第三十六話 親子喧嘩閉幕
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梵が近づく
一歩、また一歩
確実に、お東様へと
「夕華、怖い目に遭わせたな……悪い
お前一人ろくに守れない奴が、馬鹿みてぇなことを言うが……
まぁ、気にすんな」
ふっと小さく笑みをこぼし、梵は視線をお東様に向けた
お東様に向き直る時には──梵からは表情が消えていた
「後継ぎの座は、譲らねぇ」
「ならばこの子がどうなってもいいのね」
「そいつも守る
それができなきゃ親父の後なんざ継いでられねぇ」
梵の足は止まることなく、お東様へと近づく
苛立ちを見せるのはお東様で
「なぜお前なの……
私の政道の方が、必ず伊達をさらに大きくできるはずなのに!
お前のような、傲慢で、出来損ないが、どうして……!」
「出来損ない……か
確かに五体満足じゃねぇ
この右目は、もう光を映すことは出来やしねぇからな
だがな……傲慢なのは、そっちも同じだろ」
「……何ですって?」
ピクリとお東様の肩が揺れて、その釣り気味の瞳が、更につり上がった
怒りのままに、手に持っていたワインを床にぶちまける
ご丁寧にグラスごと
「私のどこが、傲慢だというの!
私は伊達の将来を思って、あなたは伊達にふさわしくないと判断したのよ!
私の判断は正しいの!
間違いなんてあるはずがない!」
「どうだかな
俺には、政道を利用してアンタが権力を握りたいだけに聞こえるぜ
少なくとも、今の言葉を聞いた限りじゃな」
……すげぇな、梵のやつ
昔はあんなふうに、強気な態度で向かったことなんてなかったのに
そこには少なからず、母親として見ていたがゆえの情があったからかもしれないけど
……今の梵からは、母親に対する情は見受けられない
あの物言いは、梵の言い方を借りるなら「気に食わないヤツ」に対する言い方だ
「そんなこと、あるはずがないわ!
伊達の当主としての立場は、政道自身も望んだもの!」
「……アンタ、それを政道本人の口からちゃんと聞いたのか」
「聞かなくとも分かるわ
親子ですもの」
「そうかい
だったらその親子とやらは、まがい物の関係らしいな」
梵が背後──俺たちよりもさらに後ろ──を振り向いた
それにつられて、俺たちも振り返る
そこに……立っていたのは
「……ここにいたんだ、母さん」
輝宗様にそっくりな顔
そこから発される、穏やかな声音
「政、道……様」
白石が虚を突かれたように、その名を口にする
それから、慌てて俺達は頭を下げた
「政道、ここには来ないように言っておいたでしょう」
「兄さんに無理やり乗せてもらったんだ
最近の母さんは、何か企んでるようだったから
無理矢理乗り込んで正解だったよ」
兄の陰に隠れていた、あの頃の政道様は、完全にその面影を消していた
なんとまぁ立派になっちまって……なんて、他人事みたいに感慨深く思ってみる
「帰ろう、母さん
こんなことをしたって、余計に兄さんと母さんの亀裂が深くなるだけだ
俺たちはもっと、ちゃんと話し合うべきだよ
誰が何を望んでいるのか……
兄さんが、長い間、何を望んできたのか
父さんの跡継ぎなんて、兄さんにとっては二の次なんだ
本当に欲しいものは……目の前にあるのに」
政道様が梵の隣に並ぶ
背丈もほとんど変わらなかった
若干、梵の方が体格は上だけど
「お前、デカくなったな」
「そうだね
長い間会わなかったうちに、兄さんにけっこう追いついてきたよ」
兄弟は、母親の前で
十年以上も前と変わらない絆を見せた
もう、大丈夫だろう
梵も……お東様も
「成実、その子を」
「あ、はい!」
政道様に指示されて、はっと我に返る
二人の横をすり抜けて、夕華の元へ走った
「夕華……!」
身体を抱き上げて顔を覗き込む
身体が熱いし、僅かに震えている
「大丈夫か?」
「は、い……」
「大丈夫じゃねぇな、つまんねぇ見栄は張るな」
ふぅ、と夕華が大きく呼吸をする
浅い呼吸と、赤い顔
……こいつは、薬なんかじゃなかったか
その証拠に、制服がずぶぬれだ
雨なんか降っているはずがない
今日は雲一つない、良い天気だったから
ぐったりと横たわる身体をしっかりと抱えて立ち上がる
どうしようも無い怒りが込み上げた
夕華を襲った奴らと、こんな事態を引き起こした奴らへの怒り
何より──夕華を守れなかった俺自身への、怒りと憤りが沸々と湧き上がっていた
一歩、また一歩
確実に、お東様へと
「夕華、怖い目に遭わせたな……悪い
お前一人ろくに守れない奴が、馬鹿みてぇなことを言うが……
まぁ、気にすんな」
ふっと小さく笑みをこぼし、梵は視線をお東様に向けた
お東様に向き直る時には──梵からは表情が消えていた
「後継ぎの座は、譲らねぇ」
「ならばこの子がどうなってもいいのね」
「そいつも守る
それができなきゃ親父の後なんざ継いでられねぇ」
梵の足は止まることなく、お東様へと近づく
苛立ちを見せるのはお東様で
「なぜお前なの……
私の政道の方が、必ず伊達をさらに大きくできるはずなのに!
お前のような、傲慢で、出来損ないが、どうして……!」
「出来損ない……か
確かに五体満足じゃねぇ
この右目は、もう光を映すことは出来やしねぇからな
だがな……傲慢なのは、そっちも同じだろ」
「……何ですって?」
ピクリとお東様の肩が揺れて、その釣り気味の瞳が、更につり上がった
怒りのままに、手に持っていたワインを床にぶちまける
ご丁寧にグラスごと
「私のどこが、傲慢だというの!
私は伊達の将来を思って、あなたは伊達にふさわしくないと判断したのよ!
私の判断は正しいの!
間違いなんてあるはずがない!」
「どうだかな
俺には、政道を利用してアンタが権力を握りたいだけに聞こえるぜ
少なくとも、今の言葉を聞いた限りじゃな」
……すげぇな、梵のやつ
昔はあんなふうに、強気な態度で向かったことなんてなかったのに
そこには少なからず、母親として見ていたがゆえの情があったからかもしれないけど
……今の梵からは、母親に対する情は見受けられない
あの物言いは、梵の言い方を借りるなら「気に食わないヤツ」に対する言い方だ
「そんなこと、あるはずがないわ!
伊達の当主としての立場は、政道自身も望んだもの!」
「……アンタ、それを政道本人の口からちゃんと聞いたのか」
「聞かなくとも分かるわ
親子ですもの」
「そうかい
だったらその親子とやらは、まがい物の関係らしいな」
梵が背後──俺たちよりもさらに後ろ──を振り向いた
それにつられて、俺たちも振り返る
そこに……立っていたのは
「……ここにいたんだ、母さん」
輝宗様にそっくりな顔
そこから発される、穏やかな声音
「政、道……様」
白石が虚を突かれたように、その名を口にする
それから、慌てて俺達は頭を下げた
「政道、ここには来ないように言っておいたでしょう」
「兄さんに無理やり乗せてもらったんだ
最近の母さんは、何か企んでるようだったから
無理矢理乗り込んで正解だったよ」
兄の陰に隠れていた、あの頃の政道様は、完全にその面影を消していた
なんとまぁ立派になっちまって……なんて、他人事みたいに感慨深く思ってみる
「帰ろう、母さん
こんなことをしたって、余計に兄さんと母さんの亀裂が深くなるだけだ
俺たちはもっと、ちゃんと話し合うべきだよ
誰が何を望んでいるのか……
兄さんが、長い間、何を望んできたのか
父さんの跡継ぎなんて、兄さんにとっては二の次なんだ
本当に欲しいものは……目の前にあるのに」
政道様が梵の隣に並ぶ
背丈もほとんど変わらなかった
若干、梵の方が体格は上だけど
「お前、デカくなったな」
「そうだね
長い間会わなかったうちに、兄さんにけっこう追いついてきたよ」
兄弟は、母親の前で
十年以上も前と変わらない絆を見せた
もう、大丈夫だろう
梵も……お東様も
「成実、その子を」
「あ、はい!」
政道様に指示されて、はっと我に返る
二人の横をすり抜けて、夕華の元へ走った
「夕華……!」
身体を抱き上げて顔を覗き込む
身体が熱いし、僅かに震えている
「大丈夫か?」
「は、い……」
「大丈夫じゃねぇな、つまんねぇ見栄は張るな」
ふぅ、と夕華が大きく呼吸をする
浅い呼吸と、赤い顔
……こいつは、薬なんかじゃなかったか
その証拠に、制服がずぶぬれだ
雨なんか降っているはずがない
今日は雲一つない、良い天気だったから
ぐったりと横たわる身体をしっかりと抱えて立ち上がる
どうしようも無い怒りが込み上げた
夕華を襲った奴らと、こんな事態を引き起こした奴らへの怒り
何より──夕華を守れなかった俺自身への、怒りと憤りが沸々と湧き上がっていた
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