閑話二
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──小十郎が死んで
梵が死んで
大往生した綱元も、とうとう死んだ
時代ってのは、こうやって移り変わっていくんだな、と何とはなしに思ったもんだ
春の気配を感じる庵
俺は家臣と共に、遅ればせながらの大掃除をしていた
まぁ有り体に言えば、身辺整理というやつだ
……冬の頃から体調が悪化して、俺ももう爺だなぁと痛感した
「大殿、こちらの漆箱は……?」
「あ……」
それは──
「……夕華の形見だ」
「左様で……」
ちょっと埃被ってるな、まぁこれを引っ張り出すのも随分久しぶりだし
布で埃を取って、蓋を開ける
中に納められているのは、あいつが使っていた小物だ
「綺麗な櫛でございますね」
「これは梵が大森に立ち寄った時にな、土産だって夕華に渡したやつ
あ、こっちの髪紐は俺が使ってたのをあげたんだっけ」
「……よく覚えておいでで」
「ほんとにな
……でも、もう思い出せないことが多いよ
あいつの声がどんな声をしてたか、もう思い出せない」
成実さん、と呼ばれていたのは覚えているけれど、肝心の夕華の声が思い出せない
「……ここに入れとくか」
懐に忍ばせていた簪を箱に納める
もう細工もぼろぼろで、買ってやった当初はそれは見事な細工が施されていたんだけど
……年月と共に欠けていって、そのたびに俺があいつを忘れていっているのを思い知らされて
カタン、と蓋をして縄紐で結ぶ
「……俺が死んだら、こいつも一緒に焼いてくれ」
「宜しいのですか?」
「ああ、もう使えるほど綺麗なものでもねぇしな
黄泉路で待ってるあいつに持ってってやりたいんだ」
……年を数えること、齢七十九
わずか二十三でこの世を去った夕華の命日も、もうすぐそこだ
弔えるのも、今年で最後になるかもしれない
「父上、春千代でございまする」
「お、待ってたぞ」
庭先に顔を出した春千代を手招きする
こいつもまぁ年取ったな、なんて感慨深くなる
「母上の法要のご予定について、詳細が決まりましたのでご報告に」
「そうか、ご苦労だったな」
「いえ、亡き母を偲ぶことのできる数少ない日ですので
例年通り、雄山寺の和尚に供養を頼んでおります」
「ありがと
……なぁ春千代」
「はい」
「俺が死んだら、わざわざ寺なんざ建てなくていいからな」
「なにを……!
大森伊達家中興の祖である父上をぞんざいに扱ってよいわけが……」
「そうじゃなくて
……俺も雄山寺で眠りたいんだ」
「父上……」
「もう五十年以上も経っちまったからな、俺が死んだ後くらいは、一緒にいてやらないと」
「……そうですね
母上もお喜びになられるでしょう」
「さすが、前田のご夫婦と並び称されたほどのおしどり夫婦でございますな」
あの夫婦は、いろんな意味で強烈だったな……
夕華はそんなに会ったことはないだろうけど、若い頃の俺たちはしょっちゅう顔を見てたもんだ
それこそ、小十郎の野菜を目当てにわざわざ奥州までやってくるような二人だし
「……父上まで亡くなってしまわれたならば、とうとう母上を知る方もいなくなってしまいますね」
「………」
原田は夕華より先に死んだ
夕華もその数年後に亡くなって……
それから五十年が経つか経たないかのうちに小十郎が死んで、梵が死んで
奇しくも梵の命日に、綱元も死んだ
留守も白石もとっくに死んじまった
……そうか、俺が最後の一人だったのか
「幸村の奴もいないしな、佐助も
こうやって人ってのは忘れられていくんだろうな」
「………」
……夕華が死んですぐ、夕華の墓をどこにするかでちょっと揉めたことがある
大森で眠らせてやりたかった俺たちと、仙台へ帰したほうが、という本家派で
けれど、それも最後には梵が「大森で眠らせてやれ」と言い放って
……懐かしい話だな
「お前も悪いなぁ、大森と庵を行き来させちまって」
「お気になさらず
今は息子が城を預かってくれておりますので」
「そっかぁ、たまには連れてこいよな」
「……卯月の法要でお会いになられるでしょうに」
「そうだった
……にしても、卯月の供養も随分長いこと続いたな」
「父上がご存命の間は、と思っておりますので」
「なんだそりゃ……
ま、俺が死んだら卯月の供養も終いだろうな」
「そうですな……」
「俺の供養も長いことしなくていいからな」
「左様ですか」
「その辺はお前に任せた
死んだ奴に口はねぇからな」
墓参りくらいはしてくれ、と冗談めかして言うと、「それくらいならばお安い御用です」と返ってきた
義理堅いところは、俺と夕華の両方に似たな、なんて
春告げ鳥の声が遠くから聞こえてきた
……そうか、もう──春、か
梵が死んで
大往生した綱元も、とうとう死んだ
時代ってのは、こうやって移り変わっていくんだな、と何とはなしに思ったもんだ
春の気配を感じる庵
俺は家臣と共に、遅ればせながらの大掃除をしていた
まぁ有り体に言えば、身辺整理というやつだ
……冬の頃から体調が悪化して、俺ももう爺だなぁと痛感した
「大殿、こちらの漆箱は……?」
「あ……」
それは──
「……夕華の形見だ」
「左様で……」
ちょっと埃被ってるな、まぁこれを引っ張り出すのも随分久しぶりだし
布で埃を取って、蓋を開ける
中に納められているのは、あいつが使っていた小物だ
「綺麗な櫛でございますね」
「これは梵が大森に立ち寄った時にな、土産だって夕華に渡したやつ
あ、こっちの髪紐は俺が使ってたのをあげたんだっけ」
「……よく覚えておいでで」
「ほんとにな
……でも、もう思い出せないことが多いよ
あいつの声がどんな声をしてたか、もう思い出せない」
成実さん、と呼ばれていたのは覚えているけれど、肝心の夕華の声が思い出せない
「……ここに入れとくか」
懐に忍ばせていた簪を箱に納める
もう細工もぼろぼろで、買ってやった当初はそれは見事な細工が施されていたんだけど
……年月と共に欠けていって、そのたびに俺があいつを忘れていっているのを思い知らされて
カタン、と蓋をして縄紐で結ぶ
「……俺が死んだら、こいつも一緒に焼いてくれ」
「宜しいのですか?」
「ああ、もう使えるほど綺麗なものでもねぇしな
黄泉路で待ってるあいつに持ってってやりたいんだ」
……年を数えること、齢七十九
わずか二十三でこの世を去った夕華の命日も、もうすぐそこだ
弔えるのも、今年で最後になるかもしれない
「父上、春千代でございまする」
「お、待ってたぞ」
庭先に顔を出した春千代を手招きする
こいつもまぁ年取ったな、なんて感慨深くなる
「母上の法要のご予定について、詳細が決まりましたのでご報告に」
「そうか、ご苦労だったな」
「いえ、亡き母を偲ぶことのできる数少ない日ですので
例年通り、雄山寺の和尚に供養を頼んでおります」
「ありがと
……なぁ春千代」
「はい」
「俺が死んだら、わざわざ寺なんざ建てなくていいからな」
「なにを……!
大森伊達家中興の祖である父上をぞんざいに扱ってよいわけが……」
「そうじゃなくて
……俺も雄山寺で眠りたいんだ」
「父上……」
「もう五十年以上も経っちまったからな、俺が死んだ後くらいは、一緒にいてやらないと」
「……そうですね
母上もお喜びになられるでしょう」
「さすが、前田のご夫婦と並び称されたほどのおしどり夫婦でございますな」
あの夫婦は、いろんな意味で強烈だったな……
夕華はそんなに会ったことはないだろうけど、若い頃の俺たちはしょっちゅう顔を見てたもんだ
それこそ、小十郎の野菜を目当てにわざわざ奥州までやってくるような二人だし
「……父上まで亡くなってしまわれたならば、とうとう母上を知る方もいなくなってしまいますね」
「………」
原田は夕華より先に死んだ
夕華もその数年後に亡くなって……
それから五十年が経つか経たないかのうちに小十郎が死んで、梵が死んで
奇しくも梵の命日に、綱元も死んだ
留守も白石もとっくに死んじまった
……そうか、俺が最後の一人だったのか
「幸村の奴もいないしな、佐助も
こうやって人ってのは忘れられていくんだろうな」
「………」
……夕華が死んですぐ、夕華の墓をどこにするかでちょっと揉めたことがある
大森で眠らせてやりたかった俺たちと、仙台へ帰したほうが、という本家派で
けれど、それも最後には梵が「大森で眠らせてやれ」と言い放って
……懐かしい話だな
「お前も悪いなぁ、大森と庵を行き来させちまって」
「お気になさらず
今は息子が城を預かってくれておりますので」
「そっかぁ、たまには連れてこいよな」
「……卯月の法要でお会いになられるでしょうに」
「そうだった
……にしても、卯月の供養も随分長いこと続いたな」
「父上がご存命の間は、と思っておりますので」
「なんだそりゃ……
ま、俺が死んだら卯月の供養も終いだろうな」
「そうですな……」
「俺の供養も長いことしなくていいからな」
「左様ですか」
「その辺はお前に任せた
死んだ奴に口はねぇからな」
墓参りくらいはしてくれ、と冗談めかして言うと、「それくらいならばお安い御用です」と返ってきた
義理堅いところは、俺と夕華の両方に似たな、なんて
春告げ鳥の声が遠くから聞こえてきた
……そうか、もう──春、か
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