ジダとロブの左証
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
空き時間ができた名無しは買い出しがてらウィンドウショッピングをしていた。ふと覗いたショーウィンドウに飾られているものに目が奪われる。それはピアスだった。好みのデザインに欲しいと思ったが名無しの耳は開いていない。
このために開けようか、でも痛そう。やっぱりやめ…いや、でも欲しい。とショーウィンドウの前で悩みだす。自分では開けられないだろうと思った名無しは、チームの誰かに開けてもらうイメージをした。…ロクなやつがいない。ホルマジオが一番上手く開けてくれそうだが、悪ノリのスイッチが入ると地獄だ。強いて言うならリゾットかプロシュートだろうか。しかし誰であっても怖かった。結局は人間なのだ。意図せず手元が狂うかもしれない。
やっぱり諦めようと思っていると、中から男性が外へ出てきた。ショーウィンドウの前で立ち尽くしていた名無しは慌てて後ずさる。男性は店員のようだった。
「Ciao!いかがです、それ。僕が作った、世界で1つのハンドメイド作品なんですよ!」
「あ、いえ、見ていただけなので…」
「まあまあ、せっかくですから試着してみません?それから買うか決めても…」
「開いてないんです……その、耳が」
せっかくの提案に申し訳なさを感じつつ断る。すると男性は目を輝かせた。
「じゃあそれのイヤリング作りましょうか?」
「えっ!イヤリングに出来るんですか」
「ええ。それかもしくは君が開けるかですね」
「…いえ、お願いします!」
「そうこなくっちゃ!捗るんですよ、誰かのために作るのは」
ウインクを寄越す男性に少し戸惑ったが、その言葉に甘えて制作をお願いした。男性は完成しだい連絡するといい、店内へ戻っていく。わざわざ作ってもらうのだ。普段手の出せない値段だったとしても購入したい。一番の理由は一目惚れだが。
あまり高く付かなかればいいけど、と名無しはアジトに戻った。
それから数か月後。
完成の連絡を受けた名無しは店へ行き、商品を受け取った。嬉しさで浮足立ちながら家へ帰る。自宅に着き、リビングに足を踏み入れた名無しは驚きで息をのんだ。リビングのソファにリゾットが座っていたのだ。
「ッびっくりした……えっと、ただいま。いつ来たの?」
「ああ、来たばかりだ」
暗殺チームに身を置くリゾットと名無しは、恋仲だった。気恥ずかしくて公表はしていない。もっとも気恥ずかしいのは名無しであって、リゾットは特に聞かれることがないからであったが。
リゾットはたまにこうして名無しの家へ勝手に入る。名無しの家の方がアジトへ近く、忙しさで自宅まで帰っていられないときなどに利用していた。それは名無しも同意していたが、リゾットは連絡せずに突然やってくる。帰って人に出くわすのはいつになっても驚くものだった。
「そうだ。ね、リゾット、」
リゾットの手元には何もなく、仕事をしている様子はない。それなら会話しても良いだろう。せっかくだから自慢したい。そう思った名無しは顔を緩ませてリゾットの隣に腰を下ろした。
「名無し」
名無しの話を聞かずしてリゾットが口を開く。目も合わせないその雰囲気にただ事ではないと察し、口を噤む。
「今日どこにいた」
「きょう…?」
名無しは思わず変な返事をしてしまう。今日という単語が分からないわけじゃない。質問の意図が分からないのだ。今日、何かあっただろうか。もしかして何か任されているのを忘れて――言葉を続けない名無しにリゾットの眉が歪む。そして名無しの耳元で揺れるものが目にとまった。
――つい先程のことだ。
任務帰りのリゾットは見慣れた後ろ姿に足を止める。街中で見かけても普段なら足まで止めない。だが今日は違った。恋人に顔を寄せ、触れる男。男が一方的に迫っているなら助けるという名目で割って入れる。しかし名無しが嫌がっている様子はない。それならここでわざわざ声をかけるような真似はしないほうがいい。
リゾットはぐっと気持ちを飲み込んだ。能力で周囲に溶け込むと、2人の横を通り抜ける。そして気のままに名無しの家へ寄ったのだった。
今目の前で揺れているそれは、あの男が贈ったものだろう。やはり触れたのかと腹底が締め付けられる。初めて見るそれに手を伸ばす。急に顔元に伸びてきた大きな手に、名無しの体は自然と力が入った。リゾットの手が耳全体を包み、軽く耳を引っ張られる感覚。離れたその手には付けていたイヤリングが乗っていた。それを見て名無しはハッとする。
「あ!…それ。可愛いでしょう?」
「…嬉しいのか?」
「?…うん、嬉しいよ」
ふいにリゾットはイヤリングを外した耳に顔を寄せた。息が名無しの耳をふわりと擽る。近くなった距離に名無しの顔に熱が集まった。抵抗のつもりではないが、リゾットの肩に手をそっと押し付ける。似合っていなかったのだろうかと名無しは不安になった。
体温がより一層近づいたかと思うと、リゾットが耳朶を口に含む。耳朶に温かく柔らかい感触が這った。その感触にきゅっと縮まる身体。リゾットがちゅぅ、と甘く吸うと名無しの耳に鋭い痛みが走った。
「…いたッ!な、なに」
思わず肩に添えていた手に力が入った。
押しのけられたリゾットは不満そうな顔をしている。
「噛んだの?」
「…それで満足か」
「え…?なに、が」
名無しはジンジンとする耳朶を労わろうと指先をのばす。指が当たるとまた少し痛む。それと何か堅いものが触れた。置き鏡で確認すると銀色に光るものがついている。それは明らかに耳朶を貫通していた。
「リゾットこれ、」
「なんでもない日の贈り物は受け取るな…。そういうやつは警戒しろ」
「……イヤリングのこと?それ、プレゼントじゃないよ。私が買ったの」
「かった…?」
今度はリゾットが首をかしげる。
「うん、買ったの」
「あの男は…」
「…男…?……あ、店員かな」
「何故あんなに近づく必要がある」
「せっかくだからつけてもらったの…ごめん、嬉しくて」
リゾットはイヤリングを受け取ったところを見かけたのか。流石につけてもらうのは行き過ぎてたなと、素直に謝るとリゾットの体から力が抜けた。しゅんと肩を落とし、眉尻も落としてそっと名無しの耳に手を添える。
「……すまない。傷をつけた」
「ううん、開けようか迷ってたし…ちょうど良かった」
名無しは本心でそう言ったが、リゾットは渋い顔のままだ。普段から感情が表出ないリゾット。名無しにはこれが彼の想いの証のようで嬉しかった。これからどんなピアスをつけようと開けた時の思い出は超えられないだろう。もう片方のイヤリングも外してリゾットに耳を向ける。
「あの…リゾット。こっちもお願い」
「いや、やめておこう」
「…え、…どうして!?」
どうせならもう片方も、とお願いしたが罪悪感からなのか首を横に振るリゾット。その後何度か頼むも、ことごとく断られてしまった。
「だからよォ~開けてやるって名無し」
「絶対にイヤ!プロシュートがいい」
「テメーでやれ」
「だとよ。…な?オレなら痛みなくサクッと開けてやれるぜ〜〜?」
翌日、名無しの片耳のピアスを見つけたホルマジオが、もう片方も開けてやると追い回していた。
自分から生成された金属ってアレルギー反応起きなさそう
1/1ページ