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「だいじょォーぶだ!オメーはオレが見込んだ女だぜ~~?自信持てよ」
「はあ…ありがとうございます……」
隣の彼から掛けられるよく分からない励ましに、戸惑いを含めて返す。この男に見込まれることがどのくらいの事だと言うのか。いや、彼を見くびっているとかじゃない。ただ実際にスゴ腕の暗殺者だったとしても、そんなこと今の私が知るわけないのだから、その誘い言葉はどうかと思う。
隣に座っているのはヒットマンチームのホルマジオだ。私たちは今、4人掛けのテーブル席に隣り合って座っている。なぜカウンターでもないのに向かい合った席じゃないのか。
私が席について間もなく入店してきたのがホルマジオだった。彼とはすでに勧誘の話で面識がある。ここで会ったのは偶然か否か、私を見つけた彼は手を挙げて向かってきた。そしてテーブルを挟んだ向かいではなく、私の隣に腰を下ろしたのだ。
目を丸くする私を置いてホルマジオは勝手に酒をいくつか注文しはじめる。この時はただのすけべで隣に座ったのか?と思っていたが、今はわかる。この席は2人掛けのソファタイプで、通路側に座られてしまったら席を立てない。逃げられないように隣に座ったのだ。
おう、呑め呑め!と酒を注ぐ彼は、まるで友人と酒を酌み交わすかのように親し気に接してくる。どうせ酔ったところを狙って言質でも取るつもりでいるのだろう。だが残念ながら私はアルコールに弱くない。それもチームで一番上戸のアバッキオと飲み比べで張り合える程に。さらに自分がどれくらいで駄目になるかも過去の失敗で嫌というほど理解している。男のペースに飲まれないよう、この状況を俯瞰的に見ることを意識しながらグラスに口をつけた……………
「なぁ名無し?オレたちのチームに来いよ」
「…ん、……」
「ひとこと“いく”と言やぁいいんだ…あぁ、頷くだけでもいいぜ」
ふわふわとしたまどろみのなか、ホルマジオの声が聞こえる。
…もう眠い。
閉じかけている重みに任せて瞼を閉じる。彼がなんと言ったのかはっきりとは分からなかったが、言葉の端々とさっきまで見ていた口の動きで勧誘の話だと思った。
声を出すのもそれ以上何かを考えるのも億劫で、余力で小さく小さく首を僅かに動かす。
そのまま眠気に身を差し出せば、彼の溜息を最後にすぐに意識は落ちた。
「……しょーがねえなぁ~~~~……こりゃあ一筋縄じゃいかねえぜ…なあ?リゾット」
翌日、目を覚ましたのは自宅だった。まずい…どうやって帰ってきたか覚えていない。眠ってしまう前は確か、チームに来るかと質問されたはずだ。それに対して何と答えたのか。それも覚えていない。あぁ…本当にまずい。頭の痛みに眉を歪めながら身の回りを確認する。服は乱れていないし、鞄も昨日のままで財布の中身も無事だ。とりあえず何も異変がない事に安堵する。
家を出る前にいったんシャワーを浴びようと脱衣所へ向かいながら上着を脱ぐと、その拍子に何かが落ちた。上着のポケットにでも入っていたのだろうか。拾ったそれはコースターらしく、表には昨日の店の名が記されていた。そして裏面には“次は良い返事を期待してるぜ”の文字。どうやら勧誘にはNoと答えたようだ。
まさか酒に吞まれてしまうとは…。私は深い溜息をついた。
本当にまずいのは勧誘に何と答えたかではなく、記憶がないことだ。敵味方があるギャングの世界で隙を見せるなんて…。ブチャラティはともかく、アバッキオやフーゴに記憶が飛ぶほど吞んだなんて知られたら怒鳴られるか、あきれられるか…。2人に知られたときのことを想像してしまい、頭痛が酷くなった気がした。