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「本来ならチームを取りまとめているオレが自ら行くべきだが、都合がつかなくてな…おまえから来てもらった」
通された通路奥の部屋。そこに彼はいた。リゾット・ネエロ――会ったことはなかったものの、その名は知っている。組織でも彼の姿を見たことがあるものはそうそういないだろう。ボスと同じくらい正体不明のヒットマンで、物騒な噂と共に名前だけが独り歩きしているのだ。
任務の成功は絶対で失敗したものは消されるとか、その姿を見たものはもれなく殺されるため誰も姿を知らないとか…。同じ組織とはいえ暗殺者の巣窟にのこのこと来たのはまずかったか。私は静かに自分の判断を反省する。
「単刀直入に言う。…名無し、チームに入らないか。おまえが必要だ」
射るような深い瞳から目を逸らせずに口ごもる。彼の噂が事実かどうかは置いといて、必要とされているのは悪くない気分…いや、正直とても嬉しい。持て余しているこの能力も生かせるかもしれない。しかし――。思いつめる私をじっと見つめ、彼は一言「なにが不安だ」と聞いた。
「そう、ですね…。今までの任務と違いますから…それに、能力をコントロールできるか分かりません。ほとんど使ったことがないんです」
私はブチャラティやアバッキオのような、なにか利便性のあるスタンドじゃない。さらにブチャラティは「ギャングの一員である以上、女だからといって特別扱いは出来ない」なんて言っておきながら、危険なことに巻き込まれそうな任務は私に振り分けない。
だから攻撃性に特化したこの能力は、今のチームの任務で使用することは全くと言っていいほどなかった。
「初めは誰でもそうだ。最初から能力も殺しも上手くいく者はいない…それを期待しておまえを引き入れたいわけでもない。能力の相性も二の次だ」
彼と会話していて思うのが、話しやすい、ということだ。噂が本当だとしても納得できるし、もし脅しかけられたら震え上がるだろう。しかしそんな威圧的な存在感でありながら、つい話してしまうような静穏な雰囲気を持っている。
「…それじゃあ、私を勧誘する一番の理由って何ですか」
「おまえの任務に対する姿勢だ。少しばかり、おまえの仕事ぶりを見せてもらった…内容は大きく異なるが、このチームの仕事を任せられると判断した。
…それと、人間性だ。薄々感じているとは思うが、チームのやつらは信頼できるが少し癖がある…仲間になる以上、あいつらと渡り合えるような器量が必要になるが…おまえにはそれがある」
「…そうでしょうか…。確かに変わった方々でしたが、私にそんな器量があるとは…」
さすがチームリーダーだ。仲間のことをよく分かっていらっしゃる。彼の言う通り癖のある人たちだった。しかし何を見聞きして器量があるなんて思ったのか。振り返っても億劫さを全面に出して対応した記憶しかない。
「…気付かなかったか?オレが見受ける限り、あいつらはおまえを気に入っている」
「はあ!?あッ…すみません……その、失礼ですが…そんな風には思えない勧誘だったかなあ~と…」
予想もしない言葉に、相手がリゾット・ネエロだということも失念して派手に驚きの声を上げてしまう。気に入っている?誰が?なにを?
「オレが指示したのはプロシュートに話を持ち掛けることと、ギアッチョにここへ案内させることだけだ」
私は今度は言葉を失う。指示してないって…つまり、それ以外は勝手にやっていたというのか。確かに「来るな」とも「断れ」とも言われたことはない。だが若干名、勧誘ではない者や、歓迎はしていないような態度の者もいた。あれで気に入っている…?だとしたら癖がありすぎるのではと眉を歪めて苦悩する私に、彼は静かに続ける。
「プロシュートが声を掛けて暫く経ったな……考える時間は与えたはずだ」
リゾットは伏せ気味にしていた瞼をゆっくりとあげ、落としていた目線を私に向ける。私はこの目を一生忘れられないだろう。そして、きっとこれが最後の勧誘だ。
じわりと手に汗が滲んだ。
「名無し、おまえの答えを聞かせてもらおう」
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