第十話 踏み出せぬ恋
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五月の下旬──
バイトから上がった私の前に現れたのは、元親さんだった
「よぅ、お疲れさん!」
「元親さん!?
どうしてここに……」
「慶次の野郎から、お前さんがここでバイトしてるって聞いてよ
俺ァ仕事の帰りなんだが、もしかしたら働いていやがるんじゃねぇかと思って立ち寄ってみたのよ
そしたら思った通り、お前さんの仕事上がりに遭遇したってわけだ」
「そうだったんですね……
元親さんこそ、お仕事お疲れ様です」
「はっは、俺なんざ好きなことを仕事にしてるだけさな!
俺ってのは根っからの機械好きなのよ、昔も今もな」
にっかりと笑って、元親さんがお店に入っていく
どうしようかと立ち止まっていると、振り返った元親さんが手招きをしてくれたので、私も一緒になってバイト先に戻る形になった
「いらっしゃ──伊達さん!?」
「お疲れ様です、店長……」
「今度は別の男……!」
「あ、この人は、先月ご一緒していた方と長年のご友人で」
「なんでぇ、慶次の野郎もここに連れてきたのかァ?」
「慶次さんも元親さんと同じクチですよ
と言っても、慶次さんの場合は完全に偶然でしたけど」
「はっはぁ……なぁるほど、道理であの野郎のテンションが高かったわけだ」
元親さんの頷きに小首を傾げると、「おっと」とおどけてみせた元親さんが、メニューを吟味して
「俺はエグチのポテトLセット、ドリンクは……あー、コーラでいいか
お前さんはどうする?」
「あ、私はチキチーのポテトSサイズで」
「Sで足りんのか?」
「足ります!」
「ドリンクは?」
「アイスコーヒーで」
「夜に眠れなくなったって知らねぇぜ?」
「カフェインに耐性が出来てしまって、いつでもぐっすりですので、お気遣いなく」
ケラケラと笑った元親さんが、その通りに注文をしてくれて、当たり前のように奢ってくれた
そろそろ甘やかされすぎている気がしてならない……
「──さて、氷の兄さんとの進展は?」
「んぐっふ」
運ばれてきたセット、そのアイスコーヒーを飲んだ瞬間にそう聞かれて、思いっきり噎せてしまった
「大丈夫か?」
「はい、大丈夫です……すみません
進展は……ゼロです」
「ゼロォ!?
なんっ……連絡先は聞いたんだろ!?」
「それは、一応……でも、まだ連絡してないんです」
「はっ?
そいつぁどういうこった?」
「……いいのかな、って思って」
元親さんが首を傾げる
「いいも何も……なぁ?」
「……成実さんには、乱世の記憶が無いんです」
「それァ俺も聞いてるぜ」
「だから、いいのかなって……
私も皆さんも、前世の記憶があるから、その記憶に引っ張られて、私にとても優しくしてくださって……
……でも、成実さんはそうじゃないから
だから、私に対しても、顔見知り以上の気持ちは持ち合わせていないでしょうし、そんな私が連絡先を一方的に知ってるなんて、普通に考えたら恐ろしくないですか?」
「………」
「それに……もし、成実さんに、大切な女の人がいるとしたら……」
「お、おいおい──」
「成実さん、あのルックスだし、性格も優しいし……本当に贔屓目なしで、女の人から好かれやすいと思うんです
だから……もし、誰か他に、ちゃんと好きな人がいるんだとしたら……私の存在が、すごく邪魔だなって」
考えなかったわけじゃない
もしかしたら、記憶が無いままでも、私を好きになってくれないかなって
でも──記憶が無いからこそ、私以外の女の人を好きになっているとしたら
「もし、そうなんだとしたら……私は、邪魔をしてまで成実さんを取り戻したいなんて思わない……
彼の幸せが私の幸せだって気持ちは変わらないから……だから、成実さんが私を選ばない可能性があるなら、このままで良いんじゃないかって……」
そう思ったら、連絡なんて余計に出来なかった
綱元さんのご配慮を完全に無駄にしてしまっている自覚はあるけれど、私は……成実さんには、笑っていてほしい
笑顔を奪うようなことだけはしたくない
「……それを、どうやって確かめるつもりだ?」
「………」
「あの兄さんに相手がいるにしろ、いないにしろ、そいつぁ本人に聞かなけりゃ分からねぇことだ
お前さんの勝手な憶測で二の足を踏んだって、分かりゃしねぇ」
「そう、ですけど……」
「怖ぇんだろ?
その気持ちはよぉく分かる、けどな、動いてみなけりゃ、なんにも始まらねぇぜ」
「………」
「ひょっとしたら、兄さんにはすでに相手がいるのかもしれねぇよ
だがな、いないって可能性だって十分にあるんだぜ?
確かにあの兄さんは人に好かれやすいだろうよ
けど、それはあくまでも、人に好かれやすいってだけで、兄さんに恋人がいるって結果には繋がらねぇ」
「元親さん……」
「やるだけやってみようじゃねぇか
駄目だったら、そん時に考えりゃあいい
お前さんを慰めてくれる奴らは、いくらでもいる
俺も然りな」
にっかりと笑う元親さんに、背中を押されたような気がして
「……ありがとうございます、元親さん」
「気にするなってことよ
それよりもさっさと食っちまいな、冷めたら美味しくねぇだろ?」
「はい、いただきます」
元親さんに促されて、ハンバーガーに手を伸ばした
優しいな、みんな
こんなに優しくされていいんだろうか
「……すみません、本当に
甘えてばかりで……」
「……なぁ、夕華、俺はこう見えても大人だ
そんでお前さんはまだ十七の高校生だ」
「は、はい」
「高校生なんざ、まだまだガキのうちだ
ガキが大人を頼らなくてどうする?
もうちょい、俺達を頼ってくれてもいいんだぜ」
「………」
「高校生のガキなんざ、くだらねぇことで笑って、ちょいと生意気に反発して、肝心なところで大人に甘えるもんさ
お前さんは小せぇ頃から、一番身近な大人の親が不在がちだったんだろ?
だからだろうなァ、今のお前さんが、一番……年相応って言葉からかけ離れてる」
「え……」
「しっかりしすぎてるんだよ
大人の俺よりしっかりしてるなんてのは、俺がサヤカに笑われちまうからな!
できれば我儘のひとつや二つ、言ってほしいもんだ
ま、そういうこった、誰でもいい、甘えてみろ
誰も嫌がりゃしねぇよ」
……甘える、か
今でも、十分甘えさせてもらってるつもりなんだけどな
「……甘えるって、どうやったらいいんでしょう」
「あん?」
「いざそう言っていただくと、甘え方が分からないなって……」
「………」
「我儘も、十分言わせてもらってますから……
これ以上を望むと、怒られそうで」
「……こりゃあ重症だな……
氷の兄さん、どうやって甘やかしてたんだ……?」
「成実さんですか?
成実さんは……私が上手く我儘を言えないって分かっていたので、先手を打って甘やかしてくれたかなぁ……とは」
元親さんが唸って、コーラを一気に飲んでいく
困らせてしまったようで、ちょっといたたまれない
「……夕華よぅ、なんか、俺にしてほしいことってあるか?」
「元親さんにですか?
いえ、特には……というか、こうやってお会いしてくださるだけで嬉しいです」
「そうじゃねぇッ……!
なんか、こう、あるだろ!
どこに行きたいとか、そういう!」
「……あ、それはあります!」
「よし!
そいつァどこだ!」
「お買い物に行きたいです!
冷蔵庫の中身がそろそろ空っぽで!」
「だぁっ、違うッ!!」
「違う!?」
ど、どう違ったんだろうか……!?
でもお買い物はそろそろ行かないといけないし……
頭を抱えて深くため息をつく元親さんを、私は申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら見つめていた
バイトから上がった私の前に現れたのは、元親さんだった
「よぅ、お疲れさん!」
「元親さん!?
どうしてここに……」
「慶次の野郎から、お前さんがここでバイトしてるって聞いてよ
俺ァ仕事の帰りなんだが、もしかしたら働いていやがるんじゃねぇかと思って立ち寄ってみたのよ
そしたら思った通り、お前さんの仕事上がりに遭遇したってわけだ」
「そうだったんですね……
元親さんこそ、お仕事お疲れ様です」
「はっは、俺なんざ好きなことを仕事にしてるだけさな!
俺ってのは根っからの機械好きなのよ、昔も今もな」
にっかりと笑って、元親さんがお店に入っていく
どうしようかと立ち止まっていると、振り返った元親さんが手招きをしてくれたので、私も一緒になってバイト先に戻る形になった
「いらっしゃ──伊達さん!?」
「お疲れ様です、店長……」
「今度は別の男……!」
「あ、この人は、先月ご一緒していた方と長年のご友人で」
「なんでぇ、慶次の野郎もここに連れてきたのかァ?」
「慶次さんも元親さんと同じクチですよ
と言っても、慶次さんの場合は完全に偶然でしたけど」
「はっはぁ……なぁるほど、道理であの野郎のテンションが高かったわけだ」
元親さんの頷きに小首を傾げると、「おっと」とおどけてみせた元親さんが、メニューを吟味して
「俺はエグチのポテトLセット、ドリンクは……あー、コーラでいいか
お前さんはどうする?」
「あ、私はチキチーのポテトSサイズで」
「Sで足りんのか?」
「足ります!」
「ドリンクは?」
「アイスコーヒーで」
「夜に眠れなくなったって知らねぇぜ?」
「カフェインに耐性が出来てしまって、いつでもぐっすりですので、お気遣いなく」
ケラケラと笑った元親さんが、その通りに注文をしてくれて、当たり前のように奢ってくれた
そろそろ甘やかされすぎている気がしてならない……
「──さて、氷の兄さんとの進展は?」
「んぐっふ」
運ばれてきたセット、そのアイスコーヒーを飲んだ瞬間にそう聞かれて、思いっきり噎せてしまった
「大丈夫か?」
「はい、大丈夫です……すみません
進展は……ゼロです」
「ゼロォ!?
なんっ……連絡先は聞いたんだろ!?」
「それは、一応……でも、まだ連絡してないんです」
「はっ?
そいつぁどういうこった?」
「……いいのかな、って思って」
元親さんが首を傾げる
「いいも何も……なぁ?」
「……成実さんには、乱世の記憶が無いんです」
「それァ俺も聞いてるぜ」
「だから、いいのかなって……
私も皆さんも、前世の記憶があるから、その記憶に引っ張られて、私にとても優しくしてくださって……
……でも、成実さんはそうじゃないから
だから、私に対しても、顔見知り以上の気持ちは持ち合わせていないでしょうし、そんな私が連絡先を一方的に知ってるなんて、普通に考えたら恐ろしくないですか?」
「………」
「それに……もし、成実さんに、大切な女の人がいるとしたら……」
「お、おいおい──」
「成実さん、あのルックスだし、性格も優しいし……本当に贔屓目なしで、女の人から好かれやすいと思うんです
だから……もし、誰か他に、ちゃんと好きな人がいるんだとしたら……私の存在が、すごく邪魔だなって」
考えなかったわけじゃない
もしかしたら、記憶が無いままでも、私を好きになってくれないかなって
でも──記憶が無いからこそ、私以外の女の人を好きになっているとしたら
「もし、そうなんだとしたら……私は、邪魔をしてまで成実さんを取り戻したいなんて思わない……
彼の幸せが私の幸せだって気持ちは変わらないから……だから、成実さんが私を選ばない可能性があるなら、このままで良いんじゃないかって……」
そう思ったら、連絡なんて余計に出来なかった
綱元さんのご配慮を完全に無駄にしてしまっている自覚はあるけれど、私は……成実さんには、笑っていてほしい
笑顔を奪うようなことだけはしたくない
「……それを、どうやって確かめるつもりだ?」
「………」
「あの兄さんに相手がいるにしろ、いないにしろ、そいつぁ本人に聞かなけりゃ分からねぇことだ
お前さんの勝手な憶測で二の足を踏んだって、分かりゃしねぇ」
「そう、ですけど……」
「怖ぇんだろ?
その気持ちはよぉく分かる、けどな、動いてみなけりゃ、なんにも始まらねぇぜ」
「………」
「ひょっとしたら、兄さんにはすでに相手がいるのかもしれねぇよ
だがな、いないって可能性だって十分にあるんだぜ?
確かにあの兄さんは人に好かれやすいだろうよ
けど、それはあくまでも、人に好かれやすいってだけで、兄さんに恋人がいるって結果には繋がらねぇ」
「元親さん……」
「やるだけやってみようじゃねぇか
駄目だったら、そん時に考えりゃあいい
お前さんを慰めてくれる奴らは、いくらでもいる
俺も然りな」
にっかりと笑う元親さんに、背中を押されたような気がして
「……ありがとうございます、元親さん」
「気にするなってことよ
それよりもさっさと食っちまいな、冷めたら美味しくねぇだろ?」
「はい、いただきます」
元親さんに促されて、ハンバーガーに手を伸ばした
優しいな、みんな
こんなに優しくされていいんだろうか
「……すみません、本当に
甘えてばかりで……」
「……なぁ、夕華、俺はこう見えても大人だ
そんでお前さんはまだ十七の高校生だ」
「は、はい」
「高校生なんざ、まだまだガキのうちだ
ガキが大人を頼らなくてどうする?
もうちょい、俺達を頼ってくれてもいいんだぜ」
「………」
「高校生のガキなんざ、くだらねぇことで笑って、ちょいと生意気に反発して、肝心なところで大人に甘えるもんさ
お前さんは小せぇ頃から、一番身近な大人の親が不在がちだったんだろ?
だからだろうなァ、今のお前さんが、一番……年相応って言葉からかけ離れてる」
「え……」
「しっかりしすぎてるんだよ
大人の俺よりしっかりしてるなんてのは、俺がサヤカに笑われちまうからな!
できれば我儘のひとつや二つ、言ってほしいもんだ
ま、そういうこった、誰でもいい、甘えてみろ
誰も嫌がりゃしねぇよ」
……甘える、か
今でも、十分甘えさせてもらってるつもりなんだけどな
「……甘えるって、どうやったらいいんでしょう」
「あん?」
「いざそう言っていただくと、甘え方が分からないなって……」
「………」
「我儘も、十分言わせてもらってますから……
これ以上を望むと、怒られそうで」
「……こりゃあ重症だな……
氷の兄さん、どうやって甘やかしてたんだ……?」
「成実さんですか?
成実さんは……私が上手く我儘を言えないって分かっていたので、先手を打って甘やかしてくれたかなぁ……とは」
元親さんが唸って、コーラを一気に飲んでいく
困らせてしまったようで、ちょっといたたまれない
「……夕華よぅ、なんか、俺にしてほしいことってあるか?」
「元親さんにですか?
いえ、特には……というか、こうやってお会いしてくださるだけで嬉しいです」
「そうじゃねぇッ……!
なんか、こう、あるだろ!
どこに行きたいとか、そういう!」
「……あ、それはあります!」
「よし!
そいつァどこだ!」
「お買い物に行きたいです!
冷蔵庫の中身がそろそろ空っぽで!」
「だぁっ、違うッ!!」
「違う!?」
ど、どう違ったんだろうか……!?
でもお買い物はそろそろ行かないといけないし……
頭を抱えて深くため息をつく元親さんを、私は申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら見つめていた
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