第二十話 交わした約束
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余命が宣告されてから一年半と少しが経過した
またやってきた、桜咲く季節
けれど、病は他の病を連鎖的に引き起こし
もはや私は動けないどころか、視力も格段に低下していた
声で判別するしかない──そのくらい、もう目が見えなかった
先月あたりから、成実さんは執務をやめて、つきっきりで看病してくれている
少しでも長くいたいのだと、そう言っていた
* * *
春の空が暮れていく
私の視界には、成実さんがいる
「泣きそうな、顔……」
「してない」
否定の声は震えていて、苦笑いしてしまう
嘘がつけないのはお互い様なのに
まぁ、成実さんらしいけど……
「成実さん……」
か細い声が成実さんの名前を紡いでいく
「私が……死んだら……」
「死ぬなんて……言うなよ……」
今にも泣きそうな声だった
だから泣きそうな顔をしてるって分かってしまうのに
けれど、その先の言葉を言うのは憚られて、私はそっと話題を変えることにした
ふと目に入ったのは、成実さんで埋まる視界の端の、空
「……綺麗な夕焼け……」
「ああ……そうだな、いつも通りの、綺麗な夕焼けだ」
振り返った成実さんがそう呟く
──いつも通り
こうして私が残された命を消耗している間でも、それ以外の人たちにとってみれば、いつも通りの日常でしかない
それでも取り残されたような、そんな気持ちにならないのは、自分でこの終わりを受け入れたからだ
もちろん後悔は多くある
子供たちの成長を間近で見たかった
兄様が統べる平和な世の中で、成実さんと二人でゆっくりと、お互いが白髪になるまで過ごしたかった
けれどそれは叶わない──叶うことの無い願いだ
だからその分、私は一日たりとも疎かにはしなかった
どんなに自分がきつくても、海夜と春千代の二人を必ず部屋に招いて、お喋りをした
春千代はまだお喋りらしいことはできないけれど、「かか」と呼んで私に笑顔を向けてくれた
だから、言っておきたかったのだ、成実さんに
私が死んだら、二人のことを精一杯、愛してあげてほしいって……
「……なぁ、夕華、今度さ、みんなで花見に行こう
お前の身体が全部治ったら、行こう」
「───」
叶わない願いだと知って……
それでもあなたは……
あの時の約束を果たそうと……
「そう、ですね……
みんなで……」
儚い望みなのに
果たせない約束なのに……
「みんな……
待っていてくれるでしょうか……」
私が治ることなんて、もうないのに
あの時みたいに、どこまでも自由な身体には、もうなれないのに……
「待っててやる
待っててやるから……!」
とうとう、成実さんの瞳から涙があふれ出した
ああ、またあなたを泣かせてしまった……
泣かないで、なんて
言えるはずもなくて
私はただ、微笑んでいることしかできなかった
何か声をかけたいのに、その何かを言う力も出てこなくて
「また、元気な顔見せようぜ……
子供達なら待っててくれるからさ
何年かかってもいいから……っ」
止まることのない哀しみの雨が降り続いていく
その原因が私にあるのだと思うと、どうしようもなく苦しくて
胸を鋭い痛みが走る
夕陽が雲に隠されて、少しだけ部屋が暗くなる
「ありがとうございます……
……成実さん……」
温かい言葉をくれただけでも、嬉しかった
薄暗くなった部屋の中で、おぼろげに見えた彼の表情は──痛々しい程に悲しみで歪んでいた
そんな顔は、させたくなかった
「成実さん……笑って、下さい……」
「笑えねぇよ……」
分かっている
それでも、私が見たいのは、成実さんの笑顔だ
「私ね、成実さんのお嫁さんになれて……本当に幸せでした……」
走馬灯のように思い起こされる日々
七年前の皐月の頃……あの日、草原で成実さんに助けられて以来、私は成実さんと一緒だった
二年の時の中で、兄様が天下統一を成し遂げて、私と成実さんが夫婦になって
大晦日には海夜が生まれて
病気になってしまったけれど、春千代が生まれて
何より、こうして成実さんと一緒にいられる
それだけで十分、幸せなの
「私は……
あなたの笑顔が、好きなんです……」
笑っていてくれと、佐助さんにも、成実さんにも言われた
だったら、どんなに苦しくても、どんなにつらくても……笑顔だけは忘れまいと、そう心に決めて、ずっと笑顔でいることができた
「……成実さん
笑顔を……見せてください」
しばらく、静かな時間が流れた
「……お前に言われちまったんじゃ、仕方ねぇか」
そう言う呟きが聞こえて
見えたのは、私の大好きな、成実さんの笑顔
「暗い顔してたって、いいことは起きねぇよな」
私もまた笑顔で、頷くのがやっとだった
またやってきた、桜咲く季節
けれど、病は他の病を連鎖的に引き起こし
もはや私は動けないどころか、視力も格段に低下していた
声で判別するしかない──そのくらい、もう目が見えなかった
先月あたりから、成実さんは執務をやめて、つきっきりで看病してくれている
少しでも長くいたいのだと、そう言っていた
* * *
春の空が暮れていく
私の視界には、成実さんがいる
「泣きそうな、顔……」
「してない」
否定の声は震えていて、苦笑いしてしまう
嘘がつけないのはお互い様なのに
まぁ、成実さんらしいけど……
「成実さん……」
か細い声が成実さんの名前を紡いでいく
「私が……死んだら……」
「死ぬなんて……言うなよ……」
今にも泣きそうな声だった
だから泣きそうな顔をしてるって分かってしまうのに
けれど、その先の言葉を言うのは憚られて、私はそっと話題を変えることにした
ふと目に入ったのは、成実さんで埋まる視界の端の、空
「……綺麗な夕焼け……」
「ああ……そうだな、いつも通りの、綺麗な夕焼けだ」
振り返った成実さんがそう呟く
──いつも通り
こうして私が残された命を消耗している間でも、それ以外の人たちにとってみれば、いつも通りの日常でしかない
それでも取り残されたような、そんな気持ちにならないのは、自分でこの終わりを受け入れたからだ
もちろん後悔は多くある
子供たちの成長を間近で見たかった
兄様が統べる平和な世の中で、成実さんと二人でゆっくりと、お互いが白髪になるまで過ごしたかった
けれどそれは叶わない──叶うことの無い願いだ
だからその分、私は一日たりとも疎かにはしなかった
どんなに自分がきつくても、海夜と春千代の二人を必ず部屋に招いて、お喋りをした
春千代はまだお喋りらしいことはできないけれど、「かか」と呼んで私に笑顔を向けてくれた
だから、言っておきたかったのだ、成実さんに
私が死んだら、二人のことを精一杯、愛してあげてほしいって……
「……なぁ、夕華、今度さ、みんなで花見に行こう
お前の身体が全部治ったら、行こう」
「───」
叶わない願いだと知って……
それでもあなたは……
あの時の約束を果たそうと……
「そう、ですね……
みんなで……」
儚い望みなのに
果たせない約束なのに……
「みんな……
待っていてくれるでしょうか……」
私が治ることなんて、もうないのに
あの時みたいに、どこまでも自由な身体には、もうなれないのに……
「待っててやる
待っててやるから……!」
とうとう、成実さんの瞳から涙があふれ出した
ああ、またあなたを泣かせてしまった……
泣かないで、なんて
言えるはずもなくて
私はただ、微笑んでいることしかできなかった
何か声をかけたいのに、その何かを言う力も出てこなくて
「また、元気な顔見せようぜ……
子供達なら待っててくれるからさ
何年かかってもいいから……っ」
止まることのない哀しみの雨が降り続いていく
その原因が私にあるのだと思うと、どうしようもなく苦しくて
胸を鋭い痛みが走る
夕陽が雲に隠されて、少しだけ部屋が暗くなる
「ありがとうございます……
……成実さん……」
温かい言葉をくれただけでも、嬉しかった
薄暗くなった部屋の中で、おぼろげに見えた彼の表情は──痛々しい程に悲しみで歪んでいた
そんな顔は、させたくなかった
「成実さん……笑って、下さい……」
「笑えねぇよ……」
分かっている
それでも、私が見たいのは、成実さんの笑顔だ
「私ね、成実さんのお嫁さんになれて……本当に幸せでした……」
走馬灯のように思い起こされる日々
七年前の皐月の頃……あの日、草原で成実さんに助けられて以来、私は成実さんと一緒だった
二年の時の中で、兄様が天下統一を成し遂げて、私と成実さんが夫婦になって
大晦日には海夜が生まれて
病気になってしまったけれど、春千代が生まれて
何より、こうして成実さんと一緒にいられる
それだけで十分、幸せなの
「私は……
あなたの笑顔が、好きなんです……」
笑っていてくれと、佐助さんにも、成実さんにも言われた
だったら、どんなに苦しくても、どんなにつらくても……笑顔だけは忘れまいと、そう心に決めて、ずっと笑顔でいることができた
「……成実さん
笑顔を……見せてください」
しばらく、静かな時間が流れた
「……お前に言われちまったんじゃ、仕方ねぇか」
そう言う呟きが聞こえて
見えたのは、私の大好きな、成実さんの笑顔
「暗い顔してたって、いいことは起きねぇよな」
私もまた笑顔で、頷くのがやっとだった
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