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「わぁーーー!!!アバッキオさん血がッ…!!」
「喚くな…大した傷じゃあねえ」
アジトへ戻る道中だった。鉢合わせた女は腕の傷を目ざとく見つけ、大きく声を上げる。血が傷がと慌てふためく彼女に、オレは顔を顰めた。つい先ほど不意に食らった一発だが、本当に大したことのない傷だ。むしろよく見つけたと言いたい。こんな小せえ傷。さっさと帰ろうと横を通り過ぎようとしたが、咄嗟に腕を掴んだ彼女に阻まれてしまった。
「待ってください…!すぐ!すぐ手当しますから」
その言葉に、オレはあからさまに怪訝な顔をする。その表情を見た彼女は少し怯み、不安そうに聞いてきた。
「な、なんですか…?」
「…アンタ、本当に暗殺者なのか?この程度で取り乱してちゃあ人なんざ、」
「ッこの程度!?痕とか残ったらどうするんですか…ッ」
痕って…ギャングが痕なんか気にするかよ。思ったより厄介なものに捕まったなとオレは溜息をつく。
「ギャングならこれくらい日常茶飯事だろうが」
「ギャングだからとか関係ありますか…!?小さい傷だからって舐めてちゃダメですよ。そこから雑菌が入って、」
「分かった。もういい…好きにしてくれ」
疲れていることもあってオレはこれ以上言い合うのが面倒で、片手を軽く上げて彼女の言葉を遮る。ここで彼女を振り切るより、大人しく手当をうけたほうが楽だ。そう判断し、近くの段差に腰掛けた。
ほらよと傷がある腕の袖を捲ってみせたが、彼女はそれには目をくれずきょろきょろと周りを見渡す。そして「ちょっと待っててください」と言い残し、ひとつの店に走っていく。何してんだと思ったが、数分後また走って戻ってきた彼女が下げている袋を見てオレは呆れた。
「…わざわざ買ってきたのか」
「絆創膏くらいしか持ち合わせていなくて」
すみません、と眉を下げて始めた手当を黙って眺める。わざわざ買ってまで手当てするとか…大して知ってる仲でもねーのによくここまで出来るな。暗殺者どころかギャングかどうかも疑えそうだと感心より呆れが上回る。そうしてしばらく黙って眺めていたが、ふと勧誘のことを思い出して聞いた。
「で、アンタ…チームに入るのか?」
「ッ……ええっと…、まだ悩んでますが…興味はあります」
少し考える素振りを見せてそう言った彼女に、ならやってみればいいと返した。簡単にチームを選り好み出来るわけじゃあねえだろうが、やってみなきゃあ分からねえこともある。
興味があるならやってみればいい。出来ねえとか合わねえと思ったら、その時またどうするか考えりゃいい。そう思って言ったことに、彼女は何とも間抜けな顔をした。
「…なに手ぇ止めてんだ」
「あっ、いや…アバッキオさんがそんなこと言うと思わなくて…」
そう言ってはにかみ、彼女は再び手を動かし始める。2度くらい顔を合わせたがこうやって話すことは初めてで、オレは勧誘に我関せずの態度だったから彼女からしたら今の発言は意外だろう。確かに柄じゃなかったかもなとそれ以降口を噤み、手当が終われば拒否する彼女に「礼だ」と買ったものの代金より多めに受け取らせて、オレはそこを後にした。