ああ、日が暮れた。小さく聞こえてきたヒールの音に無意識に身を固める。近づくにつれて大きくなるその音は部屋の前で止まった。ドアが開き、女性が袋を片手に部屋に入る。真っ直ぐ少女のもとへ向かったその足は、何の前触れもなく腹部を蹴り上げた。

「…っ！」

しまった。受け身を取り損ねた。何も吐き出なかったことに安堵する。決してそんな状況じゃないが、ヒールが汚れたと機嫌を損ねられないだけマシだった。

「今夜は予定があるの。時間がないから早く聞かせて欲しいのだけれど」

行動とは裏腹に彼女は微笑み、優しく語り掛ける。
床で倒れたまま、早く、早くと時間が過ぎるのをただ待った。





「―――残念。時間切れね。」

だんだんとイラつきを露わにしながら少女を力とともに問い詰めていたが、それも長くは続かない。あきれたように眉を上げた彼女は、来た時と同じように片手に袋を引っ提げて部屋を出ていく。

ここへ来てから二回目の食事は数えるほどしかしていない。


彼女はある財産の在処を知りたがっている。しかし少女が情報を吐くことはなかった。何も知らない、吐くものがないのだ。どうしようもなかった。

その情報があれば、食事ができるのだろうか。ここから出られるのだろうか。それとも必要なくなった。と…

死ぬことは怖くなかった。
だが死にたいわけではないし、痛いことは嫌だ。


鈍痛が留まる腹部を両腕で抱きしめ、ベッドへ丸まった。寝てしまえば痛みも空腹も紛れる。ここで起こることの一部始終を見ている影にたたずむものを視界から追い出すように目を閉じた。