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ネアポリスの街中、私は突っ立っていた。ミスタとともに介護料の回収に来ているのだが、彼は今さっき回収した店の主人に捕まり、長話に付き合っている。
これは長くなるぞ…ミスタもミスタで良く喋る方だ。捕まるとき参ったような表情をしていたが、なんだかんだ盛り上がってしまうのだろう。そう察して一足先に店の外に逃げてきた。しかし、この辺の道をあまり知らない。ネアポリスに住んで日が浅いわけではないが、来る機会のない場所というのは存在する。その案内も兼ねて彼と来たため、勝手には動けなかった。
仕方ない。待っている間、徴収する店が記された地図でも見ておこうと持っていた紙を広げる。その時頭上から突然声が降り、手元の書類に影が落ちた。
「おまえがブチャラティとこの名無し、だな?」
顔を上げると、伸びた髪をいくつかに結び分けた長身の男が私を見下ろしていた。あなたは、と聞き返したが私は既に男の返答を読んでいた。だから男の口からでたヒットマンチームという言葉に大きく反応しなかった。やっぱりそうですよね、といった心境だ。
男は私の頭からつま先まで目線を滑らせる。品定めされているような視線に、紙を握る手に少し力が入った。
「ふん……悪くはない、か」
なんだか失礼なことを言われたような気が…。人のことを舐めるように見た上に、悪くはない、という上から目線の態度に私はあからさまに眉を顰める。
「言っておくがおれは別におまえにチームに入ってほしいとは思っていない…チーム全体の意向だから仕方なくここに来ているんだ」
「あの、私を勧誘することになった経緯を、」
「わかったわかった!オレはもう行くから。じゃーなじいさん!身体に気をつけろよ」
男のエラそうな態度にはもはや目を瞑り、なぜ私に白羽の矢が立ったのか聞こうとした。その時、道を挟んだ向かいの店から、半ば押し切るようにミスタが出てくる。そっちに気を取られたその一瞬、気配が消えたことに気付き、向き直ったそこに男はもういなかった。
そんな最悪の出会いだったのが、今私の部屋にいるこの男だ。あれから仲良くなり、部屋へ呼ぶようになった…なんて話じゃない。帰ってきたらいた。普通なら叫ばれ、通報されているところだ。何なら今からでも叫んでやりたい。だが一瞬で姿を消したあの時、そして勝手に部屋に入っている今。それらはきっと彼の能力だろう。叫んだところですぐに逃げられてしまうのがオチだ。
「勘違いするなよ。オレは女の部屋に侵入する趣味はない」
「はぁ…では、帰ってもらえますか」
「「チームに入る」とそうおまえが一言いえばいい……早く言えよ。オレは長居するつもりはない」
ソファにふんぞり返っておきながら何を言っているのだろう。しっかりくつろいでいるじゃないか。それに勧誘なら私の仲間がいる前でもいいはずなのに、姿を煙に巻き、わざわざ部屋に来るなんて。せめてその態度はどうにかならないものか…。
話を持ちかけたスーツの男との違いに、小さくため息をついて立ち上がった。
「…早く帰ってほしそうには見えないな」
背中に投げられた彼の言葉に、食器棚からグラスを降ろそうとする動きが止まる。…確かにそうだ。早く帰ってほしいならお茶を出すなんておもてなししなきゃいい。
「………客人を差別したくないだけです」
少し押し黙った後、言い訳のような返しをして、お茶を淹れるための動きを再開する。どうしてお茶を淹れようなんて思ったのか、自分でも分からなかった。ただ立ち上がる前、彼のスタンドがどんな能力なのかチームに入れば知ることが出来るのかな、なんて考えていた。
ともかく早めに帰ってもらわねば。茶褐色に染まりゆく湯を眺めて、どうお引き取りもらおうか思案した。