第三十五話 触れるは逆鱗
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隣の市の廃ビルへ向けて、小十郎の運転する車は夜の街を走り抜けた
車の中は、終始無言だった
あの綱元でさえ、表情は強ばっていて、留守と白石も一言も発さない
俺はただ、手の震えを押さえ付けるので精一杯だった
──車が止まって、ハッとして顔を上げる
急いで降りて、現場へ向かおうとすると
「成実」
声がして、小十郎から何かが投げられた
「これ……」
「お前の場合は、長物の方が扱いやすいだろう」
そう言われて、受け取ったものを見つめる
いや……これ、長物っつーか……
俺の見間違いでなければ、物干し竿のように見えるんだが……!?
「いやなんで!?
これ、ちょっ……これ何!?」
「見りゃ分かんだろ、物干し竿だ」
「ですよねぇぇぇ!!!
見りゃ分かるわ、物干し竿だわ!!!
物干し竿という名の物干し竿だわ!!!
どこぞの剣豪みたいな名ばかりの物干し竿じゃないよねこれ!
マジモンの物干し竿だよねこれ!!」
「面倒くせぇな、文句があるのか」
「文句しかねぇよ
なんでこれチョイスしたんだよオイ」
「頑丈な長物っつったらこれしか浮かばなくてな」
「そこは普通に木刀とかで良くないかなぁ!?」
「え、成実様、木刀で大丈夫なんスか……?」
「なぁそれ剣道有段者に言う台詞?」
「剣道と実戦は違います
慣れた得物がよろしいかと」
うわ、白石からマジレス
まぁ実際その通りで……うん
「物干し竿ってのがいただけねぇけどなぁ……」
いや、確かに見ただけで頑丈な物干し竿ではあるんだけど……
格好悪すぎる
いや物干し竿はねぇだろ
仮にもこれから、大切な恋人を取り戻しに行くって時に
「素手で行くか?」
「使わせていただきます」
素手とか、俺を殺す気か
小十郎と原田、留守はどこからか木刀を取り出していた
「小十郎、お前が木刀持つと洒落にならねぇな
マジモンのヤクザに見えるぜ」
「かっけーっす小十郎様!」
「白石に至っては法律から学び直して来いってレベルだし」
「大丈夫です
中身はBB弾ですので」
「そういうこっちゃねぇよ」
なんだかんだで一番格好悪いのは俺だと悟った
物干し竿ってなんなんだ
本当……物干し竿ってなんなんだ……
「ったく……行くぞ」
小十郎に続いて、廃ビルの中に入っていく
ビルの廊下は照明などなく、互いの間隔は呼吸などの気配で測るしかない
コンクリートの建物に足音が反響する
「綱元、聞こえるか」
小十郎の合図で、同時に無線のスイッチを入れる
ノイズなし、感度良好だ
「俺達はどのあたりにいる?」
[GPSが成実からしか感知できないのですが、建物の一階、フロントを過ぎたあたりです
まもなく右突き当たり、エレベーターがあります]
「動くんスかね?」
[動くはずないだろう]
「……スよね」
留守が残念そうに口を尖らせた
動かしてどうする気だお前
「お東様の場所は?」
[位置としては……七階、でしょうか
七階が全面ホールとなっているようです]
「分かった」
「上るには階段しかねぇってことだよな?
階段はどの辺なんだ?」
[エレベーターの反対側、左の突き当たりだ]
「了解っと」
通信を切る
目で合図しあい、それから突き当たりまで一気に駆け抜けた
左突き当りの階段を駆け上り、二階へと上がる
人の気配は何もなくて、四人で顔を見合わせた
「本当にここにいるんだよな?」
「人間は七階部分に集めているのかもしれません」
「俺達に危害を加えようっていうわけじゃなさそうっスね」
「このまま三階に上がるぞ」
「「了解」」
物干し竿……を握りしめ、小十郎に続く
本当、なんで俺って物干し竿で戦わなきゃいけないんだろうか
四階まで駆け上った瞬間、小十郎が静止の合図を出した
「誰かいる」
「そんじゃ俺が行くっす
ソッコーで終わらすんで、先に行っててください」
そう言うが早いか、留守が建物の影から飛び出した
その隙に俺達は五階へ──と階段を上った瞬間
「ぐぁぁ!!」
「ぐぇっ」
背後から、そんな声が聞こえて
「あーあ……あっけねーの」
退屈そうに木刀で肩を叩く留守が、俺達を見てVサインをした
あの野郎、加減なしでやりやがったな……
「お前、手加減したよな……?」
「死んでは無いと思うんすけどね」
「不安すぎる……」
……とはいったものの、やり合ったのはその一回きりで
そこから先は何の苦もなく、七階まで到着した
「……なんつーか、あっけねぇ、な」
「そうだな……
まるで、夕華様を連れ帰ってくださいと言わんばかりだ」
「階段でやり合った相手も、殺気はなかったんすよね
だからちょっと戸惑って、カタつけるのに時間かかったっつーか」
「あ、あれで時間かかったんだ……」
そうだよな、普段のお前なら絶対に容赦しねぇもんな
特に夕華が連れ去られたとなりゃ、流石のこいつでも、ブチ切れて加減が出来なくなってもおかしくない
「ともあれ……その七階に着いた訳だが」
小十郎の視線が、廊下の先を見つめる
暗闇の中、僅かに光が漏れた扉
「……綱元」
[間違いありません、あの奥です]
復活させたインカムから綱元の声が聞こえて、そっと扉の前に急ぐ
俺達が来たことは、恐らくお東様の耳にも入っているだろう
だったら今更、コソコソする意味はねぇか
「準備は良いな?」
小十郎の声に全員で目を合わせる
頷いて、扉を勢いよく開けた
車の中は、終始無言だった
あの綱元でさえ、表情は強ばっていて、留守と白石も一言も発さない
俺はただ、手の震えを押さえ付けるので精一杯だった
──車が止まって、ハッとして顔を上げる
急いで降りて、現場へ向かおうとすると
「成実」
声がして、小十郎から何かが投げられた
「これ……」
「お前の場合は、長物の方が扱いやすいだろう」
そう言われて、受け取ったものを見つめる
いや……これ、長物っつーか……
俺の見間違いでなければ、物干し竿のように見えるんだが……!?
「いやなんで!?
これ、ちょっ……これ何!?」
「見りゃ分かんだろ、物干し竿だ」
「ですよねぇぇぇ!!!
見りゃ分かるわ、物干し竿だわ!!!
物干し竿という名の物干し竿だわ!!!
どこぞの剣豪みたいな名ばかりの物干し竿じゃないよねこれ!
マジモンの物干し竿だよねこれ!!」
「面倒くせぇな、文句があるのか」
「文句しかねぇよ
なんでこれチョイスしたんだよオイ」
「頑丈な長物っつったらこれしか浮かばなくてな」
「そこは普通に木刀とかで良くないかなぁ!?」
「え、成実様、木刀で大丈夫なんスか……?」
「なぁそれ剣道有段者に言う台詞?」
「剣道と実戦は違います
慣れた得物がよろしいかと」
うわ、白石からマジレス
まぁ実際その通りで……うん
「物干し竿ってのがいただけねぇけどなぁ……」
いや、確かに見ただけで頑丈な物干し竿ではあるんだけど……
格好悪すぎる
いや物干し竿はねぇだろ
仮にもこれから、大切な恋人を取り戻しに行くって時に
「素手で行くか?」
「使わせていただきます」
素手とか、俺を殺す気か
小十郎と原田、留守はどこからか木刀を取り出していた
「小十郎、お前が木刀持つと洒落にならねぇな
マジモンのヤクザに見えるぜ」
「かっけーっす小十郎様!」
「白石に至っては法律から学び直して来いってレベルだし」
「大丈夫です
中身はBB弾ですので」
「そういうこっちゃねぇよ」
なんだかんだで一番格好悪いのは俺だと悟った
物干し竿ってなんなんだ
本当……物干し竿ってなんなんだ……
「ったく……行くぞ」
小十郎に続いて、廃ビルの中に入っていく
ビルの廊下は照明などなく、互いの間隔は呼吸などの気配で測るしかない
コンクリートの建物に足音が反響する
「綱元、聞こえるか」
小十郎の合図で、同時に無線のスイッチを入れる
ノイズなし、感度良好だ
「俺達はどのあたりにいる?」
[GPSが成実からしか感知できないのですが、建物の一階、フロントを過ぎたあたりです
まもなく右突き当たり、エレベーターがあります]
「動くんスかね?」
[動くはずないだろう]
「……スよね」
留守が残念そうに口を尖らせた
動かしてどうする気だお前
「お東様の場所は?」
[位置としては……七階、でしょうか
七階が全面ホールとなっているようです]
「分かった」
「上るには階段しかねぇってことだよな?
階段はどの辺なんだ?」
[エレベーターの反対側、左の突き当たりだ]
「了解っと」
通信を切る
目で合図しあい、それから突き当たりまで一気に駆け抜けた
左突き当りの階段を駆け上り、二階へと上がる
人の気配は何もなくて、四人で顔を見合わせた
「本当にここにいるんだよな?」
「人間は七階部分に集めているのかもしれません」
「俺達に危害を加えようっていうわけじゃなさそうっスね」
「このまま三階に上がるぞ」
「「了解」」
物干し竿……を握りしめ、小十郎に続く
本当、なんで俺って物干し竿で戦わなきゃいけないんだろうか
四階まで駆け上った瞬間、小十郎が静止の合図を出した
「誰かいる」
「そんじゃ俺が行くっす
ソッコーで終わらすんで、先に行っててください」
そう言うが早いか、留守が建物の影から飛び出した
その隙に俺達は五階へ──と階段を上った瞬間
「ぐぁぁ!!」
「ぐぇっ」
背後から、そんな声が聞こえて
「あーあ……あっけねーの」
退屈そうに木刀で肩を叩く留守が、俺達を見てVサインをした
あの野郎、加減なしでやりやがったな……
「お前、手加減したよな……?」
「死んでは無いと思うんすけどね」
「不安すぎる……」
……とはいったものの、やり合ったのはその一回きりで
そこから先は何の苦もなく、七階まで到着した
「……なんつーか、あっけねぇ、な」
「そうだな……
まるで、夕華様を連れ帰ってくださいと言わんばかりだ」
「階段でやり合った相手も、殺気はなかったんすよね
だからちょっと戸惑って、カタつけるのに時間かかったっつーか」
「あ、あれで時間かかったんだ……」
そうだよな、普段のお前なら絶対に容赦しねぇもんな
特に夕華が連れ去られたとなりゃ、流石のこいつでも、ブチ切れて加減が出来なくなってもおかしくない
「ともあれ……その七階に着いた訳だが」
小十郎の視線が、廊下の先を見つめる
暗闇の中、僅かに光が漏れた扉
「……綱元」
[間違いありません、あの奥です]
復活させたインカムから綱元の声が聞こえて、そっと扉の前に急ぐ
俺達が来たことは、恐らくお東様の耳にも入っているだろう
だったら今更、コソコソする意味はねぇか
「準備は良いな?」
小十郎の声に全員で目を合わせる
頷いて、扉を勢いよく開けた
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