第三十三話 解けない蟠り
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成実さんが推薦入試に合格して一か月
不安だった期末試験も(伊達家の例の四人の尽力により)過去最高の成績を叩きだし
私も冬休みに突入した
……ま、ほとんど部活だけどね!
「うっへー、疲れたぁ」
部活からの帰り道、思わずそんな言葉が出てきた
「薙刀部のエースだものね、しごかれ方は半端じゃないんじゃない?」
「部長が鬼です、鬼部長です
何あれ、あれが去年まで一緒に後輩してたチームメイトなの?
私信じらんないわ」
「副部長がそれだからっていうのもあると思うわよ」
「はいはい、私が副部長で悪うござんしたー」
海夜さんのオブラートに包まない言葉も健在
たまには包もうよ、いくら私の心が鋼だからって、もしかしたら傷付いてるかもしれないじゃない
──そう言おうと思ったこともあるけど、全く傷付いてないから、海夜にはそのままでいてもらうことにした
「まぁ、おかげで優勝しましたけどもね、ええ
篠原まつの再来とか言われたから、プレッシャーが恐ろしいのなんの……」
「私も玉竜旗、優勝したわよ」
「あんたがしなかったら誰がするんじゃいオイコラ」
「同じ言葉を返してあげるわ」
「ウィッス」
……私はともかく、前世では槍をぶん回していた海夜が、ここまで剣道が強いのは意外だった
それは成実さんも、なんだけど
風が吹いて、首を縮める
マフラーを巻いていても寒い
「うう、寒いー」
「奥州とどっちが寒いかしら」
「いやそりゃ奥州でしょうよ……
仮にもあっちは北国だぞ
けどこっちも普通に雪は降るしなぁ
降らないところって、沖縄くらいじゃないかな」
「沖縄で雪とかどんな異常現象よ」
「おっしゃる通り!」
ダメですね、海夜さんには勝てないや
学年一位を論破しようってのがそもそも無謀ってものさ
「そういえば、ご両親が帰国したんじゃなかった?」
「そうそう
まぁ、また行っちゃったけどねー」
「日本にいる期間が短いわね……
今度はどこに行ったの?」
「んとねー、確かニューヨークだったかな?
あれ、シカゴだったっけ?
とりあえずアメリカ」
「ふぅん……
本当に世界中を飛び回ってるわね」
「でも、定期的に国際電話かかってくるし
金かかるからやめろっつってんのに」
「まぁまぁ、日本に残した一人娘が心配なんでしょ」
「うーん、というよりは、竹中さんの一件が大きな原因な気が……」
「ああ……」
もう大丈夫だって言ってるのにね……
あれから本当に姿も見ないし、声も聞かない
うちの両親が抜けても未だに業界最大手らしいから驚きだ
というか、もはやバケモノだ……
「今日はどっちに帰るの?」
「伊達家ー
週末だから泊まりがけで」
「羨ましい生活してるわね、本当に」
「羨ましかろう」
「はいはい」
海夜といると本当に気が楽でいい
変に気を遣わなくていいし
気の置けない仲とはこのことだなぁ……
「ねー、海夜」
「なによ?」
「もしさ、もしもだよ
前世で私と海夜があんな出会い方じゃなかったら……
海夜がちゃんと大森で生きてたら、やっぱり私と海夜は、こういう風に仲良くできてたのかなぁ」
出会ったのが、互いに武器を構えて対峙した、あの草原じゃなかったら
もし、海夜が捨てられることもなく、大森でお姫様として生きていたら
……考えなかった訳ではなかった
それは、きっと海夜だって
「そうねぇ……
あの時代を生きていたころは、本当に親や兄、私の存在を無かったことにした……否定した大森という土地そのものが憎くてたまらなくて
事実、両親は私が手にかけてしまったのだけど
……そうね、きっと二人で、お兄様をいじり倒してたりもしたんじゃないかしらね」
「あはは、やってそうやってそう」
いじり甲斐あるからねぇ、成実さんは
なんて言ったら、あの人本気で落ち込むから言わないけど
「でも、今はこうして仲良くやれてるんだし、それでいいじゃない?」
「そうだね!
海夜ってば良いこと言う!」
「ありがとう
じゃあ私は駅だから」
「うん
また来週ねー!」
「ええ
また来週」
海夜と別れて、海夜が私に背を向ける
その後ろ姿が駅の中に消えて、そうだよね、と呟く
だって、海夜は最期、成実さんをお兄さんとして認めていた
最初で最後の、妹の我儘だって、そう言って死んだ
それが、あの時代での"水城海夜"の生き様だ
私がさっき言ったことは、その生き様を否定してしまうことになる
今、私と海夜が親友としてここにいるなら、それが今の答えだ
これでいい──これで良かったんだ
「……さて、私も帰ろうっと」
駅に背を向けて、一人、伊達家への道を歩く
大通りを過ぎて角を曲がって、静かな住宅街へ入り込む
……大体、この辺で成実さんと遭遇したりするんだよね
不安だった期末試験も(伊達家の例の四人の尽力により)過去最高の成績を叩きだし
私も冬休みに突入した
……ま、ほとんど部活だけどね!
「うっへー、疲れたぁ」
部活からの帰り道、思わずそんな言葉が出てきた
「薙刀部のエースだものね、しごかれ方は半端じゃないんじゃない?」
「部長が鬼です、鬼部長です
何あれ、あれが去年まで一緒に後輩してたチームメイトなの?
私信じらんないわ」
「副部長がそれだからっていうのもあると思うわよ」
「はいはい、私が副部長で悪うござんしたー」
海夜さんのオブラートに包まない言葉も健在
たまには包もうよ、いくら私の心が鋼だからって、もしかしたら傷付いてるかもしれないじゃない
──そう言おうと思ったこともあるけど、全く傷付いてないから、海夜にはそのままでいてもらうことにした
「まぁ、おかげで優勝しましたけどもね、ええ
篠原まつの再来とか言われたから、プレッシャーが恐ろしいのなんの……」
「私も玉竜旗、優勝したわよ」
「あんたがしなかったら誰がするんじゃいオイコラ」
「同じ言葉を返してあげるわ」
「ウィッス」
……私はともかく、前世では槍をぶん回していた海夜が、ここまで剣道が強いのは意外だった
それは成実さんも、なんだけど
風が吹いて、首を縮める
マフラーを巻いていても寒い
「うう、寒いー」
「奥州とどっちが寒いかしら」
「いやそりゃ奥州でしょうよ……
仮にもあっちは北国だぞ
けどこっちも普通に雪は降るしなぁ
降らないところって、沖縄くらいじゃないかな」
「沖縄で雪とかどんな異常現象よ」
「おっしゃる通り!」
ダメですね、海夜さんには勝てないや
学年一位を論破しようってのがそもそも無謀ってものさ
「そういえば、ご両親が帰国したんじゃなかった?」
「そうそう
まぁ、また行っちゃったけどねー」
「日本にいる期間が短いわね……
今度はどこに行ったの?」
「んとねー、確かニューヨークだったかな?
あれ、シカゴだったっけ?
とりあえずアメリカ」
「ふぅん……
本当に世界中を飛び回ってるわね」
「でも、定期的に国際電話かかってくるし
金かかるからやめろっつってんのに」
「まぁまぁ、日本に残した一人娘が心配なんでしょ」
「うーん、というよりは、竹中さんの一件が大きな原因な気が……」
「ああ……」
もう大丈夫だって言ってるのにね……
あれから本当に姿も見ないし、声も聞かない
うちの両親が抜けても未だに業界最大手らしいから驚きだ
というか、もはやバケモノだ……
「今日はどっちに帰るの?」
「伊達家ー
週末だから泊まりがけで」
「羨ましい生活してるわね、本当に」
「羨ましかろう」
「はいはい」
海夜といると本当に気が楽でいい
変に気を遣わなくていいし
気の置けない仲とはこのことだなぁ……
「ねー、海夜」
「なによ?」
「もしさ、もしもだよ
前世で私と海夜があんな出会い方じゃなかったら……
海夜がちゃんと大森で生きてたら、やっぱり私と海夜は、こういう風に仲良くできてたのかなぁ」
出会ったのが、互いに武器を構えて対峙した、あの草原じゃなかったら
もし、海夜が捨てられることもなく、大森でお姫様として生きていたら
……考えなかった訳ではなかった
それは、きっと海夜だって
「そうねぇ……
あの時代を生きていたころは、本当に親や兄、私の存在を無かったことにした……否定した大森という土地そのものが憎くてたまらなくて
事実、両親は私が手にかけてしまったのだけど
……そうね、きっと二人で、お兄様をいじり倒してたりもしたんじゃないかしらね」
「あはは、やってそうやってそう」
いじり甲斐あるからねぇ、成実さんは
なんて言ったら、あの人本気で落ち込むから言わないけど
「でも、今はこうして仲良くやれてるんだし、それでいいじゃない?」
「そうだね!
海夜ってば良いこと言う!」
「ありがとう
じゃあ私は駅だから」
「うん
また来週ねー!」
「ええ
また来週」
海夜と別れて、海夜が私に背を向ける
その後ろ姿が駅の中に消えて、そうだよね、と呟く
だって、海夜は最期、成実さんをお兄さんとして認めていた
最初で最後の、妹の我儘だって、そう言って死んだ
それが、あの時代での"水城海夜"の生き様だ
私がさっき言ったことは、その生き様を否定してしまうことになる
今、私と海夜が親友としてここにいるなら、それが今の答えだ
これでいい──これで良かったんだ
「……さて、私も帰ろうっと」
駅に背を向けて、一人、伊達家への道を歩く
大通りを過ぎて角を曲がって、静かな住宅街へ入り込む
……大体、この辺で成実さんと遭遇したりするんだよね
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