第七話 もどかしい心
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成実さんと再会したその日から、前世と同じように、髪を右下で結ぶようにした
そのほうが、記憶がある人から見たら私だと分かってくれる……かもしれないから
誰でもいいから、とにかく会っておきたい
もしかしたら、誰かが兄様たちの連絡先を知ってるかもしれない……
自分で聞けばいいことなんだろうけど、疎遠すぎる相手と連絡先を交換するのも不自然だろうし
──ゴールデンウィークも過ぎ去った五月の中旬
元親さん達と遊び倒したその翌週
今日は土曜日で授業は無いので、いつものように朝から部活の練習だった
「「あ」」
隣に立って、電車を待っていた人と声が重なった
見上げた先の、ダークブラウンは、さっぱりと切り下ろされて涼し気な首元だ
「この間の……」
「その節はお世話になりました
えっと……伊達成実さん」
「え、あ、覚えててくれたのか?」
「忘れちゃうなんて礼儀に反します」
元から知ってるんだけど、というか前世では夫婦にまでなったんだけど……と心の中で付け足しておく
他人のふりをするのもつらいなぁ、いい加減、思い出してくれないかなぁ!
……まぁ、思い出してたらこんな会話はしないか
部活帰りの駅のホームで、成実さんと鉢合わせした私
これちょっとラッキーじゃない?
「つか、政宗の親戚なんだってな」
成実さんが兄様を政宗って呼んでる……
やっぱり記憶がないんだ……
「あぁ、政宗先輩……
成実さんと政宗先輩は、従兄弟同士なんですよね?
政宗先輩からそう聞いたんですけど……」
「まぁな、俺の一つ上なんだよ」
「成実さんは今おいくつなんですか?」
「俺?
俺は今年で十八、今が高三だから
まぁ、世間でいうところの受験生ってやつだな」
「へぇ……私の一つ上なんですね」
「へー、お前、高二かぁ」
「はい」
電車がホームに入って、一緒に乗り込む
さりげなく人混みから守ってくれるあたり、成実さんはやっぱり、変わらず優しい人だ
「成実さんは、今日は何をしていらっしゃったんですか?」
「俺は部活、フツーに」
「もしかして剣道部ですか?」
「え?
や、まぁそうだけど……
なんで分かったんだ?」
「え?
え、あ、えーっと……
なんとなくそんな感じがして
政宗先輩が剣道部だったから、もしかして成実さんもそうなのかなぁって」
「あぁ、なるほどな
って、そっか、お前と政宗は同じ高校なんだもんな
そりゃ政宗の部活も知ってるか」
しまった、つい昔の武将としての成実さんと重ねてしまった
でもやっぱり剣道部なんだ
すごく納得
「そういうお前は?」
「私も部活の帰りです」
「へぇ、土曜日も部活かぁ
何部?」
「何部だと思いますか?」
「え?
あー、そうだなぁ……」
顎に手を当てた成実さんが、私をじっと見下ろす
う、そんなに見つめられるとドキドキするな……
顔は赤くなっていないだろうか……
もう、相変わらず……格好いいんだから……!
「うーん……文化部……
じゃなさそうなんだよなー……」
「ふふっ、文化部じゃないですね」
「だろうな
んー、剣道って感じでもねぇし……
どっちかってーとテニスだとかバスケだとかそんな感じ……」
やっぱ分かってくれないかな……
「……そんな今時のスポーツでもなさそうだしなぁ……」
「確かに今時のスポーツではないですね……」
薙刀部だしね……
めちゃくちゃマイナーだよね……
「……薙刀?」
「え?」
「いや、そんな気がしただけだけど……
薙刀部か?」
「……はい
当たりです……」
「マジで!?」
「は、はい」
「珍しいな、薙刀か……
確かに、メジャーなスポーツじゃねぇよな」
成実さんが小さく笑った
それだけでドキッと胸が弾んでしまうから、いよいよ顔が赤くなった気がして
そっと俯いてしまった
「悪かったって、馬鹿にしたつもりは全くないから」
「そ、それは分かって──」
瞬間、ぽん、と頭に乗った成実さんの手
前世で何度も私に触れてくれた、優しい手つきが、そっと頭を撫でてくれる
「……あ、悪い、手が勝手に」
「大丈夫です、ちょっとびっくりしましたけど……」
……思い出して、泣きそうになった
目の前の成実さんは、別人だ
あの時代の記憶なんてない、私のことなんて最初から知らない、別人なのに
どうしても重ねてしまう
何もかもが変わらないから……
よく通る声も、温かい手も、透き通った眼差しも、優しさも、何もかもが変わらないから
苦しくて、今にも泣き喚いてしまいそうで
そうもいかないから、ぐっと唇を噛んでいた
「……どうした?
大丈夫か?」
「はい、大丈夫です、すみません……
ちょっと思い出して……」
「思い出す?
何を……」
「………」
成実さんのことを、なんて言えないから、咄嗟に口を突いて出たのは、今は遠くにいる両親のことで
「両親のことを……」
「親御さん?」
「しばらく会えていないので、寂しかったのかもしれないです」
「……そっか、事情はよく分からねぇけど、会えるといいな」
「ありがとうございます
来年には海外転勤から戻ってくる予定なので、大丈夫です
といっても、またすぐにどこかに行ってしまうんでしょうけど」
「忙しいんだな」
「本人たち曰く、仕事ができるから仕方ないって」
「なんだそりゃ……
それで放置されてるこっちの気持ちも考えろって話だろ」
……ほら、そんなところも変わらない
成実さんは昔からそうだった、人の弱さに寄り添ってくれた
そうやって、背負う必要のないものまで、一緒になって背負おうとしてくれるから
だから、兄様は「これ以上、背負わせるわけにはいかない」って口にしたんだ
そのほうが、記憶がある人から見たら私だと分かってくれる……かもしれないから
誰でもいいから、とにかく会っておきたい
もしかしたら、誰かが兄様たちの連絡先を知ってるかもしれない……
自分で聞けばいいことなんだろうけど、疎遠すぎる相手と連絡先を交換するのも不自然だろうし
──ゴールデンウィークも過ぎ去った五月の中旬
元親さん達と遊び倒したその翌週
今日は土曜日で授業は無いので、いつものように朝から部活の練習だった
「「あ」」
隣に立って、電車を待っていた人と声が重なった
見上げた先の、ダークブラウンは、さっぱりと切り下ろされて涼し気な首元だ
「この間の……」
「その節はお世話になりました
えっと……伊達成実さん」
「え、あ、覚えててくれたのか?」
「忘れちゃうなんて礼儀に反します」
元から知ってるんだけど、というか前世では夫婦にまでなったんだけど……と心の中で付け足しておく
他人のふりをするのもつらいなぁ、いい加減、思い出してくれないかなぁ!
……まぁ、思い出してたらこんな会話はしないか
部活帰りの駅のホームで、成実さんと鉢合わせした私
これちょっとラッキーじゃない?
「つか、政宗の親戚なんだってな」
成実さんが兄様を政宗って呼んでる……
やっぱり記憶がないんだ……
「あぁ、政宗先輩……
成実さんと政宗先輩は、従兄弟同士なんですよね?
政宗先輩からそう聞いたんですけど……」
「まぁな、俺の一つ上なんだよ」
「成実さんは今おいくつなんですか?」
「俺?
俺は今年で十八、今が高三だから
まぁ、世間でいうところの受験生ってやつだな」
「へぇ……私の一つ上なんですね」
「へー、お前、高二かぁ」
「はい」
電車がホームに入って、一緒に乗り込む
さりげなく人混みから守ってくれるあたり、成実さんはやっぱり、変わらず優しい人だ
「成実さんは、今日は何をしていらっしゃったんですか?」
「俺は部活、フツーに」
「もしかして剣道部ですか?」
「え?
や、まぁそうだけど……
なんで分かったんだ?」
「え?
え、あ、えーっと……
なんとなくそんな感じがして
政宗先輩が剣道部だったから、もしかして成実さんもそうなのかなぁって」
「あぁ、なるほどな
って、そっか、お前と政宗は同じ高校なんだもんな
そりゃ政宗の部活も知ってるか」
しまった、つい昔の武将としての成実さんと重ねてしまった
でもやっぱり剣道部なんだ
すごく納得
「そういうお前は?」
「私も部活の帰りです」
「へぇ、土曜日も部活かぁ
何部?」
「何部だと思いますか?」
「え?
あー、そうだなぁ……」
顎に手を当てた成実さんが、私をじっと見下ろす
う、そんなに見つめられるとドキドキするな……
顔は赤くなっていないだろうか……
もう、相変わらず……格好いいんだから……!
「うーん……文化部……
じゃなさそうなんだよなー……」
「ふふっ、文化部じゃないですね」
「だろうな
んー、剣道って感じでもねぇし……
どっちかってーとテニスだとかバスケだとかそんな感じ……」
やっぱ分かってくれないかな……
「……そんな今時のスポーツでもなさそうだしなぁ……」
「確かに今時のスポーツではないですね……」
薙刀部だしね……
めちゃくちゃマイナーだよね……
「……薙刀?」
「え?」
「いや、そんな気がしただけだけど……
薙刀部か?」
「……はい
当たりです……」
「マジで!?」
「は、はい」
「珍しいな、薙刀か……
確かに、メジャーなスポーツじゃねぇよな」
成実さんが小さく笑った
それだけでドキッと胸が弾んでしまうから、いよいよ顔が赤くなった気がして
そっと俯いてしまった
「悪かったって、馬鹿にしたつもりは全くないから」
「そ、それは分かって──」
瞬間、ぽん、と頭に乗った成実さんの手
前世で何度も私に触れてくれた、優しい手つきが、そっと頭を撫でてくれる
「……あ、悪い、手が勝手に」
「大丈夫です、ちょっとびっくりしましたけど……」
……思い出して、泣きそうになった
目の前の成実さんは、別人だ
あの時代の記憶なんてない、私のことなんて最初から知らない、別人なのに
どうしても重ねてしまう
何もかもが変わらないから……
よく通る声も、温かい手も、透き通った眼差しも、優しさも、何もかもが変わらないから
苦しくて、今にも泣き喚いてしまいそうで
そうもいかないから、ぐっと唇を噛んでいた
「……どうした?
大丈夫か?」
「はい、大丈夫です、すみません……
ちょっと思い出して……」
「思い出す?
何を……」
「………」
成実さんのことを、なんて言えないから、咄嗟に口を突いて出たのは、今は遠くにいる両親のことで
「両親のことを……」
「親御さん?」
「しばらく会えていないので、寂しかったのかもしれないです」
「……そっか、事情はよく分からねぇけど、会えるといいな」
「ありがとうございます
来年には海外転勤から戻ってくる予定なので、大丈夫です
といっても、またすぐにどこかに行ってしまうんでしょうけど」
「忙しいんだな」
「本人たち曰く、仕事ができるから仕方ないって」
「なんだそりゃ……
それで放置されてるこっちの気持ちも考えろって話だろ」
……ほら、そんなところも変わらない
成実さんは昔からそうだった、人の弱さに寄り添ってくれた
そうやって、背負う必要のないものまで、一緒になって背負おうとしてくれるから
だから、兄様は「これ以上、背負わせるわけにはいかない」って口にしたんだ
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