あの手この手
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
数日後、日本へ飛び立つ。そろそろ準備しなければ。
名無しは面倒で後回しにしていた荷物のまとめをするために、重い腰を上げる。だが、やはりやる気が出ない。まだ猶予はある。名無しは気分転換にもなるだろうとトラットリアへ出向くことにした。
まっすぐ奥の席へ行くと、そこには既に2人座っている。
同じように席につき、軽く息を吐く。それに既に座っていたうちの一人、ジョルノが声をかけた。
「どうしたんです?」
「いやあ、準備がなかなか捗らなくて」
名無しがそう言うとジョルノは納得したようにああ、と頷く。すると先に来ていたもう一人の仲間、ナランチャが目の前のピッツァを名無しの方へずいと差し出した。彼はいじけるように口をとがらせている。
「日本に行っちゃったらさぁ~…名無しが好きなこのピッツァも食えなくなるんだぜ?」
「うん、まあ確かに好きだけど…日本食の方が好きかな」
差し出されたピッツァを戸惑いつつも貰う。
ナランチャはでも~だの、だって~だの言っている。
彼は名無しが日本へ戻ると知った時から、ずっとこんな調子だ。いや、彼だけではない。神妙な面持ちでジョルノが言う。
「名無しは知らないかもしれませんが…日本には暴力団の組織があるんです」
「暴力団!?ほんとかよぉ~!?危ねえじゃんか!!」
「……イタリアのパッショーネっていうギャング組織知ってる?今その一員に挟まれてるんだけど」
名無しは溜息交じりに返した。彼らには自分たちが何者なのか今一度考えてもらいたい。このようにジョルノは不穏なことを告げてくる。ピッツァだの言ってるナランチャはまだ可愛い方だ。いつまでこんなこと言ってるんだと呆れていると、その肩にズシッと重みがかかる。振り返ると、ミスタが名無しの肩に腕を乗せていた。そういえば今日の回収は彼とだ。
名無しは立ち上がり、2人を置いてミスタと店を出た。
「なあ名無し」
なんのトラブルもなく順調に回収が進み、もう終わるというところでミスタが切り出す。
「日本ってよォー英語が通じねーんだぜ?大抵の国は英語で通じるけどよ」
知ってたか?と片眉を上げて聞く。知ってるも何も、そこに産まれて住んでいた。名無しは冗談混じりに返す。
「日本って日本語でしょ?偶然にも、わたしの祖国の公用語も日本語なんだよね」
「でもよ、オメーはもうイタリアに染まっちまってる。日本語なんて忘れちまったんじゃあねーの?」
「多分、ジョルノより日本語ペラペラだよ」
ミスタは何を言っているのだろうか。イタリアより日本にいた期間の方が長いというのに。名無しはさっさと終わらせて準備に取り掛かろうと、立ち止まるミスタを急かした。
全ての回収が終わり、トラットリアへ戻ると先程の2人に加えてフーゴとアバッキオがいた。空いた席に腰を下ろし、報告や雑談をする。その会話の中でそういえば、とフーゴが話し出した。
「日本は地震がとても多いというデータを見たんです。周りが海ですから、津波の危険性も高い」
危ない場所ですよねと名無しを見る。
それに対抗するように真っ直ぐ彼を見つめ返す。
「イタリアも地震多いよね。しかも日本より耐震対策がされてないから、震度に対して被害が大きいんだよね」
地震に関してはフーゴかジョルノが言うと思っていた。ちゃんと反論の準備はしている。上手くいったと名無しが満足していると、今度はアバッキオが口を開いた。
「テメーらいつまでくだらねえこと言ってんだ…」
何を言うのかと冷や冷やしたが、注意してくれたようだ。アバッキオの言う通りである。もう決まった事なのだ。名無しはようやくまともな人がいたとホッとする。
「名無し。おまえも気を付けろ…最近飛行機が一機墜落したらしいぜ」
前言撤回である。ホッとしたのも束の間、まともな人などここにはいない。これから搭乗する人に対して、墜落など言うのものではない。
「知ってる?墜落する可能性って宝くじ一等当てるより低いんだよ」
イタリアにも飛行機で来たんだけどと、またもや溜息混じりに返す。味方かと思ったらこれだ。
「いくら何を言われても行くよ。もうブチャラティにも言ってあるし」
ブチャラティの名を出せば、皆うーんと唸り出す。彼が良しとしたなら仕方がない…といったところだろうか。効果を感じ、あと数日は彼の名前を使わせてもらおうと思う。よしよしと内心ほくそ笑む名無しに後ろから声がかかる。
「なんの話だ」
丁度いいところにブチャラティが戻ってきた。日本へ行く話だよと言うと、ブチャラティは困ったような顔をする。
「その事なんだが…すまない、任務が出来た。名無し、君にしか出来ないことだ」
「…へ?…でもっ、この前は構わないって」
「よーっし名無し!任務だってよォ!捗るなあ!」
隣に座るミスタがバンバンと背中を叩く。さっきまで黙ってたのに急に元気じゃないか。そんなこと言われても、もうチケットも取っている。抗議しなければと声を荒げた。
「一週間ぐらい良いじゃない!帰らせてよ!」
ブチャラティに向かってそう言うと、辺りがシンと静まる。突然の静けさに名無しが周りを見渡すと、皆は呆気にとられたようにこちらを見ていた。
「え…なに…」
「一週間…と言いましたか?」
一足先に正気に戻ったジョルノが確認するかのように言う。訳が分からないまま名無しが頷くと、皆の身体から力が抜けた。なーんだと興味をなくしたように、それぞれ好きなことをし始める。ちょっと待て誰だ心配して損したって言ったの。
皆の変わりように逆に呆気にとられる名無しの肩に、ブチャラティがポンと手を置く。
「任務は今無くなった。思う存分楽しんでくるといい」
1/1ページ