番外編3 宮城旅行仙台編・1日目
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私が青葉城で過ごした時間は、長くはなかった
おそらくは二年ほどだったような気がする
だけど青葉城で過ごした二年間を思い出そうとすると、どれも楽しい思い出ばかりで……
「楽しかった、です」
「……」
「賑やかで……兄様も成実さんも私に甘くて、小十郎さんも綱元さんも親切で、喜多さんは私に尽くしてくれて
もちろん楽しいことだけじゃなかったですけど……でも、すごく楽しかったです」
ふ、と小さく微笑んだ兄様が、私の頭を撫でる
どうして今更そんなことを聞いたんだろう
私が青葉城で暮らしていた頃を誰よりも知っているだろうに
「四百年も前の時代からすっ飛んできて、不便だっただろ」
「あんまりにも突飛な出来事でしたもんね
目が覚めたらなんにもない草原だし、ゴロツキに嫌な絡まれ方しますし」
「そこを通りかかった成実が助けたんだったな」
「本当にあの時、成実さんに助けてもらわなかったら、殺されてましたよね……」
戦国の世とはそういうものだ
戦う力のない者たちが、力を持つ者に抗うのは厳しい
私の場合は本当に幸運だったんだと思う
……八幡神も、現代から呼び戻しすのはいいけど、呼び戻す場所ももう少し考えてほしかった
下手したら私の人生、あそこで終わってたぞ
「……戻り方も分からないのに、婆娑羅者だって判明するし、城が襲撃された時も敵を斬ったし
帰り方を探す前に、青葉城が私の本当の家なんだって言われて
育ての両親にありがとうとさよならも言えなかったなって思ってたんですよ」
「……」
「それについては、ちゃんとお別れできたので、悔いはないですけど
我ながら変な人生だなぁと思いました」
「そうか」
最後の餌は私があげて、二人で離れへと戻る
すっかり冷えてしまったせいで、室内がとっても暖かく感じた
兄様にお茶を淹れながら思い出すのは、成実さんが上田へ行っている頃のこと
いつも私と一緒の成実さんがいないことで、兄様は張り切って私を甘やかしたのだ
「成実さんがいない時の兄様は本当に楽しそうでしたね」
「普段は金魚のフンかってくらいお前にくっついてやがるからな」
「それは私を一人で歩かせると、必ず迷子になるからですけど……」
「ふ……そうだったな」
最後には誰かに付き添ってもらって、なんとか部屋までたどり着いたけど……
あんまりにもその回数が多いものだから、成実さんが最初からついてきてくれるようになったのが始まり
恋仲になってからは……成実さんが離れたがらなかったせいだと思う
「成実さんがいないと、兄様に甘やかされるんだなって」
「喜多の奴には妹離れしろだの何だの言われた」
「言われてましたね」
そんな時、決まって兄様は不満そうに眉を寄せた
私と兄様の距離感が、世間一般の兄妹よりも近いものだというのは、誰に言われなくても分かっている
だけど兄様と私は本来なら、同じ場所で生きているはずだった
そして兄様の病をきっかけにして、私も政道兄上様と同じように、兄様から遠ざけられて──
成実さんのお嫁さんになることもなく、政治の道具として、どこかの家に嫁いで終わりだったかもしれない……
「兄様の妹として、青葉城で生活を共にした時間は、短かったですけど……」
お茶の入った湯呑みを差し出して微笑む
その湯呑みを受け取って、兄様は目線だけで私に先を促した
「あの出会い方が、私たちにとって一番良い形だったのは、変わらない事実です
もし私が家を失ってすぐ、本家に戻されていたら、私はお東様によって兄様から遠ざけられた
兄様が名実共に奥州の覇者となる前に戻ってきていたら、私は父様を失う瞬間に立ち会うことになったかもしれない」
「……」
「もちろん……これらはあくまでも仮定の話です
ひょっとしたら私だけは兄様のお傍にいられたかもしれないし、父様のことだって助けられたかもしれない
でも──やっぱりそれは、成立するのが難しい話だったと思うんです」
お茶を一口飲んで、小さく息をつく
兄様は何かを考えるように、手元を見つめていた
そう、すべてはたられば
あったかもしれない、もしもの奇跡
……だけど現実は、そんな奇跡が簡単に叶うものじゃない
「私も、兄様に聞きたいことがあります」
「ん?」
「私が青葉城に……いえ、妹と過ごせた二年間は、楽しかったですか」
「……ああ
そうだな──楽しかった」
飾らないその一言が、兄様の本音だって、私も知っている
あの二年間でいろんなことがあった
それは決して楽しい事ばかりではなかったけれど、それでもやっぱり、あれは楽しいと思える時間だったんだ
「お前は知らねぇだろうが、お前が来てからの青葉城は明るくなった
元が暗かったわけじやねぇが……青葉城にいたのは俺一人だ、必然的に男所帯になる」
「たしかに青葉城に来た当時は、あまり女性の姿を見ませんでしたね」
「むさ苦しかったろ」
「喜多さんがいてくれたので、そこまでは」
むさ苦しいと思うよりも、あの時代の不便さに適応することに精一杯だった
ホームシックとカルチャーショック、戦に出て敵と戦うことへの不安や、死への恐怖心がなかったとは言えない
でも皆が気にかけてくれて、支えてくれたから
「兄様が楽しかったと思えているなら、私も嬉しいです」
兄様は微笑んだまま、何も言わずに湯呑みを傾けた
時刻は六時を前にした頃
そろそろお夕飯の時間だ
「そろそろ戻ります」
「All right.」
「あ、そうだ兄様
最後にもうひとつ聞いてもいいですか?」
「Ah?」
「成実さんのこと、どう思ってます?」
兄様が目に見えてげんなりした顔をした
成実さんにも同じ質問をしたら、似たような顔をしそうだな
「……なんでまた急に」
「純粋な好奇心です」
「……成実か……
信頼はしちゃいるが……喧しいのが難点だな
年に一回くらい顔を合わせるだけで充分だ」
「え、そうなんですか?」
「なんだ、その反応は」
「最近会ってないからって理由で手紙を書いたのに?」
兄様が飲みかけたお茶を噴き出した
噎せている間に私は退散
居間から「夕華テメェ!!」という怒号が飛んできたが、独眼竜のお怒りを受けたくはない
三十六計、逃げるに如かずだ!!
おそらくは二年ほどだったような気がする
だけど青葉城で過ごした二年間を思い出そうとすると、どれも楽しい思い出ばかりで……
「楽しかった、です」
「……」
「賑やかで……兄様も成実さんも私に甘くて、小十郎さんも綱元さんも親切で、喜多さんは私に尽くしてくれて
もちろん楽しいことだけじゃなかったですけど……でも、すごく楽しかったです」
ふ、と小さく微笑んだ兄様が、私の頭を撫でる
どうして今更そんなことを聞いたんだろう
私が青葉城で暮らしていた頃を誰よりも知っているだろうに
「四百年も前の時代からすっ飛んできて、不便だっただろ」
「あんまりにも突飛な出来事でしたもんね
目が覚めたらなんにもない草原だし、ゴロツキに嫌な絡まれ方しますし」
「そこを通りかかった成実が助けたんだったな」
「本当にあの時、成実さんに助けてもらわなかったら、殺されてましたよね……」
戦国の世とはそういうものだ
戦う力のない者たちが、力を持つ者に抗うのは厳しい
私の場合は本当に幸運だったんだと思う
……八幡神も、現代から呼び戻しすのはいいけど、呼び戻す場所ももう少し考えてほしかった
下手したら私の人生、あそこで終わってたぞ
「……戻り方も分からないのに、婆娑羅者だって判明するし、城が襲撃された時も敵を斬ったし
帰り方を探す前に、青葉城が私の本当の家なんだって言われて
育ての両親にありがとうとさよならも言えなかったなって思ってたんですよ」
「……」
「それについては、ちゃんとお別れできたので、悔いはないですけど
我ながら変な人生だなぁと思いました」
「そうか」
最後の餌は私があげて、二人で離れへと戻る
すっかり冷えてしまったせいで、室内がとっても暖かく感じた
兄様にお茶を淹れながら思い出すのは、成実さんが上田へ行っている頃のこと
いつも私と一緒の成実さんがいないことで、兄様は張り切って私を甘やかしたのだ
「成実さんがいない時の兄様は本当に楽しそうでしたね」
「普段は金魚のフンかってくらいお前にくっついてやがるからな」
「それは私を一人で歩かせると、必ず迷子になるからですけど……」
「ふ……そうだったな」
最後には誰かに付き添ってもらって、なんとか部屋までたどり着いたけど……
あんまりにもその回数が多いものだから、成実さんが最初からついてきてくれるようになったのが始まり
恋仲になってからは……成実さんが離れたがらなかったせいだと思う
「成実さんがいないと、兄様に甘やかされるんだなって」
「喜多の奴には妹離れしろだの何だの言われた」
「言われてましたね」
そんな時、決まって兄様は不満そうに眉を寄せた
私と兄様の距離感が、世間一般の兄妹よりも近いものだというのは、誰に言われなくても分かっている
だけど兄様と私は本来なら、同じ場所で生きているはずだった
そして兄様の病をきっかけにして、私も政道兄上様と同じように、兄様から遠ざけられて──
成実さんのお嫁さんになることもなく、政治の道具として、どこかの家に嫁いで終わりだったかもしれない……
「兄様の妹として、青葉城で生活を共にした時間は、短かったですけど……」
お茶の入った湯呑みを差し出して微笑む
その湯呑みを受け取って、兄様は目線だけで私に先を促した
「あの出会い方が、私たちにとって一番良い形だったのは、変わらない事実です
もし私が家を失ってすぐ、本家に戻されていたら、私はお東様によって兄様から遠ざけられた
兄様が名実共に奥州の覇者となる前に戻ってきていたら、私は父様を失う瞬間に立ち会うことになったかもしれない」
「……」
「もちろん……これらはあくまでも仮定の話です
ひょっとしたら私だけは兄様のお傍にいられたかもしれないし、父様のことだって助けられたかもしれない
でも──やっぱりそれは、成立するのが難しい話だったと思うんです」
お茶を一口飲んで、小さく息をつく
兄様は何かを考えるように、手元を見つめていた
そう、すべてはたられば
あったかもしれない、もしもの奇跡
……だけど現実は、そんな奇跡が簡単に叶うものじゃない
「私も、兄様に聞きたいことがあります」
「ん?」
「私が青葉城に……いえ、妹と過ごせた二年間は、楽しかったですか」
「……ああ
そうだな──楽しかった」
飾らないその一言が、兄様の本音だって、私も知っている
あの二年間でいろんなことがあった
それは決して楽しい事ばかりではなかったけれど、それでもやっぱり、あれは楽しいと思える時間だったんだ
「お前は知らねぇだろうが、お前が来てからの青葉城は明るくなった
元が暗かったわけじやねぇが……青葉城にいたのは俺一人だ、必然的に男所帯になる」
「たしかに青葉城に来た当時は、あまり女性の姿を見ませんでしたね」
「むさ苦しかったろ」
「喜多さんがいてくれたので、そこまでは」
むさ苦しいと思うよりも、あの時代の不便さに適応することに精一杯だった
ホームシックとカルチャーショック、戦に出て敵と戦うことへの不安や、死への恐怖心がなかったとは言えない
でも皆が気にかけてくれて、支えてくれたから
「兄様が楽しかったと思えているなら、私も嬉しいです」
兄様は微笑んだまま、何も言わずに湯呑みを傾けた
時刻は六時を前にした頃
そろそろお夕飯の時間だ
「そろそろ戻ります」
「All right.」
「あ、そうだ兄様
最後にもうひとつ聞いてもいいですか?」
「Ah?」
「成実さんのこと、どう思ってます?」
兄様が目に見えてげんなりした顔をした
成実さんにも同じ質問をしたら、似たような顔をしそうだな
「……なんでまた急に」
「純粋な好奇心です」
「……成実か……
信頼はしちゃいるが……喧しいのが難点だな
年に一回くらい顔を合わせるだけで充分だ」
「え、そうなんですか?」
「なんだ、その反応は」
「最近会ってないからって理由で手紙を書いたのに?」
兄様が飲みかけたお茶を噴き出した
噎せている間に私は退散
居間から「夕華テメェ!!」という怒号が飛んできたが、独眼竜のお怒りを受けたくはない
三十六計、逃げるに如かずだ!!
