第六十五話 約束のしるし
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残暑が未だに厳しい、九月の初旬
渡したい物がある、といつになく真剣な顔で切り出した成実さんは、私の目の前に小さな箱を置いた
誰がどう見ても、それはリングケースだ
「え……」
「用意が遅くなって本当にごめんな
本当なら、お前に婚約の話を持ち出した時に渡すべきだったんだけど……」
箱と成実さんを視線が往復して、成実さんが「開けてみてくれ」と言ってくれた
そっとケースを開けると、中に入っていたのはダイヤが埋め込まれた指輪
思わず手で口元を覆ってしまってから、成実さんを見つめてしまった
私……いいのかな、こんなに綺麗な指輪を貰って……
「左手、出して」
「……はい」
素直に左手を差し出すと、成実さんの手がそっと私の手を握った
そうして薬指に通された指輪は、サイズもぴったりで
「いつの間に測ったんですか?」
「そりゃあお前が寝てる間にこっそり」
「気が付かなかった……」
キラキラと輝くダイヤが美しい
すごいなぁ、まだ二十歳にもなってないのに、婚約指輪をつけるなんて
「気に入ってくれたか?」
「はい……!」
「……良かった
お前の好みは知ってるつもりだったけど、いざ選ぶとなると不安でよ
お前、俺が渡すものに文句言わねぇから……
本当に気に入ってくれるかなとか、ちょっと不安でさ」
ジュエリーショップのショーケースの前で、難しい顔をして指輪と睨めっこする成実さんが想像できる
私のためにいっぱい悩んでくれたんだろう
それに一つだけ誤解している点がある
「文句を言わないんじゃなくて、成実さんのくれるものが全部私の好みに合ったものだから、文句を言う必要がないんです」
「それならいいけど……
ま、とりあえず、気に入ってくれたなら良かったよ
二時間悩んだ甲斐があるってもんだ」
「二時間!?」
「いや、一口に婚約指輪っつっても、山ほどデザインがあるんだって知らなくてさ
でもお前に……他の誰でもない、夕華に渡すものだと思ったら、どうにも妥協なんざ出来なくてな」
「成実さん……」
「あ、もちろん俺だけじゃないからな!?
一応その、なんだ、女の目線ってのも必要かなと思ったから、喜多姐ちゃんに付き合ってもらって!」
だから安心してくれ、なんて慌てられたけど、そもそもこんなに素敵な指輪をもらった時点で、成実さんのセンスは疑いようがないものだと証明されている
頬をほんのりと赤らめて照れ隠しのように頭を掻く成実さんが可愛くて、私も小さく笑ってしまった
「……本当は、さ
お前に婚約の話を持ちかけた時に、渡してやれれば良かったんだけど……
でもやっぱり、渡すならもっとちゃんと……俺とお前が何の不自由もなく一緒にいられるようになってからだって思って
だから遅くなったけど、許してくれ」
「許します
というか、婚約指輪の存在自体、ちょっと私も忘れていたというか……」
「お前ってほんと……もう少し俺に対して夢を見てくれてもいいんじゃねぇのか?」
「夢ですか……」
そうだよね、もう私と成実さんが一緒に居ることになんのしがらみもない
私はご当主様に認められて、成実さんと結ばれる権利を得た
だったら……もう少しくらい、贅沢を言ってもいいだろうか
ずっと伝えられなかった想いを……ひとつだけ
「成実さん、ひとつお願いがあるんですけど……」
「ひとつと言わずいくらでも言ってくれ
なんだ?」
「去年の誕生日に、ネックレスをくれたじゃないですか
覚えてますか?」
「そらもちろん、お前に渡したものは全部ちゃんと覚えてるぜ?
新しいの欲しくなったか?」
「……新しいのじゃなくていいです
あのネックレスじゃなきゃ駄目なんです」
成実さんが不思議そうに小首を傾げる
その瞳を見つめて、小さく息を吸った
「あの時くれたネックレスを付けて……結婚式をしたいです」
「――」
「成実さんからしたら、あのネックレスよりももっと相応しいものがあるって思うようなものかもしれないですけど……
でも、私はあのネックレスがいいんです
今の成実さんが初めて私にくれたものだから……」
あのネックレスをもらった時、夢物語だと心の奥底にしまい込んでしまったままの、ささやかな願い
ネックレスは今も箱に納められたままだ
飾るためではなくて……私が成実さんに相応しくないと言われた時、この人にお返しできるように
でももう、その必要はない
「成実さんのおっしゃることの意味は分かっています
でも私は、我儘の言い方を知らないから……
成実さんが私にくれたものを身につけて、成実さんと結婚式が出来ればいいなって
それくらいの夢は、見ていたんですよ、ずっと」
「じゃあ、あげてから一度も付けてないのは……」
「最初は成実さんにちゃんとお返しするためでした」
「……は!?」
成実さんの声が裏返る
無理もない、まさかプレゼントを返されるなんて、想像だってしなかっただろうから
「か、返すってお前」
「あの時はそう思っていたんです
でも今はもう違います、別の理由になりました
成実さんとの結婚式で初めて付けるんだって決めたからです」
「たりめーだ!
返されても困る、俺が!
はぁ良かった……死ぬほど悩んで贈ったもの突き返されたら、流石の成実さんでも泣いてたぞ……」
疲れたような声音でそう絞り出した成実さんが、ふと何かに気付いたように顔を上げた
こちらを見つめる瞳に小首を傾げると
「ってことはお前、結婚式はウェディングドレスが着たいのか」
思わず反応に遅れてしまって、謎の沈黙が落ちた
そ、そうか、ネックレスを付けるとなるとドレス姿になるから、必然的にウェディングドレスを着ることになるのか
そうなると西洋式の結婚式になるわけで、待ち受けるのは誓いのキスで……
……人前で、キスを?
無理じゃない!?
「や、やっぱり結婚式は和装で!!」
「ネックレスは?」
「……披露宴、で、付けます」
「はは……っ!
なんだ、お前もちゃーんと結婚式に夢見てくれてたんだな」
嬉しそうに笑って、成実さんがそうしようと頷いてくれた
何はともあれ、結婚も結婚式ももう少し先の話ではあるけれど
……でも、成実さんとの未来がまた少し見えたことが、すごく嬉しい
成実さんが私の隣の席に座り直して、私の左手にある指輪に触れる
そこに浮かべられた微笑みが本当に嬉しそうで、幸せそうで
優しく握られた左手が温かい
つかの間、私達は互いの瞳を見つめ合って――それからそっと唇を触れ合わせた
渡したい物がある、といつになく真剣な顔で切り出した成実さんは、私の目の前に小さな箱を置いた
誰がどう見ても、それはリングケースだ
「え……」
「用意が遅くなって本当にごめんな
本当なら、お前に婚約の話を持ち出した時に渡すべきだったんだけど……」
箱と成実さんを視線が往復して、成実さんが「開けてみてくれ」と言ってくれた
そっとケースを開けると、中に入っていたのはダイヤが埋め込まれた指輪
思わず手で口元を覆ってしまってから、成実さんを見つめてしまった
私……いいのかな、こんなに綺麗な指輪を貰って……
「左手、出して」
「……はい」
素直に左手を差し出すと、成実さんの手がそっと私の手を握った
そうして薬指に通された指輪は、サイズもぴったりで
「いつの間に測ったんですか?」
「そりゃあお前が寝てる間にこっそり」
「気が付かなかった……」
キラキラと輝くダイヤが美しい
すごいなぁ、まだ二十歳にもなってないのに、婚約指輪をつけるなんて
「気に入ってくれたか?」
「はい……!」
「……良かった
お前の好みは知ってるつもりだったけど、いざ選ぶとなると不安でよ
お前、俺が渡すものに文句言わねぇから……
本当に気に入ってくれるかなとか、ちょっと不安でさ」
ジュエリーショップのショーケースの前で、難しい顔をして指輪と睨めっこする成実さんが想像できる
私のためにいっぱい悩んでくれたんだろう
それに一つだけ誤解している点がある
「文句を言わないんじゃなくて、成実さんのくれるものが全部私の好みに合ったものだから、文句を言う必要がないんです」
「それならいいけど……
ま、とりあえず、気に入ってくれたなら良かったよ
二時間悩んだ甲斐があるってもんだ」
「二時間!?」
「いや、一口に婚約指輪っつっても、山ほどデザインがあるんだって知らなくてさ
でもお前に……他の誰でもない、夕華に渡すものだと思ったら、どうにも妥協なんざ出来なくてな」
「成実さん……」
「あ、もちろん俺だけじゃないからな!?
一応その、なんだ、女の目線ってのも必要かなと思ったから、喜多姐ちゃんに付き合ってもらって!」
だから安心してくれ、なんて慌てられたけど、そもそもこんなに素敵な指輪をもらった時点で、成実さんのセンスは疑いようがないものだと証明されている
頬をほんのりと赤らめて照れ隠しのように頭を掻く成実さんが可愛くて、私も小さく笑ってしまった
「……本当は、さ
お前に婚約の話を持ちかけた時に、渡してやれれば良かったんだけど……
でもやっぱり、渡すならもっとちゃんと……俺とお前が何の不自由もなく一緒にいられるようになってからだって思って
だから遅くなったけど、許してくれ」
「許します
というか、婚約指輪の存在自体、ちょっと私も忘れていたというか……」
「お前ってほんと……もう少し俺に対して夢を見てくれてもいいんじゃねぇのか?」
「夢ですか……」
そうだよね、もう私と成実さんが一緒に居ることになんのしがらみもない
私はご当主様に認められて、成実さんと結ばれる権利を得た
だったら……もう少しくらい、贅沢を言ってもいいだろうか
ずっと伝えられなかった想いを……ひとつだけ
「成実さん、ひとつお願いがあるんですけど……」
「ひとつと言わずいくらでも言ってくれ
なんだ?」
「去年の誕生日に、ネックレスをくれたじゃないですか
覚えてますか?」
「そらもちろん、お前に渡したものは全部ちゃんと覚えてるぜ?
新しいの欲しくなったか?」
「……新しいのじゃなくていいです
あのネックレスじゃなきゃ駄目なんです」
成実さんが不思議そうに小首を傾げる
その瞳を見つめて、小さく息を吸った
「あの時くれたネックレスを付けて……結婚式をしたいです」
「――」
「成実さんからしたら、あのネックレスよりももっと相応しいものがあるって思うようなものかもしれないですけど……
でも、私はあのネックレスがいいんです
今の成実さんが初めて私にくれたものだから……」
あのネックレスをもらった時、夢物語だと心の奥底にしまい込んでしまったままの、ささやかな願い
ネックレスは今も箱に納められたままだ
飾るためではなくて……私が成実さんに相応しくないと言われた時、この人にお返しできるように
でももう、その必要はない
「成実さんのおっしゃることの意味は分かっています
でも私は、我儘の言い方を知らないから……
成実さんが私にくれたものを身につけて、成実さんと結婚式が出来ればいいなって
それくらいの夢は、見ていたんですよ、ずっと」
「じゃあ、あげてから一度も付けてないのは……」
「最初は成実さんにちゃんとお返しするためでした」
「……は!?」
成実さんの声が裏返る
無理もない、まさかプレゼントを返されるなんて、想像だってしなかっただろうから
「か、返すってお前」
「あの時はそう思っていたんです
でも今はもう違います、別の理由になりました
成実さんとの結婚式で初めて付けるんだって決めたからです」
「たりめーだ!
返されても困る、俺が!
はぁ良かった……死ぬほど悩んで贈ったもの突き返されたら、流石の成実さんでも泣いてたぞ……」
疲れたような声音でそう絞り出した成実さんが、ふと何かに気付いたように顔を上げた
こちらを見つめる瞳に小首を傾げると
「ってことはお前、結婚式はウェディングドレスが着たいのか」
思わず反応に遅れてしまって、謎の沈黙が落ちた
そ、そうか、ネックレスを付けるとなるとドレス姿になるから、必然的にウェディングドレスを着ることになるのか
そうなると西洋式の結婚式になるわけで、待ち受けるのは誓いのキスで……
……人前で、キスを?
無理じゃない!?
「や、やっぱり結婚式は和装で!!」
「ネックレスは?」
「……披露宴、で、付けます」
「はは……っ!
なんだ、お前もちゃーんと結婚式に夢見てくれてたんだな」
嬉しそうに笑って、成実さんがそうしようと頷いてくれた
何はともあれ、結婚も結婚式ももう少し先の話ではあるけれど
……でも、成実さんとの未来がまた少し見えたことが、すごく嬉しい
成実さんが私の隣の席に座り直して、私の左手にある指輪に触れる
そこに浮かべられた微笑みが本当に嬉しそうで、幸せそうで
優しく握られた左手が温かい
つかの間、私達は互いの瞳を見つめ合って――それからそっと唇を触れ合わせた
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