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波の音を聞いていた。イタリアのうつくしい海岸に押しよせる波ではない。何隻もの船が泊まっている、港の岸壁。そのコンクリートに打ち付ける波の音が、足元から聞こえてくる。岸壁に腰を下ろし、足をぶらぶらと投げ出していると、大きい波が来るたびその水しぶきが足先にかかる。太陽光で温められたコンクリートの熱を服越しにじんわり感じながら、隣に腰かける男を見やった。
私が任務で街中を一人、歩いていた時に彼は話しかけてきた。不安そうに話があるという彼に、任務の後なら時間があると言えば終わるまで待ってくれるという。ヒットマンに気遣いされているのはなんだか変な気分だ。任務といってもお使いのようなもので、十数分で終えた私は彼と合流し、沈黙の中この港まで歩いてきた。
「「あの」」
話し出さない彼に痺れを切らした私と、話す決心をつけた彼の第一声が重なった。慌てて口を噤む彼に「どうぞ」と手ぶりを加えて促し、おずおずと会話を始める。
「…チームに入らないかい…?」
「えーと…今のチームに満足してて正直、移動する気はあまりないです。けど、その…理由が知りたいんです。私をチームに入れようとなった理由…」
私は移動に対する正直な気持ちを伝える。そしてずっと気になっていたがなぜかタイミングが合わず、誰にも聞けずじまいだった勧誘の理由を聞いた。また口を噤んだ彼は私から顔を逸らし、足元の波を見つめる。
その悩むような迷うような横顔を私は見つめた。言いにくいようなことなのだろうか。「おまえの任務はオレらの相手だぜげっへっへ」みたいな…。そんないかがわしい予想をしていると、意を決したように彼が口を開く。
「能力だよ……リーダーが“暗殺向きの能力だ”って」
「え、!?……」
私は能力を知られていることに驚いた。確かに私のスタンド能力は殺傷力があり、命を奪うことに長けているのかもしれない。しかしどうして彼らがその事を知っているのか。ここ暫くはスタンドすら出していない。最後に使ったのは…アジトに出たゴキブリを始末したくらいだ。人間に対しては私怨で1人、能力を使ったことがあるがそれもパッショーネに入団する前のことで、知りようがない。
それに暗殺向きかどうかは分からないが、命を奪うならパープルヘイズのウイルスの方が確実だ。ピストルズも使い勝手が良く、本体であるミスタのセンスも良い。エアロスミスなら二酸化炭素を検知でき、息の根が止まったかどうか確認できる。仲間を売るつもりじゃないが、もしチーム全員の能力を知っているのなら、その中で私が選ばれた理由が分からない。疑問が多くて、なにから聞こうか迷っているのをよそに彼が続ける。
「あとは相性だよ…チームのある能力とあんたの能力の相性がいいんだ」
「相性…?その相性がいい能力ってどんな能力なんですか?」
「それは言えないよ…!そもそも、誰の能力と相性がいいのか…おれ、知らないし…ただ、おれの能力じゃないよ…」
「じゃあ、あなたの能力だけ…ッ」
そのとき電話を知らせる音が鳴り、私の質問は遮られる。上着のポケットを探って携帯を取り出したが、鳴ったのは私の携帯ではなく彼のようだった。しかし彼が取ろうとしたときには既に着信は切れていたようで、画面を見た彼は「もう行かなくちゃ」と立ち上がる。
「待って!まだ聞きたいことがあるの」
「兄貴を待たせちまってるから、おいらもう行かないと…ごめんよォ!」
引き留める私を振り切るようにして、その兄貴という人のところへ走り去っていく。せっかく彼らの能力を知るチャンスだったのに…。知ってどうするわけでもないが、一方的に知られているのは気が悪い。それに相性のいい能力ってなんだろう。小さくなっていく後姿を眺めて考えるも、予想すらつかない。
話しやすかった彼に、次また聞こう。そう思ったのに、彼がひとりで姿を現したのはそれきりだった。