イヤもスキと
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「ぜってーいや!!」
「大丈夫だって…ほら、一緒に行くから!」
名無しはナランチャの腕を掴んでグイグイ引っ張る。
しかし、ナランチャも負けじと足を踏ん張る。
もうかれこれ20分はこの状態だ。
遡ること数日前。
「急速に広がっているな…」
ニュースを見ているブチャラティが神妙な顔で呟く。
ここイタリアでは、とある感染症が姿を見せていた。数十年前にも流行したこの感染症は、すでに有効なワクチンもある。
このワクチンは幼少期に打つのが主流なのだが、貧困が原因で接種できない者も多い。それ故今現在、貧困層を中心に広がっていた。そしてチームの皆はそれぞれ幼少期に接種済みなのだが…
「えぁ?」
ミスタにワクチンについて聞かれたナランチャは、口を半開きに腑抜けた声を出す。この様子だと、彼は話を聞いていなかったに違いない。
「だーかーらー!オメーはこのワクチン打ってんのかって聞いてんの!!」
「え〜…?そんなこと覚えてねーよぉ…」
どうだっていいのだろう。ナランチャは欠伸をする始末だ。ブチャラティは顎に手を当てて少し考えるように、彼を注視する。そして彼の過去の環境を鑑みてか「そうだな」と零した。
「…一応、調べてみるか」
そうして調べた結果、ナランチャは未接種だと判明したのだ。そうとなればさっそくワクチン接種の予約を取った。そして今日がその日なのだが、ナランチャは頑なに行きたがらない。
「打たなくても平気だって!!今までかかったことねーんだぜ!?」
「今流行ってるんだから!!念のため!!…もう、ちょっと、ミスタも何とか言ってやってよ!」
お互いの腕を引っ張り合い、綱引きでもしているかのような2人を遠巻きに見ているだけのミスタ。名無しに声をかけられてようやく、頬杖をついて口を開いた。
「注射ごときでなーにビビってんだよ?もっといてー思いしたことあんだろ?」
「いてーんじゃねえの!!針が入るあの感じが…ぞわぞわしてさぁ…気持ち悪りいんだよぉ~~!!」
どうやらナランチャの注射嫌いの理由は”気持ち悪さ”のようだ。想像したのかナランチャは苦い顔で身震いする。だからといって、しなくていいよとは言えない。予約はしているし、何より罹ってしまったら…心配だ。是が非でも打ってもらいたい。
そして今ここにはいないブチャラティに、絶対連れて行ってくれと頼まれている。ブチャラティならナランチャもすんなり言うことを聞くかもしれない。だが残念なことに、彼は別件と重なってしまった。
「ちょっと…ミスタも手伝って…!」
名無しが助けを求めるが、ミスタは「まぁまぁ、大丈夫だって」と呑気にしている。抱えて連れて行けるならそうしたい。だが小柄な方のナランチャだとしても、名無しはさすがに力で勝てない。ミスタはこの状況を面白そうに眺めているだけで、手助けしてくれそうにない。
さて、どうしようか…
名無しが脳内で作戦を練ろうとしたとき、突如として引っ張られる力がなくなり、彼女は勢いでしりもちをついてしまった。
「わッ…!」
何事かと名無しが顔を上げると、アバッキオがナランチャを肩に抱えて立っていた。足をバタつかせるナランチャに眉を顰めながら、アバッキオは名無しを見下ろす。
「悪い…大丈夫か」
「うん…大丈夫だけど……アバッキオ、任務じゃ…」
「終わった。コイツはオレが連れて行く」
「嫌だってアバッキオーー!降ろしてくれよ!!」
「うるせえぞ黙ってろ」
そう言ってアバッキオは、じたばたするナランチャをものともせずに車に押し込む。そして運転席に乗り込むと颯爽と走っていった。それを見送り、よかった…とホッとして戻る名無しに、ミスタが得意げに片眉を上げる。
「な?大丈夫だって言ったろ~~?」
「……どういうこと?」
きょとんとして尋ねる名無しに、ミスタはニッと笑う。
「心配してんのはオメーやブチャラティだけじゃあねえってこと」
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