とぐろ巻く群青
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モンスター大学では新入生は学内の寮での生活が義務付けられていた。
寮は瀟洒な建物で、ここに入寮しているのは新入生ばかり。
荷物や書類を持って建物に入るとラウンジがあり、先に到着したと思われる学生達がソファに座って情報交換に精を出していた。
あとで参加しようと思いながら、それを横目で見つつ、受け付けカウンターで学生証を提示すると、先輩学生が部屋の鍵を渡しながら教えてくれた。
「ラミアスさんだね。はい、君は137号室だよ。ルームメイトはまだ来ていないようだ。同じ怖がらせ学部の怖がらせ学専攻だから上手くやっていけると良いね。」
『ご親切にありがとうございます!』
受け取った鍵を握り締めながら、私は急に緊張してきた。
皆、それぞれに自分の夢を思い描いてここに辿り着いたに違いない。何の夢も持ち合わせていない私がはたして上手くやっていけるだろうか。
多少心配になりながらも部屋がズラリと並んだ長い廊下を進んでいく。
新入生達は、部屋の中で初対面の相手と二人きりになるのが気詰まりなのか、ドアを開け放して廊下で立ち話をしている者が多い。
私はと言えば、道を開けて貰う際に目が合えば微笑み、微笑み返す程度の愛想は持ち合わせているので、コミュニケーションに問題は無いだろうが、如何せん妙に見つめられるから居心地が悪い。
昔からそうだ。容姿のせいか変に目立ってしまう。別に気にしなければ良いのだが、恋愛云々に話が縺れると質が悪い。この年頃では珍しく私は恋愛に無頓着な部類だから。
見たところ、同性同士が相部屋になっているみたい。異性に耐性が無い訳では無いが、少し安心する。
部屋の前に着き、一応ノックをしてから中に入る。
部屋にはベッドが2台並んで置いてあり、その横に勉強机があるだけのシンプルな作りだった。
案の定、誰もいない訳だが何もしないでルームメイトを待つのは正直退屈なので荷ほどきをする事にした。
実家で使っていたベッドカバーをベッドにかけ、着替えをクローゼットに仕舞い、教科書を棚に並べていく。壁にはカレンダーのみを貼り、カバンはクローゼットの奥へと突っ込む。最後に入学祝いにと両親に買って貰ったノートパソコンを机に置いて完了。
我ながら女子力の低い内装だが、致し方ない。
本来ならば、好きなアーティストのポスターでも貼ればティーンエイジャーの名残を出せるんだろうけれど、生憎、荷物になるのが面倒で持って来なかったのだ。
『さてと、次は何するかな。』
"コンコン"
『…っ!!』
大体の片付けが終わった所で背後の木製のドアからノックの音が聞こえた。
いよいよ、4年間を共に過ごす親友とのご対面だ。
"カチャリ……キィイイイ…"
ごく普通に空いたドアの向こうにいたのは明るいピンク色をしたモンスターだった。
見た目からして女の子なのは分かる。
彼女はドアが全開になった所で1歩前に踏み出して私との視線が合うと、バチッとウインクを1つかまして片手を上げて第一声を放った。
「はじめましてーっ!!今日からあなたのルームメイトになる、イザベラ・モールよっ!!ベラと呼んで頂戴っ!!学部は怖がらせ学部の怖がらせ学科専攻!よろしくね!!」
甲高い声で捲し立てるような言い回しのそれは友好的な印象だった。
私も改めて向き直り微笑みながら相手に1歩、歩み寄る。
『はじめまして!ベラ!!同じく怖がらせ学部のフランシスカ・ラミアスよ。皆にはシスカって呼ばれてるわ。こちらこそよろしくね。』
近付いてみると、ベラは私より少し小さいくらいの身長だった。
皮膚は一瞬、弾力のありそうなプニプニ肌に見えたが、良く見れば微かにひび割れている。
目はギョロギョロと世話しなく動き回っている5つと、ジィッとこちらを好奇の眼差しで見つめている真ん中の1つ、合計で6つ。
どう喋っているかは検討もつかないが、口らしき物は見当たらず、口があるであろう首から背中にかけて尻尾のように垂れ下がっている橙色と少々汚い茶緑色の毛がある。
そして、一際目立つのは羊のような、或いはツインテールのような大きな2本の角だ。
体格と同じくどっしりと構えていてハツラツとしている彼女に親しみを覚えたのはすぐだった。
『4年間、上手くやっていけそうね。私達。』
「同感ねっ!えぇと、ベッドは空いている方を使えば良いのね。」
『ごめんなさい。先に来たからベッドを勝手に決めてしまったわ。問題あるかしら…?』
「大丈夫っ!どっちにしたって最高の大学生活が待っている筈だもの!!明日からの講義は一緒に行きましょう!!」
『もちろんっ!!』
ベラの片付けが一段落した所で思ったことを言ってみた。
『なんていうか、ベラって絵に書いたような女の子よね。そのボーカルのポスターとか大量にあるコスメセットとか……彼氏いたりするの?』
「いないわよー。だから、しっかりオシャレして3ヶ月以内に彼氏作るのが目標なのっ!! シスカこそ、とびっきりの美人なんだし、いるんでしょ?まぁ、部屋は最高にクールとは言えないけどね。」
ハッキリと言ってくれる……。
まぁ、そんな所も嫌いじゃない。悪気も無さそうだし。
椅子の背もたれに寄り掛かりながら、1つの部屋に存在する全く別の2つの空間を見て溜め息をつく。
『残念ながらいないわよ。』
「うっそ!?なんで!?」
『何でって言われてもねぇ…。告白はされた事は何度かあるけど、私の趣味に合わないから?趣味って言うか相手の気持ちに共感できないし、ときめかないだけよ。その内、出来るでしょ。』
「呑気ねぇ~。そんなのだと、あっという間にオバサンになっちゃうわよ。私ならイケメンだったら即OK出しちゃうのにっ!!」
『私はそんな尻軽じゃありませんー。いつかきっとハートにグッと来る相手が現れるのを待つわ!』
「ふーん。じゃあ、卒業までに現れなかったら私が貰ってあげるね!!」
『そんな趣味は持ち合わせていないけど、ありがとう。一生養ってね。』
「任せなさいっ!」
『マジか…。』
お互い冗談を言い合いクスクス笑う。
彼女となら、イザベラ・モールとなら難関大学の最高の4年間を共に楽しめると、この時の私は思っていた。
きっと、彼女だってそう思っていたに違いない。
寮は瀟洒な建物で、ここに入寮しているのは新入生ばかり。
荷物や書類を持って建物に入るとラウンジがあり、先に到着したと思われる学生達がソファに座って情報交換に精を出していた。
あとで参加しようと思いながら、それを横目で見つつ、受け付けカウンターで学生証を提示すると、先輩学生が部屋の鍵を渡しながら教えてくれた。
「ラミアスさんだね。はい、君は137号室だよ。ルームメイトはまだ来ていないようだ。同じ怖がらせ学部の怖がらせ学専攻だから上手くやっていけると良いね。」
『ご親切にありがとうございます!』
受け取った鍵を握り締めながら、私は急に緊張してきた。
皆、それぞれに自分の夢を思い描いてここに辿り着いたに違いない。何の夢も持ち合わせていない私がはたして上手くやっていけるだろうか。
多少心配になりながらも部屋がズラリと並んだ長い廊下を進んでいく。
新入生達は、部屋の中で初対面の相手と二人きりになるのが気詰まりなのか、ドアを開け放して廊下で立ち話をしている者が多い。
私はと言えば、道を開けて貰う際に目が合えば微笑み、微笑み返す程度の愛想は持ち合わせているので、コミュニケーションに問題は無いだろうが、如何せん妙に見つめられるから居心地が悪い。
昔からそうだ。容姿のせいか変に目立ってしまう。別に気にしなければ良いのだが、恋愛云々に話が縺れると質が悪い。この年頃では珍しく私は恋愛に無頓着な部類だから。
見たところ、同性同士が相部屋になっているみたい。異性に耐性が無い訳では無いが、少し安心する。
部屋の前に着き、一応ノックをしてから中に入る。
部屋にはベッドが2台並んで置いてあり、その横に勉強机があるだけのシンプルな作りだった。
案の定、誰もいない訳だが何もしないでルームメイトを待つのは正直退屈なので荷ほどきをする事にした。
実家で使っていたベッドカバーをベッドにかけ、着替えをクローゼットに仕舞い、教科書を棚に並べていく。壁にはカレンダーのみを貼り、カバンはクローゼットの奥へと突っ込む。最後に入学祝いにと両親に買って貰ったノートパソコンを机に置いて完了。
我ながら女子力の低い内装だが、致し方ない。
本来ならば、好きなアーティストのポスターでも貼ればティーンエイジャーの名残を出せるんだろうけれど、生憎、荷物になるのが面倒で持って来なかったのだ。
『さてと、次は何するかな。』
"コンコン"
『…っ!!』
大体の片付けが終わった所で背後の木製のドアからノックの音が聞こえた。
いよいよ、4年間を共に過ごす親友とのご対面だ。
"カチャリ……キィイイイ…"
ごく普通に空いたドアの向こうにいたのは明るいピンク色をしたモンスターだった。
見た目からして女の子なのは分かる。
彼女はドアが全開になった所で1歩前に踏み出して私との視線が合うと、バチッとウインクを1つかまして片手を上げて第一声を放った。
「はじめましてーっ!!今日からあなたのルームメイトになる、イザベラ・モールよっ!!ベラと呼んで頂戴っ!!学部は怖がらせ学部の怖がらせ学科専攻!よろしくね!!」
甲高い声で捲し立てるような言い回しのそれは友好的な印象だった。
私も改めて向き直り微笑みながら相手に1歩、歩み寄る。
『はじめまして!ベラ!!同じく怖がらせ学部のフランシスカ・ラミアスよ。皆にはシスカって呼ばれてるわ。こちらこそよろしくね。』
近付いてみると、ベラは私より少し小さいくらいの身長だった。
皮膚は一瞬、弾力のありそうなプニプニ肌に見えたが、良く見れば微かにひび割れている。
目はギョロギョロと世話しなく動き回っている5つと、ジィッとこちらを好奇の眼差しで見つめている真ん中の1つ、合計で6つ。
どう喋っているかは検討もつかないが、口らしき物は見当たらず、口があるであろう首から背中にかけて尻尾のように垂れ下がっている橙色と少々汚い茶緑色の毛がある。
そして、一際目立つのは羊のような、或いはツインテールのような大きな2本の角だ。
体格と同じくどっしりと構えていてハツラツとしている彼女に親しみを覚えたのはすぐだった。
『4年間、上手くやっていけそうね。私達。』
「同感ねっ!えぇと、ベッドは空いている方を使えば良いのね。」
『ごめんなさい。先に来たからベッドを勝手に決めてしまったわ。問題あるかしら…?』
「大丈夫っ!どっちにしたって最高の大学生活が待っている筈だもの!!明日からの講義は一緒に行きましょう!!」
『もちろんっ!!』
ベラの片付けが一段落した所で思ったことを言ってみた。
『なんていうか、ベラって絵に書いたような女の子よね。そのボーカルのポスターとか大量にあるコスメセットとか……彼氏いたりするの?』
「いないわよー。だから、しっかりオシャレして3ヶ月以内に彼氏作るのが目標なのっ!! シスカこそ、とびっきりの美人なんだし、いるんでしょ?まぁ、部屋は最高にクールとは言えないけどね。」
ハッキリと言ってくれる……。
まぁ、そんな所も嫌いじゃない。悪気も無さそうだし。
椅子の背もたれに寄り掛かりながら、1つの部屋に存在する全く別の2つの空間を見て溜め息をつく。
『残念ながらいないわよ。』
「うっそ!?なんで!?」
『何でって言われてもねぇ…。告白はされた事は何度かあるけど、私の趣味に合わないから?趣味って言うか相手の気持ちに共感できないし、ときめかないだけよ。その内、出来るでしょ。』
「呑気ねぇ~。そんなのだと、あっという間にオバサンになっちゃうわよ。私ならイケメンだったら即OK出しちゃうのにっ!!」
『私はそんな尻軽じゃありませんー。いつかきっとハートにグッと来る相手が現れるのを待つわ!』
「ふーん。じゃあ、卒業までに現れなかったら私が貰ってあげるね!!」
『そんな趣味は持ち合わせていないけど、ありがとう。一生養ってね。』
「任せなさいっ!」
『マジか…。』
お互い冗談を言い合いクスクス笑う。
彼女となら、イザベラ・モールとなら難関大学の最高の4年間を共に楽しめると、この時の私は思っていた。
きっと、彼女だってそう思っていたに違いない。