番外編4 宮城旅行仙台編・2日目
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短い言葉でそう語り、兄様はどこか寂しそうに目を細めたまま、更に何かを言いかけた口をやはり閉ざした
……兄様と同じ気持ちを、私も抱いた
黒い海が陸に押し寄せ、堤防を越え、家を、田畑を、街を飲み込んでいく
逃げろと飛び交う怒号、絶望、泣き叫ぶ声──轟音を立てて家は崩れ、何もかもを薙ぎ倒して、荒れ狂った波は全てを奪った
あのとき、どこからか悲鳴が聞こえた気がした
それは地震で崩れ、海に飲まれゆく奥州の悲鳴のだったように思う
「……俺が天下を収めてから一度、デカい地震があってな、その時も酷いもんだった
うちだけでも二千人近い犠牲が出たし、津波で沿岸部は全て流された……
……それでもあの時は俺が国主だった
項垂れて呆然とすることしかできねぇ民たちに前を向けと励ますことも、内陸や日本海側の国に人手を募って一からやり直すこともできた
俺にはそうすべき義務があったし、それができるだけの力も立場もあった……」
「あんときのは酷かったな……
亘理に置いてた館は壊れちまうし、せっかく広げた塩田も全部パァだ
もちろん亘理の村も酷い有様だったしな
あんときゃあ流石に、春と一緒に頭抱えたもんだよ」
甚大な被害を出した伊達領だったけれど、幸い周辺国や天下統一以前から懇意にしていた国が支援をしてくれたおかげで、領内の復興そのものは早く完了したという
それでも海に飲まれた田畑を、再び作物が育つ土に戻すのは容易ではなく、伊達領内は凶作に見舞われ大変だったそうだ
「おまけに季節は真冬だ
家のねぇ民たちを野晒しにしようもんなら、民が凍死しちまうだろう
小十郎もその頃にゃ、白石で伏せってた
成実は亘理で手一杯で頼れそうもねぇ
半分隠居状態だった綱元を呼び戻して、現役さながらに働かせたもんだ」
「さすがに綱元も引っ込んでるわけにゃいかなかったっぽくて、老体に鞭打って奥州領内を南から北まで走り回ってたな
身体には気を付けろよジジイなんだから、って気を使ったらなんか殴られたけど」
「それは成実さんが悪いです」
小十郎さんが無言で頷いた
綱元さん相手にジジイなんてよく言えたな、命知らずにも程がある
私は口が裂けても言えない
「ジジイではあったけど、ピンピンしてたな
こんなところで斃れてたまるかって言ってたし」
「言ってたな」
「そのようなことも申しておりましたな」
言ってるところが想像できる、絶対にいい笑顔をしていたはずだ
だって綱元さんだもん
俯く家臣たちを叱り飛ばし、「政宗様は前を向いておられる」と、そして「お前たちが政宗様のお心に沿わずして何とする」と、奮起させてくれたはずだ
「だがそれは俺が為政者であった頃の話だ
今の俺にゃあ前を向けと言うことも、立ち止まるなと叱咤することも……何も出来やしねぇ」
寂しそうに言って、兄様は目を伏せ
けれど兄様は目を開け、仙台の街並みを見下ろした
「それでもいいと思えたのは、こうしてここに立った今だ
ここは俺の治めた奥州じゃねぇが、気質は何も違っちゃいねぇ
何度だって立ち上がれる、奥州の人間は何度だって前を向いて、ドン底から這い上がっていける
この数日、この目で見て……俺はそう確信した」
兄様が仙台市街から、背後の騎馬像を振り返る
陽光を受けて力強くそこにある像は、今も仙台の街を見つめている
「……アンタもそう思うだろう?
──『独眼竜』」
騎馬像は答えない
けれど兄様の問いに呼応するように、強い風が吹き抜けた
当然だ、とでも言うように
「……Seriousな話ばっかしちまったな
今なら観光客も少ねぇ、写真を撮るならさっさと撮っちまえ」
「あ……はい
あの、兄様」
「Um?」
「お話し下さって、ありがとうございました」
「You are welcome.
こういう時でもねぇと話せねぇからな」
そっと背を押されて、私は騎馬像へスマートフォンのカメラを向けた
晴天の奥州は遮る雲もなく、燦々と日差しが青葉山を照らしている
もう少し遅ければ逆光になっていただろうから、午前中に訪れて正解だった
「さて、そんじゃ次は……」
「資料館にgo、だな」
兄様がそう言って歩き出したのと同時に、向こうから甲冑を付けた一団が現れた
あれって観光地によくある、おもてなし武将隊では?
兄様がつけていた甲冑とは違うけれど、弦月の前立ては同じなんだな
「あれは──」
「仙台のおもてなし武将隊こと、伊達武将隊でございましょう」
「へえ、結構な人数揃えてんな
梵に俺に小十郎に……あの突飛な袴着たヤツは?」
「ええと……あ、支倉常長みたいです」
「支倉ってあんなんだっけ」
「慶長遣欧使節を模しているのでは?
支倉常長を描いた西洋画は国宝ですし」
「Fum?
Ah,ok.
お前は支倉に会ったことはなかったのか
……いや、そうだったな
アイツが城に登るようになった頃にゃ、お前はもう」
表情に翳りを落として、兄様は言葉を詰まらせた
じっと見ていた私たちに気付いたのか、武将隊の先頭を切って歩いていた政宗公がこちらを見やり
そうして少し驚いたようにして成実公に声を掛け、景綱公まで一緒になってこちらへ歩いてきた
物珍しさからずっと見ていたのがバレてしまったかと、少し肝を冷やして成実さんの後ろに隠れる
成実さんは不思議そうな顔をして、私をそっと引っ張り出した
だからなんでそういうことをするんだ!
……兄様と同じ気持ちを、私も抱いた
黒い海が陸に押し寄せ、堤防を越え、家を、田畑を、街を飲み込んでいく
逃げろと飛び交う怒号、絶望、泣き叫ぶ声──轟音を立てて家は崩れ、何もかもを薙ぎ倒して、荒れ狂った波は全てを奪った
あのとき、どこからか悲鳴が聞こえた気がした
それは地震で崩れ、海に飲まれゆく奥州の悲鳴のだったように思う
「……俺が天下を収めてから一度、デカい地震があってな、その時も酷いもんだった
うちだけでも二千人近い犠牲が出たし、津波で沿岸部は全て流された……
……それでもあの時は俺が国主だった
項垂れて呆然とすることしかできねぇ民たちに前を向けと励ますことも、内陸や日本海側の国に人手を募って一からやり直すこともできた
俺にはそうすべき義務があったし、それができるだけの力も立場もあった……」
「あんときのは酷かったな……
亘理に置いてた館は壊れちまうし、せっかく広げた塩田も全部パァだ
もちろん亘理の村も酷い有様だったしな
あんときゃあ流石に、春と一緒に頭抱えたもんだよ」
甚大な被害を出した伊達領だったけれど、幸い周辺国や天下統一以前から懇意にしていた国が支援をしてくれたおかげで、領内の復興そのものは早く完了したという
それでも海に飲まれた田畑を、再び作物が育つ土に戻すのは容易ではなく、伊達領内は凶作に見舞われ大変だったそうだ
「おまけに季節は真冬だ
家のねぇ民たちを野晒しにしようもんなら、民が凍死しちまうだろう
小十郎もその頃にゃ、白石で伏せってた
成実は亘理で手一杯で頼れそうもねぇ
半分隠居状態だった綱元を呼び戻して、現役さながらに働かせたもんだ」
「さすがに綱元も引っ込んでるわけにゃいかなかったっぽくて、老体に鞭打って奥州領内を南から北まで走り回ってたな
身体には気を付けろよジジイなんだから、って気を使ったらなんか殴られたけど」
「それは成実さんが悪いです」
小十郎さんが無言で頷いた
綱元さん相手にジジイなんてよく言えたな、命知らずにも程がある
私は口が裂けても言えない
「ジジイではあったけど、ピンピンしてたな
こんなところで斃れてたまるかって言ってたし」
「言ってたな」
「そのようなことも申しておりましたな」
言ってるところが想像できる、絶対にいい笑顔をしていたはずだ
だって綱元さんだもん
俯く家臣たちを叱り飛ばし、「政宗様は前を向いておられる」と、そして「お前たちが政宗様のお心に沿わずして何とする」と、奮起させてくれたはずだ
「だがそれは俺が為政者であった頃の話だ
今の俺にゃあ前を向けと言うことも、立ち止まるなと叱咤することも……何も出来やしねぇ」
寂しそうに言って、兄様は目を伏せ
けれど兄様は目を開け、仙台の街並みを見下ろした
「それでもいいと思えたのは、こうしてここに立った今だ
ここは俺の治めた奥州じゃねぇが、気質は何も違っちゃいねぇ
何度だって立ち上がれる、奥州の人間は何度だって前を向いて、ドン底から這い上がっていける
この数日、この目で見て……俺はそう確信した」
兄様が仙台市街から、背後の騎馬像を振り返る
陽光を受けて力強くそこにある像は、今も仙台の街を見つめている
「……アンタもそう思うだろう?
──『独眼竜』」
騎馬像は答えない
けれど兄様の問いに呼応するように、強い風が吹き抜けた
当然だ、とでも言うように
「……Seriousな話ばっかしちまったな
今なら観光客も少ねぇ、写真を撮るならさっさと撮っちまえ」
「あ……はい
あの、兄様」
「Um?」
「お話し下さって、ありがとうございました」
「You are welcome.
こういう時でもねぇと話せねぇからな」
そっと背を押されて、私は騎馬像へスマートフォンのカメラを向けた
晴天の奥州は遮る雲もなく、燦々と日差しが青葉山を照らしている
もう少し遅ければ逆光になっていただろうから、午前中に訪れて正解だった
「さて、そんじゃ次は……」
「資料館にgo、だな」
兄様がそう言って歩き出したのと同時に、向こうから甲冑を付けた一団が現れた
あれって観光地によくある、おもてなし武将隊では?
兄様がつけていた甲冑とは違うけれど、弦月の前立ては同じなんだな
「あれは──」
「仙台のおもてなし武将隊こと、伊達武将隊でございましょう」
「へえ、結構な人数揃えてんな
梵に俺に小十郎に……あの突飛な袴着たヤツは?」
「ええと……あ、支倉常長みたいです」
「支倉ってあんなんだっけ」
「慶長遣欧使節を模しているのでは?
支倉常長を描いた西洋画は国宝ですし」
「Fum?
Ah,ok.
お前は支倉に会ったことはなかったのか
……いや、そうだったな
アイツが城に登るようになった頃にゃ、お前はもう」
表情に翳りを落として、兄様は言葉を詰まらせた
じっと見ていた私たちに気付いたのか、武将隊の先頭を切って歩いていた政宗公がこちらを見やり
そうして少し驚いたようにして成実公に声を掛け、景綱公まで一緒になってこちらへ歩いてきた
物珍しさからずっと見ていたのがバレてしまったかと、少し肝を冷やして成実さんの後ろに隠れる
成実さんは不思議そうな顔をして、私をそっと引っ張り出した
だからなんでそういうことをするんだ!
