第二十四話 届かない思い
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視線を右側に向ければ、昔懐かしい日本庭園
侘び寂を感じるなぁ……なんて、こんなのは現実逃避だ
「おい……
なんでお前の母親はあんなにコミュ力高ぇんだよ」
「知りませんよ
まぁその分、家じゃずっと毒吐きまくってましたけど」
母親同士の会話の後ろで、ごしょごしょと小会議
もうちょっと険悪な雰囲気になるかと思ったけど、二人は表面上は穏やかに会話をしている
もはや、うちの母親のコミュ力の高さに平伏するしかなかった
「ほら、夕華
ご挨拶なさい」
「え!?
あ、はい!
えと、今日から別邸の方でお世話になります
娘の夕華です」
突然振られて声が思いっきり裏返った
ヤバいぞ、第一印象が最悪なパターンだ!
「小さい頃に会ったきりだけれど……大きくなったのね
見た目も、中身もね」
「え……?」
中身?
中身って……何?
曖昧に笑って流そうとすると、義子さんは綺麗な笑みのまま、形のいい唇を動かした
「別邸暮らしなんて嫌でしょうに……
ごめんなさいね、無理を言って」
「え?
あの……私は別に──」
「私ね……別邸なんて近づきたくもないの」
義子さんの言葉は、遠回しではあるけれど
……確かに、兄様を攻撃していた
この感情には覚えがある
それこそ前世で、お東様が青葉城に兄上様を連れて乗り込んできたときの──
「あのお屋敷に化け物が住んでいるらしくて
……ふふ、まぁ、奥まった場所に建ってるもの
醜い化け物にはお似合いよね」
「化け物……って」
「その化け物ね、右目がないんですって
人の形をした、恐ろしい生き物……
汚らわしい」
隣に座る兄様が、ぐっと掌を握りしめる
……あの時と同じだ
あの時も、兄様は言い返すことの無いまま、ただ静かに掌を握り締めていた
「……義子さん?
それは政宗君のことを言ってるわけじゃ……ありませんよね?」
控えめに問うお母さんに対して、義子さんは唇に弧を描いた
「ふふ、何を言っているの、美智留さん?
──政宗、なんて……誰のことなのかしら」
「何を言って……
あなたの息子でしょう?」
「息子……?
私の息子は政道ただ一人よ」
……ふざけている
この人は……
兄様を人として認識してない……!
沸々と怒りが沸いてきた
我慢の限界だ、この人は私の譲歩できるラインを超えた
隣で兄様がハッとしたようだけど、私を止めるには遅かったようだ
「……いい加減にしてください!」
ふざけないで
私の大切な、大好きな兄様を侮辱するなんて
「どうしてそんなことを言うんですか!?
政宗先輩は……そんな、そんなふうに言われていい人じゃないんです!」
あぁもう、と苛立ちが先走る
言いたいことがありすぎて、どれから言えばいいか分からない
「分かんないよ……
死ぬぐらい苦しい思いをして産んだのに……
なんでそんなに簡単に傷つけられるの……」
「……産んだこともない子供に何がわかる」
今までとは打って変わって、冷たい声がそう告げた
産んだことも無いくせに──確かに、傍から見ればそうだろう
高校生の小娘が、知ったような口を利くな、と
……けれど、私はただの小娘じゃない
「分かります」
はっきりと、義子さんの瞳を見つめてそう言った
死ぬかと思った
今思ってもそう感じる
「でもその痛みが報われるのは、我が子が産声を上げたときです
あなたもそんな経験をして、政宗先輩をこの世に産んだんです
それなのに、先輩が右目を失っただけで、その思いはなくなるんですか
そんなの……政宗先輩が可哀想です
わずかでもいい、少しだけでもいいんです
政宗先輩をちゃんと見てください……!」
氷のように冷たい表情は何も動かない
こんなに言っても、駄目なのか
……悔しい
何の力にもなれない自分に腹が立って仕方ない
「……夕華、もういい」
「何、言って」
「望めないものを……手に入れられないものを欲しがったって……結局は自分が惨めになるだけだ」
「政宗先輩……?」
兄様が何も言わずに座敷を出て行く
「あ、ちょっ……」
どうしよう
追うべきか悩んでいると、お母さんが座敷を出るように目で言ってきた
……義子さんに頭なんか下げたくない
兄様を傷つけてばかりのこの人に、払うべき敬意なんて一つも無い
挨拶代わりにキッと睨み付け、私も兄様の後を追って、お屋敷から出ていった
侘び寂を感じるなぁ……なんて、こんなのは現実逃避だ
「おい……
なんでお前の母親はあんなにコミュ力高ぇんだよ」
「知りませんよ
まぁその分、家じゃずっと毒吐きまくってましたけど」
母親同士の会話の後ろで、ごしょごしょと小会議
もうちょっと険悪な雰囲気になるかと思ったけど、二人は表面上は穏やかに会話をしている
もはや、うちの母親のコミュ力の高さに平伏するしかなかった
「ほら、夕華
ご挨拶なさい」
「え!?
あ、はい!
えと、今日から別邸の方でお世話になります
娘の夕華です」
突然振られて声が思いっきり裏返った
ヤバいぞ、第一印象が最悪なパターンだ!
「小さい頃に会ったきりだけれど……大きくなったのね
見た目も、中身もね」
「え……?」
中身?
中身って……何?
曖昧に笑って流そうとすると、義子さんは綺麗な笑みのまま、形のいい唇を動かした
「別邸暮らしなんて嫌でしょうに……
ごめんなさいね、無理を言って」
「え?
あの……私は別に──」
「私ね……別邸なんて近づきたくもないの」
義子さんの言葉は、遠回しではあるけれど
……確かに、兄様を攻撃していた
この感情には覚えがある
それこそ前世で、お東様が青葉城に兄上様を連れて乗り込んできたときの──
「あのお屋敷に化け物が住んでいるらしくて
……ふふ、まぁ、奥まった場所に建ってるもの
醜い化け物にはお似合いよね」
「化け物……って」
「その化け物ね、右目がないんですって
人の形をした、恐ろしい生き物……
汚らわしい」
隣に座る兄様が、ぐっと掌を握りしめる
……あの時と同じだ
あの時も、兄様は言い返すことの無いまま、ただ静かに掌を握り締めていた
「……義子さん?
それは政宗君のことを言ってるわけじゃ……ありませんよね?」
控えめに問うお母さんに対して、義子さんは唇に弧を描いた
「ふふ、何を言っているの、美智留さん?
──政宗、なんて……誰のことなのかしら」
「何を言って……
あなたの息子でしょう?」
「息子……?
私の息子は政道ただ一人よ」
……ふざけている
この人は……
兄様を人として認識してない……!
沸々と怒りが沸いてきた
我慢の限界だ、この人は私の譲歩できるラインを超えた
隣で兄様がハッとしたようだけど、私を止めるには遅かったようだ
「……いい加減にしてください!」
ふざけないで
私の大切な、大好きな兄様を侮辱するなんて
「どうしてそんなことを言うんですか!?
政宗先輩は……そんな、そんなふうに言われていい人じゃないんです!」
あぁもう、と苛立ちが先走る
言いたいことがありすぎて、どれから言えばいいか分からない
「分かんないよ……
死ぬぐらい苦しい思いをして産んだのに……
なんでそんなに簡単に傷つけられるの……」
「……産んだこともない子供に何がわかる」
今までとは打って変わって、冷たい声がそう告げた
産んだことも無いくせに──確かに、傍から見ればそうだろう
高校生の小娘が、知ったような口を利くな、と
……けれど、私はただの小娘じゃない
「分かります」
はっきりと、義子さんの瞳を見つめてそう言った
死ぬかと思った
今思ってもそう感じる
「でもその痛みが報われるのは、我が子が産声を上げたときです
あなたもそんな経験をして、政宗先輩をこの世に産んだんです
それなのに、先輩が右目を失っただけで、その思いはなくなるんですか
そんなの……政宗先輩が可哀想です
わずかでもいい、少しだけでもいいんです
政宗先輩をちゃんと見てください……!」
氷のように冷たい表情は何も動かない
こんなに言っても、駄目なのか
……悔しい
何の力にもなれない自分に腹が立って仕方ない
「……夕華、もういい」
「何、言って」
「望めないものを……手に入れられないものを欲しがったって……結局は自分が惨めになるだけだ」
「政宗先輩……?」
兄様が何も言わずに座敷を出て行く
「あ、ちょっ……」
どうしよう
追うべきか悩んでいると、お母さんが座敷を出るように目で言ってきた
……義子さんに頭なんか下げたくない
兄様を傷つけてばかりのこの人に、払うべき敬意なんて一つも無い
挨拶代わりにキッと睨み付け、私も兄様の後を追って、お屋敷から出ていった
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