第三十章 勿忘草の誓い
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構内に響き渡る蝉の声もなくなりつつあるこの頃
そこ吹く風は、どことなく秋を匂わせる
就活を終えて内定をもらった俺は、のんびりとした時間を過ごしていた
静かな図書館内に、時折響くのは誰かのシャーペンの音
足音は床に敷き詰められたカーペットが吸収して、余計に館内の静寂を際立たせる
一階のエントランスから「涼しいー!」という女子学生の数人の声が聞こえて、それもすぐに止んでいく
……後期が始まってしばらく経つとはいえ、まだまだ残暑は厳しい
卒論の為に探していた資料集めの手を止め、大きく背伸びをする
小さく関節が鳴って、ため息
「よぉ、お疲れさん」
そんな声と共に、目の前にコーヒーが置かれた
顔を上げれば、そこにいたのは元親
「……なぜお前がここに?」
「ちょいとここに機材を借りに来たのよ」
「お前は……今は自動車整備工場の工場長だったな、確か」
「ま、中 らずと雖 も遠からず、ってところだ
ここはうちの開発部以上に設備がいいからよぅ、たまーに借りに来るんだぜ?」
「よく今まで顔も合わせなかったものだな、俺達は」
「そらぁ俺も不思議に思ってる」
元親と俺は別々の大学に通っていた
どうやら元親の会社は、うちの大学と仲が良いらしい
「卒論か?」
「就職も決まったし、ゆっくりやっているよ」
「おっ、めでてぇじゃねえか!
さては政宗んとこの会社だろ」
「まぁな」
「だと思ったぜ
あんなにでっけぇ会社でも、親族経営たァご苦労なこったぜ」
「おや、俺の可愛い主君に皮肉は似合わなくてな
俺に対しては構わないが、あのお方に対しての言葉は選んだ方がいいぞ」
「相変わらず、いろんなモンが振り切れてんな……」
「あの頃と同じ年頃だが、やはり記憶が常人より多い分、達観しておられるところもあってな
あの頃ほどの無茶もそうなされないんで、俺も安心しているよ」
「……なるほど、魅せられたうちの一人ってわけか」
ニカッと笑った元親が、ふと俺の向こうを見やる
「どうかしたのか?」
「ん、いやぁ……
向こうに、熱心にお前さんを見つめる嬢ちゃんがいたもんでなァ」
「俺を?
まさか、ツナギの作業服のお前が珍しかっただけだろう
銀髪で悪目立ちしているしな」
「悪目立ちとはご挨拶じゃねェか、こいつは地毛だ」
「そんなパンチの利いた地毛があるか、馬鹿」
「それを言うンなら、アンタらとつるんでた雪ん子もそうじゃねェかよ?」
「……そうだったな」
いつきを引き合いに出されたら何も言えない
悔しいが俺の負けだ
……とはいえ、俺は他人から注目されることはしていないはずだ
就職先を除けば、だが
「いやーしかし、あの女子大生はお前を見てたぜ?」
「だから、違うと言っているだろう……」
そう首を振りつつ、試しにそちらを振り向いてみると
……露骨に顔をそむける女子大生、一名
「……確かにそうだな」
「だろ?
モテ男はつれぇな!」
「それは慶次にでも言ってやれ」
「はっは!
違いねぇ」
ため息をついて、視線を戻す
だが、あのシルエットは……
「………」
どことなく、懐かしさを匂わせた
俺があの日に捨てた人
そのくせ、誰よりもその幸せを願った相手
……その結果は悲壮なものだった
「なーんか忘れモンをしたって感じだな、お前さん」
「は?」
「待ち人来ずってか?」
「………」
ずきりと胸が痛む
俺がずっと抱いていた不安を当てられたようで、ふいと目を逸らした
家の面子を選んでしまった俺への罪
俺は、茜を不幸なまま死なせてしまった
いくら悔いても悔やみきれない
「まァ、そう簡単なことじゃねぇかもしれねぇけどよ
諦めなけりゃ、可能性はあるんじゃねぇか?」
「元親……そうだな、お前の言う通りだ」
確かにそうだ、そうかもしれない
希望は持ちすぎてはいけないが、失くしてはいけない──
捕虜として捕らえられた際の心得が、こんな形で役に立つとは
とにかく、めげずに探し続けよう
もしかしたら、同じ会社にいるかもしれない
「そんじゃ、俺はもう行くぜ」
「ああ」
元親はもう一度、俺の背後をちらりと見て
「鬼庭綱元の就職祝いも兼ねて、サシ飲みに洒落込むとしようじゃねぇか!」
「大声で名前を呼ぶな、ここは図書館だ」
俺の注意には気にも留めず、元親は足取り軽く図書館を出て行った
まったく、あの風雲児は相変わらずだ
……それが奴らしさでもあり、慕われているところでもあるが、な
そこ吹く風は、どことなく秋を匂わせる
就活を終えて内定をもらった俺は、のんびりとした時間を過ごしていた
静かな図書館内に、時折響くのは誰かのシャーペンの音
足音は床に敷き詰められたカーペットが吸収して、余計に館内の静寂を際立たせる
一階のエントランスから「涼しいー!」という女子学生の数人の声が聞こえて、それもすぐに止んでいく
……後期が始まってしばらく経つとはいえ、まだまだ残暑は厳しい
卒論の為に探していた資料集めの手を止め、大きく背伸びをする
小さく関節が鳴って、ため息
「よぉ、お疲れさん」
そんな声と共に、目の前にコーヒーが置かれた
顔を上げれば、そこにいたのは元親
「……なぜお前がここに?」
「ちょいとここに機材を借りに来たのよ」
「お前は……今は自動車整備工場の工場長だったな、確か」
「ま、
ここはうちの開発部以上に設備がいいからよぅ、たまーに借りに来るんだぜ?」
「よく今まで顔も合わせなかったものだな、俺達は」
「そらぁ俺も不思議に思ってる」
元親と俺は別々の大学に通っていた
どうやら元親の会社は、うちの大学と仲が良いらしい
「卒論か?」
「就職も決まったし、ゆっくりやっているよ」
「おっ、めでてぇじゃねえか!
さては政宗んとこの会社だろ」
「まぁな」
「だと思ったぜ
あんなにでっけぇ会社でも、親族経営たァご苦労なこったぜ」
「おや、俺の可愛い主君に皮肉は似合わなくてな
俺に対しては構わないが、あのお方に対しての言葉は選んだ方がいいぞ」
「相変わらず、いろんなモンが振り切れてんな……」
「あの頃と同じ年頃だが、やはり記憶が常人より多い分、達観しておられるところもあってな
あの頃ほどの無茶もそうなされないんで、俺も安心しているよ」
「……なるほど、魅せられたうちの一人ってわけか」
ニカッと笑った元親が、ふと俺の向こうを見やる
「どうかしたのか?」
「ん、いやぁ……
向こうに、熱心にお前さんを見つめる嬢ちゃんがいたもんでなァ」
「俺を?
まさか、ツナギの作業服のお前が珍しかっただけだろう
銀髪で悪目立ちしているしな」
「悪目立ちとはご挨拶じゃねェか、こいつは地毛だ」
「そんなパンチの利いた地毛があるか、馬鹿」
「それを言うンなら、アンタらとつるんでた雪ん子もそうじゃねェかよ?」
「……そうだったな」
いつきを引き合いに出されたら何も言えない
悔しいが俺の負けだ
……とはいえ、俺は他人から注目されることはしていないはずだ
就職先を除けば、だが
「いやーしかし、あの女子大生はお前を見てたぜ?」
「だから、違うと言っているだろう……」
そう首を振りつつ、試しにそちらを振り向いてみると
……露骨に顔をそむける女子大生、一名
「……確かにそうだな」
「だろ?
モテ男はつれぇな!」
「それは慶次にでも言ってやれ」
「はっは!
違いねぇ」
ため息をついて、視線を戻す
だが、あのシルエットは……
「………」
どことなく、懐かしさを匂わせた
俺があの日に捨てた人
そのくせ、誰よりもその幸せを願った相手
……その結果は悲壮なものだった
「なーんか忘れモンをしたって感じだな、お前さん」
「は?」
「待ち人来ずってか?」
「………」
ずきりと胸が痛む
俺がずっと抱いていた不安を当てられたようで、ふいと目を逸らした
家の面子を選んでしまった俺への罪
俺は、茜を不幸なまま死なせてしまった
いくら悔いても悔やみきれない
「まァ、そう簡単なことじゃねぇかもしれねぇけどよ
諦めなけりゃ、可能性はあるんじゃねぇか?」
「元親……そうだな、お前の言う通りだ」
確かにそうだ、そうかもしれない
希望は持ちすぎてはいけないが、失くしてはいけない──
捕虜として捕らえられた際の心得が、こんな形で役に立つとは
とにかく、めげずに探し続けよう
もしかしたら、同じ会社にいるかもしれない
「そんじゃ、俺はもう行くぜ」
「ああ」
元親はもう一度、俺の背後をちらりと見て
「鬼庭綱元の就職祝いも兼ねて、サシ飲みに洒落込むとしようじゃねぇか!」
「大声で名前を呼ぶな、ここは図書館だ」
俺の注意には気にも留めず、元親は足取り軽く図書館を出て行った
まったく、あの風雲児は相変わらずだ
……それが奴らしさでもあり、慕われているところでもあるが、な
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