第六十七話 纏う色の意味
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
クリスマスが終われば、正月なんて目の前だ
今回も三が日だけは都合をつけて帰ってくるらしい両親と一緒に本家へ向かうことになっている
ただし今回から、成実さんとも一緒だ
いわく、「本家の後押しで婚約までしておいて、一緒にいないのはおかしいだろ?」とのこと
去年の正月に仕立てた振袖をようやく着られるとあって、成実さんがそれはもう張り切ってくれた
「やっぱりお前は青が似合うな」
「嬉しいです
一番慣れ親しんだ色なので、似合うって言っていただけるとほっとします」
この振袖の青色は紺青色というらしいのだけど、それはもう華やかな花柄が咲き誇っている
去年までの私が着た振袖が霞んで見えるくらいだ
辻が花という技法がどうの、と説明されたけど、とにかく難しい技法の粋を集めた一点物の振袖、ということだけは分かった
京都の友禅職人が本家からの無理難題に応えてみせたのは、もはや職人の意地だったような気もする
「そうだ成実さん、あの簪を使ってもいいですか?」
「言われなくても使うつもりだ
はー、どんどん綺麗になるな、お前」
「成実さんが頑張ってくれたので」
「ばーか、お前が元から綺麗なんだよ
俺はそれをちょっと引き出してやっただけだ」
「ちょっとかぁ……」
はたして本当にちょっとなのかは疑問だけど、鏡の中の私は別人のように綺麗だ
背後で成実さんが悩みながら髪の毛をいじっていく
ようやく方向性が決まったようで、迷いのない手つきが髪を編み込んで簪を差し込んだ
それだけでは寂しいので、簪の近くに髪飾りを差し込む
そうしてスプレーで固めて、ようやく私の準備が完了した
「ありがとうございます
どうですか?」
「綺麗すぎて仕舞っておきたい」
「仕舞っておきたい!?」
「こんな美人、外を歩いちゃ駄目だろ
もう留守番しててくれねぇ?」
「着替えた意味は!?」
残念ながら、もうあと三十分もすればお迎えが来る
到着した先で似たようなことを言われるんだろうなというのは察しているところだ
そうこうするうちにインターホンが鳴って、二人で玄関へ向かう
成実さんがドアを開けると、そこにはお迎え役の留守さんが立っていた
「おはようございます!
お迎えに上がりましたー!
ってうわ、姫様!?
今日のお姿、めっちゃ綺麗じゃないスか!
えっ、ちょっ……写真いいスか!?」
「後にしろ、後に!
本家に行くんだろうが!」
「いやそうなんスけど〜!
向こうに着いたら俺が死ぬほど忙しくなるから会えないじゃないスかー!」
留守さん白石さんはこういう宴会ごとでは給仕に回るから、私とゆっくりお喋りなんて出来なくなる
成実さんもそれを分かっているからか、しゃーねぇなと溜息をつきながらもスマホを取り出した
「一発で決めろよ留守」
「一回くらいリテイクありじゃないんスか!?」
「そんなもんはない」
「ええー!」
留守さんの抗議も虚しく、チャンスは一回しか与えられなかった
私の方が事故になる可能性が高いのを成実さんは分かっているのだろうか……
何も考えずに笑って、成実さんのスマホからシャッター音が聞こえて終わり
家宝にします、と留守さんの本気の声音が宣言した
ようやく車に乗って本家へ出発
成実さんと他愛のない会話をしながら、とうとう本家へ到着した
「……緊張する」
「大丈夫だって、今のお前は誰がどう見ても文句なしに美人だから」
「そうッスよ!
あーあ、成実様が羨ましいッス」
「だろ?
まあ諦めろ、夕華の隣にいていい男は俺だけだ」
先に降りた成実さんが差し出してくれた手を握って、車から降りる
既に他の分家はほとんど揃っているらしい
玄関先や前庭で、仲のいい家同士で集まって立ち話に興じているようだ
「夕華、顔強ばってんぞ」
「本当に緊張して……」
「大丈夫だって言ったろ?
ほーら、伊達家一の姫として堂々としてろ
喜多姐ちゃんのお作法教室、もっかいやるか?」
「やりません」
内向きになりそうな背をどうにか伸ばして、本家の門を通り抜ける
水を打ったように静まり返る前庭
けれど前回までと違うのは、誰も私を見てせせら笑ったり、囁き合うような声がないこと
本家の後ろ盾を得て成実さんと婚約したからか、それとも――
「夕華」
玄関の前に立っていた兄様に小さく手を振る
隣にはもちろん、小十郎さんと綱元さんもいた
「あけましておめでとうございます、皆さん
今年もよろしくお願いします」
「Happy new year.
こいつは見違えたな、さすが俺の見立てだぜ
So beautiful.
他の奴らに見せるのが惜しいくらいだ」
「あけましておめでと、梵
俺も夕華は留守番させたいくらいだよ
なんだってこうも美人になるかねぇ」
さっそく私を囲んだ三傑と兄様が、私を見ながら褒めてくれる
とりあえず、振袖に着られてはいないようなので安心だ
……と、兄様の指が挿した簪に触れた
「こいつは」
「草津で見つけたんだ」
「……そうか」
兄様もあの簪を覚えていてくれたんだ
成実さんが初めて私にくれたプレゼントだったから、私もあの簪はとても大切に使っていた
簪は兄様も成実さんもいくつかくれたけど、空色の桜の簪はなんだか特別で、使う頻度も高かった覚えがある
「立ち話もなんですし、中へお入りください
広間へご案内致しまする」
「政宗様もどうぞ広間へお戻りください
出迎えの挨拶は十分かと」
「All right.
夕華、段差に気を付けろよ」
「はい
ありがとうございます」
成実さんの手を借りて草履を脱いで、玄関へと上がる
高価そうな大きい花瓶には、正月らしく冬の花が生けられていた
小十郎さんの案内で広間へ向かうと、会話が弾んで騒がしい空間が一気にシンと静まり返った
成実さんに手を引かれて、彼の隣の席へ座る
今までは一番端の席だったから、こんなに本家側に近い席は初めてだ
でも向かいの席に座っているのは成実さんのご両親だから、緊張はしなくて済みそうなのが幸いだった
「なんだか今日は、他の家の皆さんが私を見て顔色を悪くしているようなんですが……」
「そりゃあお前……一族の集まりで混じりっけのない青色を着ていいのは、本家の人間だけだもん」
「えっ」
まさかこの綺麗な振袖にとんでもない意味が込められていたなんて
でもこの振袖を依頼した兄様たちが、色の意味を知らないわけがない
明言こそ出来ないけれど、分かる人には分かるように伝えたかったということなのだろうか
私の生まれが、本当はどの家だったのか
私が誰の血を引く人間なのか
分からない人は、きっとこの場にはいないだろうから
今回も三が日だけは都合をつけて帰ってくるらしい両親と一緒に本家へ向かうことになっている
ただし今回から、成実さんとも一緒だ
いわく、「本家の後押しで婚約までしておいて、一緒にいないのはおかしいだろ?」とのこと
去年の正月に仕立てた振袖をようやく着られるとあって、成実さんがそれはもう張り切ってくれた
「やっぱりお前は青が似合うな」
「嬉しいです
一番慣れ親しんだ色なので、似合うって言っていただけるとほっとします」
この振袖の青色は紺青色というらしいのだけど、それはもう華やかな花柄が咲き誇っている
去年までの私が着た振袖が霞んで見えるくらいだ
辻が花という技法がどうの、と説明されたけど、とにかく難しい技法の粋を集めた一点物の振袖、ということだけは分かった
京都の友禅職人が本家からの無理難題に応えてみせたのは、もはや職人の意地だったような気もする
「そうだ成実さん、あの簪を使ってもいいですか?」
「言われなくても使うつもりだ
はー、どんどん綺麗になるな、お前」
「成実さんが頑張ってくれたので」
「ばーか、お前が元から綺麗なんだよ
俺はそれをちょっと引き出してやっただけだ」
「ちょっとかぁ……」
はたして本当にちょっとなのかは疑問だけど、鏡の中の私は別人のように綺麗だ
背後で成実さんが悩みながら髪の毛をいじっていく
ようやく方向性が決まったようで、迷いのない手つきが髪を編み込んで簪を差し込んだ
それだけでは寂しいので、簪の近くに髪飾りを差し込む
そうしてスプレーで固めて、ようやく私の準備が完了した
「ありがとうございます
どうですか?」
「綺麗すぎて仕舞っておきたい」
「仕舞っておきたい!?」
「こんな美人、外を歩いちゃ駄目だろ
もう留守番しててくれねぇ?」
「着替えた意味は!?」
残念ながら、もうあと三十分もすればお迎えが来る
到着した先で似たようなことを言われるんだろうなというのは察しているところだ
そうこうするうちにインターホンが鳴って、二人で玄関へ向かう
成実さんがドアを開けると、そこにはお迎え役の留守さんが立っていた
「おはようございます!
お迎えに上がりましたー!
ってうわ、姫様!?
今日のお姿、めっちゃ綺麗じゃないスか!
えっ、ちょっ……写真いいスか!?」
「後にしろ、後に!
本家に行くんだろうが!」
「いやそうなんスけど〜!
向こうに着いたら俺が死ぬほど忙しくなるから会えないじゃないスかー!」
留守さん白石さんはこういう宴会ごとでは給仕に回るから、私とゆっくりお喋りなんて出来なくなる
成実さんもそれを分かっているからか、しゃーねぇなと溜息をつきながらもスマホを取り出した
「一発で決めろよ留守」
「一回くらいリテイクありじゃないんスか!?」
「そんなもんはない」
「ええー!」
留守さんの抗議も虚しく、チャンスは一回しか与えられなかった
私の方が事故になる可能性が高いのを成実さんは分かっているのだろうか……
何も考えずに笑って、成実さんのスマホからシャッター音が聞こえて終わり
家宝にします、と留守さんの本気の声音が宣言した
ようやく車に乗って本家へ出発
成実さんと他愛のない会話をしながら、とうとう本家へ到着した
「……緊張する」
「大丈夫だって、今のお前は誰がどう見ても文句なしに美人だから」
「そうッスよ!
あーあ、成実様が羨ましいッス」
「だろ?
まあ諦めろ、夕華の隣にいていい男は俺だけだ」
先に降りた成実さんが差し出してくれた手を握って、車から降りる
既に他の分家はほとんど揃っているらしい
玄関先や前庭で、仲のいい家同士で集まって立ち話に興じているようだ
「夕華、顔強ばってんぞ」
「本当に緊張して……」
「大丈夫だって言ったろ?
ほーら、伊達家一の姫として堂々としてろ
喜多姐ちゃんのお作法教室、もっかいやるか?」
「やりません」
内向きになりそうな背をどうにか伸ばして、本家の門を通り抜ける
水を打ったように静まり返る前庭
けれど前回までと違うのは、誰も私を見てせせら笑ったり、囁き合うような声がないこと
本家の後ろ盾を得て成実さんと婚約したからか、それとも――
「夕華」
玄関の前に立っていた兄様に小さく手を振る
隣にはもちろん、小十郎さんと綱元さんもいた
「あけましておめでとうございます、皆さん
今年もよろしくお願いします」
「Happy new year.
こいつは見違えたな、さすが俺の見立てだぜ
So beautiful.
他の奴らに見せるのが惜しいくらいだ」
「あけましておめでと、梵
俺も夕華は留守番させたいくらいだよ
なんだってこうも美人になるかねぇ」
さっそく私を囲んだ三傑と兄様が、私を見ながら褒めてくれる
とりあえず、振袖に着られてはいないようなので安心だ
……と、兄様の指が挿した簪に触れた
「こいつは」
「草津で見つけたんだ」
「……そうか」
兄様もあの簪を覚えていてくれたんだ
成実さんが初めて私にくれたプレゼントだったから、私もあの簪はとても大切に使っていた
簪は兄様も成実さんもいくつかくれたけど、空色の桜の簪はなんだか特別で、使う頻度も高かった覚えがある
「立ち話もなんですし、中へお入りください
広間へご案内致しまする」
「政宗様もどうぞ広間へお戻りください
出迎えの挨拶は十分かと」
「All right.
夕華、段差に気を付けろよ」
「はい
ありがとうございます」
成実さんの手を借りて草履を脱いで、玄関へと上がる
高価そうな大きい花瓶には、正月らしく冬の花が生けられていた
小十郎さんの案内で広間へ向かうと、会話が弾んで騒がしい空間が一気にシンと静まり返った
成実さんに手を引かれて、彼の隣の席へ座る
今までは一番端の席だったから、こんなに本家側に近い席は初めてだ
でも向かいの席に座っているのは成実さんのご両親だから、緊張はしなくて済みそうなのが幸いだった
「なんだか今日は、他の家の皆さんが私を見て顔色を悪くしているようなんですが……」
「そりゃあお前……一族の集まりで混じりっけのない青色を着ていいのは、本家の人間だけだもん」
「えっ」
まさかこの綺麗な振袖にとんでもない意味が込められていたなんて
でもこの振袖を依頼した兄様たちが、色の意味を知らないわけがない
明言こそ出来ないけれど、分かる人には分かるように伝えたかったということなのだろうか
私の生まれが、本当はどの家だったのか
私が誰の血を引く人間なのか
分からない人は、きっとこの場にはいないだろうから
1/3ページ
