そーっとドアを開ける。
覗き見た部屋の中は誰もいない。音を立てないように抜き足差し足で戸棚に近づく。よし、上手くいった。戸棚から消毒液を手にしたところで後ろから声がかかった。

「…う、…お？…名無し、な、なにしてんだあ…？」

その声にびくりと肩が揺れる。
振り返って自分の口に人差し指を立てた。

「しーッ！…セッコ静かにして」

「な、なんでだあ？……それ、はチョコラァ、タのだろ…？」

「怪我したから…少し借りるだけ」

「チョ、チョコラータが、治せるぜ…？医者だから、なあああ」

…誰が医者だって？チョコラータは医者の皮を被った凶徒だ。早くセッコを振り切ってこの場から去らなければ。その凶徒に捕まってしまったら終わりだ。しゃがんで首を捻っているセッコの横をすり抜け、ドアを開けた。

「どこへ行くんだ名無し」

終わりました。目の前に一番会いたくなかった人が立っている。この状況にもはや怪我の痛みなど消え去った。

「いや…ちょっとセッコに用があって。もう終わったから」

「怪我、したんだとよお…チョコラータ、治せるよ、なああ？」

セッコに罪はない。彼はわざとじゃないのだから。本当に怪我を治してもらおうと言ったのだ。だが今は余計なお世話だ。目の前の男はニィッと口端をつり上げた。

「なんだ名無し…怪我したのか。治療してやろう……わたしは医者だからな」

「そっそんな治してもらうほどじゃあないから！大丈夫！」

「まあ、とりあえず見せてみろ…セッコ、ビデオの準備だ」

治療になぜビデオが必要なのか。チョコラータの言葉に背筋が凍った。笑顔のチョコラータは本当にろくなことがない。

「大丈夫だ。死ぬようなことはない…安心していい」

死ぬという言葉が出た時点で安心も何もない。チョコラータは喜々として器具を用意し始めている。なんに使うんだそれ。私はこれなら怪我したままの方が良かったと絶望した。