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規定内のスピードで走る赤い車の前を、曲がり角から黒い車が猛スピードで横切った。ぶつかることなく嵐のように過ぎ去った黒い車に、赤い車の運転手は鋭くがんを飛ばし、ぐっと拳を固めた。
「なんッだアイツ!ふざけてんじゃねーぜ!!」
「あッ!ちょっとッ、そんな殴らない方が」
彼は怒りのままに固めた拳をガンッと前へぶつける。そこはちょうどカーエアコンがある場所で、以前にも殴ったのか、吹き出し口は歪んでいたり欠けていたりしている。
この車が壊れようと私にはどうでもいいが、隣で血を流されて気分がいいわけない。もう一度繰り出されようとしている拳に、私は咄嗟にカーエアコンの前に手を出した。拳は私の掌に当たる前にぴたりと止まったが、その怒気が今度は私に向けられるのを感じた。
「…おい、なんだ…この手はよォ~~~……テメーに当たんだろうがッ!!」
「危ないと思ったので…つい…」
怒鳴りを受けながら私は手を引っ込める。彼は短気らしいが、その中に垣間見えるまともな感性になんだか困惑してしまう。元はといえばあの黒い車が飛び出してきたのが悪いし、今も私の手に当たってしまう事に怒っていた。表現方法こそ激しいだけで、怒るポイントは納得できる。しかし、やはり彼の癖というか性というか…静かに運転していても暫くするとまた何かに気を立てる。その様子にチームのある人物が脳裏に浮かんだ。どのチームにも一人はいるものだろうか。
ふと、今どこを走っているのか気になって、窓の外に目を向けた。車はいつのまにか裏道に入っていたようで、レンガやコンクリートの味気ない色ばかりが続いている。裏道なんてどこも同じようなもので、ここがどの辺りかなんて分からない。
あとどのくらいで到着か聞こうと運転席を向いたとき、彼がサイドブレーキを引いた。停まる車に私は慌てて窓の外を振り返る。そこには何の変哲もない普通の建物が建ち並んでいた。
「ここが、アジトですか…?」
「ああ」
彼の短い返事に「とうとう来たのだ」とそこでようやく実感が湧く。そりゃ“いかにも”な根城であるわけはないのだが暗殺者のアジトと聞くと、つい映画に出てくるようなおどろおどろしい、異様な建物を想像してしまう。
「…場所、教えて良かったんですか?」
同じ組織に属する者であっても、チームが違えば簡単にアジトを教えたりしない。私たちのように表立って動くチームならまだしも、彼らは隠密を基本としている暗殺者だ。実際、ヒットマンチームというのは組織の中でも情報が少ない、不明瞭なチームだった。
「運転しねえやつが一発で道を覚えられるかよ」
彼の言う通りだった。数十分のドライブだったが、地図も何もなしに戻れと言われたら私はきっと迷子になる。車を降りる準備をする彼をみて、私もシートベルトに手をかけた。
「アジトを知られたくらいでどうにかなる程ヤワなチームじゃねえ……それに連れてこいっつったのはリゾットだ。オレが勝手に教えたわけじゃねえ」
彼の口から出た名前に、身体の動きが止まった。
今のいままですっかり忘れていた。
そうだ、確かヒットマンチームのリーダーって―――
先に降りた彼がアジトのドアを開く。中へは入らずにドアを押さえ、ぎこちなく動き始めた私に促すような視線を向けた。
「入れよ………リーダーが待ってる」