閑話三
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それは、初夏の爽やかな風が吹く季節だったと記憶している
城下に所用があった帰り道
ふと足を止めてみれば、賑わう一つの茶屋があった
くるくると忙しく看板娘が立ち回り、人の出入りも多い
市井で一番人気の甘味処だとは聞いたことがある
立ち寄ったことは一度も無いが
「このお店は城下でも美味しいと評判の茶屋ですね」
隣で共に賑わいぶりを見ていた宗時がそう教えてくれた
その言葉の裏にある意図を察して、肩を竦めて見せる
「食べたいのか?」
「殿へのお土産、ということで……」
「……まあ、多少の寄り道も構わないだろう
政宗様から言い付けられた用は済んでいるのだからな」
「ふふ、さすが鬼庭殿
話の分かる方で助かります」
俺自身も甘味は好む方だ
大きな図体をした子供がわんさかいるような軍なのだから、必然的に疲れも溜まる
疲れたときには甘いものだ、と教えてくれたのは今は亡き父だったな……
「いらっしゃいませ!」
気付いた娘が愛らしい笑顔をこちらに向ける
看板娘、とは言い得て妙だ
「ご注文は何に致しますか?」
「ではあんみつと団子を二皿
それと、持ち帰り用にみたらしを十本程度」
「かしこまりました!」
宗時の顔が心なし明るい
そして注文もやけに手慣れている
「宗時……お前実は、度々ここへ来ているな?」
「おや、気付きましたか?」
「気付くも何も、隠す気がないだろう」
「行きつけのお店なんですよ」
「……仕事はきっちりしているし、文句はないが」
「ええ、帰り道に寄っていく程度ですよ」
だからこいつに用事を頼むと、決まって団子と共に帰ってくるわけか
やっと腑に落ちた気がする
「城下の皆の表情も明るい
これも殿の成せる業ですね」
「成実は家臣の有能さを自画自賛していたがな」
「ではどちらも、ということで」
「……妥協案だな」
「鬼庭殿ももう少し柔らかくなっていただけると非常に助かりますが」
「何のことだ?」
「……まあ、そう返ってくると分かってましたよ」
なんだ、そのため息と視線は
俺が一体何をした
「お待たせいたしました!
こちらがあんみつとお団子二皿でございます!
お持ち帰りの分は、お勘定の際にお渡しいたしますね!
ごゆっくりどうぞ!」
「かたじけない」
宗時があんみつと団子を受け取った
団子を一本手に取ると、同じように宗時も一本取って、美味しそうに一つ頬張った
……待て、ではそのあんみつは誰が?
「お前……まさか団子に加えてあんみつまで食うつもりか?」
「ええ、いつもそうですけど?」
「……冗談だろう……」
見ただけで吐き気が催された
甘いものが好きだとは知っていたが、ここまで来ると度を越しているような気がする
「ここの店は、看板娘が可愛いということでも評判なのですよ」
「お前がそれを言うか?
既婚者だろうに」
「そういう鬼庭殿こそ、浮気はいけませんよ?」
「別にここの娘に興味はない」
「本命は鍛冶屋の娘ですからね」
「やかましい」
揶揄するような口調に少々腹立たしさを覚え、宗時の脛を蹴る
そうして勢いよく団子を口に突っ込んだ
* * *
それから一年が経過した
突如として現れた政宗様の妹君も、今ではすっかり伊達軍の主戦力として定着している
ご本人は成実の過保護ぶりを不満に思っていらっしゃるようでもあるが、それは我々の総意でもあるので、甘んじて心配されてほしいところだ
そんな時だった
俺が当主を務める鬼庭家から書簡が届いた
差出人など見ずとも分かる
母親だ
「また縁談の催促か……」
「ご当主も大変ですね」
「お前は既婚者だから、催促などないのだろう
羨ましいな」
「おや、いつもの腹黒い言葉はどこへ?」
「一度眠りたいか?」
「結構です」
そういう宗時も大概腹黒いと思うが……
封を開け、文面に目を通す
時節の挨拶と、体調を気遣う文言、そしてそこに続いた本題を目にして――
「え……?」
「いかがいたしましたか?」
思わず立ち上がっていた
馬鹿な、嘘だ、こんなことは有り得ない
「な、ぜ……」
「鬼庭殿?」
次の瞬間、足は執務室の床を蹴っていた
部屋を飛び出す私の背後から、宗時の足音が追ってくる
「鬼庭殿!?
どこへ行かれる!」
「一度、百目木に戻る!
その旨を政宗様へお伝えしてくれ!」
「待たれよ!」
宗時の制止を振り切り、厩へ急ぐ
愛馬をひっぱってまたがり、一直線に実家を目指した――
* * *
「鬼庭、殿……?」
一人残された私は、鬼庭殿が去って行った方向を呆然とした心地で見つめていた
「原田さん、これを」
宗実が差し出してきたのは、鬼庭殿に宛てられた手紙
差出人はご母堂だった
どうやら気が動転して、ここに落として行ったらしい
心の中で鬼庭殿に謝罪して、内容を盗み見る
そこに記してあったのは、鬼庭殿と、鬼庭家に縁のある家の娘との婚姻が決まったとの報せ
「……おそらく、綱元様は……」
「……ええ、もうこの決定は覆らないでしょう」
あり得ぬことだ
当主を差し置き、家の者が勝手に縁談の話を進めるなど
「綱元様の想い人は、城下にある鍛冶屋の娘と聞きます」
「……この世が泰平になった暁には、彼女を室として迎え入れると
鬼庭殿はそうおっしゃっていたのですが……」
パタパタと足音がする
顔を見せたのは、殿の妹君であらせられる夕華様だ
「あの、さっき綱元さんが走っていかれるのを見かけたんですけど……」
「ああ、これは……
鬼庭殿は先程、早馬で出られたのですよ」
「あ、そうだったんですか
また兄様が逃げ出したのかと思ったんですが、違ったみたいですね」
夕華様はにっこりと笑うと、執務室から立ち去っていった
夕華様に嘘をついたことは心苦しいが、私が勝手に話していいものではない
「なぜ本当のことをお話しにならなかったのですか?」
「鬼庭殿自身が、この話が城内に広まることを好むはずがありません」
「……そうですね」
頭を下げて部屋を出ていく宗実を見送り、ふと空を見上げる
鬼庭殿の先行きを暗示するかのように、晴れ渡っていた空には灰色の雲がかかり始めていた
城下に所用があった帰り道
ふと足を止めてみれば、賑わう一つの茶屋があった
くるくると忙しく看板娘が立ち回り、人の出入りも多い
市井で一番人気の甘味処だとは聞いたことがある
立ち寄ったことは一度も無いが
「このお店は城下でも美味しいと評判の茶屋ですね」
隣で共に賑わいぶりを見ていた宗時がそう教えてくれた
その言葉の裏にある意図を察して、肩を竦めて見せる
「食べたいのか?」
「殿へのお土産、ということで……」
「……まあ、多少の寄り道も構わないだろう
政宗様から言い付けられた用は済んでいるのだからな」
「ふふ、さすが鬼庭殿
話の分かる方で助かります」
俺自身も甘味は好む方だ
大きな図体をした子供がわんさかいるような軍なのだから、必然的に疲れも溜まる
疲れたときには甘いものだ、と教えてくれたのは今は亡き父だったな……
「いらっしゃいませ!」
気付いた娘が愛らしい笑顔をこちらに向ける
看板娘、とは言い得て妙だ
「ご注文は何に致しますか?」
「ではあんみつと団子を二皿
それと、持ち帰り用にみたらしを十本程度」
「かしこまりました!」
宗時の顔が心なし明るい
そして注文もやけに手慣れている
「宗時……お前実は、度々ここへ来ているな?」
「おや、気付きましたか?」
「気付くも何も、隠す気がないだろう」
「行きつけのお店なんですよ」
「……仕事はきっちりしているし、文句はないが」
「ええ、帰り道に寄っていく程度ですよ」
だからこいつに用事を頼むと、決まって団子と共に帰ってくるわけか
やっと腑に落ちた気がする
「城下の皆の表情も明るい
これも殿の成せる業ですね」
「成実は家臣の有能さを自画自賛していたがな」
「ではどちらも、ということで」
「……妥協案だな」
「鬼庭殿ももう少し柔らかくなっていただけると非常に助かりますが」
「何のことだ?」
「……まあ、そう返ってくると分かってましたよ」
なんだ、そのため息と視線は
俺が一体何をした
「お待たせいたしました!
こちらがあんみつとお団子二皿でございます!
お持ち帰りの分は、お勘定の際にお渡しいたしますね!
ごゆっくりどうぞ!」
「かたじけない」
宗時があんみつと団子を受け取った
団子を一本手に取ると、同じように宗時も一本取って、美味しそうに一つ頬張った
……待て、ではそのあんみつは誰が?
「お前……まさか団子に加えてあんみつまで食うつもりか?」
「ええ、いつもそうですけど?」
「……冗談だろう……」
見ただけで吐き気が催された
甘いものが好きだとは知っていたが、ここまで来ると度を越しているような気がする
「ここの店は、看板娘が可愛いということでも評判なのですよ」
「お前がそれを言うか?
既婚者だろうに」
「そういう鬼庭殿こそ、浮気はいけませんよ?」
「別にここの娘に興味はない」
「本命は鍛冶屋の娘ですからね」
「やかましい」
揶揄するような口調に少々腹立たしさを覚え、宗時の脛を蹴る
そうして勢いよく団子を口に突っ込んだ
* * *
それから一年が経過した
突如として現れた政宗様の妹君も、今ではすっかり伊達軍の主戦力として定着している
ご本人は成実の過保護ぶりを不満に思っていらっしゃるようでもあるが、それは我々の総意でもあるので、甘んじて心配されてほしいところだ
そんな時だった
俺が当主を務める鬼庭家から書簡が届いた
差出人など見ずとも分かる
母親だ
「また縁談の催促か……」
「ご当主も大変ですね」
「お前は既婚者だから、催促などないのだろう
羨ましいな」
「おや、いつもの腹黒い言葉はどこへ?」
「一度眠りたいか?」
「結構です」
そういう宗時も大概腹黒いと思うが……
封を開け、文面に目を通す
時節の挨拶と、体調を気遣う文言、そしてそこに続いた本題を目にして――
「え……?」
「いかがいたしましたか?」
思わず立ち上がっていた
馬鹿な、嘘だ、こんなことは有り得ない
「な、ぜ……」
「鬼庭殿?」
次の瞬間、足は執務室の床を蹴っていた
部屋を飛び出す私の背後から、宗時の足音が追ってくる
「鬼庭殿!?
どこへ行かれる!」
「一度、百目木に戻る!
その旨を政宗様へお伝えしてくれ!」
「待たれよ!」
宗時の制止を振り切り、厩へ急ぐ
愛馬をひっぱってまたがり、一直線に実家を目指した――
* * *
「鬼庭、殿……?」
一人残された私は、鬼庭殿が去って行った方向を呆然とした心地で見つめていた
「原田さん、これを」
宗実が差し出してきたのは、鬼庭殿に宛てられた手紙
差出人はご母堂だった
どうやら気が動転して、ここに落として行ったらしい
心の中で鬼庭殿に謝罪して、内容を盗み見る
そこに記してあったのは、鬼庭殿と、鬼庭家に縁のある家の娘との婚姻が決まったとの報せ
「……おそらく、綱元様は……」
「……ええ、もうこの決定は覆らないでしょう」
あり得ぬことだ
当主を差し置き、家の者が勝手に縁談の話を進めるなど
「綱元様の想い人は、城下にある鍛冶屋の娘と聞きます」
「……この世が泰平になった暁には、彼女を室として迎え入れると
鬼庭殿はそうおっしゃっていたのですが……」
パタパタと足音がする
顔を見せたのは、殿の妹君であらせられる夕華様だ
「あの、さっき綱元さんが走っていかれるのを見かけたんですけど……」
「ああ、これは……
鬼庭殿は先程、早馬で出られたのですよ」
「あ、そうだったんですか
また兄様が逃げ出したのかと思ったんですが、違ったみたいですね」
夕華様はにっこりと笑うと、執務室から立ち去っていった
夕華様に嘘をついたことは心苦しいが、私が勝手に話していいものではない
「なぜ本当のことをお話しにならなかったのですか?」
「鬼庭殿自身が、この話が城内に広まることを好むはずがありません」
「……そうですね」
頭を下げて部屋を出ていく宗実を見送り、ふと空を見上げる
鬼庭殿の先行きを暗示するかのように、晴れ渡っていた空には灰色の雲がかかり始めていた
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