第十八話 迫り来る終焉
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春が過ぎ、桜は散った
私の誕生月である五月をも通り過ぎ、蝉が声を上げ始めた
そして、その長いようで短い夏も終わった
私は生きた
生きられるのなら、また年を越そうと
その思いで、苦い薬をいくつも飲み、無理矢理にでも食事を腹に詰め込んだ
──けれど、とうとう、その時の秋
私は、起き上がることができないまでに弱ってしまった
* * *
「──夕華」
優しさを含む声がかかる
閉じていた目を開けると、成実さんがいた
その腕は春千代を抱いていて、腕の中の春千代は目を覚ましていた
成実さん譲りのくりっとした瞳が、私を見つめている
「あら……」
「連れて来ちまった」
「いいですよ
ありがとうございます」
喜多さんに背中を支えてもらって、起き上がる
本家のことが一段落したそうで、喜多さんは先月から大森城でまた働いてくれることになったのだ
成実さんから春千代を受け取りながら、ふと、うちのお転婆娘の様子が気になった
「海夜は何を……?」
「今は御前が勉学を教えてる」
「そうでしたか
どうですか、海夜の様子は?」
「勤勉だよ
えらく真面目になっちまって……
海夜が男子だったら、喜多姉が帝王学をみっちり叩き込んでる頃かもな」
「ふふ、海夜はそうはいきませんけど、学びたいと本人が言えば、それもいいかもしれませんね
それに……その役目は、春千代のためにお願いしたいところだったんです」
「まぁまぁ、それは喜ばしきこと……
もちろん、春千代さまがご成長された暁には、この喜多、人生最後の養育係を買って出る所存でございます」
「はは……こいつは頼もしいや
うちの将来は安泰だな」
成実さんの手が春千代の頭を撫でていく
その瞳が慈しみを帯びていて、私も温かい気持ちになった
成実さんが親なのだから、きっと私が居なくなっても大丈夫だ──
「春千代も、年が明けたら数えで三歳ですね」
「この間、一人で立てるようになったんだぜ」
「そうなんですか?
見たかったなぁ……」
春千代が嬉しそうに笑う
この笑顔を、私はあと何度、見ることができるんだろう
「次は歩けるようになるんですね……」
「もうちょっとかかるだろうけどな」
「ふふ、成実様に似て、立派な美丈夫となられるでしょうね」
喜多さんがそう微笑んで、私も頷く
どのように育ってくれても構わない
「この子が、真に民のことを……他人を思いやれる子に、なりますように」
「ああ、元気な子に育ってほしいな」
「成実様ほどの腕白ぶりは、望んではおりませんけれども」
「相変わらず手厳しいな、喜多姉は……」
その時、成実さんが庭先に目をやった
戦の無い世になって数年が経つけれど、成実さんの気配を読む勘は衰えてはいないようだった
「お前か……」
どこか呆れたような成実さんが、苦笑いでその人物を迎え入れる
「久しぶり、成ちゃん
それから……夕華ちゃん」
「……佐助さん」
佐助さんは、私を見た途端に悲しそうに微笑んだ
「お久しぶりです
今日はどうしたんですか?」
「ちょいと真田の旦那のお使いで、仙台まで行ってきたんだ
竜の旦那が天下を統一してから、もうすぐ五年だろ?
だからそれを記念して、一戦交えないかってさ」
「蒼紅の決闘ですか?
楽しそうですね」
「そいつは俺も聞いてる
ただ、死ぬのはまずいから、木刀と木の槍で妥協させるのが大変だったって、この間こっちに顔を出した留守が呻いてた」
「ええ、呻いておられましたわね」
「うんうん、今もまだ呻いてる」
「留守さん……
ふふ、本家の皆さんも、本当にお変わりないようで、嬉しいです」
「……夕華ちゃん、随分痩せたね……」
佐助さんの呟きに、私は苦笑いを浮かべた
「会う人全員に言われます」
「あれだけ健康だったのに、手首だってこんなに細くなって」
「佐助」
成実さんが静かに名前を呼ぶと、佐助さんは私の手を離して「ごめんね」と呟いた
それに首を振って微笑む
佐助さんは悪いことをしていない
誰だって、知っている人がこんなに衰えていたら、現実を受け入れたくないと思ってしまうものだ
「佐助さんは、まだあちこちを飛び回っておられるんですよね?」
「そうなんだよね……
俺様もさ、竜の旦那が天下を取ったから、少しはのんびりできるんじゃないかなって思ってたんだけどさ……
戦が無いとなると、うちの旦那がどうにも熱量を持て余しちゃったみたいで、もう毎日鍛練の相手をさせられてるよ」
「あー、まぁ幸村はじっとするのは苦手だろうしなぁ……」
「アンタたち伊達の人間と一緒にしないでほしいね」
「はぁ?
似たようなもんだろうが!」
「うちの旦那は誰に対しても無暗矢鱈と喧嘩は買わないからさぁ」
「んだとコラァ!
喧嘩売ってんのか!?
買うぞこの野郎!」
「そういうところでございましょうに」
喜多さんのぐうの音も出ない一言に、成実さんが「ぐっ!」と唸って、立ち上がりかけた膝を戻す
何度も見たようなやり取りに、「やっぱりこの二人も変わってほしくないな」と思いながら、私も久しぶりに声を上げて笑った
私の誕生月である五月をも通り過ぎ、蝉が声を上げ始めた
そして、その長いようで短い夏も終わった
私は生きた
生きられるのなら、また年を越そうと
その思いで、苦い薬をいくつも飲み、無理矢理にでも食事を腹に詰め込んだ
──けれど、とうとう、その時の秋
私は、起き上がることができないまでに弱ってしまった
* * *
「──夕華」
優しさを含む声がかかる
閉じていた目を開けると、成実さんがいた
その腕は春千代を抱いていて、腕の中の春千代は目を覚ましていた
成実さん譲りのくりっとした瞳が、私を見つめている
「あら……」
「連れて来ちまった」
「いいですよ
ありがとうございます」
喜多さんに背中を支えてもらって、起き上がる
本家のことが一段落したそうで、喜多さんは先月から大森城でまた働いてくれることになったのだ
成実さんから春千代を受け取りながら、ふと、うちのお転婆娘の様子が気になった
「海夜は何を……?」
「今は御前が勉学を教えてる」
「そうでしたか
どうですか、海夜の様子は?」
「勤勉だよ
えらく真面目になっちまって……
海夜が男子だったら、喜多姉が帝王学をみっちり叩き込んでる頃かもな」
「ふふ、海夜はそうはいきませんけど、学びたいと本人が言えば、それもいいかもしれませんね
それに……その役目は、春千代のためにお願いしたいところだったんです」
「まぁまぁ、それは喜ばしきこと……
もちろん、春千代さまがご成長された暁には、この喜多、人生最後の養育係を買って出る所存でございます」
「はは……こいつは頼もしいや
うちの将来は安泰だな」
成実さんの手が春千代の頭を撫でていく
その瞳が慈しみを帯びていて、私も温かい気持ちになった
成実さんが親なのだから、きっと私が居なくなっても大丈夫だ──
「春千代も、年が明けたら数えで三歳ですね」
「この間、一人で立てるようになったんだぜ」
「そうなんですか?
見たかったなぁ……」
春千代が嬉しそうに笑う
この笑顔を、私はあと何度、見ることができるんだろう
「次は歩けるようになるんですね……」
「もうちょっとかかるだろうけどな」
「ふふ、成実様に似て、立派な美丈夫となられるでしょうね」
喜多さんがそう微笑んで、私も頷く
どのように育ってくれても構わない
「この子が、真に民のことを……他人を思いやれる子に、なりますように」
「ああ、元気な子に育ってほしいな」
「成実様ほどの腕白ぶりは、望んではおりませんけれども」
「相変わらず手厳しいな、喜多姉は……」
その時、成実さんが庭先に目をやった
戦の無い世になって数年が経つけれど、成実さんの気配を読む勘は衰えてはいないようだった
「お前か……」
どこか呆れたような成実さんが、苦笑いでその人物を迎え入れる
「久しぶり、成ちゃん
それから……夕華ちゃん」
「……佐助さん」
佐助さんは、私を見た途端に悲しそうに微笑んだ
「お久しぶりです
今日はどうしたんですか?」
「ちょいと真田の旦那のお使いで、仙台まで行ってきたんだ
竜の旦那が天下を統一してから、もうすぐ五年だろ?
だからそれを記念して、一戦交えないかってさ」
「蒼紅の決闘ですか?
楽しそうですね」
「そいつは俺も聞いてる
ただ、死ぬのはまずいから、木刀と木の槍で妥協させるのが大変だったって、この間こっちに顔を出した留守が呻いてた」
「ええ、呻いておられましたわね」
「うんうん、今もまだ呻いてる」
「留守さん……
ふふ、本家の皆さんも、本当にお変わりないようで、嬉しいです」
「……夕華ちゃん、随分痩せたね……」
佐助さんの呟きに、私は苦笑いを浮かべた
「会う人全員に言われます」
「あれだけ健康だったのに、手首だってこんなに細くなって」
「佐助」
成実さんが静かに名前を呼ぶと、佐助さんは私の手を離して「ごめんね」と呟いた
それに首を振って微笑む
佐助さんは悪いことをしていない
誰だって、知っている人がこんなに衰えていたら、現実を受け入れたくないと思ってしまうものだ
「佐助さんは、まだあちこちを飛び回っておられるんですよね?」
「そうなんだよね……
俺様もさ、竜の旦那が天下を取ったから、少しはのんびりできるんじゃないかなって思ってたんだけどさ……
戦が無いとなると、うちの旦那がどうにも熱量を持て余しちゃったみたいで、もう毎日鍛練の相手をさせられてるよ」
「あー、まぁ幸村はじっとするのは苦手だろうしなぁ……」
「アンタたち伊達の人間と一緒にしないでほしいね」
「はぁ?
似たようなもんだろうが!」
「うちの旦那は誰に対しても無暗矢鱈と喧嘩は買わないからさぁ」
「んだとコラァ!
喧嘩売ってんのか!?
買うぞこの野郎!」
「そういうところでございましょうに」
喜多さんのぐうの音も出ない一言に、成実さんが「ぐっ!」と唸って、立ち上がりかけた膝を戻す
何度も見たようなやり取りに、「やっぱりこの二人も変わってほしくないな」と思いながら、私も久しぶりに声を上げて笑った
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