第二十一話 重なり続く縁
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──成実さんが話し終える
私は完全に思い出していた
短い間しか一緒にいることができなかった
やりたいこともいっぱいあったはずなのに──成実さんは、何があってもそばにいてくれた
「ああ、今逝っちゃったんだな……
そう思ったら本当に涙が止まらなくてさ」
今でさえ成実さんは、目に涙を湛えている
それを手の甲で乱暴に拭ってから、一つ鼻をすすった
「もう夕華の声も、ぬくもりも、何もないんだって……そう思ったら、悲しさと悔しさで頭の中がぐちゃぐちゃになって
叫んでた……っていうか、もはやあれは泣き叫びみてぇなもんだったけど……」
「すぐ横にいた海夜と春千代もびっくりしてたしな」と、成実さんは苦笑いを浮かべた
それに首を振って、成実さんの手を握り締めた
「……ごめんなさい」
「え……」
気がつけば謝っていた
「な、なんでお前が謝るんだよ?」
「何も返してないから……
してもらうばっかりで、私は何もしてあげられなかった……」
「……何言ってんだよ
お前は十分頑張った
余命半年って言われてから、一年以上も粘ったんだぞ?
それだけで俺は……」
「でも……!
成実さんには、やりたいことがたくさんあったはずなのに……
私が倒れたせいで、ずっと付きっきりで……」
挙句、私は成実さんに幼い子供を二人も残して死んだ
本来であれば、私と二人で成長を見届けるはずだったのに──
「……それは違ぇぞ
確かに、あの頃の俺には、やりたいことがあったかもしれねぇよ
でも、そんなことよりも何よりもだ、いいか、よーく聞け?
いっっちばん大切な嫁が病気と戦ってたんだぞ
そりゃあ付きっきりになるだろ」
「………」
「むしろ俺としては、お前といられる時間が増えて、すんげぇ嬉しかったけどな」
「でも……!」
でも、成実さんを私に縛ってしまったのは事実だから
それが……どうしても、心苦しかった
「……なぁ、夕華」
静かな声で成実さんが私を呼ぶ
「お前は罪悪感を感じてるかもしんねぇけどさ
俺……一回でも、お前に『迷惑だ』とか言ったことあるか?」
その問いには、首を横に振ることで否定した
そんなことを成実さんは絶対に言わなかった
「俺は楽しかった
お前が死んだのは、そりゃもう悲しかったけどな……
でも、幸せだったよ
お前といられたあの八年、めちゃくちゃ幸せだった
人生で一番幸せだったって思えるんだよ
その幸せを教えてくれたのは夕華、お前だろ?」
目を閉じた成実さんが、コツリと額を合わせてくる
「迷惑なんかじゃない
お前に付きっきりになったのも、自分のしたいことしなかったのも、全部、自分の意志だ
俺の意志でそうしたんだ
だから、お前が自分を責める必要なんざどこにもない
人ってのはさ、迷惑かけながら生きるもんだろ?
迷惑かけてかけられて……お互い様ってやつじゃねぇか
それが人で、夫婦で、家族で……それが、俺達だろ」
額を離した成実さんが穏やかに微笑む
鼻の奥がツンとして、じわりと視界が滲んだ
「これだけ言っても、まだお前は自分を責めるのか?
まだ迷惑かけたーなんて言うのか?」
私はとっさに答えられなくて、詰まってしまった
それを肯定と取ったのか、成実さんがニッと笑う
「じゃあ何度でも言ってやる
お前が納得するまで、何十回でも何百回でも言ってやるよ」
冗談めかしてそう言う成実さんに、思わず笑ってしまった
その拍子に、耐えていた涙が落ちてしまったけど、成実さんがそれを指で拭ってくれた
「……やっと笑ったな
やっぱお前は笑顔が一番似合ってる
言ったろ、昔
お前の笑顔が一番好きだって
それは今も変わんねぇよ
お前の笑顔は、俺を元気づけてくれるんだから」
「成実さん……」
相変わらずストレートな物言いをする
結構恥ずかしいけど……
でも、そんな成実さんだから、私は好きなんだ
「……そっか、最期の時は、家族が揃ってたんですね」
「どうかなとは思ったんだけどな、梵にああいう手紙を書いてたお前だし
でも……子供たちに、分からなくてもいいから、側に居てほしかった
それでも、海夜は分かってたんだな……」
子供の理解力は、時に大人が考えるよりも発達しているものなんだろう
海夜には……春千代にも、悪いことをした
「……海夜と春千代は、どうなりましたか?」
「海夜は小十郎んとこの長男坊に嫁いだよ
お前が死んでしばらくした頃かな、白石城に片倉一家が移ってさ
綱元がしょっちゅう遊びに行ってたみたいで、綱元の歯に衣着せぬ物言いを受け継いでやがったぞ
あいつ、元から俺に性格が似て、きっつい感じだったのにな……」
「あはは……そっか、海夜は小十郎さんの息子さんに……えっ!?
小十郎さん、いつの間に結婚してたんですか!?」
「お前が死んで二、三年後
だから海夜と重長の奴は八つ違いだったかな
年の差が気になったけど、海夜のやつが『大きくなるまで待つ』って言って聞かなくてよ
あいつがそんなこと言うのも珍しいし、さらに本家の姪馬鹿が賛同したもんだから、本当に待つことになったんだよ」
「片倉家が親戚に……」
す、すごいな……予想だにしなかったぞ、そんな結末
「結局、十二年待ったな」
「すごく待ちましたね……」
「まあ生々しい話、重長が精通しないと話にならないからな……
まあそのせいか知らねぇけど、片倉家は子宝に恵まれてさ
海夜の末娘が本家の嫡男……つまりは梵の孫に嫁いだんだったかな」
「兄様、それは喜んだでしょうね……」
予想外の事実だったけど、海夜が幸せであったならそれでいい
春千代もいいお嫁さんをもらったんだろうな
「春千代は前田の娘を貰ったんだ
器量よしでいい嫁さんだった」
「前田家の……!
どういうご縁で……?」
「前田の……四番目の子供かな、一番上の娘は夭折したって聞いてたから
だから二番目の娘が、ちょうど春千代の一つ下で、丁度いいんじゃないかって話になってさ
んで、お互いも結構馬が合うみたいだったから」
兄様の気風か、成実さんの方針かは分からないけど、海夜にしろ春千代にしろ、政略的な意味合いはそれほど無いようだった
あの世界と今の私たちが生きるこの世界は、全く別の世界だから、私にできるのは、あの世界も平和であるようにと願うだけだ
私は完全に思い出していた
短い間しか一緒にいることができなかった
やりたいこともいっぱいあったはずなのに──成実さんは、何があってもそばにいてくれた
「ああ、今逝っちゃったんだな……
そう思ったら本当に涙が止まらなくてさ」
今でさえ成実さんは、目に涙を湛えている
それを手の甲で乱暴に拭ってから、一つ鼻をすすった
「もう夕華の声も、ぬくもりも、何もないんだって……そう思ったら、悲しさと悔しさで頭の中がぐちゃぐちゃになって
叫んでた……っていうか、もはやあれは泣き叫びみてぇなもんだったけど……」
「すぐ横にいた海夜と春千代もびっくりしてたしな」と、成実さんは苦笑いを浮かべた
それに首を振って、成実さんの手を握り締めた
「……ごめんなさい」
「え……」
気がつけば謝っていた
「な、なんでお前が謝るんだよ?」
「何も返してないから……
してもらうばっかりで、私は何もしてあげられなかった……」
「……何言ってんだよ
お前は十分頑張った
余命半年って言われてから、一年以上も粘ったんだぞ?
それだけで俺は……」
「でも……!
成実さんには、やりたいことがたくさんあったはずなのに……
私が倒れたせいで、ずっと付きっきりで……」
挙句、私は成実さんに幼い子供を二人も残して死んだ
本来であれば、私と二人で成長を見届けるはずだったのに──
「……それは違ぇぞ
確かに、あの頃の俺には、やりたいことがあったかもしれねぇよ
でも、そんなことよりも何よりもだ、いいか、よーく聞け?
いっっちばん大切な嫁が病気と戦ってたんだぞ
そりゃあ付きっきりになるだろ」
「………」
「むしろ俺としては、お前といられる時間が増えて、すんげぇ嬉しかったけどな」
「でも……!」
でも、成実さんを私に縛ってしまったのは事実だから
それが……どうしても、心苦しかった
「……なぁ、夕華」
静かな声で成実さんが私を呼ぶ
「お前は罪悪感を感じてるかもしんねぇけどさ
俺……一回でも、お前に『迷惑だ』とか言ったことあるか?」
その問いには、首を横に振ることで否定した
そんなことを成実さんは絶対に言わなかった
「俺は楽しかった
お前が死んだのは、そりゃもう悲しかったけどな……
でも、幸せだったよ
お前といられたあの八年、めちゃくちゃ幸せだった
人生で一番幸せだったって思えるんだよ
その幸せを教えてくれたのは夕華、お前だろ?」
目を閉じた成実さんが、コツリと額を合わせてくる
「迷惑なんかじゃない
お前に付きっきりになったのも、自分のしたいことしなかったのも、全部、自分の意志だ
俺の意志でそうしたんだ
だから、お前が自分を責める必要なんざどこにもない
人ってのはさ、迷惑かけながら生きるもんだろ?
迷惑かけてかけられて……お互い様ってやつじゃねぇか
それが人で、夫婦で、家族で……それが、俺達だろ」
額を離した成実さんが穏やかに微笑む
鼻の奥がツンとして、じわりと視界が滲んだ
「これだけ言っても、まだお前は自分を責めるのか?
まだ迷惑かけたーなんて言うのか?」
私はとっさに答えられなくて、詰まってしまった
それを肯定と取ったのか、成実さんがニッと笑う
「じゃあ何度でも言ってやる
お前が納得するまで、何十回でも何百回でも言ってやるよ」
冗談めかしてそう言う成実さんに、思わず笑ってしまった
その拍子に、耐えていた涙が落ちてしまったけど、成実さんがそれを指で拭ってくれた
「……やっと笑ったな
やっぱお前は笑顔が一番似合ってる
言ったろ、昔
お前の笑顔が一番好きだって
それは今も変わんねぇよ
お前の笑顔は、俺を元気づけてくれるんだから」
「成実さん……」
相変わらずストレートな物言いをする
結構恥ずかしいけど……
でも、そんな成実さんだから、私は好きなんだ
「……そっか、最期の時は、家族が揃ってたんですね」
「どうかなとは思ったんだけどな、梵にああいう手紙を書いてたお前だし
でも……子供たちに、分からなくてもいいから、側に居てほしかった
それでも、海夜は分かってたんだな……」
子供の理解力は、時に大人が考えるよりも発達しているものなんだろう
海夜には……春千代にも、悪いことをした
「……海夜と春千代は、どうなりましたか?」
「海夜は小十郎んとこの長男坊に嫁いだよ
お前が死んでしばらくした頃かな、白石城に片倉一家が移ってさ
綱元がしょっちゅう遊びに行ってたみたいで、綱元の歯に衣着せぬ物言いを受け継いでやがったぞ
あいつ、元から俺に性格が似て、きっつい感じだったのにな……」
「あはは……そっか、海夜は小十郎さんの息子さんに……えっ!?
小十郎さん、いつの間に結婚してたんですか!?」
「お前が死んで二、三年後
だから海夜と重長の奴は八つ違いだったかな
年の差が気になったけど、海夜のやつが『大きくなるまで待つ』って言って聞かなくてよ
あいつがそんなこと言うのも珍しいし、さらに本家の姪馬鹿が賛同したもんだから、本当に待つことになったんだよ」
「片倉家が親戚に……」
す、すごいな……予想だにしなかったぞ、そんな結末
「結局、十二年待ったな」
「すごく待ちましたね……」
「まあ生々しい話、重長が精通しないと話にならないからな……
まあそのせいか知らねぇけど、片倉家は子宝に恵まれてさ
海夜の末娘が本家の嫡男……つまりは梵の孫に嫁いだんだったかな」
「兄様、それは喜んだでしょうね……」
予想外の事実だったけど、海夜が幸せであったならそれでいい
春千代もいいお嫁さんをもらったんだろうな
「春千代は前田の娘を貰ったんだ
器量よしでいい嫁さんだった」
「前田家の……!
どういうご縁で……?」
「前田の……四番目の子供かな、一番上の娘は夭折したって聞いてたから
だから二番目の娘が、ちょうど春千代の一つ下で、丁度いいんじゃないかって話になってさ
んで、お互いも結構馬が合うみたいだったから」
兄様の気風か、成実さんの方針かは分からないけど、海夜にしろ春千代にしろ、政略的な意味合いはそれほど無いようだった
あの世界と今の私たちが生きるこの世界は、全く別の世界だから、私にできるのは、あの世界も平和であるようにと願うだけだ
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