第二話 私を忘れた人
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それから半年が過ぎ
私達は、高二の初夏を迎えた
「……で、またなのね」
「ザッツライ」
まさか……
まさか二年連続で、生徒会の会計をすることになるとは
「去年、武田先生が、一年が会計するのは特例だから来年はしなくていいって!
しなくていいって言ったのに!!」
横暴だ!
って言うか裏切りだー!!
泣き真似をしながら海夜に抱き着こうとすると避けられた
親友のくせに優しくない
「それにしてもまたどうして……」
「なんか、引き継ぎとか面倒だからって
今年もよろしく頼むぞって言われて、肩をポンってされた」
「教師の都合ね」
「その通りですね」
まぁ、生徒会の顧問が武田先生のままなのが救いか……
いや全然救われてないよ、うっかり流されるところだった
今年こそ自由になれると思っていたのに!
「あーあ……
もう五月かぁ……」
ふと思い出してしまう
私が奥州へ戻ったあの日のことを
「何かあったの?」
「んー、うん、まぁね
成実さんに出会ったのも、この時期だったなぁ……って」
草原でごろつきから助けてくれたのが成実さんだった
お城でも何かと世話を焼いてくれて……
最初は兄様の妹と従弟だったのに、それが恋人同士になって
最後には夫婦になって……
「会いたいなぁ……」
寂しさに耐えきれずにそう呟く
「きっと再会できるわよ
……きっと」
そう言って、海夜は私の手をそっと包んでくれた
まっすぐに見つめてくる海夜に少し笑って見せて頷く
「……ありがとう」
それしか言えなかった
「きっと会える」「いつか会える」
そう繰り返して……もう、どのくらい経つだろう
* * *
最終下校になって、家の最寄り駅から途中まで海夜と一緒に帰って
大通りの交差点でいつも通り別れた
私の家があるのは、一軒家が並び立つ住宅街
「ただいまー」
鍵を開けて入った玄関から、リビングに向かって声をかける
「………」
電気ひとつ点いていない家の中
なにも音がない
物音一つしない、ただ無の空間
私だけが取り残されてしまったような気にさえなってしまう
「ご飯作んなきゃ……」
バッグを部屋に置いて、制服から着替えてリビングに降りた
両親は海外転勤で家にはいない
今日からだったんだ、忘れてた
まぁ、元から海外出張の多い人達だから、ただいまって言っても「おかえり」って帰ってきた記憶はほとんどないけど
台所に立って、冷蔵庫を開ける
しばらく食材には困らないくらいには買い足してあった
「……何作ろう」
冷蔵庫を適当に漁りながら、脳裏に浮かぶのは彼の声
──お前が作る料理なら美味いに決まってる!
あれはいつのことだったか……
結婚してすぐのことだった
厨を借りて、初めて振る舞った手料理
小十郎さんの料理を食べ慣れた成実さんが、そう言ってくれた
小十郎さんの料理には到底及ばないのに、美味しいって喜んでくれて
「成実さん……
何処にいるんですか……」
成実さん
私、あれから料理を勉強したんです
今は結構、腕に自信があるんですよ
だから……
「また……
根拠のない誉め言葉を聞かせてくださいよ……」
──小十郎のより美味いぜ?
──だってお前が作ったんだからな!
成実さん……
ぽた、と涙が零れていく
「あ……や、やだな、もう……」
慌てて手の甲で拭って、食材に手を伸ばす
今日は何を作ろう、自分の好物でも作ろうか
……そう考えるのに
浮かぶ料理は、どれも成実さんの好物で
「う……う、ぅ……っ!」
慣れていたはずの胸の痛みが、今日だけは抑えられない
「泣くなよ」って慌てたように抱き締めてくれる腕も、優しく拭き取ってくれる指も……何もない
胸にぽっかりと穴を開けた寂しさだけがあって
それを埋める方法が……分からなかった
私達は、高二の初夏を迎えた
「……で、またなのね」
「ザッツライ」
まさか……
まさか二年連続で、生徒会の会計をすることになるとは
「去年、武田先生が、一年が会計するのは特例だから来年はしなくていいって!
しなくていいって言ったのに!!」
横暴だ!
って言うか裏切りだー!!
泣き真似をしながら海夜に抱き着こうとすると避けられた
親友のくせに優しくない
「それにしてもまたどうして……」
「なんか、引き継ぎとか面倒だからって
今年もよろしく頼むぞって言われて、肩をポンってされた」
「教師の都合ね」
「その通りですね」
まぁ、生徒会の顧問が武田先生のままなのが救いか……
いや全然救われてないよ、うっかり流されるところだった
今年こそ自由になれると思っていたのに!
「あーあ……
もう五月かぁ……」
ふと思い出してしまう
私が奥州へ戻ったあの日のことを
「何かあったの?」
「んー、うん、まぁね
成実さんに出会ったのも、この時期だったなぁ……って」
草原でごろつきから助けてくれたのが成実さんだった
お城でも何かと世話を焼いてくれて……
最初は兄様の妹と従弟だったのに、それが恋人同士になって
最後には夫婦になって……
「会いたいなぁ……」
寂しさに耐えきれずにそう呟く
「きっと再会できるわよ
……きっと」
そう言って、海夜は私の手をそっと包んでくれた
まっすぐに見つめてくる海夜に少し笑って見せて頷く
「……ありがとう」
それしか言えなかった
「きっと会える」「いつか会える」
そう繰り返して……もう、どのくらい経つだろう
* * *
最終下校になって、家の最寄り駅から途中まで海夜と一緒に帰って
大通りの交差点でいつも通り別れた
私の家があるのは、一軒家が並び立つ住宅街
「ただいまー」
鍵を開けて入った玄関から、リビングに向かって声をかける
「………」
電気ひとつ点いていない家の中
なにも音がない
物音一つしない、ただ無の空間
私だけが取り残されてしまったような気にさえなってしまう
「ご飯作んなきゃ……」
バッグを部屋に置いて、制服から着替えてリビングに降りた
両親は海外転勤で家にはいない
今日からだったんだ、忘れてた
まぁ、元から海外出張の多い人達だから、ただいまって言っても「おかえり」って帰ってきた記憶はほとんどないけど
台所に立って、冷蔵庫を開ける
しばらく食材には困らないくらいには買い足してあった
「……何作ろう」
冷蔵庫を適当に漁りながら、脳裏に浮かぶのは彼の声
──お前が作る料理なら美味いに決まってる!
あれはいつのことだったか……
結婚してすぐのことだった
厨を借りて、初めて振る舞った手料理
小十郎さんの料理を食べ慣れた成実さんが、そう言ってくれた
小十郎さんの料理には到底及ばないのに、美味しいって喜んでくれて
「成実さん……
何処にいるんですか……」
成実さん
私、あれから料理を勉強したんです
今は結構、腕に自信があるんですよ
だから……
「また……
根拠のない誉め言葉を聞かせてくださいよ……」
──小十郎のより美味いぜ?
──だってお前が作ったんだからな!
成実さん……
ぽた、と涙が零れていく
「あ……や、やだな、もう……」
慌てて手の甲で拭って、食材に手を伸ばす
今日は何を作ろう、自分の好物でも作ろうか
……そう考えるのに
浮かぶ料理は、どれも成実さんの好物で
「う……う、ぅ……っ!」
慣れていたはずの胸の痛みが、今日だけは抑えられない
「泣くなよ」って慌てたように抱き締めてくれる腕も、優しく拭き取ってくれる指も……何もない
胸にぽっかりと穴を開けた寂しさだけがあって
それを埋める方法が……分からなかった
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