第十七話 叶えたい約束
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秋が深まり、冬の訪れを知らせていく
そんな季節の変わり目に、私は縁側に座って、木枯らしが吹く風を受けながら空を見上げていた
──先月、待望の大森伊達家嫡男が誕生した
けれどその直後、私は体力消耗に耐え切れずに倒れてしまい、ようやく目を覚ますころには、すでに夜を迎えていたほどだった
それからしばらくは寝たきりが続いたけれど、今はやっと回復して、起き上がれるようになった
「………」
自然とため息が零れてしまう
喜多さんは、今、兄様のご正室様──愛姫様のほうがご懐妊されたので、そちらの手伝いに行っている
寂しいと言えば寂しいけれど、心細さはあまり無い
本家にいる兄様や小十郎さんに綱元さん、留守さんや白石さん、時には喜多さんも、毎日のように私の快復を願う手紙を寄せてくれる
「毎日寄こさなくてもいいだろうにな」
そう言って、成実さんが苦笑いしていた
「……はぁ」
本当なら、今頃は我が子を抱き上げてあやしたり、気ままにお散歩でもしていたはずなのに
「かか様ー」
鈴を転がすような声が耳を擽る
そちらを振り向くと、もうすぐ四つになろうかという娘が、こちらに向かって駆け出してきた
「走ると転ぶわよー」
そう言った次の瞬間、ビタン!という音と共に海夜が盛大に転んだ
あーあ、どうしてこうも落ち着きのない姫に育ってしまっただろう……
まぁそこも可愛いんだけど、と立ち上がって、海夜の側へと近寄る
「ふぇ……っ」
「言わんこっちゃない……」
このお転婆め……かか様は思わず頭を抱えたくなったぞ……
「転ぶって言ったでしょ?」
「かか様ぁぁ……」
抱き上げて膝に乗せる
大きな怪我は……見たところ無さそうだ
「あちゃー、ちょっと鼻が赤くなってる
痛い?」
「う……大丈夫、です……」
「よしよし、痛いの痛いの飛んでいけー」
「大丈夫」と言う割には涙目だった海夜の鼻を触って、ぽんぽんと頭を撫でる
意地っ張りなところはどっちに似たのか……
……いや、どっちもか
「かか様は?」
「ん?」
「かか様のご病気、痛い?」
「───」
海夜の悲しそうな瞳が、私を真っ直ぐに見上げてくる
その小さな身体を……私は、思わず抱き締めていた
こんな小さな子にも心配をかけちゃってるんだな……
「ごめんね」と、謝りたかった
「……痛くないよ
かか様は大丈夫、ね?」
うん、と頷いて、海夜が抱きついてくる
そっと頬を寄せて目を閉じる
(ごめんね、海夜、ごめんなさい)
あなたに何も遺してあげられない、不甲斐ない母を許してほしい
私が出産を終えたあたりから、海夜はこうして甘えてくることが多くなった
「ちょっと早い、父親離れ?」なんて言ってみたら、成実さんが結構傷ついた顔をしていて笑ったけど
「春はー?」
「春千代はまだ寝てるわ」
「えー、春はいつも寝てるの?」
「うーん、いつもっていう訳じゃないけど
そうね、今度は起きてる時に海夜を呼んであげる」
「手習いの時でも?」
「……一回だけなら、ね
たぶん原田御前様も許してくれるよ」
いつの間にか大森家臣団は、原田さんの奥さんのことを"原田御前"と呼び出していた
どうせならということで、私たち夫婦も今はその名前で呼んでいる
「海夜、その御前様はどうしたの?」
「あ、そうでした!
御前様に、かか様をお呼びするようにって言われてたんです」
「あら」
なるほど、それで急ごうとして、盛大に素っ転んだ、と……
「御前様はどこにいるの?」
「かか様のお部屋に、お菓子を持っていきました!
政宗のおじ様が持ってきてくださったんです!」
「……兄様が?」
それじゃあ、兄様も大森にまだいらっしゃるんじゃ……?
慌てて立ち上がった瞬間、目の前がぐらりと揺れた
咄嗟に柱に捕まろうと伸ばした手が、誰かに掴まれる
「おい……あれほど無理はするなと言っておいたのは、もう忘れたか?」
「え、あ……っ、に──」
「ったく、少し目を離せばこれだ
兄である俺の寿命を縮めたいらしいな?」
倒れそうになる身体を引き寄せて支えてくれたのは、なんと天下人様
恐る恐る見上げた先の隻眼は、全く笑っていなかった
「に、兄様……ご無沙汰しております……
息災のようで……」
「御前がお前を待ってる、さっさと行くぞ」
「あ、はい……!
すみません、海夜を連れてすぐに……」
「おい、小十郎」
「はっ」
唐突に発せられた名前と、同じく唐突に降ってきた声で、心臓が危うく一回転するところだった
まったく気配を感じなかったんだけど、小十郎さんはいつからここに居たのか
「さ、海夜様、参りますよ」
「小十郎!」
海夜を抱き上げた小十郎さんの眼差しの優しいこと……
これは、あれだ、既視感があるぞ
「……父性が芽生えてますね、小十郎さん」
「どこぞの甲斐性無しよりよっぽどな」
「もうその呼び方はやめてあげてください……」
何か?と言うような視線に兄妹で揃って首を振って、私の部屋を目指す
優しく肩を支えてくれる兄様の手のひら
……今だけは、甘えてしまっても許されるような気がした
そんな季節の変わり目に、私は縁側に座って、木枯らしが吹く風を受けながら空を見上げていた
──先月、待望の大森伊達家嫡男が誕生した
けれどその直後、私は体力消耗に耐え切れずに倒れてしまい、ようやく目を覚ますころには、すでに夜を迎えていたほどだった
それからしばらくは寝たきりが続いたけれど、今はやっと回復して、起き上がれるようになった
「………」
自然とため息が零れてしまう
喜多さんは、今、兄様のご正室様──愛姫様のほうがご懐妊されたので、そちらの手伝いに行っている
寂しいと言えば寂しいけれど、心細さはあまり無い
本家にいる兄様や小十郎さんに綱元さん、留守さんや白石さん、時には喜多さんも、毎日のように私の快復を願う手紙を寄せてくれる
「毎日寄こさなくてもいいだろうにな」
そう言って、成実さんが苦笑いしていた
「……はぁ」
本当なら、今頃は我が子を抱き上げてあやしたり、気ままにお散歩でもしていたはずなのに
「かか様ー」
鈴を転がすような声が耳を擽る
そちらを振り向くと、もうすぐ四つになろうかという娘が、こちらに向かって駆け出してきた
「走ると転ぶわよー」
そう言った次の瞬間、ビタン!という音と共に海夜が盛大に転んだ
あーあ、どうしてこうも落ち着きのない姫に育ってしまっただろう……
まぁそこも可愛いんだけど、と立ち上がって、海夜の側へと近寄る
「ふぇ……っ」
「言わんこっちゃない……」
このお転婆め……かか様は思わず頭を抱えたくなったぞ……
「転ぶって言ったでしょ?」
「かか様ぁぁ……」
抱き上げて膝に乗せる
大きな怪我は……見たところ無さそうだ
「あちゃー、ちょっと鼻が赤くなってる
痛い?」
「う……大丈夫、です……」
「よしよし、痛いの痛いの飛んでいけー」
「大丈夫」と言う割には涙目だった海夜の鼻を触って、ぽんぽんと頭を撫でる
意地っ張りなところはどっちに似たのか……
……いや、どっちもか
「かか様は?」
「ん?」
「かか様のご病気、痛い?」
「───」
海夜の悲しそうな瞳が、私を真っ直ぐに見上げてくる
その小さな身体を……私は、思わず抱き締めていた
こんな小さな子にも心配をかけちゃってるんだな……
「ごめんね」と、謝りたかった
「……痛くないよ
かか様は大丈夫、ね?」
うん、と頷いて、海夜が抱きついてくる
そっと頬を寄せて目を閉じる
(ごめんね、海夜、ごめんなさい)
あなたに何も遺してあげられない、不甲斐ない母を許してほしい
私が出産を終えたあたりから、海夜はこうして甘えてくることが多くなった
「ちょっと早い、父親離れ?」なんて言ってみたら、成実さんが結構傷ついた顔をしていて笑ったけど
「春はー?」
「春千代はまだ寝てるわ」
「えー、春はいつも寝てるの?」
「うーん、いつもっていう訳じゃないけど
そうね、今度は起きてる時に海夜を呼んであげる」
「手習いの時でも?」
「……一回だけなら、ね
たぶん原田御前様も許してくれるよ」
いつの間にか大森家臣団は、原田さんの奥さんのことを"原田御前"と呼び出していた
どうせならということで、私たち夫婦も今はその名前で呼んでいる
「海夜、その御前様はどうしたの?」
「あ、そうでした!
御前様に、かか様をお呼びするようにって言われてたんです」
「あら」
なるほど、それで急ごうとして、盛大に素っ転んだ、と……
「御前様はどこにいるの?」
「かか様のお部屋に、お菓子を持っていきました!
政宗のおじ様が持ってきてくださったんです!」
「……兄様が?」
それじゃあ、兄様も大森にまだいらっしゃるんじゃ……?
慌てて立ち上がった瞬間、目の前がぐらりと揺れた
咄嗟に柱に捕まろうと伸ばした手が、誰かに掴まれる
「おい……あれほど無理はするなと言っておいたのは、もう忘れたか?」
「え、あ……っ、に──」
「ったく、少し目を離せばこれだ
兄である俺の寿命を縮めたいらしいな?」
倒れそうになる身体を引き寄せて支えてくれたのは、なんと天下人様
恐る恐る見上げた先の隻眼は、全く笑っていなかった
「に、兄様……ご無沙汰しております……
息災のようで……」
「御前がお前を待ってる、さっさと行くぞ」
「あ、はい……!
すみません、海夜を連れてすぐに……」
「おい、小十郎」
「はっ」
唐突に発せられた名前と、同じく唐突に降ってきた声で、心臓が危うく一回転するところだった
まったく気配を感じなかったんだけど、小十郎さんはいつからここに居たのか
「さ、海夜様、参りますよ」
「小十郎!」
海夜を抱き上げた小十郎さんの眼差しの優しいこと……
これは、あれだ、既視感があるぞ
「……父性が芽生えてますね、小十郎さん」
「どこぞの甲斐性無しよりよっぽどな」
「もうその呼び方はやめてあげてください……」
何か?と言うような視線に兄妹で揃って首を振って、私の部屋を目指す
優しく肩を支えてくれる兄様の手のひら
……今だけは、甘えてしまっても許されるような気がした
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