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昼を過ぎたあたり、そろそろかなと待ちわびていると呼び鈴が鳴る。はーい、と相手には聞こえない返事をしながら玄関まで駆けてドアを開けた。その間からひょこっと顔を出した彼は眩しいほどの笑顔で、思わず私も笑みがこぼれる。
「いらっしゃい、ナランチャ」
彼とは元々知り合いだったわけじゃなく、今回の勧誘で仲良くなった。というより懐かれて、たまに私の家に集まっては他愛のない話をしたり、彼の勉強をみたり、ゲームをして過ごす。今日は私が作ったタルトをおやつに食べに来てもらった。
「ン!これすっげーうまい!!」
タルトを口にした彼は瞳を輝かせて褒めてくれる。そしてまた一口、また一口とどんどんフォークを口へ運ぶ。彼はとても分かりやすく、美味しければ顔を綻ばせてもりもり食べるし、口に合わなければ眉が下がり手が止まる。この様子を見るとどうやらタルトづくりは上手くいったようだ。
しかし同じ組織とはいえ男を自宅に上げるなんて、チームの人に見られたら危機管理がなってないと怒られてしまいそうだ。でも私だって誰でも簡単に上げるわけじゃない。彼と関わった上で、ちゃんと判断して上げている。といってもチームの皆は納得しないだろうな。
「ね、ナランチャ。また食べたいのあったら教えてよ」
久しぶりのお菓子作りが楽しくて、他にもいろんな種類を作ってみたいと思っていた。喜んでもらえて嬉しかったし、せっかくなら彼のリクエストを聞きたい。しかし答えが返ってこず、顔を覗きこめばなぜか浮かない顔をしている。どうしたのかと聞くと、彼はテーブルに項垂れた。
「オレ、もう…来ない…かもしれない」
「え!?なんで?何かあったの?」
「みんなに会ってること知られて、迷惑かけるなって言われたんだ。べつに隠してるつもりじゃなかったけどさ…。おんなじチームならここに来なくても会えるけど…名無しは勧誘、断るんだろ…?」
「…どうしてそう思うの?」
「…名無しがチームの話するとき思うんだ。今のチームから離れたくないんだろうなって」
そんなつもりはなかった。本当にまだ悩んでいてどちらがいいともない。あればすでに返事している。でも私は「そんなことはない」とはっきり否定できなかった。彼は素直で無邪気で、それでいて繊細で人の気持ちにも敏感だ。もしかしたら私自身、気づいていない気持ちを彼は感じ取ったのかもしれない。
けど、会えなくなるなんて、そんなことは考えていない。悲しげな顔でうつむく彼にそっと話しかける。
「ナランチャ…迷惑じゃないから、また来てよ」
「ッ本当?いいの?」
「むしろ、もう来ないなんて寂しいよ。もしチームが違ってもまた来てほしい。…あ、じゃあ次は私が遊びに行くから!」
ね、約束、と小指を差し出すと彼はきょとんとその小指を見つめる。ふふっと笑って彼にも小指を出させると、私は彼のそれに自分の指を絡めてゆびきりをした。
「日本の“約束”だよ」
そう言うと、彼は絡まる小指をしばらく見つめ、「やくそく、」と確かめるようにつぶやく。そしてパッと顔を上げると、いつもの眩しい笑顔を見せた。
「やくそく…うん、約束、約束な!ぜってー来てくれよ!」
何度も約束をする彼に思わず笑いながら、何度も頷き返す。それから気に入ったのか、別れ際には約束、と指切りするのが恒例となった。