恋模様の花冠
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「うん、みんな初日よりかなり良くなってるね」
最終日の試合は、初日に比べて全体的に弱点がカバー出来るようになっていた。お互いの学校にとってとても実のある合宿になったと思う。みんなそれぞれ最後の試合を終えて、彼ら自身も実力の違いを実感しているようだった。
ここでみんなは一度解散、汗を流して一休みしたら、帰り支度をする。
立海のみんなが、丸井くんが、もう神奈川へ帰ってしまう。
チャンスは今しかないと思って、わたしは勇気を出して部屋に戻ろうとしている丸井くんを呼び止めた。
「ま、丸井くん、ちょっと良い?」
「お、お疲れさん。どうした?」
「ちょっと話がしたいの。疲れてるのに申し訳ないんだけど…良いかな」
「ん?いいぜ。どうした?」
彼が返事をしてくれるたび、笑うたびに心臓が激しく波打つ。今まで猪突猛進で頑張ってきたつもりだったけれど、わたしの恋がこの先どうなるのか、本当は怖くてたまらなかった。もしかしたらこんなに笑ってくれるのは今日が最後になるのかもしれないと思うと、自然と手が震えて、わたしはもう片方の手でそれを支えた。
もうみんなが部屋に戻ってしまった後のテニスコートの中で、わたしたち二人は向かい合っていた。先ほどまでの賑やかな光景が嘘だったかのように、しんと静まり返っている中、意を決して口を開いた。
「わたし、丸井くんが、す、好きなの。去年の夏に丸井くんを見た時からずっと、好きだった」
震える声で伝えると、丸井くんは目をまんまるにしてそれはそれは驚いていた。当然だよね。会って間もない人間、しかも遠く離れた関西の女から告白されるなんて、いくら告白されることの多い丸井くんでも経験したことはないだろう。
思っていたよりも長い沈黙の中、居心地が悪くなってきてたじろいでいると、丸井くんがふう、と息を吐いて思わずびくりとした。
「俺、誰かを好きになったことねえから、よく分かんねえんだけど」
「…うん」
返事が返ってくると思うと、返事よりも先に涙が滲みそうになってきた。わたしの置かれた状況を思うと、なんとなく分かっている。神奈川と関西。問題は距離だけじゃない。お互いを知るにはあまりにも短い期間だった。そんな中、わたしを恋愛対象として好きになってくれているとは到底思えない。けれど、次に口を開いた丸井くんの言葉は、わたしを驚かせるには充分なものだった。
「ずっとお前のこと考えてたり離れたくないって思うのは、お前のこと好きってこと?」
丸井くんの一言一言を聞き逃さないようにしていると、紡がれる言葉は全てわたしにとって都合の良いものだらけだった。
「あの…普通に告白に聞こえるのは私の願望でしょうか」
もしかして自分の都合の良いように解釈していただけじゃないのかと喜ぶよりも先にヒヤヒヤしながら問うと、丸井くんはそっかそっか、と納得したように何度も頷いていた。
「やっぱ好きってことなのかー」
「え、ほ、本当に…?」
「昨日も無意識に抱き寄せたりして悪かったな…多分俺思うより先に身体が動くタイプだわ」
「あ、あれは確かにびっくりしたけど…」
びっくりしたけど、それ以上に嬉しかったことは恥ずかしいので言わないでおいた。それよりもわたしのことを好きと言ってくれる丸井くんのことに精一杯で思考が追いつかない。目を合わせてにかっと笑ってくれる丸井くんが、わたしを好きだと言ってくれている。その事実がわたしの視界を歪ませた。
「お、お前、泣いてんのか?」
「ご、ごめ…だって、まさかそんな風に言ってくれると思ってなくて…っ」
きっとこのまま本当の意味でお別れなのだろうと思っていたから。一度溢れ出した涙は止まることを知らず頬を濡らしていく。
丸井くんは初めは泣き出したわたしに戸惑っていたけれど、遠慮がちにそうっと抱きしめてくれた。わたしも良いのかな、なんて思いながら丸井くんの背中に小さく手を回す。このあたたかい温もりがわたしのものになるなんて、すぐには信じられなかった。
わたしが泣き止むと丸井くんはわたしからそっと離れて頭をポンポンと撫ぜてくれた。それさえも春風のように気持ちが良い。その後、わたしの両手を取って申し訳なさそうに笑った。
「遠距離になるし…絶対寂しい思いさせると思うけど、お前はそれでも良いの?」
「だ、大丈夫だよ!今までだってずっと会えるの待ってたんだから。わたし、待つのは得意だから!」
「それは俺も同じ。じゃあ、これからシクヨロ!」
「うん、こちらこそよろしくね!」
わたしたちは大切な約束を交わすように繋がったままの両手をぎゅっと握り合って笑い合う。そんなわたしたちを祝福してくれるかのように小さな風が吹いた。
*
休憩時間を終えて、あっという間にみんなが帰る時間が来てしまった。先に立海のみんなが一人一人、バスに乗り始める。丸井くんも、当然のようにバスの中に入っていってしまった。付き合えるようになったことが奇跡のようなものなのに、離れてしまうことが寂しくて仕方がなかった。
すぐに全員がバスに乗り終わってしまい、エンジンがかかる音がしてバスが徐々に動き出す。
その後すぐに、バスの窓から顔を出した丸井くんがわたしの方を向いて大きな声で叫んでくれた。
「はな、またなー!いっぱい電話するからなー!」
「私も!またねー!」
"またね"。またこの言葉が言えるなんて思いもしなかった。だんだん遠ざかっていくバスを見て当然のように視界は歪んでいくけれど、彼女になれたこんなに幸せな今、泣く必要なんてない。会えない間、丸井くんがびっくりするくらい良い女になる努力をするんだ。そう考えていればきっと、またすぐに会える日はやってくると思うから。
わたしは笑いかけてくれた彼の笑顔を思い出しながら、バスが見えなくなるまで手を振り続けていた。
・
・
・
「おい、はな」
「なぁにー」
「何ちんたらやっとんじゃ!俺はずっとポカリ待ってんやぞ!」
「あ、ごめん、謙也!ダッシュで作って来る!」
きっと今のわたしは嬉しさで頭にお花でも咲かせていたんだと思う。謙也の鬼の形相に反省しながらも、容器を持って水飲み場へと向かった。
「明日丸井が家族で旅行でここに来るらしいからな。嬉しいてしゃあないんや」
「…分かっとるわ、そんなこと」
「謙也も元気出しや」
「元気や、俺は!」
*
「あ、ブン太!」
「はな!久しぶりー!」
新幹線で新大阪駅に着いた彼は電車を降りるなり、彼の到着を待っていたわたしに抱きついて来てくれた。彼のご両親もいるのに恥ずかしい、なんて思いながらも、わたしも嬉しくて思いっきり抱きしめ返した。久しぶりの彼の体温がとても愛おしくて涙が出そうになる。
わたしたちはまだまだ子供だから、この先どうなるかなんてわたしにも、きっとブン太にも分からない。だけど今のこの、ブン太を好きな確かな気持ちを大事にしていきたい。
あの美しい花冠のように、わたしたちの恋が、幸せが、どうか永遠に続きますように。
-END-
最終日の試合は、初日に比べて全体的に弱点がカバー出来るようになっていた。お互いの学校にとってとても実のある合宿になったと思う。みんなそれぞれ最後の試合を終えて、彼ら自身も実力の違いを実感しているようだった。
ここでみんなは一度解散、汗を流して一休みしたら、帰り支度をする。
立海のみんなが、丸井くんが、もう神奈川へ帰ってしまう。
チャンスは今しかないと思って、わたしは勇気を出して部屋に戻ろうとしている丸井くんを呼び止めた。
「ま、丸井くん、ちょっと良い?」
「お、お疲れさん。どうした?」
「ちょっと話がしたいの。疲れてるのに申し訳ないんだけど…良いかな」
「ん?いいぜ。どうした?」
彼が返事をしてくれるたび、笑うたびに心臓が激しく波打つ。今まで猪突猛進で頑張ってきたつもりだったけれど、わたしの恋がこの先どうなるのか、本当は怖くてたまらなかった。もしかしたらこんなに笑ってくれるのは今日が最後になるのかもしれないと思うと、自然と手が震えて、わたしはもう片方の手でそれを支えた。
もうみんなが部屋に戻ってしまった後のテニスコートの中で、わたしたち二人は向かい合っていた。先ほどまでの賑やかな光景が嘘だったかのように、しんと静まり返っている中、意を決して口を開いた。
「わたし、丸井くんが、す、好きなの。去年の夏に丸井くんを見た時からずっと、好きだった」
震える声で伝えると、丸井くんは目をまんまるにしてそれはそれは驚いていた。当然だよね。会って間もない人間、しかも遠く離れた関西の女から告白されるなんて、いくら告白されることの多い丸井くんでも経験したことはないだろう。
思っていたよりも長い沈黙の中、居心地が悪くなってきてたじろいでいると、丸井くんがふう、と息を吐いて思わずびくりとした。
「俺、誰かを好きになったことねえから、よく分かんねえんだけど」
「…うん」
返事が返ってくると思うと、返事よりも先に涙が滲みそうになってきた。わたしの置かれた状況を思うと、なんとなく分かっている。神奈川と関西。問題は距離だけじゃない。お互いを知るにはあまりにも短い期間だった。そんな中、わたしを恋愛対象として好きになってくれているとは到底思えない。けれど、次に口を開いた丸井くんの言葉は、わたしを驚かせるには充分なものだった。
「ずっとお前のこと考えてたり離れたくないって思うのは、お前のこと好きってこと?」
丸井くんの一言一言を聞き逃さないようにしていると、紡がれる言葉は全てわたしにとって都合の良いものだらけだった。
「あの…普通に告白に聞こえるのは私の願望でしょうか」
もしかして自分の都合の良いように解釈していただけじゃないのかと喜ぶよりも先にヒヤヒヤしながら問うと、丸井くんはそっかそっか、と納得したように何度も頷いていた。
「やっぱ好きってことなのかー」
「え、ほ、本当に…?」
「昨日も無意識に抱き寄せたりして悪かったな…多分俺思うより先に身体が動くタイプだわ」
「あ、あれは確かにびっくりしたけど…」
びっくりしたけど、それ以上に嬉しかったことは恥ずかしいので言わないでおいた。それよりもわたしのことを好きと言ってくれる丸井くんのことに精一杯で思考が追いつかない。目を合わせてにかっと笑ってくれる丸井くんが、わたしを好きだと言ってくれている。その事実がわたしの視界を歪ませた。
「お、お前、泣いてんのか?」
「ご、ごめ…だって、まさかそんな風に言ってくれると思ってなくて…っ」
きっとこのまま本当の意味でお別れなのだろうと思っていたから。一度溢れ出した涙は止まることを知らず頬を濡らしていく。
丸井くんは初めは泣き出したわたしに戸惑っていたけれど、遠慮がちにそうっと抱きしめてくれた。わたしも良いのかな、なんて思いながら丸井くんの背中に小さく手を回す。このあたたかい温もりがわたしのものになるなんて、すぐには信じられなかった。
わたしが泣き止むと丸井くんはわたしからそっと離れて頭をポンポンと撫ぜてくれた。それさえも春風のように気持ちが良い。その後、わたしの両手を取って申し訳なさそうに笑った。
「遠距離になるし…絶対寂しい思いさせると思うけど、お前はそれでも良いの?」
「だ、大丈夫だよ!今までだってずっと会えるの待ってたんだから。わたし、待つのは得意だから!」
「それは俺も同じ。じゃあ、これからシクヨロ!」
「うん、こちらこそよろしくね!」
わたしたちは大切な約束を交わすように繋がったままの両手をぎゅっと握り合って笑い合う。そんなわたしたちを祝福してくれるかのように小さな風が吹いた。
*
休憩時間を終えて、あっという間にみんなが帰る時間が来てしまった。先に立海のみんなが一人一人、バスに乗り始める。丸井くんも、当然のようにバスの中に入っていってしまった。付き合えるようになったことが奇跡のようなものなのに、離れてしまうことが寂しくて仕方がなかった。
すぐに全員がバスに乗り終わってしまい、エンジンがかかる音がしてバスが徐々に動き出す。
その後すぐに、バスの窓から顔を出した丸井くんがわたしの方を向いて大きな声で叫んでくれた。
「はな、またなー!いっぱい電話するからなー!」
「私も!またねー!」
"またね"。またこの言葉が言えるなんて思いもしなかった。だんだん遠ざかっていくバスを見て当然のように視界は歪んでいくけれど、彼女になれたこんなに幸せな今、泣く必要なんてない。会えない間、丸井くんがびっくりするくらい良い女になる努力をするんだ。そう考えていればきっと、またすぐに会える日はやってくると思うから。
わたしは笑いかけてくれた彼の笑顔を思い出しながら、バスが見えなくなるまで手を振り続けていた。
・
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「おい、はな」
「なぁにー」
「何ちんたらやっとんじゃ!俺はずっとポカリ待ってんやぞ!」
「あ、ごめん、謙也!ダッシュで作って来る!」
きっと今のわたしは嬉しさで頭にお花でも咲かせていたんだと思う。謙也の鬼の形相に反省しながらも、容器を持って水飲み場へと向かった。
「明日丸井が家族で旅行でここに来るらしいからな。嬉しいてしゃあないんや」
「…分かっとるわ、そんなこと」
「謙也も元気出しや」
「元気や、俺は!」
*
「あ、ブン太!」
「はな!久しぶりー!」
新幹線で新大阪駅に着いた彼は電車を降りるなり、彼の到着を待っていたわたしに抱きついて来てくれた。彼のご両親もいるのに恥ずかしい、なんて思いながらも、わたしも嬉しくて思いっきり抱きしめ返した。久しぶりの彼の体温がとても愛おしくて涙が出そうになる。
わたしたちはまだまだ子供だから、この先どうなるかなんてわたしにも、きっとブン太にも分からない。だけど今のこの、ブン太を好きな確かな気持ちを大事にしていきたい。
あの美しい花冠のように、わたしたちの恋が、幸せが、どうか永遠に続きますように。
-END-
