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「何してんだよお前」
スクアーロが変なものでも見たかのような顔で問うと、女は振り返って自分の口の前に人差し指を立てた。
開けっ放しになっている部屋。スクアーロはその前を通り過ぎる際にちらと横目で見ると、思わずその歩みを止めた。部屋の中央にあるソファではチョコラータが仮眠をとっている。それは特段可笑しなことではないのだが、その傍で一人の女がしゃがみ込んでいる。何やってんだと思い、そのまま彼女にそう伝えると静かにしろと言わんばかりに眉を顰められた。
「だから何してんだよ」
スクアーロが再度そう問うと、彼女は立ち上がり、スクアーロを押して部屋の外へ出た。
「静かにしてよ…チョコラータが起きちゃう」
「お前が起こそうとしてたんだろ」
「してない」
「寝込みを襲うつもりだったのか?やめとけよ…ばれたらお前は実験台だぜ」
「違うって」
「じゃあなんだよ」
スクアーロが再三にわたり聞くと、彼女は迷うように眉間を寄せる。そして周りをきょろきょろと見回して誰もいないことを確認すると、スクアーロに近寄った。声を潜めてひそひそと話し出す。
「…誰にも言わないでね」
「?……ああ」
「………チーズ、……作ろうと思って」
「…は?」
何を言ってるんだこいつは。オレの聞き間違いか?
スクアーロは返答の意味が分からず、気の抜けた声を出した。
「だから、実験台なのはチョコラータの方」
「おい、話が全く見えねえ。チーズ作るってなんだよ」
「チョコラータの能力って黴でしょう?…だからブルーチーズとかカマンベールとか作れないかと思って」
何を言ってるんだこいつは。
ちゃんと聞きなおしても意味が分からねえ。
「絶対内緒にしてね…成功したらスクアーロにもあげるから」
「要らねーよ。そもそもチーズカビは青カビだろ……あいつのは青カビどころか食人黴だぜ」
食人黴でカビタイプのチーズは出来ないし、仮に出来たとしてもそんなものを口にして良いのか。いや、良いわけがない。スクアーロは想像して苦い顔をした。
「やってみなきゃ分からないじゃない。…実験だよ実験」
「つーかスタンド出さなきゃ無理じゃあねーの」
「そうだけど…チョコラータが素直にやってくれると思う?」
「無理だな。見返りにお前の腹が掻っ捌かれる」
「でしょう?だから手始めに近くに置いてみようと思って」
「…本気で言ってんのか」
「もちろん」
「…そうか………あー、まあ、あれだ。頑張れよ」
真剣に言う彼女。馬鹿げた話にこれ以上付き合ってられないと思ったスクアーロは溜息をつき、頭にポンと手を置いて去っていった。
名無しはスクアーロやチョコラータと同じ親衛隊に属している。
探求心の強い名無しはよく実験をしていた。周りから見れば、実験と称した子供の遊びにしか見えないものだったが、彼女はいたって真剣そのもの。しかし迷惑になることも多く、この前はセッコのスタンド『オアシス』で液状化したものの中で、スクアーロのスタンド『クラッシュ』が起動出来るのか。という実験をしようとしてスクアーロを溶かしかけた。
その実験で得られる結果はほとんどが役に立たないものばかりだが、たまにスタンド能力の向上や汎用性を高めるのに役立つ結果もある。
そうして今日はチョコラータのスタンド『グリーン・ディ』の黴で、カビタイプのチーズを作ることが出来るのか試そうとしていたのだ。
寝ているチョコラータの近くにフレッシュチーズをそっと置く。本来はチーズを作る過程で青カビを混ぜたり、表面に噴霧したりするのだが、チョコラータが協力してくれるとは思えない。名無し自身、この方法で出来るとは思っていなかったがそれも含めて実験だ。名無しは、黴が生えていますようにと手を合わせて部屋を後にした。
数時間後、名無しはチーズの様子を見に部屋へ向かう。
黴が生えていれば熟成させて、生えていなければ不本意だがチョコラータに協力を仰いでみようと思っていた。
名無しが部屋へ入ると、チョコラータはまだ寝ているようだった。良かった、チーズを置いたことはバレていない。安心したのもつかの間、ソファへ近寄った名無しは声を上げた。
「あっ!!」
なんとセッコがチーズを食べてしまっていたのだ。
愕然とする名無しにセッコが不満げな顔で近寄った。
「な、なあ…これ、甘くねええ…」
「……セッコ…」
実験が失敗ならともかく、妨害されてしまった。しかし何も知らない彼を責めるのは忍びない。名無しはやるせなく肩を落とした。
今さら気付いたけどグリーン・デイって生物に黴生やすんだったね。チーズじゃ生えないね。
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