少女椿
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「名無し2。まだ寝る時間じゃあないだろう」
意識を飛ばしかけた名無し2の頬に掌を容赦なく打ち付ける。
「…っ!」
名無し2は痛みでまた現実に引き戻された。
ジャンニ、と名乗った男に名前も自由も奪われてしまったあの日から始まった暴力は名無し2の身体だけでなく、精神をも蝕む。装飾された指輪をはめたまま殴りつけ、硬く冷たい革靴で蹴りつける。「昨夜のビステッカと君、どちらの方が柔らかいのだろうな。…気にならないか?」そう言って膝上にたてられた歯型はまだ新しい。
傷一つなかった小さな肌のあちこちに蚯蚓腫れが走る。ベッドの上で小さな身体に跨るジャンニは、その痕をゆっくりとなぞっては愛おしそうに眉を下げた。
「…覚えているんだ。全て。この傷ひとつひとつが生まれたときの君の表情を」
目を伏せて、しかし、とジャンニは続ける。
「やはり人とは欲深いものだな。早くも新しい表情を欲してしまう…どの傷をとってもひとつとして同じ形はないだろう?表情も同じだ」
ジャンニは瞼を上げ、その表情を逃すまいと名無し2の顔を注視した。
「ッや、だ」
なぞっていた指でそのまま名無し2の脇腹に手加減なく爪を突き立てた。
「!ッぅぐ…」
名無し2は食い込む痛みに顔を歪める。ジャンニは恍惚としてそれを眺めた。
「…ッ君は本当に可愛いらしい…」
はぁと感嘆の息を漏らし、突き立てたまま手を下に引く。
「ッあ"ぁ"ぁぁ!」
薄く剥けた皮膚からは少し遅れてうっすらと血が滲む。すでに乾いていた睫毛を涙がまた濡らした。
「ああ、名無し2…血を流させるつもりはなかったんだ。痛いだろう。すぐに手当をしよう」
出来たばかりの真新しい傷を見ると脇腹から手を離し、名無し2の上からさっと降りた。おいで、とテーブルセットへと手を引く。両脇に手を差し込んで持ち上げ、テーブルの上に名無し2をそっと座らせるとその前に椅子を引き寄せ腰を下ろした。
ばしゃばしゃと消毒液を手のひらに出す。透明な液体は指の隙間から垂れ、ジャンニのスラックスに跡を残した。脇腹の傷に手のひらをなすられるとびりびりとしみ、声を上げそうになるが唇をかんで耐える。
「そんな顔しないでくれ。たまらなくなるじゃないか」
悩ましげに名無し2を見つめた後、傷をさすっていた手を離しガーゼを当てた。皮が少し剥けただけにしては大げさな手当て。それを施すと名無し2を抱き上げ、またベッドへと寝かせた。額にやさしく唇を当てると、おやすみ、とジャンニは去っていった。
ジャンニは嗜虐性がありながら優しさを持つ男だった。常に笑みを崩さず、纏う柔らかさは安心感を与える。
時に道具を用いて行われる容赦ない行為。どれだけ泣き喚こうが、意識を飛ばそうが遠慮なく続けられる。だが、合間に頭をなでる手は優しく、いとおしそうに緩む口から紡がれる言葉は甘やかだった。名無し2の身体から出血がみられるとすぐに手を止め、大げさな処置を施す。
いつだったか、与えられた衝撃に耐えられなかった胃が体外へと内容物を押し上げたとき。吐瀉物がジャンニのスーツに飛び散った。
「ごめんなさいっごめんなさい」
やってしまった。何度も小さく謝罪を呟き、これから来るであろう衝撃に身構える。
しかし予想は裏切られた。
もう一歩足を踏み出し、吐瀉物が散らばるにも関わらず床へ片膝をつき、名無し2の前へしゃがみ込む。涎と嘔吐物が伝う顎を片手でそっとつかみ、俯く顔をぐっと上げる。目を合わせたジャンニはすこしも怒りを滲ませていなかった。
「謝ることじゃあない。殴ったんだ。逆流するのは正常な証拠だ」
顎をつかんだ手の親指で名無し2の口元を拭う。
「――だが、あまり良くないな。吐き癖がついてしまっては困る。胃酸は歯を溶かすからな」
それから暫くの間、腹部を痛めつけるようなことはなかった。
己の加虐欲を惜しみなく満たしつつも心からいたわる矛盾は飴と鞭のようでじわりと名無し2を侵食していった。
意識を飛ばしかけた名無し2の頬に掌を容赦なく打ち付ける。
「…っ!」
名無し2は痛みでまた現実に引き戻された。
ジャンニ、と名乗った男に名前も自由も奪われてしまったあの日から始まった暴力は名無し2の身体だけでなく、精神をも蝕む。装飾された指輪をはめたまま殴りつけ、硬く冷たい革靴で蹴りつける。「昨夜のビステッカと君、どちらの方が柔らかいのだろうな。…気にならないか?」そう言って膝上にたてられた歯型はまだ新しい。
傷一つなかった小さな肌のあちこちに蚯蚓腫れが走る。ベッドの上で小さな身体に跨るジャンニは、その痕をゆっくりとなぞっては愛おしそうに眉を下げた。
「…覚えているんだ。全て。この傷ひとつひとつが生まれたときの君の表情を」
目を伏せて、しかし、とジャンニは続ける。
「やはり人とは欲深いものだな。早くも新しい表情を欲してしまう…どの傷をとってもひとつとして同じ形はないだろう?表情も同じだ」
ジャンニは瞼を上げ、その表情を逃すまいと名無し2の顔を注視した。
「ッや、だ」
なぞっていた指でそのまま名無し2の脇腹に手加減なく爪を突き立てた。
「!ッぅぐ…」
名無し2は食い込む痛みに顔を歪める。ジャンニは恍惚としてそれを眺めた。
「…ッ君は本当に可愛いらしい…」
はぁと感嘆の息を漏らし、突き立てたまま手を下に引く。
「ッあ"ぁ"ぁぁ!」
薄く剥けた皮膚からは少し遅れてうっすらと血が滲む。すでに乾いていた睫毛を涙がまた濡らした。
「ああ、名無し2…血を流させるつもりはなかったんだ。痛いだろう。すぐに手当をしよう」
出来たばかりの真新しい傷を見ると脇腹から手を離し、名無し2の上からさっと降りた。おいで、とテーブルセットへと手を引く。両脇に手を差し込んで持ち上げ、テーブルの上に名無し2をそっと座らせるとその前に椅子を引き寄せ腰を下ろした。
ばしゃばしゃと消毒液を手のひらに出す。透明な液体は指の隙間から垂れ、ジャンニのスラックスに跡を残した。脇腹の傷に手のひらをなすられるとびりびりとしみ、声を上げそうになるが唇をかんで耐える。
「そんな顔しないでくれ。たまらなくなるじゃないか」
悩ましげに名無し2を見つめた後、傷をさすっていた手を離しガーゼを当てた。皮が少し剥けただけにしては大げさな手当て。それを施すと名無し2を抱き上げ、またベッドへと寝かせた。額にやさしく唇を当てると、おやすみ、とジャンニは去っていった。
ジャンニは嗜虐性がありながら優しさを持つ男だった。常に笑みを崩さず、纏う柔らかさは安心感を与える。
時に道具を用いて行われる容赦ない行為。どれだけ泣き喚こうが、意識を飛ばそうが遠慮なく続けられる。だが、合間に頭をなでる手は優しく、いとおしそうに緩む口から紡がれる言葉は甘やかだった。名無し2の身体から出血がみられるとすぐに手を止め、大げさな処置を施す。
いつだったか、与えられた衝撃に耐えられなかった胃が体外へと内容物を押し上げたとき。吐瀉物がジャンニのスーツに飛び散った。
「ごめんなさいっごめんなさい」
やってしまった。何度も小さく謝罪を呟き、これから来るであろう衝撃に身構える。
しかし予想は裏切られた。
もう一歩足を踏み出し、吐瀉物が散らばるにも関わらず床へ片膝をつき、名無し2の前へしゃがみ込む。涎と嘔吐物が伝う顎を片手でそっとつかみ、俯く顔をぐっと上げる。目を合わせたジャンニはすこしも怒りを滲ませていなかった。
「謝ることじゃあない。殴ったんだ。逆流するのは正常な証拠だ」
顎をつかんだ手の親指で名無し2の口元を拭う。
「――だが、あまり良くないな。吐き癖がついてしまっては困る。胃酸は歯を溶かすからな」
それから暫くの間、腹部を痛めつけるようなことはなかった。
己の加虐欲を惜しみなく満たしつつも心からいたわる矛盾は飴と鞭のようでじわりと名無し2を侵食していった。