第六十四話 背中押す一言
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季節は夏を迎えた
初めての前期試験も、不安だったけど私と幸村君と親泰君の三人で力を合わせて無事に乗り切った
そうして酷暑が続く八月十五日
帰国した両親に連れられて、私は本家のお盆の集まりに顔を出している
本当にこの席はギスギスするから嫌なんだ
特に成実さんと一緒に住んでることが知られてる今は
今までなら両親が挨拶をして帰ったものだったけど、さすがに私も大人の仲間入りをしたから、そうはいかない
本家の大広間には机がずらりと並べられていて、既に席についている家も多かった
末席の私達の席は、玄関からの入口に一番近い場所だ
当たり前だけど、兄様や成実さんが座る席からは一番遠く離れた席になっていて、自分の家の立場を思い知らされる
「ご無沙汰しております、お姉さん」
同じテーブルに座っていた親戚の姉に挨拶をしたけれど、まるで無視
それどころか、別の席に座っている私よりも上の年の親戚の姉たちからの視線がザクザク刺さる
聞こえるような声で「末席のくせに」「図々しい」なんて言葉も聞こえてきた
で、普段なら助けてくれる兄様や成実さんは、大人たちに囲まれて身動きが取れない
こうなったら体調不良を装って帰ってしまおうか――なんてことも浮かんでしまう
隣に座る親戚の姉も目も合わないし口もきいてくれない
……まあ、面識もほとんどないしね
疎外感を感じてため息をつきかけた時、大部屋の襖が開いた
「悪い悪い、待たせたな!」
「遅ぇぞ親父」
「そう言うなって、ちょいと小便のキレが悪くてな」
「テメェ……」
兄様の睨みもどこ吹く風で、ご当主様はサッと部屋を見渡した
そして一番遠くに座る私を見つけて「おお!」と大股で歩いてきたのだ
えっ、とざわめきが広がる中、私はというと心臓がバクバク言っている
な、何かご当主様にしてしまったのだろうか、もう二度と来るなとか言われちゃう?
「久しぶりだな夕華ちゃん!」
「は、はい、ご無沙汰しております……
ご当主様に置かれましては、ご健勝で何よりと存じます」
「んな硬っ苦しい挨拶は無しだ、無し!
ところで、成実とは仲良くやってるか?」
「は……はい……」
今ここでそれ言う――!?
冷や汗がダラダラ出てきた、ああほらもう隣の席から人も殺せるような視線が飛んできてるよ
蚊の鳴くような声で返事をしてしまったのがご当主様の気に障ったようで、私の横でしゃがんでいたご当主様は急に立ち上がり
「おい成実ぇ!
お前まさか夕華ちゃんに家のこと何でもかんでも押し付けてんじゃねぇだろうな!?」
「は、はぁ!?
馬鹿言わないでくださいよ!
この俺がそんなことすると思います!?」
「いーやするね!
お前はする!」
「しませんよ!!
失礼な!!」
「あ、あの、成実さんにはいつも助けていただいてるので……!
ご当主様のご心配には及びませんので……!」
「いいか夕華ちゃん、成実の野郎なんざさっさと尻に敷いちまえよ」
「大殿!!
余計なことを吹き込まんでください!!」
「親父、こいつもう敷かれてる」
「お前もさらっと何言ってんだ梵コラァ!!」
ケラケラと笑う親子
成実さんってどうしても遊ばれるよね……分かる……
対する成実さんはげっそりしていた
この似た者親子に、ずっと弄られて生きてきたんだろう――前世も、今も
「大方のことは政宗の奴から聞かせてもらったぜ
何だかもう悪かったなぁ、色々と迷惑かけちまってよ……」
「いっ、いえ!
もう終わったことですし、私は大したことはしてないので……」
「けど政宗とうちのお義がまた親子の縁を取り戻せたのは夕華ちゃんのお陰なんだ
ありがとな」
ポンポンと頭を撫でられて、面映ゆい気持ちになる
相変わらず全方向から人を殺せそうな視線と気が飛んできているけど
何はともあれ、本家の……兄様のお役に立てたなら本望だ
「元通りになって、良かったです」
「おうよ、だかもう危ないことはしてくれんなよ?
振り回すのは成実への我儘くらいにしてやってくれ」
またも成実さんの名前を出して笑ったご当主様が立ち上がって、「立て」とジェスチャーされる
小首を傾げながらも言われた通りに立つと、ご当主様はニコニコとしていて
そしてぐっと肩を抱き寄せられて、ご当主様の隣に立たされた
「……え?」
親戚の視線が一斉にこっちに飛んできたね?
恨みがましい視線がたくさんだね?
正直ここから生きて帰れる気がしないや
「そういうわけだ、本家はこの子とこの家に只ならぬ恩がある
っつーことで、俺はこの子が望むことは何でもしてやるって決めた!」
「ええ!?」
「悪ぃ!
もう決めたから撤回は無しだ!」
こ、この似た者親子め……!
兄様に視線を寄越すと、諦めろと目が訴えていた
ちくしょう……
「夕華ちゃん、何でもいいぞ
何かないか?」
「え、ええ……急に言われても……
……あの、申し出は大変嬉しいんですが、私は今の生活ができればそれで――」
そう答えた瞬間、兄様の口元が弧を描いたのを私は見逃さなかった
何だかとても嫌な予感がする
そして往々にして、そういう時の勘ほどよく当たるのだ
「こりゃ最高のお願い事が来たなぁ!
よし分かった!
おい政宗!」
立ち上がった兄様が、成実さんの服の襟を掴んで、強制的に成実さんを立たせた
成実さんも流れが全く分からないらしくて、目を白黒させている
「え、なに、え?
こんなの今日の流れにあったっけ!?」
「あったんだよ、お前が知らなかっただけでな
夕華の願いは今の生活を続けること――つまり、その生活はお前がいないと成り立たない」
「はっ?」
「へ?」
素っ頓狂な声が遠くの成実さんと重なってしまった
あ、あれ……私そういうつもりで言ったんじゃないんだけど……
……もしかして、兄様は見つけてくれたのだろうか
私が本家に戻らずとも、成実さんと共にいられる方法を
「それが望みだってんなら――本家は全力でその望みを叶えてやる
成実と夕華の邪魔をすることは俺と親父が許さねぇ
くだらねぇことを考えてる奴は今すぐその考えを捨てるこったな
両人の婚約に関しては本家が仲人を務めることにする
……夕華に手ぇ出したら、本家とそれに名を連ねる奴らが黙ってねぇことくらい、分かるよな」
凄みを利かせた兄様の言葉に、大部屋のほとんどが愕然とした表情でうなだれていた
兄様と目が合って、ふわりと微笑んだ兄様が私に頷いてくれた
瞬間、私は何もかもを理解して、一気に視界が滲んでしまった
成実さんは茫然と兄様とご当主様を見つめていて
私はどうしても涙を止める方法が見つからなかった
初めての前期試験も、不安だったけど私と幸村君と親泰君の三人で力を合わせて無事に乗り切った
そうして酷暑が続く八月十五日
帰国した両親に連れられて、私は本家のお盆の集まりに顔を出している
本当にこの席はギスギスするから嫌なんだ
特に成実さんと一緒に住んでることが知られてる今は
今までなら両親が挨拶をして帰ったものだったけど、さすがに私も大人の仲間入りをしたから、そうはいかない
本家の大広間には机がずらりと並べられていて、既に席についている家も多かった
末席の私達の席は、玄関からの入口に一番近い場所だ
当たり前だけど、兄様や成実さんが座る席からは一番遠く離れた席になっていて、自分の家の立場を思い知らされる
「ご無沙汰しております、お姉さん」
同じテーブルに座っていた親戚の姉に挨拶をしたけれど、まるで無視
それどころか、別の席に座っている私よりも上の年の親戚の姉たちからの視線がザクザク刺さる
聞こえるような声で「末席のくせに」「図々しい」なんて言葉も聞こえてきた
で、普段なら助けてくれる兄様や成実さんは、大人たちに囲まれて身動きが取れない
こうなったら体調不良を装って帰ってしまおうか――なんてことも浮かんでしまう
隣に座る親戚の姉も目も合わないし口もきいてくれない
……まあ、面識もほとんどないしね
疎外感を感じてため息をつきかけた時、大部屋の襖が開いた
「悪い悪い、待たせたな!」
「遅ぇぞ親父」
「そう言うなって、ちょいと小便のキレが悪くてな」
「テメェ……」
兄様の睨みもどこ吹く風で、ご当主様はサッと部屋を見渡した
そして一番遠くに座る私を見つけて「おお!」と大股で歩いてきたのだ
えっ、とざわめきが広がる中、私はというと心臓がバクバク言っている
な、何かご当主様にしてしまったのだろうか、もう二度と来るなとか言われちゃう?
「久しぶりだな夕華ちゃん!」
「は、はい、ご無沙汰しております……
ご当主様に置かれましては、ご健勝で何よりと存じます」
「んな硬っ苦しい挨拶は無しだ、無し!
ところで、成実とは仲良くやってるか?」
「は……はい……」
今ここでそれ言う――!?
冷や汗がダラダラ出てきた、ああほらもう隣の席から人も殺せるような視線が飛んできてるよ
蚊の鳴くような声で返事をしてしまったのがご当主様の気に障ったようで、私の横でしゃがんでいたご当主様は急に立ち上がり
「おい成実ぇ!
お前まさか夕華ちゃんに家のこと何でもかんでも押し付けてんじゃねぇだろうな!?」
「は、はぁ!?
馬鹿言わないでくださいよ!
この俺がそんなことすると思います!?」
「いーやするね!
お前はする!」
「しませんよ!!
失礼な!!」
「あ、あの、成実さんにはいつも助けていただいてるので……!
ご当主様のご心配には及びませんので……!」
「いいか夕華ちゃん、成実の野郎なんざさっさと尻に敷いちまえよ」
「大殿!!
余計なことを吹き込まんでください!!」
「親父、こいつもう敷かれてる」
「お前もさらっと何言ってんだ梵コラァ!!」
ケラケラと笑う親子
成実さんってどうしても遊ばれるよね……分かる……
対する成実さんはげっそりしていた
この似た者親子に、ずっと弄られて生きてきたんだろう――前世も、今も
「大方のことは政宗の奴から聞かせてもらったぜ
何だかもう悪かったなぁ、色々と迷惑かけちまってよ……」
「いっ、いえ!
もう終わったことですし、私は大したことはしてないので……」
「けど政宗とうちのお義がまた親子の縁を取り戻せたのは夕華ちゃんのお陰なんだ
ありがとな」
ポンポンと頭を撫でられて、面映ゆい気持ちになる
相変わらず全方向から人を殺せそうな視線と気が飛んできているけど
何はともあれ、本家の……兄様のお役に立てたなら本望だ
「元通りになって、良かったです」
「おうよ、だかもう危ないことはしてくれんなよ?
振り回すのは成実への我儘くらいにしてやってくれ」
またも成実さんの名前を出して笑ったご当主様が立ち上がって、「立て」とジェスチャーされる
小首を傾げながらも言われた通りに立つと、ご当主様はニコニコとしていて
そしてぐっと肩を抱き寄せられて、ご当主様の隣に立たされた
「……え?」
親戚の視線が一斉にこっちに飛んできたね?
恨みがましい視線がたくさんだね?
正直ここから生きて帰れる気がしないや
「そういうわけだ、本家はこの子とこの家に只ならぬ恩がある
っつーことで、俺はこの子が望むことは何でもしてやるって決めた!」
「ええ!?」
「悪ぃ!
もう決めたから撤回は無しだ!」
こ、この似た者親子め……!
兄様に視線を寄越すと、諦めろと目が訴えていた
ちくしょう……
「夕華ちゃん、何でもいいぞ
何かないか?」
「え、ええ……急に言われても……
……あの、申し出は大変嬉しいんですが、私は今の生活ができればそれで――」
そう答えた瞬間、兄様の口元が弧を描いたのを私は見逃さなかった
何だかとても嫌な予感がする
そして往々にして、そういう時の勘ほどよく当たるのだ
「こりゃ最高のお願い事が来たなぁ!
よし分かった!
おい政宗!」
立ち上がった兄様が、成実さんの服の襟を掴んで、強制的に成実さんを立たせた
成実さんも流れが全く分からないらしくて、目を白黒させている
「え、なに、え?
こんなの今日の流れにあったっけ!?」
「あったんだよ、お前が知らなかっただけでな
夕華の願いは今の生活を続けること――つまり、その生活はお前がいないと成り立たない」
「はっ?」
「へ?」
素っ頓狂な声が遠くの成実さんと重なってしまった
あ、あれ……私そういうつもりで言ったんじゃないんだけど……
……もしかして、兄様は見つけてくれたのだろうか
私が本家に戻らずとも、成実さんと共にいられる方法を
「それが望みだってんなら――本家は全力でその望みを叶えてやる
成実と夕華の邪魔をすることは俺と親父が許さねぇ
くだらねぇことを考えてる奴は今すぐその考えを捨てるこったな
両人の婚約に関しては本家が仲人を務めることにする
……夕華に手ぇ出したら、本家とそれに名を連ねる奴らが黙ってねぇことくらい、分かるよな」
凄みを利かせた兄様の言葉に、大部屋のほとんどが愕然とした表情でうなだれていた
兄様と目が合って、ふわりと微笑んだ兄様が私に頷いてくれた
瞬間、私は何もかもを理解して、一気に視界が滲んでしまった
成実さんは茫然と兄様とご当主様を見つめていて
私はどうしても涙を止める方法が見つからなかった
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