第十五話 語られる過去
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病室に成実さんが駆け込んできてから一時間
やっぱり、積もる話もいっぱいあるわけで
「……成実さんも、やっぱり若い頃の記憶の方が強いんですね」
「みたいだな
歳とってからのことも、覚えてるっちゃあ覚えてるけど、虫食いみたいにあやふやだ
言われてパッとはっきり思い出せるのは、やっぱお前と一緒だった頃だな
……っつーか、その時期ほど激動だった時期もねぇしな……」
「確かに、いろんなことがありましたからね……」
成実さんとの会話は、昔と何も変わらないテンポで弾んだ
お互いの会話の間だって昔のまま、考え込む仕草まで同じなんだから、ちょっと笑ってしまう
ともあれ、久々に"夫婦"としての会話もできたし、これからは成実さんとの関係も一旦リセットだ
何が変わるわけでもないかもしれないけど、一応はちゃんと線引きもしないとね
「──あ、そうだ
竹中……じゃなくて、石田から伝言預かってた」
「え?」
「昨日、面会時間終了ギリギリになって駆けこんできやがったんだよ」
「そうだったんですか……」
結局、賭けには私が勝ったことにはなるのか
……よく勝てたな、本当に……
「石田の奴は……そうだな、もうお前の前に現れることはないだろうってさ」
「……ううん、それはどうでしょう……?
石田三成が海夜と結ばれる可能性も、完全に無いわけではないですし……
そうなった場合、間違いなく私と石田三成は顔を合わせることになりますね……」
「……それ関連で、こっちは竹中から」
は、と思わず息を呑んでしまった
そうだ──賭けに勝ったとはいえ、竹中半兵衛は私を欲していた
それこそ、あれほどの脅しをかけるほどに
「何を言われたかは知らねぇけど、安心していいと思う」
「えっ……」
「竹中は、お前のことを諦めた」
「そう……ですか……」
張り詰めていた息を漏らす
良かった……これで、私も、お父さんとお母さんも……
「……つーか、俺が思い出さなかったらどうするつもりだったんだ?」
私と竹中半兵衛との間でのやり取りは、成実さんに筒抜けらしい
おそらく、竹中半兵衛との賭けの話までばっちり把握しているのだろう
「それがその……特に何も考えてなくて……」
「……っはぁぁあ!?」
「だ、だって!
どう頑張ったって、私が竹中さんと対等に渡り合うなんて無理ですよ!
だからとっさに思い付いたのがこの方法しかなかったんです!」
「お前……っ!!」
立ち上がった成実さんが、やり場のない怒りやら呆れやらで眉間にしわを寄せた
そんな表情は初めて見るなぁと思うと、まだまだ私の知らない成実さんがいるなぁ、ということに気付いて嬉しくなる
「いいじゃないですか、成実さんも思い出してくれたんですし
終わりよければってやつですよ──あいたっ!」
「この無鉄砲!
向う見ずなところはそのまんまか、うちのお転婆姫は!!」
「うわぁぁん!
すいません!!」
分かってたけどさ!
やっぱ成実さん怒るよね!
当然か……これが逆だったら、私だって大激怒するものな……
「ったく……
まぁ、信じてくれてたのは嬉しかったけどよ」
「えっ」
「でも頼むから、次はそんなことしないでさ、素直に俺たちを頼ってくれよな
縁が遠くても俺たちは親戚同士だろ?
梵の親父さんなら、絶対に力を貸してくれたんだからさ」
「……はい」
「ん、素直でよし」
ポンポンと頭を撫でて、成実さんがふわりと微笑む
その瞳がどこまでも優しい色で、心臓が甘く音を立てた
なんだか、柄にもなくドキドキするなぁ……
前世じゃ行くとこまで行ってるのに
「……竹中から聞いたよ
お前、"記憶"があるんだってな」
「……あ!」
「な、何だ?」
「そうですよ、それです!」
「……何が?」
そうだった、竹中半兵衛とのあれやこれやで、大事なことを忘れていた
成実さんが記憶を取り戻したのなら、話は早い
「実は、私の記憶は完全なものじゃないんです」
「……は?」
「"陰日向の氷竜"……
そう呼ばれていた頃のこと、覚えてますか?」
「そりゃもちろん……
前世での天下を統一した後の俺の通り名だし」
「その意味は?」
「裏で支えたり、表に立ったりして、色々と援助すること
梵を支えてきた俺に対して、民が敬慕の情を込めて付けてくれた名前だ」
そこまで言って、成実さんがハッとした表情になって私を見つめた
「完全じゃないって、お前……」
「……それからの記憶が、ないんです」
「え……?」
「いつかの日、成実さんが教えてくれましたよね
成実さんが、陰日向の氷竜って呼ばれてる……って」
「覚えてる……
海夜が手習いは嫌だって駄々をこねて、それを御前が連れ戻して──」
成実さんの声が震えていく
私の手を握る彼の手までもが震えていた
「なんで、お前……そんな、そんなこと」
「教えてください、成実さん
私は……私はどうなったんですか?
夢の中じゃ、私は弱り切って……成実さんを泣かせてばかりで……!」
「夢の中でって……
前に俺が聞いた時は、お前はそういうのは無いって……」
「……カフェで会ったときは、まだ成実さんは記憶がなかったから、言わない方がいいと思ったんです」
記憶が無いのに、全く同じ夢を見るなんて、成実さんの言葉を借りるなら正しく「ホラー」だ
他人と全く同じ夢──視点こそ違うけれど、全く同じ内容の夢を見るなんて、普通に考えて有り得ない
だからこそ、あの時の私は、嘘をついてでも成実さんに怪しまれない方を選んだ
「でも、今のあなたになら正直に言えます
お願いします……つらいことだとは分かっています
でも、教えて欲しいんです
私があの後どうなったのか……全部、教えてください」
「………」
力なく項垂れた成実さんは、のろのろと椅子に座り直して
「本当に……話すのか……?」
悲しげな光を瞳に宿して、そう呟いた
それだけで、私の最期が最悪の形だったのだと分かる
きっと──誰もが望まない最期だったんだろう
「知らないままじゃ、駄目なのか……?」
……それでも、私は知りたい
知らなきゃいけない
「……どんな結果も受け止めます
たとえそれがどんな結末だったとしても、それは全部、私がたどった道だから」
成実さんはもう一度俯いて、重苦しく息を吐いた
「……正直、思い出すだけでも苦しいんだ」
「………」
「長い年月をかけて、俺の中で折り合いをつけられたもんだと思ってたんだけどな……
……やっぱり駄目だったみたいだ」
「成実さ──」
「でも、うん……分かったよ、他ならねぇお前の頼みだもんな
……全部話すよ
あの日から、お前が死ぬその瞬間まで、全部……」
そう言って
成実さんは訥々と語りだした
──あの時代の、私の軌跡を
やっぱり、積もる話もいっぱいあるわけで
「……成実さんも、やっぱり若い頃の記憶の方が強いんですね」
「みたいだな
歳とってからのことも、覚えてるっちゃあ覚えてるけど、虫食いみたいにあやふやだ
言われてパッとはっきり思い出せるのは、やっぱお前と一緒だった頃だな
……っつーか、その時期ほど激動だった時期もねぇしな……」
「確かに、いろんなことがありましたからね……」
成実さんとの会話は、昔と何も変わらないテンポで弾んだ
お互いの会話の間だって昔のまま、考え込む仕草まで同じなんだから、ちょっと笑ってしまう
ともあれ、久々に"夫婦"としての会話もできたし、これからは成実さんとの関係も一旦リセットだ
何が変わるわけでもないかもしれないけど、一応はちゃんと線引きもしないとね
「──あ、そうだ
竹中……じゃなくて、石田から伝言預かってた」
「え?」
「昨日、面会時間終了ギリギリになって駆けこんできやがったんだよ」
「そうだったんですか……」
結局、賭けには私が勝ったことにはなるのか
……よく勝てたな、本当に……
「石田の奴は……そうだな、もうお前の前に現れることはないだろうってさ」
「……ううん、それはどうでしょう……?
石田三成が海夜と結ばれる可能性も、完全に無いわけではないですし……
そうなった場合、間違いなく私と石田三成は顔を合わせることになりますね……」
「……それ関連で、こっちは竹中から」
は、と思わず息を呑んでしまった
そうだ──賭けに勝ったとはいえ、竹中半兵衛は私を欲していた
それこそ、あれほどの脅しをかけるほどに
「何を言われたかは知らねぇけど、安心していいと思う」
「えっ……」
「竹中は、お前のことを諦めた」
「そう……ですか……」
張り詰めていた息を漏らす
良かった……これで、私も、お父さんとお母さんも……
「……つーか、俺が思い出さなかったらどうするつもりだったんだ?」
私と竹中半兵衛との間でのやり取りは、成実さんに筒抜けらしい
おそらく、竹中半兵衛との賭けの話までばっちり把握しているのだろう
「それがその……特に何も考えてなくて……」
「……っはぁぁあ!?」
「だ、だって!
どう頑張ったって、私が竹中さんと対等に渡り合うなんて無理ですよ!
だからとっさに思い付いたのがこの方法しかなかったんです!」
「お前……っ!!」
立ち上がった成実さんが、やり場のない怒りやら呆れやらで眉間にしわを寄せた
そんな表情は初めて見るなぁと思うと、まだまだ私の知らない成実さんがいるなぁ、ということに気付いて嬉しくなる
「いいじゃないですか、成実さんも思い出してくれたんですし
終わりよければってやつですよ──あいたっ!」
「この無鉄砲!
向う見ずなところはそのまんまか、うちのお転婆姫は!!」
「うわぁぁん!
すいません!!」
分かってたけどさ!
やっぱ成実さん怒るよね!
当然か……これが逆だったら、私だって大激怒するものな……
「ったく……
まぁ、信じてくれてたのは嬉しかったけどよ」
「えっ」
「でも頼むから、次はそんなことしないでさ、素直に俺たちを頼ってくれよな
縁が遠くても俺たちは親戚同士だろ?
梵の親父さんなら、絶対に力を貸してくれたんだからさ」
「……はい」
「ん、素直でよし」
ポンポンと頭を撫でて、成実さんがふわりと微笑む
その瞳がどこまでも優しい色で、心臓が甘く音を立てた
なんだか、柄にもなくドキドキするなぁ……
前世じゃ行くとこまで行ってるのに
「……竹中から聞いたよ
お前、"記憶"があるんだってな」
「……あ!」
「な、何だ?」
「そうですよ、それです!」
「……何が?」
そうだった、竹中半兵衛とのあれやこれやで、大事なことを忘れていた
成実さんが記憶を取り戻したのなら、話は早い
「実は、私の記憶は完全なものじゃないんです」
「……は?」
「"陰日向の氷竜"……
そう呼ばれていた頃のこと、覚えてますか?」
「そりゃもちろん……
前世での天下を統一した後の俺の通り名だし」
「その意味は?」
「裏で支えたり、表に立ったりして、色々と援助すること
梵を支えてきた俺に対して、民が敬慕の情を込めて付けてくれた名前だ」
そこまで言って、成実さんがハッとした表情になって私を見つめた
「完全じゃないって、お前……」
「……それからの記憶が、ないんです」
「え……?」
「いつかの日、成実さんが教えてくれましたよね
成実さんが、陰日向の氷竜って呼ばれてる……って」
「覚えてる……
海夜が手習いは嫌だって駄々をこねて、それを御前が連れ戻して──」
成実さんの声が震えていく
私の手を握る彼の手までもが震えていた
「なんで、お前……そんな、そんなこと」
「教えてください、成実さん
私は……私はどうなったんですか?
夢の中じゃ、私は弱り切って……成実さんを泣かせてばかりで……!」
「夢の中でって……
前に俺が聞いた時は、お前はそういうのは無いって……」
「……カフェで会ったときは、まだ成実さんは記憶がなかったから、言わない方がいいと思ったんです」
記憶が無いのに、全く同じ夢を見るなんて、成実さんの言葉を借りるなら正しく「ホラー」だ
他人と全く同じ夢──視点こそ違うけれど、全く同じ内容の夢を見るなんて、普通に考えて有り得ない
だからこそ、あの時の私は、嘘をついてでも成実さんに怪しまれない方を選んだ
「でも、今のあなたになら正直に言えます
お願いします……つらいことだとは分かっています
でも、教えて欲しいんです
私があの後どうなったのか……全部、教えてください」
「………」
力なく項垂れた成実さんは、のろのろと椅子に座り直して
「本当に……話すのか……?」
悲しげな光を瞳に宿して、そう呟いた
それだけで、私の最期が最悪の形だったのだと分かる
きっと──誰もが望まない最期だったんだろう
「知らないままじゃ、駄目なのか……?」
……それでも、私は知りたい
知らなきゃいけない
「……どんな結果も受け止めます
たとえそれがどんな結末だったとしても、それは全部、私がたどった道だから」
成実さんはもう一度俯いて、重苦しく息を吐いた
「……正直、思い出すだけでも苦しいんだ」
「………」
「長い年月をかけて、俺の中で折り合いをつけられたもんだと思ってたんだけどな……
……やっぱり駄目だったみたいだ」
「成実さ──」
「でも、うん……分かったよ、他ならねぇお前の頼みだもんな
……全部話すよ
あの日から、お前が死ぬその瞬間まで、全部……」
そう言って
成実さんは訥々と語りだした
──あの時代の、私の軌跡を
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