真っ赤な愛にくちづけ
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春休みに入ってからの初めての日曜日。ブン太の部活が休みの日に、遊園地に遊びに行こうと誘われた。
遊びに行った事は何回かあるけど、ブン太の部活もあって少しの時間しか遊べなかった。だから今日はがっつり遊ぶぞ!なんていつも以上に気合いを入れて、彼が家に来るのを待っているところだった。
全身鏡に映ったわたしのガッツポーズが見えたと同時に、インターホンが部屋の中に響く。わたしは慌ててバッグを手に取ると、ブン太が待つであろう外へと急いだ。
「お、お待たせ!」
「おう、おはよー」
こんなに緊張してしまうのも、きっと行きのバスの中でだけ。遊園地に着いたらブン太はきっとキラキラと目を輝かせるんだろう。それこそ、子供みたいに。
わたしの予想は百点満点、隣にいるブン太はうずうずと湧き上がる気持ちを押さえられない様子だった。仕舞いにはわたしの腕を引っ張って、入場券販売のもとへと向かった。
「ほら、早く行くぞ!」
「ま、待って、ブン太!」
興奮気味のブン太が買ったものはもちろんフリーパスで、わたしにも手渡される。ああ、やっぱり一番最初に乗るのはきっと…。
「やっぱ最初はあれ、だよな?」
「う、うん」
ジェットコースター。ブン太には何も言っていないけれど、わたしは絶叫系がどうも苦手で。食わず嫌いとも言える乗らず嫌いだけれど。わたしが繋いだままのブン太の手をぎゅっと握って精一杯笑ってみせると、ブン太も嬉しそうに笑った。怖いけれど、この笑顔を壊したくはない。
すぐにわたしたちの番はまわってきて、スタッフさんに案内される。運がいいのか悪いのか、わたしたちは一番前の席だった。ブン太はとっても嬉しそう。目が合ってにこっと笑ったわたしの顔はきっと引き攣っていたに違いない。だけどただ、乗ったことがないだけで本当はとっても楽しい乗り物なのかもしれない。そう自分を奮い立たせて安全バーをぎゅっと握った。
「すげえ楽しかった!もう一回乗ろうぜい!」
「うん!あ、あれ…?」
わたしにとっては長く感じた時間が過ぎて、だけどブン太はすっきりした様子。案外いけるものかもしれない。そう思いながらわたしに向かって伸ばされた掌を掴もうとすると、ぐらりと視界が歪んだ。霞んでいく視界の中、最後に見えたブン太の表情は、目を見開いて驚いていた。
*
額にじんわりと冷たさを感じて、ゆっくりと目を開けると、目に入ったのは真っ白な天井と、ブン太の顔。ブン太はタオルを水に濡らせて絞ることに夢中で目を覚ましたわたしには気がついてないようす。今わたしが枕にしているのはブン太の膝。恥ずかしくて嬉しかったけれど、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「ブン太」
「あ、気がついたのか?良かった…」
「ここは…?」
「あー…ここは医務室」
いきなり声が聞こえて驚いたのか、丁寧に畳まれた濡れたタオルが額に当てられた。瞼にも行き届いて、なんだか気持ち良い。
「…なんで言わなかったんだよ?」
「だ、だって…」
ブン太が大好きな乗り物はわたしも好きになりたいんだもん。額に乗せられたタオルに隠れた目頭から、じわりと涙が浮かんだ。迷惑かけたいわけじゃなかったんだけどな。そう考えていると、いきなり薄暗かった視界が明るくなった。
「泣いてんのか?」
「ごめ、ね、台なしにして…」
溜息が聞こえて、呆れてしまったかもしれないとおもうと、ブン太が優しく微笑んだ。驚いて涙が止まると、ブン太の大きな片方の掌がわたしの頬を包んだ。ひんやりしていて気持ちよくて、これほどにないぐらい安心できた。そっと目を閉じると、ブン太の低い声が響いた。
「もう無理すんな。隠し事もなしな」
「うん…分かった」
視界が暗くなったと思うと、ブン太の柔らかい唇がわたしの額に優しいキスを落とした。わたしが熱いからかな?キスさえもひんやりしているように感じられた。小さく音が鳴って離れた唇、添えられたままのブン太の片手の親指で、目尻に溜まった涙を拭われた。
「…でも絶叫系乗らなかったらブン太、楽しくないでしょう?」
「バカ、お前と一緒じゃなかったら意味ねえの」
「ず、ずるいよ、ブン太…」
わたしは身体を起こすと、ブン太をぎゅっと抱きしめた。力をどれだけ入れても足りないくらい、もっともっとブン太に近付きたい。このもどかしい気持ちはどうすれば解消されるのだろう。
「お、お前、人いるだろ」
「ブン太の方からキスしたくせに」
「しー!あれは見えてねえからセーフなんだよ」
そう言いながらもブン太は優しく頭をよしよしと撫ぜて、ぎゅっと抱きしめ返してくれた。わたしは彼の体温しか知らないけれど、それで良い。この先もずっとずっと、彼のことしか知らなくて良い。
「もう体調は治ったのか?」
「うん!眠っちゃってたから、すっきりしたみたい。ごめんね、せっかくの時間無駄にしちゃって…」
「んなこと気にすんなって。これからどうする?」
「あ、わたし…乗りたいものある…」
そう。今日、わたしはブン太と観覧車に乗りたかった。定番なのかもしれないけれど、ブン太と一緒に乗ることに意味があるのだ。あんなに小さな個室に二人きりだなんて、考えただけで胸が弾むけれど。
「観覧車、乗りたいの」
「おう、良いな。ここ景色良さそうだし。じゃあ行くか」
「うん!」
わたしたちは医務室のスタッフさんたちにお礼を言うと、その場を後にした。自然と繋がる手を見つめると、思わず頬が緩む。初めは手を繋ぐだけで心臓が爆発するんじゃないかなんて思っていたけれど、当たり前のようになってきていたことがとても嬉しい。
観覧車はまだ人が少なくて、並ぶことなくスタッフさんにゴンドラの中へと案内される。ブン太が先に乗って後に続いて彼の向かい側に腰を下ろした。この場合どこに座るのが正解だったのか分からないけれど、考える間もなかった。スタッフさんに「楽しんできてね」と言ってもらえて、笑顔で手を振った。
「お前、高い所は平気なの?」
「うん、ゆっくりなら全然怖くないんだよね」
「俺も実はこういう二人きりになれる所に来たかったんだよな」
「え…?」
どういう意味?と勘繰りながら、裏声が出てしまった。それをどうにか取り返したくて一人でわたわたしていると、ブン太が小さなバッグの中から、綺麗にラッピングされた小さな袋を取り出した。
「こんなとこで渡すのも何なんだけど…」
「え?」
「これ、チョコのお返し」
「え、ええ!」
「なんだよ、お前今日ホワイトデーだって忘れてたのか?」
「忘れてた…」
ブン太とのデートに浮かれすぎて、そんなこと全然忘れていた。初めてのバレンタインだったということもあり、ホワイトデーの存在も忘れていた。チョコレートをあげた時はもしかしてお返しもらえたりするのかな…なんて思うことはあったけれど。
ブン太から、ん、と差し出された小さな袋を受け取ると、思わずじっと眺めてしまった。
「開けてみても良い?」
「おう。…気にいるか分かんねーけど」
わたしの反応にブン太も少し緊張しているみたい。お返しをもらえるというだけでこんなにも嬉しいのだから、そんなに緊張しなくてもいいのに。そう思うものの、わたし自身ラッピングを解くのに手間取ってしまっているくらいには手が震えていた。
「こ、これ…」
袋から取り出して出て来たものは、更に透明な袋に入れられていた、シルバーのハートのネックレス。ハートの右下には小さなダイヤが施されている。あまりの可愛さにわなわな震えているとブン太が不安そうにわたしの顔を伺っていた。
「ど?気に入った?」
「可愛い、すっごく可愛い!これだったらこっそり学校に着けていけるかも」
わたしが興奮して率直な意見を言うと、ブン太もほっとした様子だった。何よりブン太がわたしのことだけを考えてネックレスを選んでくれている姿を想像すると、思わず口角が上がってしまう。
「今着けても良い?」
「おう。俺がつけてやるから、こっち来いよ」
「こっち?」
ブン太は椅子の真ん中に座っていて、左右どちらも座る箇所がない。もしかして…と意味が分かったわたしの顔は茹蛸のように真っ赤になっているに違いない。
「ここ、おいで」
「で、でも…」
「ほら」
「わっ」
わたしが目を泳がせていると、急に腕を引っ張られてゴンドラが一瞬揺れる。そして辿り着いたのはブン太の足の間、彼に背を向けて座る形になった。今までで一番の密着に心臓がどくどくと波打つ。ブン太はわたしからネックレスを受け取ると、器用にわたしの首にかけて着けてくれた。
「はい、出来た」
「わあ…やっぱり可愛い」
「お前も可愛い」
わたしが自分の鎖骨あたりの長さのネックレスを手に取り見惚れていると、ブン太が後ろからわたしを抱きしめて来て思わず身体がびくっと反応した。耳から直接ブン太の声が頭に響いて、思わず目をぎゅっと瞑る。
「男が女にプレゼントするネックレスに意味があんの、知ってる?」
「え、どんな?」
「独占。はなは俺だけの、って意味」
「!」
お腹に回されている両腕がさらにきゅっと力を込められて、まるでその言葉を体現したみたいだった。わたし、こんなに幸せで良いのだろうか。
「ね、ネックレスなんかなくたって、わたしはブン太のだよ」
「それは当たり前なんだけどよ、やっぱ形としても表現したいっつーか」
「ありがとう、嬉しい」
少し体をブン太の方に向けると、頬にくちづけをした。彼はわたしの行動に不意打ちを喰らったのか、顔を真っ赤にして眉を顰めた。
「こんな狭いとこで、あんま可愛いことすんなよ」
「え…」
言葉の意味を理解出来ず、ブン太の目を見ようとしたけれど、それは叶わず唇が彼によって塞がれる。頬に手を添えられてまるで逃げられないようにしているみたいで、恥ずかしくも嬉しくなった。何度も角度を変えて繰り返されるキスは、今までで一番長く感じる。恥ずかしさにはまだまだ慣れないけれど、彼とのキスは好きだ。言葉を交わさなくても心が通じ合ってるように思えて、嬉しくなる。
「ぶ、ブン太、長いよ」
「いや、これはお前が悪い」
「何でそうなるの…」
ブン太の理不尽な言葉に戸惑いながらも、気付けばゴンドラは頂点を越えていて、少し物足りなく感じた。好きな人といる時間って、こんなにも早く経ってしまうものなんだ。そこで大事なことを思い出す。
「あ、ちょ、離れなきゃ」
「何でだよい」
「スタッフの人に見られちゃう!」
わたしが慌てて元にいた向かいの席に戻るとブン太はぶーぶーと拗ねた素振り見せていたけれど、こんな姿を人様に見られる余裕はまだない。きっと世の中には堂々と人前で触れ合っている恋人たちもいるのだろうけれど、わたしには無理だ。
とはいえ、自分から離れたものの先程までのブン太の体温がもう恋しいと思ってしまう。この気持ちがそのまま彼に伝わればいいのに。恥ずかしくでまだ自分からは伝えられないけれど。
ゴンドラはあっという間に地上に着いてしまって、スタッフさんに誘導されて外へと出た。自然と恋人繋ぎで手を繋ぐようになれたことがとても嬉しい。
「もう少ししたらショー始まるみてえだけど、見てく?」
「もちろん!わたし楽しみにしてたんだよね」
ショーに向けて、この遊園地のモチーフであるうさぎのウサ耳のカチューシャを買って、早速二人で着けてみると、ブン太があまりにも似合っていて思わず吹き出してしまった。
「あははは、ブン太可愛い!」
「…笑いすぎだろい。これ、思ってたより恥ずかしいんだけど。外して良い?」
「駄目に決まってるでしょ!」
意外にも恥ずかしがるブン太が可愛くて、慌ててスマホを取り出して写真を撮った。こっちを見たブン太が良い具合にカメラ目線になっていて、思わず頬が緩んだ。
「何撮ってんだ!」
「可愛いー!これ、待ち受けにしようかな」
「馬鹿。待ち受けにすんなら、一緒に撮ろうぜい」
「え、うわっ」
「はい、チーズ」
そう言って、わたしのスマホを撮るとわたしの肩を抱いて写真を撮ってくれた。肩を抱かれたことでの恥ずかしさもあり
、ぎこちない笑顔になってしまったけれど、初めてのツーショットに笑みが綻ぶ。
「待ち受けにする!」
「俺もしたい。あとで送っといて」
「うん!」
友達や家族にお土産も買って、ショーを楽しんでいるうちにあっという間に時間が過ぎていった。
「時間過ぎるの早かったね」
「まじ、あっという間だったなー。また来ようぜい」
「うん!」
ブン太がわたしの家まで送ってくれて、その日のデートは終わってしまった。ブン太もあっという間だったって思ってくれていたってことは、楽しんでくれてたってことだよね。その事実が嬉しくて思わずにやけてしまった。彼が見えなくなるまで見送ったあと、わたしは次のデートを楽しみにしながら、自分の家へと入っていくのだった。
遊びに行った事は何回かあるけど、ブン太の部活もあって少しの時間しか遊べなかった。だから今日はがっつり遊ぶぞ!なんていつも以上に気合いを入れて、彼が家に来るのを待っているところだった。
全身鏡に映ったわたしのガッツポーズが見えたと同時に、インターホンが部屋の中に響く。わたしは慌ててバッグを手に取ると、ブン太が待つであろう外へと急いだ。
「お、お待たせ!」
「おう、おはよー」
こんなに緊張してしまうのも、きっと行きのバスの中でだけ。遊園地に着いたらブン太はきっとキラキラと目を輝かせるんだろう。それこそ、子供みたいに。
わたしの予想は百点満点、隣にいるブン太はうずうずと湧き上がる気持ちを押さえられない様子だった。仕舞いにはわたしの腕を引っ張って、入場券販売のもとへと向かった。
「ほら、早く行くぞ!」
「ま、待って、ブン太!」
興奮気味のブン太が買ったものはもちろんフリーパスで、わたしにも手渡される。ああ、やっぱり一番最初に乗るのはきっと…。
「やっぱ最初はあれ、だよな?」
「う、うん」
ジェットコースター。ブン太には何も言っていないけれど、わたしは絶叫系がどうも苦手で。食わず嫌いとも言える乗らず嫌いだけれど。わたしが繋いだままのブン太の手をぎゅっと握って精一杯笑ってみせると、ブン太も嬉しそうに笑った。怖いけれど、この笑顔を壊したくはない。
すぐにわたしたちの番はまわってきて、スタッフさんに案内される。運がいいのか悪いのか、わたしたちは一番前の席だった。ブン太はとっても嬉しそう。目が合ってにこっと笑ったわたしの顔はきっと引き攣っていたに違いない。だけどただ、乗ったことがないだけで本当はとっても楽しい乗り物なのかもしれない。そう自分を奮い立たせて安全バーをぎゅっと握った。
「すげえ楽しかった!もう一回乗ろうぜい!」
「うん!あ、あれ…?」
わたしにとっては長く感じた時間が過ぎて、だけどブン太はすっきりした様子。案外いけるものかもしれない。そう思いながらわたしに向かって伸ばされた掌を掴もうとすると、ぐらりと視界が歪んだ。霞んでいく視界の中、最後に見えたブン太の表情は、目を見開いて驚いていた。
*
額にじんわりと冷たさを感じて、ゆっくりと目を開けると、目に入ったのは真っ白な天井と、ブン太の顔。ブン太はタオルを水に濡らせて絞ることに夢中で目を覚ましたわたしには気がついてないようす。今わたしが枕にしているのはブン太の膝。恥ずかしくて嬉しかったけれど、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「ブン太」
「あ、気がついたのか?良かった…」
「ここは…?」
「あー…ここは医務室」
いきなり声が聞こえて驚いたのか、丁寧に畳まれた濡れたタオルが額に当てられた。瞼にも行き届いて、なんだか気持ち良い。
「…なんで言わなかったんだよ?」
「だ、だって…」
ブン太が大好きな乗り物はわたしも好きになりたいんだもん。額に乗せられたタオルに隠れた目頭から、じわりと涙が浮かんだ。迷惑かけたいわけじゃなかったんだけどな。そう考えていると、いきなり薄暗かった視界が明るくなった。
「泣いてんのか?」
「ごめ、ね、台なしにして…」
溜息が聞こえて、呆れてしまったかもしれないとおもうと、ブン太が優しく微笑んだ。驚いて涙が止まると、ブン太の大きな片方の掌がわたしの頬を包んだ。ひんやりしていて気持ちよくて、これほどにないぐらい安心できた。そっと目を閉じると、ブン太の低い声が響いた。
「もう無理すんな。隠し事もなしな」
「うん…分かった」
視界が暗くなったと思うと、ブン太の柔らかい唇がわたしの額に優しいキスを落とした。わたしが熱いからかな?キスさえもひんやりしているように感じられた。小さく音が鳴って離れた唇、添えられたままのブン太の片手の親指で、目尻に溜まった涙を拭われた。
「…でも絶叫系乗らなかったらブン太、楽しくないでしょう?」
「バカ、お前と一緒じゃなかったら意味ねえの」
「ず、ずるいよ、ブン太…」
わたしは身体を起こすと、ブン太をぎゅっと抱きしめた。力をどれだけ入れても足りないくらい、もっともっとブン太に近付きたい。このもどかしい気持ちはどうすれば解消されるのだろう。
「お、お前、人いるだろ」
「ブン太の方からキスしたくせに」
「しー!あれは見えてねえからセーフなんだよ」
そう言いながらもブン太は優しく頭をよしよしと撫ぜて、ぎゅっと抱きしめ返してくれた。わたしは彼の体温しか知らないけれど、それで良い。この先もずっとずっと、彼のことしか知らなくて良い。
「もう体調は治ったのか?」
「うん!眠っちゃってたから、すっきりしたみたい。ごめんね、せっかくの時間無駄にしちゃって…」
「んなこと気にすんなって。これからどうする?」
「あ、わたし…乗りたいものある…」
そう。今日、わたしはブン太と観覧車に乗りたかった。定番なのかもしれないけれど、ブン太と一緒に乗ることに意味があるのだ。あんなに小さな個室に二人きりだなんて、考えただけで胸が弾むけれど。
「観覧車、乗りたいの」
「おう、良いな。ここ景色良さそうだし。じゃあ行くか」
「うん!」
わたしたちは医務室のスタッフさんたちにお礼を言うと、その場を後にした。自然と繋がる手を見つめると、思わず頬が緩む。初めは手を繋ぐだけで心臓が爆発するんじゃないかなんて思っていたけれど、当たり前のようになってきていたことがとても嬉しい。
観覧車はまだ人が少なくて、並ぶことなくスタッフさんにゴンドラの中へと案内される。ブン太が先に乗って後に続いて彼の向かい側に腰を下ろした。この場合どこに座るのが正解だったのか分からないけれど、考える間もなかった。スタッフさんに「楽しんできてね」と言ってもらえて、笑顔で手を振った。
「お前、高い所は平気なの?」
「うん、ゆっくりなら全然怖くないんだよね」
「俺も実はこういう二人きりになれる所に来たかったんだよな」
「え…?」
どういう意味?と勘繰りながら、裏声が出てしまった。それをどうにか取り返したくて一人でわたわたしていると、ブン太が小さなバッグの中から、綺麗にラッピングされた小さな袋を取り出した。
「こんなとこで渡すのも何なんだけど…」
「え?」
「これ、チョコのお返し」
「え、ええ!」
「なんだよ、お前今日ホワイトデーだって忘れてたのか?」
「忘れてた…」
ブン太とのデートに浮かれすぎて、そんなこと全然忘れていた。初めてのバレンタインだったということもあり、ホワイトデーの存在も忘れていた。チョコレートをあげた時はもしかしてお返しもらえたりするのかな…なんて思うことはあったけれど。
ブン太から、ん、と差し出された小さな袋を受け取ると、思わずじっと眺めてしまった。
「開けてみても良い?」
「おう。…気にいるか分かんねーけど」
わたしの反応にブン太も少し緊張しているみたい。お返しをもらえるというだけでこんなにも嬉しいのだから、そんなに緊張しなくてもいいのに。そう思うものの、わたし自身ラッピングを解くのに手間取ってしまっているくらいには手が震えていた。
「こ、これ…」
袋から取り出して出て来たものは、更に透明な袋に入れられていた、シルバーのハートのネックレス。ハートの右下には小さなダイヤが施されている。あまりの可愛さにわなわな震えているとブン太が不安そうにわたしの顔を伺っていた。
「ど?気に入った?」
「可愛い、すっごく可愛い!これだったらこっそり学校に着けていけるかも」
わたしが興奮して率直な意見を言うと、ブン太もほっとした様子だった。何よりブン太がわたしのことだけを考えてネックレスを選んでくれている姿を想像すると、思わず口角が上がってしまう。
「今着けても良い?」
「おう。俺がつけてやるから、こっち来いよ」
「こっち?」
ブン太は椅子の真ん中に座っていて、左右どちらも座る箇所がない。もしかして…と意味が分かったわたしの顔は茹蛸のように真っ赤になっているに違いない。
「ここ、おいで」
「で、でも…」
「ほら」
「わっ」
わたしが目を泳がせていると、急に腕を引っ張られてゴンドラが一瞬揺れる。そして辿り着いたのはブン太の足の間、彼に背を向けて座る形になった。今までで一番の密着に心臓がどくどくと波打つ。ブン太はわたしからネックレスを受け取ると、器用にわたしの首にかけて着けてくれた。
「はい、出来た」
「わあ…やっぱり可愛い」
「お前も可愛い」
わたしが自分の鎖骨あたりの長さのネックレスを手に取り見惚れていると、ブン太が後ろからわたしを抱きしめて来て思わず身体がびくっと反応した。耳から直接ブン太の声が頭に響いて、思わず目をぎゅっと瞑る。
「男が女にプレゼントするネックレスに意味があんの、知ってる?」
「え、どんな?」
「独占。はなは俺だけの、って意味」
「!」
お腹に回されている両腕がさらにきゅっと力を込められて、まるでその言葉を体現したみたいだった。わたし、こんなに幸せで良いのだろうか。
「ね、ネックレスなんかなくたって、わたしはブン太のだよ」
「それは当たり前なんだけどよ、やっぱ形としても表現したいっつーか」
「ありがとう、嬉しい」
少し体をブン太の方に向けると、頬にくちづけをした。彼はわたしの行動に不意打ちを喰らったのか、顔を真っ赤にして眉を顰めた。
「こんな狭いとこで、あんま可愛いことすんなよ」
「え…」
言葉の意味を理解出来ず、ブン太の目を見ようとしたけれど、それは叶わず唇が彼によって塞がれる。頬に手を添えられてまるで逃げられないようにしているみたいで、恥ずかしくも嬉しくなった。何度も角度を変えて繰り返されるキスは、今までで一番長く感じる。恥ずかしさにはまだまだ慣れないけれど、彼とのキスは好きだ。言葉を交わさなくても心が通じ合ってるように思えて、嬉しくなる。
「ぶ、ブン太、長いよ」
「いや、これはお前が悪い」
「何でそうなるの…」
ブン太の理不尽な言葉に戸惑いながらも、気付けばゴンドラは頂点を越えていて、少し物足りなく感じた。好きな人といる時間って、こんなにも早く経ってしまうものなんだ。そこで大事なことを思い出す。
「あ、ちょ、離れなきゃ」
「何でだよい」
「スタッフの人に見られちゃう!」
わたしが慌てて元にいた向かいの席に戻るとブン太はぶーぶーと拗ねた素振り見せていたけれど、こんな姿を人様に見られる余裕はまだない。きっと世の中には堂々と人前で触れ合っている恋人たちもいるのだろうけれど、わたしには無理だ。
とはいえ、自分から離れたものの先程までのブン太の体温がもう恋しいと思ってしまう。この気持ちがそのまま彼に伝わればいいのに。恥ずかしくでまだ自分からは伝えられないけれど。
ゴンドラはあっという間に地上に着いてしまって、スタッフさんに誘導されて外へと出た。自然と恋人繋ぎで手を繋ぐようになれたことがとても嬉しい。
「もう少ししたらショー始まるみてえだけど、見てく?」
「もちろん!わたし楽しみにしてたんだよね」
ショーに向けて、この遊園地のモチーフであるうさぎのウサ耳のカチューシャを買って、早速二人で着けてみると、ブン太があまりにも似合っていて思わず吹き出してしまった。
「あははは、ブン太可愛い!」
「…笑いすぎだろい。これ、思ってたより恥ずかしいんだけど。外して良い?」
「駄目に決まってるでしょ!」
意外にも恥ずかしがるブン太が可愛くて、慌ててスマホを取り出して写真を撮った。こっちを見たブン太が良い具合にカメラ目線になっていて、思わず頬が緩んだ。
「何撮ってんだ!」
「可愛いー!これ、待ち受けにしようかな」
「馬鹿。待ち受けにすんなら、一緒に撮ろうぜい」
「え、うわっ」
「はい、チーズ」
そう言って、わたしのスマホを撮るとわたしの肩を抱いて写真を撮ってくれた。肩を抱かれたことでの恥ずかしさもあり
、ぎこちない笑顔になってしまったけれど、初めてのツーショットに笑みが綻ぶ。
「待ち受けにする!」
「俺もしたい。あとで送っといて」
「うん!」
友達や家族にお土産も買って、ショーを楽しんでいるうちにあっという間に時間が過ぎていった。
「時間過ぎるの早かったね」
「まじ、あっという間だったなー。また来ようぜい」
「うん!」
ブン太がわたしの家まで送ってくれて、その日のデートは終わってしまった。ブン太もあっという間だったって思ってくれていたってことは、楽しんでくれてたってことだよね。その事実が嬉しくて思わずにやけてしまった。彼が見えなくなるまで見送ったあと、わたしは次のデートを楽しみにしながら、自分の家へと入っていくのだった。
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