王子様たちと甘いひとときを
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「仁王くんに挨拶できたよ!ちゃんと返事してくれた!」
「仁王くんがピヨッて言ってた!可愛かった〜」
「仁王くんがー…」
毎日毎日俺の耳に入ってくるのは片思い相手のはなから繰り出される"仁王くん情報"。いつも大好きな仁王の事になると表情をころころ変えて目をキラキラさせている。
初めは結構キツいものだと思っていたけれど、最近となっては慣れてきてしまっていた。何より好きな女子のとびきりの笑顔を間近で見られると思うと、こういう立ち位置も悪くないのかもしれない。…多分。
そんな彼女の喜びも束の間、周りの人間が仁王に恋人が出来たと噂していた。面白おかしくある事ない事話す男子、悲壮な顔で中には泣いている女子、自分には無関係だと我関せずな者。
俺は仁王と彼女の関係に何となく気付いていたが、はなに伝えるかどうか迷っていた。その間に本当にくっついてしまったようだ。
彼女のいる方を見られなかった。伝えることが出来なかった罪悪感もあるけれど、何よりいつもの笑顔と違って泣いているかもしれないと思うと心が痛んだ。
「仁王くん、彼女できたんだってね」
「うん」
「しかも文武両道でスタイルも良くって完璧な子」
「…うん」
「わたしとは正反対で悔しいって気持ちすら湧かないよ」
放課後誰もいなくなった教室の中、俺ははなの前の席に、後ろにいる彼女に向かうようにして座った。ぽつりとつぶやいた彼女の目元は真っ赤だった。それがいかに仁王に対して本気だったかを表していて、胸が苦しくなった。
いつか仁王に失恋して、俺にもチャンスが回ってくるんじゃないだろうかなんて考えたことがある。それがまさに今なわけだけど、思っていた感情とは全く違うものだった。
「私がほんの些細なことで喜んでる間に、あの二人の恋はどんどん進んでいってたんだね」
「ごめんな、俺…」
「あ、いいのいいの、丸井が謝ることじゃないよ!言いにくかっただろうし…努力しても報われないことってあるんだね!人生の教訓だわー」
目を赤くしながら強がるはなが痛々しい。今日の彼女はいつもよりお姉さんみたいに大人びて見えて、俺はいつもの彼女が恋しくなった。
また小さな事で幸せを見つけて笑顔になっていた頃の彼女に戻って欲しいと思う俺は、自分勝手だろうか。
「はな」
「ん?」
「俺の前では無理して笑わなくて良いから」
「…あはは」
乾いた笑いを漏らした後、彼女は我慢する事なく溢れ出した涙を流した。少し迷いながらも親指で彼女の涙を拭ってやるが、それだけでは間に合わずぽろぽろと流れる涙が愛おしい。そんな感情が俺の背中を押したのか、言うつもりのなかった言葉が口から漏れた。
「なあ」
「ん…?」
「俺じゃ駄目?」
「…え?」
俺の言葉を耳にしたはずなのに、わけが分からないと言ったふうに目をぱちくりさせる彼女に苦笑が漏れる。分かってはいたことだけど、やっぱり俺は恋愛対象として見られていなかったんだなと再認識して少し胸が痛んだ。
「気付かなかった?俺、お前のことずっと好きだったんだけど」
「え!?き、気付くわけないじゃん!だって丸井はいつも…」
その先を言いにくかったのか、顔を赤くしながらも言葉を紡ごうとして開いていた口はぱくぱくと閉じたり開いたりを繰り返す。いつも仁王の話を聞いてくれていた。そう言いたかったんだろう。
「ご、ごめん、私…」
「別にお前は悪くねぇだろい。何も言わなかったのは俺だし」
はなは顔を赤くしながらも、申し訳なさそうに頭を垂れた。俺の告白で驚いたのか、いつの間にか涙は止まったようだった。
その後、俺の顔にちらりと目をやり、目が合うとすぐにパッと逸らされた。こんな時にこんなことを思うのは良くないのかもしれないけど、彼女のその動作が可愛くて俺の胸は高鳴った。
「…でも私、丸井のこと男として意識したことないし、お菓子ばっかり食べてる馬鹿としか思ってなかったよ」
「お前俺のことそんな風に見てたのかよ…」
「本当のことだもん…」
彼女の言葉に少なからずショックを受けたものの、素直な彼女の正直な気持ちを聞けてスッキリした気持ちにもなった。そういったはっきりと物事を言うはなの性格も好きな部分ではある。
こうなりゃ、当たって砕けろ、だ。
「意識ならこれからすれば良いだろい」
そう言って机の上に置かれていた彼女の小さな手に自分のそれを重ねる。その手はぴくりと震えたが、振り払われることはなくて安堵した。彼女の視線が俺たちの手に向けられて、少し緊張感が走る。
「お、おー…」
「何だよ、その反応は」
「意外と手、ごつごつしてるんだなって」
「お前のは、やわらけーな」
気まずい空気に鳴るのかと思っていたから、彼女の間抜けな反応に少し救われた。手を振り払われないのを良いことに彼女の細い指をすり、と撫ぜる。よく手入れされているであろう肌はとても滑らかに感じる。彼女はその行動を目にしながらも何も言わなかった。
「…お前が仁王みたいに色気がある奴がいいんなら、俺も努力する」
「どうやって?」
「とりあえず香水でも振って、制服着崩して鎖骨見せたり?」
俺の中の"色気のある奴"を想像して提案してみると、彼女はぷっと吹き出し、大笑いし始めた。目を泣き腫らしながら笑うはながとても綺麗に見える。やっぱり彼女には笑顔が似合う。いつでも笑っていて欲しいと思う、こんな気持ちは初めてだ。
「丸井はそのままで良いよ」
そう言いながら今度は笑いすぎて出た涙を手の甲で拭いながら、俺の目をまっすぐに見つめる。その動作にさえ動悸が速くなる気がした。
「わたし、丸井のことこれからちゃんと考えてみる」
「…まじ?」
「だからその、お友達からで、ってことで」
すでに友達だろ、なんて思いながらも振られると思っていたから、自分でも情けないと思う声が漏れた。語尾になるにつれ声が小さくなり目を逸らされたけれど、俺は顔に熱を持つ。
「でもなんか、良いのかな。振られて弱ってるところにつけ込まれて、それに乗っちゃうのって」
「そういう思ってること全部言っちまうところも可愛い」
「なっ…」
「これから覚悟しろよい」
俺の言葉に一々顔を赤くしてくれることが嬉しくてたまらない。
仁王への気持ちがいきなり消えるわけがないのは分かってる。0.1%でも可能性があるなら、俺の恋はここからが本番だ。
友達から恋人に昇格できるように、お前に俺を好きって言って貰えるように、俺を好きになってよかったって思ってもらえるように、すっげー頑張るから。
「これから覚悟しろよい」
20260408
「仁王くんがピヨッて言ってた!可愛かった〜」
「仁王くんがー…」
毎日毎日俺の耳に入ってくるのは片思い相手のはなから繰り出される"仁王くん情報"。いつも大好きな仁王の事になると表情をころころ変えて目をキラキラさせている。
初めは結構キツいものだと思っていたけれど、最近となっては慣れてきてしまっていた。何より好きな女子のとびきりの笑顔を間近で見られると思うと、こういう立ち位置も悪くないのかもしれない。…多分。
そんな彼女の喜びも束の間、周りの人間が仁王に恋人が出来たと噂していた。面白おかしくある事ない事話す男子、悲壮な顔で中には泣いている女子、自分には無関係だと我関せずな者。
俺は仁王と彼女の関係に何となく気付いていたが、はなに伝えるかどうか迷っていた。その間に本当にくっついてしまったようだ。
彼女のいる方を見られなかった。伝えることが出来なかった罪悪感もあるけれど、何よりいつもの笑顔と違って泣いているかもしれないと思うと心が痛んだ。
「仁王くん、彼女できたんだってね」
「うん」
「しかも文武両道でスタイルも良くって完璧な子」
「…うん」
「わたしとは正反対で悔しいって気持ちすら湧かないよ」
放課後誰もいなくなった教室の中、俺ははなの前の席に、後ろにいる彼女に向かうようにして座った。ぽつりとつぶやいた彼女の目元は真っ赤だった。それがいかに仁王に対して本気だったかを表していて、胸が苦しくなった。
いつか仁王に失恋して、俺にもチャンスが回ってくるんじゃないだろうかなんて考えたことがある。それがまさに今なわけだけど、思っていた感情とは全く違うものだった。
「私がほんの些細なことで喜んでる間に、あの二人の恋はどんどん進んでいってたんだね」
「ごめんな、俺…」
「あ、いいのいいの、丸井が謝ることじゃないよ!言いにくかっただろうし…努力しても報われないことってあるんだね!人生の教訓だわー」
目を赤くしながら強がるはなが痛々しい。今日の彼女はいつもよりお姉さんみたいに大人びて見えて、俺はいつもの彼女が恋しくなった。
また小さな事で幸せを見つけて笑顔になっていた頃の彼女に戻って欲しいと思う俺は、自分勝手だろうか。
「はな」
「ん?」
「俺の前では無理して笑わなくて良いから」
「…あはは」
乾いた笑いを漏らした後、彼女は我慢する事なく溢れ出した涙を流した。少し迷いながらも親指で彼女の涙を拭ってやるが、それだけでは間に合わずぽろぽろと流れる涙が愛おしい。そんな感情が俺の背中を押したのか、言うつもりのなかった言葉が口から漏れた。
「なあ」
「ん…?」
「俺じゃ駄目?」
「…え?」
俺の言葉を耳にしたはずなのに、わけが分からないと言ったふうに目をぱちくりさせる彼女に苦笑が漏れる。分かってはいたことだけど、やっぱり俺は恋愛対象として見られていなかったんだなと再認識して少し胸が痛んだ。
「気付かなかった?俺、お前のことずっと好きだったんだけど」
「え!?き、気付くわけないじゃん!だって丸井はいつも…」
その先を言いにくかったのか、顔を赤くしながらも言葉を紡ごうとして開いていた口はぱくぱくと閉じたり開いたりを繰り返す。いつも仁王の話を聞いてくれていた。そう言いたかったんだろう。
「ご、ごめん、私…」
「別にお前は悪くねぇだろい。何も言わなかったのは俺だし」
はなは顔を赤くしながらも、申し訳なさそうに頭を垂れた。俺の告白で驚いたのか、いつの間にか涙は止まったようだった。
その後、俺の顔にちらりと目をやり、目が合うとすぐにパッと逸らされた。こんな時にこんなことを思うのは良くないのかもしれないけど、彼女のその動作が可愛くて俺の胸は高鳴った。
「…でも私、丸井のこと男として意識したことないし、お菓子ばっかり食べてる馬鹿としか思ってなかったよ」
「お前俺のことそんな風に見てたのかよ…」
「本当のことだもん…」
彼女の言葉に少なからずショックを受けたものの、素直な彼女の正直な気持ちを聞けてスッキリした気持ちにもなった。そういったはっきりと物事を言うはなの性格も好きな部分ではある。
こうなりゃ、当たって砕けろ、だ。
「意識ならこれからすれば良いだろい」
そう言って机の上に置かれていた彼女の小さな手に自分のそれを重ねる。その手はぴくりと震えたが、振り払われることはなくて安堵した。彼女の視線が俺たちの手に向けられて、少し緊張感が走る。
「お、おー…」
「何だよ、その反応は」
「意外と手、ごつごつしてるんだなって」
「お前のは、やわらけーな」
気まずい空気に鳴るのかと思っていたから、彼女の間抜けな反応に少し救われた。手を振り払われないのを良いことに彼女の細い指をすり、と撫ぜる。よく手入れされているであろう肌はとても滑らかに感じる。彼女はその行動を目にしながらも何も言わなかった。
「…お前が仁王みたいに色気がある奴がいいんなら、俺も努力する」
「どうやって?」
「とりあえず香水でも振って、制服着崩して鎖骨見せたり?」
俺の中の"色気のある奴"を想像して提案してみると、彼女はぷっと吹き出し、大笑いし始めた。目を泣き腫らしながら笑うはながとても綺麗に見える。やっぱり彼女には笑顔が似合う。いつでも笑っていて欲しいと思う、こんな気持ちは初めてだ。
「丸井はそのままで良いよ」
そう言いながら今度は笑いすぎて出た涙を手の甲で拭いながら、俺の目をまっすぐに見つめる。その動作にさえ動悸が速くなる気がした。
「わたし、丸井のことこれからちゃんと考えてみる」
「…まじ?」
「だからその、お友達からで、ってことで」
すでに友達だろ、なんて思いながらも振られると思っていたから、自分でも情けないと思う声が漏れた。語尾になるにつれ声が小さくなり目を逸らされたけれど、俺は顔に熱を持つ。
「でもなんか、良いのかな。振られて弱ってるところにつけ込まれて、それに乗っちゃうのって」
「そういう思ってること全部言っちまうところも可愛い」
「なっ…」
「これから覚悟しろよい」
俺の言葉に一々顔を赤くしてくれることが嬉しくてたまらない。
仁王への気持ちがいきなり消えるわけがないのは分かってる。0.1%でも可能性があるなら、俺の恋はここからが本番だ。
友達から恋人に昇格できるように、お前に俺を好きって言って貰えるように、俺を好きになってよかったって思ってもらえるように、すっげー頑張るから。
「これから覚悟しろよい」
20260408
