第六十二話 もう一人の兄
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かぽん、という鹿威の音を聞くのは、二度目だ
二年前のあの日、突然帰国した母に連れられて兄様と初めて本邸へ入った時と同じ部屋に通され、私はその人と向かい合っていた
一番小さな応接室、とでも言うのだろうか
木製のテーブルには綺麗な色の緑茶が湯気を立てていて、添えられた和菓子もとても……美味しそうで
美味しそうなのだけれど、とてもじゃないけど食べる気にはならないというか
「……」
「……」
俯かせた視線をチラリと上げると、その人と視線が絡んで、思わず目を閉じてまた顔を俯かせた
この上もなく緊張しているのが分かる
喉はカラカラだし、握り締めた手も痛い
お願いだから、何か喋ってほしい
「Hey,my siblings.
そろそろ自己紹介のひとつでも――」
終わったか?と言いかけた声は、言い切らないままに消えた
私達が自己紹介はおろか、一言すら言葉を交わしていないと察したのだろう
流石は兄様だ
「ったく、そんなこったろうと思って来てみたら案の定か……
相変わらず世話のやける弟妹だ」
「う……」
返す言葉もない……
でも兄様が来てくれて助かった、このまま二人きりはキツすぎる!
誕生日席に座った兄様が、その形のいい唇から盛大な溜息を漏らす
そうして声をかけたのは――
「オイ政道、お前から言い出したんだろうが」
私の目の前に座る、政道兄上様だった
兄様に窘められた兄上様が、「そうなんだけど」と呟く
うーん、どう育ったらここまで内向的な性格になるのやら
「ったく、仕方ねぇな……
間に入ってやるのは今回きりだぞ、政道」
「兄さん……」
「夕華も緊張するのは分かるが、俺と同じお前の兄貴だろ?
No problem.
お前らは二人とも俺の自慢の弟妹だ」
その言葉に、政道兄上様も瞳を輝かせた
兄様にそうやって褒められるのが嬉しいんだろう
私も同じだから、ちょっと嬉しい
「とはいえ初対面じゃあ気まずいってもんだしな
ま……ここは俺が一肌脱いでやるか」
ひとつ咳払いをした兄様が、私を見た
「夕華、こいつが俺の弟でお前の二番目の兄貴である伊達政道だ」
「あっ……あの、初めまして
伊達夕華です、兄様とご当主様にはいつもお世話に……」
「他人行儀な挨拶なんざやめておけ、兄妹同士でやるモンじゃねぇ
政道、こっちが俺達の妹の夕華だ
顔くらいは見たことあるだろ?」
「何度かね
……初めまして、伊達政道です
会うのはこの間の畑以来かな?」
畑、と言われて思い出した
小十郎さんと二人、別邸の畑で草むしりをしていたところに、兄上様が兄様を探して来られたんだった
あれ以来、本邸になんか近付かないから、顔を合わせなかったんだ
「そう、ですね……それ以来、だと思います」
どうにかこうにかそれだけを伝えることはできた
ああ、私ってこんなにも意気地のない女だっただろうか
曲がりなりにも伊達の女なんだから、度胸と勢いはあると思っていたのに……
「ごめんね、急に呼んだりして……
……でも、やっぱりどうしても話してみたかったんだ
兄さんと母さんの仲を取り持ってくれた子が、俺の妹だったって言うから」
「あ……」
「すごいね、夕華……は
俺は兄さんと母さんのことをどうにも出来なかったのに」
そんなこと、ない
私は何もしていない
むしろあの廃ビルに兄様と一緒に乗り込んできた兄上様の方が、すごい人だ
「私は……何もしていません
ただ捕らえられただけ……
兄様と一緒にあの場所に来て、お東様と真正面から対峙なさった兄上様の方が……!
……あっ、すみません、兄上様なんて、呼び方が時代劇みたいですよね……」
せめて兄上様のことだけでも、兄さんとか、お兄ちゃんと呼べるようにならないだろうか
兄様のことは前世からの付き合いだから兄様とお呼びするけれど、兄上様とは違う
この方とは、今からの付き合いになるのだから
「あはは、兄さんが兄様で、俺は兄上様……
うん、なんだかお揃いみたいでいいね」
「え……」
「俺のことを兄上様って呼ぶのは夕華だけだろうし、俺の事だってすぐに分かる」
「それよりもお前を兄貴って呼ぶのが夕華だけだろうしな
まあお前は俺の事を『兄さん』って呼んでやがるし、兄上様で丁度いいだろ」
「兄さんのこと、兄上って呼ぼうか?」
「『兄さん』でいい
お前に兄上なんて呼ばれると、色々と複雑なもんでな」
どこか寂しそうに微笑んだ兄様に胸が締め付けられる
好き好んで弟を殺したわけがない、と兄様は言っていた
前世で小次郎兄上様を手に掛けたことを……そうする以外に解決策がなかったことを、兄様はずっと悔いているのだろう
「それって前世絡み?」
「えっ」
「まあな、詳しいことは言いたかねえが、そういうこった」
「前世って……あの」
兄様の話だと、兄上様は前世の記憶を持っていないって
だったらどうして前世のことを引き合いに出されたのだろう
「前世の話だけはしてある、簡単にだがな」
「だから夕華が前世でも俺達の妹だったってことは知ってるよ
成実と結ばれたってこともね」
「あ、そうなんで……す?」
思わず兄様を凝視してしまうと、兄様は不思議そうに小首を傾げた
簡単にって言うから、てっきり私が妹ですってところしか言ってないんだと思ったら
「成実さんとの事までお話してたら、それは全部では?」
「喋ってねぇ話もあるから全部じゃねぇだろ」
「そういうのを屁理屈って言うんですよ!」
「チッ……だが本当に簡単にしか話しちゃいねぇよ
話せねぇこともあるからな」
それは……そうかもしれない
兄上様に、兄様とお東様のやり取りを聞かせるわけにはいかないだろう
家督を譲れと迫られていたことも
毒殺されかけたことも……
そして、兄様が兄上様を斬ったことも
「でもこうして見ると、夕華は兄さんに似てるね」
「お袋の遺伝子が濃いのは間違いねえな」
「俺は父さんに似たって言われる」
「あ、それは思いました
ご当主様にそっくりだなって」
「親父か……
Ah……まあ、確かに親父の面影の方が強いか?」
兄様が兄上様のお顔をまじまじと見つめた時
廊下を歩く足音が響いて、こちらへ向かっていた
二年前のあの日、突然帰国した母に連れられて兄様と初めて本邸へ入った時と同じ部屋に通され、私はその人と向かい合っていた
一番小さな応接室、とでも言うのだろうか
木製のテーブルには綺麗な色の緑茶が湯気を立てていて、添えられた和菓子もとても……美味しそうで
美味しそうなのだけれど、とてもじゃないけど食べる気にはならないというか
「……」
「……」
俯かせた視線をチラリと上げると、その人と視線が絡んで、思わず目を閉じてまた顔を俯かせた
この上もなく緊張しているのが分かる
喉はカラカラだし、握り締めた手も痛い
お願いだから、何か喋ってほしい
「Hey,my siblings.
そろそろ自己紹介のひとつでも――」
終わったか?と言いかけた声は、言い切らないままに消えた
私達が自己紹介はおろか、一言すら言葉を交わしていないと察したのだろう
流石は兄様だ
「ったく、そんなこったろうと思って来てみたら案の定か……
相変わらず世話のやける弟妹だ」
「う……」
返す言葉もない……
でも兄様が来てくれて助かった、このまま二人きりはキツすぎる!
誕生日席に座った兄様が、その形のいい唇から盛大な溜息を漏らす
そうして声をかけたのは――
「オイ政道、お前から言い出したんだろうが」
私の目の前に座る、政道兄上様だった
兄様に窘められた兄上様が、「そうなんだけど」と呟く
うーん、どう育ったらここまで内向的な性格になるのやら
「ったく、仕方ねぇな……
間に入ってやるのは今回きりだぞ、政道」
「兄さん……」
「夕華も緊張するのは分かるが、俺と同じお前の兄貴だろ?
No problem.
お前らは二人とも俺の自慢の弟妹だ」
その言葉に、政道兄上様も瞳を輝かせた
兄様にそうやって褒められるのが嬉しいんだろう
私も同じだから、ちょっと嬉しい
「とはいえ初対面じゃあ気まずいってもんだしな
ま……ここは俺が一肌脱いでやるか」
ひとつ咳払いをした兄様が、私を見た
「夕華、こいつが俺の弟でお前の二番目の兄貴である伊達政道だ」
「あっ……あの、初めまして
伊達夕華です、兄様とご当主様にはいつもお世話に……」
「他人行儀な挨拶なんざやめておけ、兄妹同士でやるモンじゃねぇ
政道、こっちが俺達の妹の夕華だ
顔くらいは見たことあるだろ?」
「何度かね
……初めまして、伊達政道です
会うのはこの間の畑以来かな?」
畑、と言われて思い出した
小十郎さんと二人、別邸の畑で草むしりをしていたところに、兄上様が兄様を探して来られたんだった
あれ以来、本邸になんか近付かないから、顔を合わせなかったんだ
「そう、ですね……それ以来、だと思います」
どうにかこうにかそれだけを伝えることはできた
ああ、私ってこんなにも意気地のない女だっただろうか
曲がりなりにも伊達の女なんだから、度胸と勢いはあると思っていたのに……
「ごめんね、急に呼んだりして……
……でも、やっぱりどうしても話してみたかったんだ
兄さんと母さんの仲を取り持ってくれた子が、俺の妹だったって言うから」
「あ……」
「すごいね、夕華……は
俺は兄さんと母さんのことをどうにも出来なかったのに」
そんなこと、ない
私は何もしていない
むしろあの廃ビルに兄様と一緒に乗り込んできた兄上様の方が、すごい人だ
「私は……何もしていません
ただ捕らえられただけ……
兄様と一緒にあの場所に来て、お東様と真正面から対峙なさった兄上様の方が……!
……あっ、すみません、兄上様なんて、呼び方が時代劇みたいですよね……」
せめて兄上様のことだけでも、兄さんとか、お兄ちゃんと呼べるようにならないだろうか
兄様のことは前世からの付き合いだから兄様とお呼びするけれど、兄上様とは違う
この方とは、今からの付き合いになるのだから
「あはは、兄さんが兄様で、俺は兄上様……
うん、なんだかお揃いみたいでいいね」
「え……」
「俺のことを兄上様って呼ぶのは夕華だけだろうし、俺の事だってすぐに分かる」
「それよりもお前を兄貴って呼ぶのが夕華だけだろうしな
まあお前は俺の事を『兄さん』って呼んでやがるし、兄上様で丁度いいだろ」
「兄さんのこと、兄上って呼ぼうか?」
「『兄さん』でいい
お前に兄上なんて呼ばれると、色々と複雑なもんでな」
どこか寂しそうに微笑んだ兄様に胸が締め付けられる
好き好んで弟を殺したわけがない、と兄様は言っていた
前世で小次郎兄上様を手に掛けたことを……そうする以外に解決策がなかったことを、兄様はずっと悔いているのだろう
「それって前世絡み?」
「えっ」
「まあな、詳しいことは言いたかねえが、そういうこった」
「前世って……あの」
兄様の話だと、兄上様は前世の記憶を持っていないって
だったらどうして前世のことを引き合いに出されたのだろう
「前世の話だけはしてある、簡単にだがな」
「だから夕華が前世でも俺達の妹だったってことは知ってるよ
成実と結ばれたってこともね」
「あ、そうなんで……す?」
思わず兄様を凝視してしまうと、兄様は不思議そうに小首を傾げた
簡単にって言うから、てっきり私が妹ですってところしか言ってないんだと思ったら
「成実さんとの事までお話してたら、それは全部では?」
「喋ってねぇ話もあるから全部じゃねぇだろ」
「そういうのを屁理屈って言うんですよ!」
「チッ……だが本当に簡単にしか話しちゃいねぇよ
話せねぇこともあるからな」
それは……そうかもしれない
兄上様に、兄様とお東様のやり取りを聞かせるわけにはいかないだろう
家督を譲れと迫られていたことも
毒殺されかけたことも……
そして、兄様が兄上様を斬ったことも
「でもこうして見ると、夕華は兄さんに似てるね」
「お袋の遺伝子が濃いのは間違いねえな」
「俺は父さんに似たって言われる」
「あ、それは思いました
ご当主様にそっくりだなって」
「親父か……
Ah……まあ、確かに親父の面影の方が強いか?」
兄様が兄上様のお顔をまじまじと見つめた時
廊下を歩く足音が響いて、こちらへ向かっていた
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