川に連れて行かれてしまうから!」
「それは承知しております
……それでも心臓が止まるかと思いました
小十郎でさえそう思ったのですから、政宗様や成実などは尚更です」
「それは……そうよね、反省するわ
兄様にも成実にも心配をかけるのはよくないもの」
成実と私は、しょっちゅう顔を合わせていたわけではない
ただ兄様よりは顔を合わせやすい相手ではあったから、成実が米沢城に来たときは、私の相手もしてくれたのだ
歳も近かったから、ほとんど従兄弟というよりは、幼馴染みと言うほうが正しい
そして周囲に家族以外の男の子なんて成実しかいなかったから、私の淡い初恋を攫ったのも成実だ
「……そうだったのですか
それは存じ上げませんでした」
「兄様には内緒よ
拗ねて成実に八つ当たりしてしまうの」
「夕華様のこととなると、政宗様は途端に狭量になられますからな」
「それだけ私のことを大切にしてくれている証拠なの
兄様にあっちへ行けと言われるより、こっちへ来いと言ってもらえるほうが、私も嬉しい
小十郎に出会う前は、私でさえ遠ざけるくらい、周囲に誰も置きたがらなかったのよ
あのとき……あっちへ行けと怒鳴られても、嫌だと言って退かなかったら、兄様はもっと怒ったのかしら」
もちろんそんな勇気はなくて、そのくせ諦めが悪くて、毎日のように母様の用意した見張りを欺いては、兄様のお部屋へ向かった
やはり兄様は会ってくれなかったけど、それでも兄様が、自分の未来を完全に諦めたわけじゃないと知ったから、何とかして私も兄様の力になりたかった
「だからあの頃は、兄様のお側に居ても許される成実と小十郎が羨ましくて、疎ましかったの
ほんのちょっとだけよ、だって兄様のお側にいてくれたことにとても感謝しているんだから
……でもね、私だって兄様のお側にいたかったの
いつか私の手を兄様が引いて、桜の下を笑顔で歩いてくれる日がくるのを、待っていたんだもの」
「大切な思い出なのですな」
「そうなの、とっても大切な思い出なの
城の外に出るとなると、たくさんのお供を引き連れなきゃいけないでしょ?
私は昔、恥ずかしがり屋だったから、兄様と兄上様と成実以外の人には、なかなか懐けなくて
それに伊達を取り巻く環境も決して平穏とは言えなかったから、外へ桜を見に行けなかったの
だから兄様が私の手を引いて、米沢城内の桜を見せてくれたのよ」
「なるほど、それであのご発言に至るわけですな」
「そうなの
城の外に出るとなったら恥ずかしがり屋ではいけないから、私もこの性格を直すために頑張ったのよ」
もちろんそれに付き合わせたのは成実だ
彼は人懐っこい性格だったから、見知らぬ大人たちの間にも平気で突っ込んでいく
おかげで私もすっかり城内に顔が知れ渡って、誰に対しても気さくに話ができるようになった
好きになるのも仕方がない話だ
成実はまさに、私にとっての太陽みたいなものなのだと思う
「……一の姫様は、成実へ嫁がれるのが幸せやもしれませんな」
「えっ……そ、そうなったら舞い上がってしまうくらい嬉しいけど、兄様に半殺しにされないかしら、成実」
「それは一の姫様を貰い受けるための試練と言わざるを得ません
奥州筆頭の妹君を室に頂くのですから、相応の実力を示さねば」
「……ねぇ、もし私の婚期が遅れたなら、それは兄様のせいなんだと思うの」
「ははは、違いありませぬ」
「笑ってる場合じゃないのよ!」
なおも可笑しそうに肩を揺らす小十郎の背中をぽかぽかと殴って、奥御殿へ上がった
深呼吸をすれば、真新しい木の匂いが胸いっぱいに広がる
ここからが始まりだ
兄様の目指す天下への道は、今日ここから始まるのだ──
