第五十五話 伊達家一の姫
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無事にスーツの採寸を終えて別邸へ帰宅
……の前に、ちょっと寄り道することにした
「よもやあの食堂を気に入って頂けたとは」
「ああいう何の変哲もない普通の定食が美味しいんですよ」
今日は平日だから人も多いだろうけど、私も小十郎さんもお休みだから気にしない
食堂のドアを開けると、中はサラリーマンで大盛況だった
カウンターもテーブルも埋まっているので、壁の丸椅子に座って順番を待つ
その間に、壁に貼られたお品書きを見て、注文を決めておいた
「何になさいますか」
「日替わり定食で!」
「承知」
そうこうする間にテーブルが空いたので通されて、日替わり定食を二つ、小十郎さんが注文した
なるほど、小十郎さんも日替わり定食か
通い慣れた常連は、日替わりのメニューさえ覚えると言うけれど、もしかして小十郎さんもそうなんだろうか
「そういえば……
小十郎さん、昔はいつでもきっちりした格好をしてましたけど、さすがにスーツで別邸勤めにはならなかったんですね」
「ああ、それは……」
苦笑のような笑みを浮かべて、小十郎さんがお冷を飲む
小首を傾げてみせると、何かを懐かしむようにその双眸が細められた
「初めはスーツでお仕えしておりましたが、政宗様が……」
「兄様が?」
「……仕事だから仕方なく従っているのか、とおっしゃいましてな
もしそうでないのならスーツを脱げ、俺が許可する――と」
「何を馬鹿なことを……
小十郎さんが兄様にそんな薄っぺらい気持ちで付き従うわけないじゃないですか」
「無論です
この小十郎、生涯の忠誠を政宗様に捧げておりますれば
しかしながら、あの頃の政宗様はお心が不安定ではありましたし、何より互いにあの乱世の記憶を持たぬ初対面であると思い込んでおりましたゆえ」
そうか、今でこそみんなは記憶を持っていたと分かっているけれど、それは最近知ったことだ
兄様と小十郎さん達がまた巡り会った時、彼らは互いに初対面だと踏んで、距離感を探りながらここまで来たんだ
それでも兄様は、小十郎さんに上辺だけの付き合いをされるのが嫌だった
かつて背中も信頼も預けた腹心を、自身の心の拠り所にしたかったのかもしれない
兄様が別邸に移り住んだのは中学生の頃だって聞いているから、誰かに頼りたい気持ちはよく分かる
「それでスーツじゃなくなったんですね」
「それでも完全にラフな格好をするのは気が引けましたので、スマートカジュアルの範囲内で妥協して頂いております」
「あはは、それでいいんだと思います
……兄様に小十郎さん達がいてくれて本当に良かった
きっと随分と救われた心地だったと思いますから」
「同じことを、この小十郎、水城に申したい気持ちです」
小十郎さんがテーブルの上で組んだ手を握り締めた
海夜に感謝の気持ちを、小十郎さんが?
思わず瞬きをしてしまって、理由を聞こうとした時
「お待たせしました、日替わり定食がお二つです」
目の前に日替わり定食がやってきた
定食と言いつつカレーだ、美味しそう
「いただきます!」
カレーとご飯をスプーンで掬って一口
うん、家庭のカレーの味だ
「安定して美味しい……!」
「政宗様がカレーを作ると、本格的なものにしかなりませんからな」
「あれはあれで美味しいんですけどね
ところでさっきの話の続きは?」
カレーに遮られたけど、小十郎さんがあんなことを言うのは珍しいから気になって仕方ない
とはいえ、小十郎さんが海夜のことを恨んだり憎んだり、嫌っているような素振りは前世の時もなかったように思う
ただ敵将の一人として見ていただけのようだった
「ああ……単純なことです
夕華様もずっとお一人でおられたのでしょうから、水城が友人としてそばに居てくれて良かった、と思ったのです
勿論、そこに至るまでに多々あったのやもしれませぬが、結果として生涯の友人を得たことに変わりはありますまい
夕華様にも頼ることのできる誰かがいたという事実が嬉しくもあり、しかし頼れる大人はいなかったという事実が恐ろしくもあります」
冷静に考えれば恐ろしいことだよね
三者面談の時期に私だけ二者面談だし、両親は海外を飛び回って日本にはあまりいないし
お母さんの両親は早くに亡くなってしまった上に、お父さんの方はおばあちゃんなら生きているけど、足を悪くしていて車椅子生活だから、とてもじゃないけど私の面倒なんて頼めない
……いや本当に、よくここまで何事もなく生きてこられたな、私
「運が良かったんでしょうね……」
「政宗様が一番気にしておられたのもそこでございましたな
別邸へ身を寄せるようお伝えはされたようですが、怪訝な顔をされてしまったとため息をついておられました」
……そういえばそうだった
両親が海外転勤になった時、兄様から「うちに来ないか」って言われたんだった
記憶が無いのになんでそんなことを言うんだろうって不思議だったけど、記憶があったからこそ私を誘ったんだ
「なぜ政宗様のご提案をお断りになられたのですか?」
「それは……みんな記憶が無いと思っていたからです
きっと前世の頃の皆さんと重ねてしまうから、それは今の皆さんに対して失礼じゃないかって思ってしまって」
「ならばそれは我々も同罪となりましょう
我々は今も尚、貴女様に標としての役割を見出している
もはやその必要はないのにです
貴女様は貴女様らしくあれば良い――優しい言い方のようにも聞こえて、その実それが貴女様に求めているのは、かつて奥州の民の為にその身を捧げた竜の姫のお姿です」
「……」
「そして貴女様は、そう求められたのならば応えてくださるお方
応えずとも良いのです、夕華様
貴女様は貴女様のなさりたいようになされば良い
その先に我々がおらずとも、我々は貴女様を見捨てたりなど致しませぬ」
「……小十郎さん」
穏やかに微笑むその人に手を伸ばす
そうして私は
「……ていっ」
小十郎さんの額に容赦なくデコピンを打った
……の前に、ちょっと寄り道することにした
「よもやあの食堂を気に入って頂けたとは」
「ああいう何の変哲もない普通の定食が美味しいんですよ」
今日は平日だから人も多いだろうけど、私も小十郎さんもお休みだから気にしない
食堂のドアを開けると、中はサラリーマンで大盛況だった
カウンターもテーブルも埋まっているので、壁の丸椅子に座って順番を待つ
その間に、壁に貼られたお品書きを見て、注文を決めておいた
「何になさいますか」
「日替わり定食で!」
「承知」
そうこうする間にテーブルが空いたので通されて、日替わり定食を二つ、小十郎さんが注文した
なるほど、小十郎さんも日替わり定食か
通い慣れた常連は、日替わりのメニューさえ覚えると言うけれど、もしかして小十郎さんもそうなんだろうか
「そういえば……
小十郎さん、昔はいつでもきっちりした格好をしてましたけど、さすがにスーツで別邸勤めにはならなかったんですね」
「ああ、それは……」
苦笑のような笑みを浮かべて、小十郎さんがお冷を飲む
小首を傾げてみせると、何かを懐かしむようにその双眸が細められた
「初めはスーツでお仕えしておりましたが、政宗様が……」
「兄様が?」
「……仕事だから仕方なく従っているのか、とおっしゃいましてな
もしそうでないのならスーツを脱げ、俺が許可する――と」
「何を馬鹿なことを……
小十郎さんが兄様にそんな薄っぺらい気持ちで付き従うわけないじゃないですか」
「無論です
この小十郎、生涯の忠誠を政宗様に捧げておりますれば
しかしながら、あの頃の政宗様はお心が不安定ではありましたし、何より互いにあの乱世の記憶を持たぬ初対面であると思い込んでおりましたゆえ」
そうか、今でこそみんなは記憶を持っていたと分かっているけれど、それは最近知ったことだ
兄様と小十郎さん達がまた巡り会った時、彼らは互いに初対面だと踏んで、距離感を探りながらここまで来たんだ
それでも兄様は、小十郎さんに上辺だけの付き合いをされるのが嫌だった
かつて背中も信頼も預けた腹心を、自身の心の拠り所にしたかったのかもしれない
兄様が別邸に移り住んだのは中学生の頃だって聞いているから、誰かに頼りたい気持ちはよく分かる
「それでスーツじゃなくなったんですね」
「それでも完全にラフな格好をするのは気が引けましたので、スマートカジュアルの範囲内で妥協して頂いております」
「あはは、それでいいんだと思います
……兄様に小十郎さん達がいてくれて本当に良かった
きっと随分と救われた心地だったと思いますから」
「同じことを、この小十郎、水城に申したい気持ちです」
小十郎さんがテーブルの上で組んだ手を握り締めた
海夜に感謝の気持ちを、小十郎さんが?
思わず瞬きをしてしまって、理由を聞こうとした時
「お待たせしました、日替わり定食がお二つです」
目の前に日替わり定食がやってきた
定食と言いつつカレーだ、美味しそう
「いただきます!」
カレーとご飯をスプーンで掬って一口
うん、家庭のカレーの味だ
「安定して美味しい……!」
「政宗様がカレーを作ると、本格的なものにしかなりませんからな」
「あれはあれで美味しいんですけどね
ところでさっきの話の続きは?」
カレーに遮られたけど、小十郎さんがあんなことを言うのは珍しいから気になって仕方ない
とはいえ、小十郎さんが海夜のことを恨んだり憎んだり、嫌っているような素振りは前世の時もなかったように思う
ただ敵将の一人として見ていただけのようだった
「ああ……単純なことです
夕華様もずっとお一人でおられたのでしょうから、水城が友人としてそばに居てくれて良かった、と思ったのです
勿論、そこに至るまでに多々あったのやもしれませぬが、結果として生涯の友人を得たことに変わりはありますまい
夕華様にも頼ることのできる誰かがいたという事実が嬉しくもあり、しかし頼れる大人はいなかったという事実が恐ろしくもあります」
冷静に考えれば恐ろしいことだよね
三者面談の時期に私だけ二者面談だし、両親は海外を飛び回って日本にはあまりいないし
お母さんの両親は早くに亡くなってしまった上に、お父さんの方はおばあちゃんなら生きているけど、足を悪くしていて車椅子生活だから、とてもじゃないけど私の面倒なんて頼めない
……いや本当に、よくここまで何事もなく生きてこられたな、私
「運が良かったんでしょうね……」
「政宗様が一番気にしておられたのもそこでございましたな
別邸へ身を寄せるようお伝えはされたようですが、怪訝な顔をされてしまったとため息をついておられました」
……そういえばそうだった
両親が海外転勤になった時、兄様から「うちに来ないか」って言われたんだった
記憶が無いのになんでそんなことを言うんだろうって不思議だったけど、記憶があったからこそ私を誘ったんだ
「なぜ政宗様のご提案をお断りになられたのですか?」
「それは……みんな記憶が無いと思っていたからです
きっと前世の頃の皆さんと重ねてしまうから、それは今の皆さんに対して失礼じゃないかって思ってしまって」
「ならばそれは我々も同罪となりましょう
我々は今も尚、貴女様に標としての役割を見出している
もはやその必要はないのにです
貴女様は貴女様らしくあれば良い――優しい言い方のようにも聞こえて、その実それが貴女様に求めているのは、かつて奥州の民の為にその身を捧げた竜の姫のお姿です」
「……」
「そして貴女様は、そう求められたのならば応えてくださるお方
応えずとも良いのです、夕華様
貴女様は貴女様のなさりたいようになされば良い
その先に我々がおらずとも、我々は貴女様を見捨てたりなど致しませぬ」
「……小十郎さん」
穏やかに微笑むその人に手を伸ばす
そうして私は
「……ていっ」
小十郎さんの額に容赦なくデコピンを打った
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