汗も滴る王子様たち
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「優しい嘘はいらない」元彼女視点
だいすきだった学校のはずなのに、今のわたしにとっては息苦しい場所以外の何者でもなかった。
数ヶ月振りに目の前にした氷帝学園高等部の校門には、文化祭を知らせるために派手に飾り付けがされてあった。これも生徒会長である彼の仕業なのだろうかと思わず呆れの笑みが零れる。校門をくぐり抜けたあとはこの文化祭に来るきっかけとなった友人が二人、隣いるはずなのに、なんだか一人ぼっちの気分になる。わたしだけが思い出に取り残されてる、そんな気がした。前に進むことの出来ていないわたしはきっとあの頃からちっとも成長してないんだろうな。校舎内で食事をしたり、外の出店を回っていると、わたしは気が付いたようにその場から離れる。
「わたし、ちょっとテニス部の方行ってくるね」
本当は彼に会うのが怖くて行きづらくて仕方なかったけれど、自分がマネージャーをしていたこともあって後輩のみんなに会いたかった。宍戸から聞いた話では、今年はテニスコート付近で出し物をするとのこと。心臓を揺らしながらテニスコートへと近づくと、わたしに気付いた誰かが嬉しそうに走ってきた。
「せんぱーい!」
「あ、じろ──」
その瞬間、たくさんの人の向こう側に見えてしまった、彼、跡部景吾。やっぱり彼は目立つ存在だ。自信を備え持っていて、背筋がぴんと伸びていて。ううん、それだけじゃない。自然とわたしが目で探してしまっていた。彼はいつものように余裕の笑みを見せながら、しどろもどろとしている女の子の腕を引いて、人込みの中に消えていってしまった。そりゃ、新しい彼女くらい、もういるよね。馬鹿な期待をしていた自分に嫌気がさした。
「先輩、どうかした?」
「う、ううん。みんな、久しぶりだね」
いつのまにか後輩に囲まれていたわたしは、まるでまだこの学校の生徒なんじゃないかっていう錯覚に陥った。だけど、景吾が、景吾だけがいない。もう景吾はわたしをまっすぐに見てくれることなんてない。そんなことは別れてからもずっと理解していたはずなのに、残酷にも心に突き刺さった。戻りたい、叶うはずのない想いだけが胸の中に繰り返し響いた。
「はな先輩、ちゃんと話聞いてる~?」
「ご、ごめんね。慈郎の話は貴重なのに」
「先輩が来るって聞いたのに、寝てらんないC~」
慈郎に手をぎゅっと握られて、他にもだいすきな後輩たちに囲まれて、背景にあるテニスコートだって、何にも変わらない。浮かんできた彼の笑顔があまりにもリアルすぎて、ほら、また期待してる自分がいる。
「慈郎」
「なにー?」
「後ろ見てみて」
「……げ…」
「榊先生がお呼びみたい。ご愁傷様」
さぼってたことが見つかったんだろう。みんなはわたしたちに手を振りながら急いで榊先生の元へと走っていった。その様子をしばらく見ていたわたしは、惜しみながらもその場を離れようとみんなに背を向けた。
「あ…」
その瞬間目に入ったのは、景吾と女の子がいて、しっかり手を繋いでいて。多分戻ってきたところだろう、女の子は何かを悟ったのか、不安そうに景吾を見上げた。きっとわたしが景吾の昔の恋人だと知っているからこそだろう。わたしの存在が、この子に不安を与えてしまってる。なるべく平常を装って友達のところへ戻ろう。そう考えたわたしは、まっすぐに景吾を見上げた。
「景吾、久しぶり。みんな榊先生に呼ばれてたよ」
「あ、ああ」
ちゃんと、言えた。震える口元と結んで、わたしは二人の隣を過ぎて、友達を探すために出店の並ぶ人込みの中に入り込んでいった。下を向いたまんま、友達を探せるはずないのに。きっと今、わたしはひどい顔をしてる。結局しばらく歩き続けたあと、自分の名前を呼ぶ声が聞こえて顔をあげると、もうだいぶ前に感じる、一緒に行動していた友人二人。
「ねえ、もう帰ろうよ」
「ん、そうしよっか」
ずるずるとここに立ち止まったままじゃ、昔の思い出が身に染みついて離れなくなりそうだから。彼女たちの腕を引いて、校門に向かおうと振り返ると、だいすきな、だいすきだった、彼の顔が目に入った。
「はな」
「け、いご…」
もう二度と見ることなんてないと思っていた彼が、すぐ傍にいて、わたしの名前を呼んでいる。夢なんじゃないかと思うほどに驚いて立ち尽くすと、友人の優しい声が耳に入った。
「私達、あっち行ってるからね」
「え、ちょっ…」
この場に置いていかれることが苦しくて、また人込みに向かおうとする友達を追い掛けようとすると、突然後ろから伸びて来た両手に抱きとめられた。久しぶりの景吾の体温に一気に頭の中が真っ白になる。
「ちょ、景吾…!」
「うるせえよ…」
「はな、してっ…」
上手く思考が回らない。それと関係があるのかないのか、強く抱きしめられた腕を振りほどきたくても、力が全く入らなかった。その瞬間頭を過ぎったのはあの子の不安げな顔。そこでなんとか理性を繋ぎ止めて、再び彼の腕の中から逃げようと暴れてみせた。それと同時に視界が滲む。
「あの、こ、彼女でしょ?こんなことしちゃ、だめ、だよ」
「…さっきまではな」
「女の子泣かせちゃ、だめなんだってば…」
「お前も泣いてるだろうが」
どうしてこんなにも優しい声でわたしを抱きしめるんだろうか。景吾が何気なくしていることだとしても、わたしにとっては大問題だ。ただでさえ今頭の中は景吾でいっぱいいっぱいなのに、もうそれどころじゃなくなってしまう。本当に、もう一度気持ちを伝えてもいいの…?そう考えたときにはすでに涙が頬を流れた。
「…わ、たし」
「……」
「本当は、ずっと景吾のこと、忘れ、られなかったの」
「…ああ」
耳元からは景吾の少し震えた声が聞こえた。そんな彼が愛おしくて、わたしは彼の腕に手を沿えて目を閉じた。
溶け残った野望
この我が儘を、どうか許してください
だいすきだった学校のはずなのに、今のわたしにとっては息苦しい場所以外の何者でもなかった。
数ヶ月振りに目の前にした氷帝学園高等部の校門には、文化祭を知らせるために派手に飾り付けがされてあった。これも生徒会長である彼の仕業なのだろうかと思わず呆れの笑みが零れる。校門をくぐり抜けたあとはこの文化祭に来るきっかけとなった友人が二人、隣いるはずなのに、なんだか一人ぼっちの気分になる。わたしだけが思い出に取り残されてる、そんな気がした。前に進むことの出来ていないわたしはきっとあの頃からちっとも成長してないんだろうな。校舎内で食事をしたり、外の出店を回っていると、わたしは気が付いたようにその場から離れる。
「わたし、ちょっとテニス部の方行ってくるね」
本当は彼に会うのが怖くて行きづらくて仕方なかったけれど、自分がマネージャーをしていたこともあって後輩のみんなに会いたかった。宍戸から聞いた話では、今年はテニスコート付近で出し物をするとのこと。心臓を揺らしながらテニスコートへと近づくと、わたしに気付いた誰かが嬉しそうに走ってきた。
「せんぱーい!」
「あ、じろ──」
その瞬間、たくさんの人の向こう側に見えてしまった、彼、跡部景吾。やっぱり彼は目立つ存在だ。自信を備え持っていて、背筋がぴんと伸びていて。ううん、それだけじゃない。自然とわたしが目で探してしまっていた。彼はいつものように余裕の笑みを見せながら、しどろもどろとしている女の子の腕を引いて、人込みの中に消えていってしまった。そりゃ、新しい彼女くらい、もういるよね。馬鹿な期待をしていた自分に嫌気がさした。
「先輩、どうかした?」
「う、ううん。みんな、久しぶりだね」
いつのまにか後輩に囲まれていたわたしは、まるでまだこの学校の生徒なんじゃないかっていう錯覚に陥った。だけど、景吾が、景吾だけがいない。もう景吾はわたしをまっすぐに見てくれることなんてない。そんなことは別れてからもずっと理解していたはずなのに、残酷にも心に突き刺さった。戻りたい、叶うはずのない想いだけが胸の中に繰り返し響いた。
「はな先輩、ちゃんと話聞いてる~?」
「ご、ごめんね。慈郎の話は貴重なのに」
「先輩が来るって聞いたのに、寝てらんないC~」
慈郎に手をぎゅっと握られて、他にもだいすきな後輩たちに囲まれて、背景にあるテニスコートだって、何にも変わらない。浮かんできた彼の笑顔があまりにもリアルすぎて、ほら、また期待してる自分がいる。
「慈郎」
「なにー?」
「後ろ見てみて」
「……げ…」
「榊先生がお呼びみたい。ご愁傷様」
さぼってたことが見つかったんだろう。みんなはわたしたちに手を振りながら急いで榊先生の元へと走っていった。その様子をしばらく見ていたわたしは、惜しみながらもその場を離れようとみんなに背を向けた。
「あ…」
その瞬間目に入ったのは、景吾と女の子がいて、しっかり手を繋いでいて。多分戻ってきたところだろう、女の子は何かを悟ったのか、不安そうに景吾を見上げた。きっとわたしが景吾の昔の恋人だと知っているからこそだろう。わたしの存在が、この子に不安を与えてしまってる。なるべく平常を装って友達のところへ戻ろう。そう考えたわたしは、まっすぐに景吾を見上げた。
「景吾、久しぶり。みんな榊先生に呼ばれてたよ」
「あ、ああ」
ちゃんと、言えた。震える口元と結んで、わたしは二人の隣を過ぎて、友達を探すために出店の並ぶ人込みの中に入り込んでいった。下を向いたまんま、友達を探せるはずないのに。きっと今、わたしはひどい顔をしてる。結局しばらく歩き続けたあと、自分の名前を呼ぶ声が聞こえて顔をあげると、もうだいぶ前に感じる、一緒に行動していた友人二人。
「ねえ、もう帰ろうよ」
「ん、そうしよっか」
ずるずるとここに立ち止まったままじゃ、昔の思い出が身に染みついて離れなくなりそうだから。彼女たちの腕を引いて、校門に向かおうと振り返ると、だいすきな、だいすきだった、彼の顔が目に入った。
「はな」
「け、いご…」
もう二度と見ることなんてないと思っていた彼が、すぐ傍にいて、わたしの名前を呼んでいる。夢なんじゃないかと思うほどに驚いて立ち尽くすと、友人の優しい声が耳に入った。
「私達、あっち行ってるからね」
「え、ちょっ…」
この場に置いていかれることが苦しくて、また人込みに向かおうとする友達を追い掛けようとすると、突然後ろから伸びて来た両手に抱きとめられた。久しぶりの景吾の体温に一気に頭の中が真っ白になる。
「ちょ、景吾…!」
「うるせえよ…」
「はな、してっ…」
上手く思考が回らない。それと関係があるのかないのか、強く抱きしめられた腕を振りほどきたくても、力が全く入らなかった。その瞬間頭を過ぎったのはあの子の不安げな顔。そこでなんとか理性を繋ぎ止めて、再び彼の腕の中から逃げようと暴れてみせた。それと同時に視界が滲む。
「あの、こ、彼女でしょ?こんなことしちゃ、だめ、だよ」
「…さっきまではな」
「女の子泣かせちゃ、だめなんだってば…」
「お前も泣いてるだろうが」
どうしてこんなにも優しい声でわたしを抱きしめるんだろうか。景吾が何気なくしていることだとしても、わたしにとっては大問題だ。ただでさえ今頭の中は景吾でいっぱいいっぱいなのに、もうそれどころじゃなくなってしまう。本当に、もう一度気持ちを伝えてもいいの…?そう考えたときにはすでに涙が頬を流れた。
「…わ、たし」
「……」
「本当は、ずっと景吾のこと、忘れ、られなかったの」
「…ああ」
耳元からは景吾の少し震えた声が聞こえた。そんな彼が愛おしくて、わたしは彼の腕に手を沿えて目を閉じた。
溶け残った野望
この我が儘を、どうか許してください
