エピソード3 ルグニカ平野からベルケント
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第一音機関研究所の前では神託の盾兵が数名待機していた。隠れる暇もなく彼らに見つかってしまった。
「バチカルでは派手にやってくれたそうですな、特務師団長!」
「…特務師団長?」
ルークを見た神託の盾兵がそう言ったが、当の彼はポカンとしている。どうやらルークとアッシュを間違えているようだ。
「ヴァン主席総長がお呼びです!出頭していただきますよ!アッシュ特務師団長」
ルークはちらっとジェイドを振り返り、ニッドは密かにノルンに手をかけようとしていた。
「ヴァン謡将に会う絶好の機会です。ここは大人しく捕まりましょう」
ジェイドの言う通り皆んなは大人しく神託の盾兵に連行された。連れてこられたのは研究所にあるヴァンの私室だった、そこにはヴァンとリグレットの姿があった。
「アッシュ特務師団長を連行しました」
「兄さん!リグレット教官!」
「師匠…!師匠は…アクゼリュスで…俺を…俺を…」
「…とんだ人違いだな。閣下、下がらせますか」
「いや、構わん」
ヴァンは椅子からゆったりと立ち上がり、神託の盾兵を下がらせる。
「兄さん!何を考えてるの!セフィロトツリーを消して、外殻を崩落させて!」
「そうだよ!師匠!ユリアの預言にも、こんなことは詠まれてない…」
「ユリアの預言か…。馬鹿馬鹿しいな、あのようなふざけたもの頼っていては人類は死滅するだろう」
「貴方だって、外殻大地を崩落させてこの世界の滅亡を早めているではありませんか!」
「それがユリアの預言から解放される唯一の方法だからだ」
「死んでしまえば預言も関係ないですからねえ」
「違うな。死ぬのはユリアの亡霊のような預言とそれを支えるローレライだけだ」
「ローレライって…第七音素の意識集合体?まだ未確認なんじゃ…」
「いや、存在する。あれが預言を詠む力の源となり、この星を狂わせているのだ。ローレライを消滅させねば、この惑星は預言に縛られ続けるだろう」
「外殻が崩落して消滅したら、大勢の人が死ぬ。そしたら預言どころの話じゃなくなっちまうよ」
「レプリカがある。預言通りにしか生きられぬ人類などただの人形。レプリカで代用すればいい」
『なんてことを言うんだ…』
「…」
ノルンは言葉を失い、ニッドも密かに目を見開く。
「フォミクリーで大地や人類の模造品を作るのか?馬鹿馬鹿しい」
ガイが吐き捨てるように言い放つ。
「では聞こうか。ガイラルディア・ガラン・ガルディオス」
「!」
本当の名で呼ばれたガイは驚いてしまう。
「ホドが消滅することを預言で知っていながら見殺しにした人類は愚かではないのか?」
「それは…」
ガイは答えに詰まっている。
「私の気持ちは今も変わらない。かねてからの約束通り、貴公が私に協力するのならば喜んで迎え入れよう」
ガイはヴァンと繋がっていたのかと緊張が走る。
「かねてからの約束、ガイ…どういうことだ?」
ルークに問われてもガイはすぐには答えられなかった。
「ガルディオス伯爵家は代々我らの主人。ファブレ家で再会した時からホド消滅の復讐を誓った同志だ」
ガイもルークも沈黙してしまった。
「俺は認めない。預言は遵守されるものではなく人生を幸せな方へ導くものだ」
『そして、預言は乗り越えられるものだ』
ヴァンはニッドに視線を移した。
「貴方もわかったはずだ、我らが先祖。預言通りに生きることかどれほど愚かなことか、今まで見てきたはずだ」
「…何のことだ」
表情を変えず、ヴァンを見据えて言った。
「え…先祖?ニッドが…?」
ルークが首を傾げてニッドを見た。
「では問おう。始祖ユリアの実弟ニッドヘルグ・ジュエ、そしてヴィースドラゴン、今まで旅をしてきて預言を覆すことはできたのか」
ニッドの真の名を聞いたジェイド以外の仲間は驚いた。
「!ユリアの実弟って…!?」
「はうあ!准将は二千年前の人!?」
「え、ユリアの実弟…?」
ルークだけは座学で聞いていなかったのかわかっていないらしい。
『おしゃべりな師匠だな、まったく』
「…ちっ」
ノルンは深く息を吐き、ニッドはあからさまに舌打ちした。
突然、ドアが乱暴に開く音が響いた。ヴァンとリグレット以外がそれに驚く。
「来たようです」
リグレットは足音の正体を知っているようだ。ヴァンの私室にアッシュが飛び込んで来た。
「アッシュ!」
ナタリアが驚きと嬉しさが混ざったような声で呼んだ。
「待ちかねたぞ、アッシュ。お前の超振動がなければ私の計画は成り立たない。私と共に新しい世界の秩序を作ろう」
「断る!超振動が必要ならそこのレプリカを使え!」
アッシュは乱暴にルークを示した。
「雑魚に用はない。あれは劣化品だ。一人では完全な超振動を操ることもできぬ」
ヴァンはルークを切り捨てる、ルークはその辛辣な言葉にショックを受けている。
「ルークを…劣化品だと…」
ニッドは怒りを抑えようと拳を握りしめる。
「あれは預言通りに歴史が進んでいると思わせるための捨てゴマだ」
「…ヴァン!その言葉取り消せ!」
ティアよりも先にニッドか声を荒げて前に出た。同時にリグレットもヴァンの前に一歩出る。
「構わん、リグレット。この程度の敵、造作もない。ニッドヘルグ、その屑と共にパッセージリンクを再起動させているようだがセフィロトが暴走しては意味はない」
「…わかってんだよ…そんなことは…!」
ノルンに手をかけるニッドをジェイドが制した。
「ニッド、ノルンを収めてください。…今の我々では分が悪い」
「ああ、この状況じゃ俺たちも無傷ってわけにはいかない。たとえ相打ちでもダメなんだ。外殻を降下させる作業がまだ残ってる」
ガイがニッドを説得する。ニッドは手を震えさせながらもノルンから手を離した。
「ヴァン、ここはお互い退こう。いいな?」
戦闘態勢を解いたニッドを見たアッシュがヴァンに問う。動かないヴァンにリグレットが確認する。
「よろしいのですか?」
「アッシュの機嫌を取ってやるのも悪くはないだろう」
「主席総長の話は終わった。立ち去りなさい」
ヴァンの言葉を了承と受け取ったリグレットがそう言い放った。
研究所を出た一行はアッシュに向き合う。
「アッシュ、バチカルでは助けてくれてありがとう」
「そうだよ、お前のおかげだよ。ここまで逃げてこられたのは」
「俺からも。ありがとう、アッシュ」
ルークとナタリア、ニッドがアッシュに礼を言う。
「勘違いするな。導師に言われて仕方なく助けてやっただけだ」
「イオン様が!?」
アニスが反応している。
「お前たちに渡すものがある。宿まで来い」
アッシュは先に宿屋に向かった。ルークは先程のヴァンとの会話が気になるのかガイに尋ねた。
「なあ、ガイ。さっきの師匠とおまえの話だけど…」
「ん?あ、ああ…あれか…」
「お前がカースロットで襲ったのって…」
「…そうだな。ヴァンが言ったことは本当だ。あいつと俺は同志だった。だが、今は違う。あいつと俺の目的は違ってしまったからな」
「それを私たちに信じろと?」
「こちらが疑り深いことはご存じですよねぇ」
「そうそう」
ティアとアニスとジェイドはそう簡単には信じないようだった。
「おやめなさい!ニッド以外私たちの誰もがルークを見捨てた時、ガイだけはルークを迎えに行きましたわ!そのことまで否定なさいますの?」
ナタリアが声を上げて言った。
「作戦かもしれませんよ」
ジェイドの返した言葉にルークは驚いている。
「信じろとは言わないよ。俺をヴァンのスパイだと思うなら君たちと離れるさ。それだけさ」
「…俺はガイを…信じる…」
ルークは言葉を絞り出している、だが恐らくは本心だろう。
「いいのか?」
「…だって、俺はガイに信じて欲しいからさ。俺が変わるってこと。それを見ててほしい」
「…そうか」
「ガイは敵国でありながら私を力付けてくれましたわ。あれが私たちを欺く演技だと私には思えません!」
「私はガイを疑ってはいないわ。兄さんがガイをスパイとして使うつもりならもっと巧妙に隠すはずだもの」
確かにヴァンがわかりやすいスパイを使うはずがないとニッドも頷く。
「俺も信じてるよ」
『ワタシもだ』
「ええ、それは同感です。儀礼的に疑ってみました。一応ね」
ジェイドは肩を竦めた。
「…そうやって甘くしてるといつかすごいしっぺ返し食らうよ。ま、私はいいけどね。忠告したし」
「アニス?」
ニッドを視線を向けるとアニスは視線を逸らした。
「はは、なんでもいいさ。これからも頼むよ」
「こっちの台詞だよ。ガイ…俺、お前のこと信じてるから」
「…あぁ、わかってるよ」
皆はガイのことを信じると決めたようだ、ニッドもそれは変わらない。ルークがニッドに向き直る。
「ニッドは…本当にユリアの弟なのか…?」
「私も知りたいです。実は時々、微かに譜歌が聞こえていたんです…」
ジェイドはもう隠すことはできないようだとニッドに視線を送っている。
「…ヴァンの言ったことは真実だ。俺は二千年前から来たユリアの弟、ニッドヘルグだ。今はマルクトのバーゼライド家にお世話になっているんだ」
息を吐いてからニッドが言い放った。
「待ってくださいまし。二千年前ってどうやって時を超えて来たのですか?」
「詳しくは言えない。姉さんから未来を変えるような言葉を口にするなと釘を刺されているんだ」
「なんで正体を隠してたんですかぁ?」
「彼の正体は機密情報なんですよ、知っているのはマルクト軍上層部と皇帝陛下、バーゼライド夫妻、あとはイオン様だけです」
「なるほど、ユリアの弟なんて聞いたら大混乱になるわな」
ガイが納得した。
「イオンは秘預言で知ったらしい。あとは教会上層部の奴らもたぶん知ってるだろうな……その…もし、君らが嫌だと言うなら俺は分かれるよ」
「どうしてですか?」
ティアが聞いた。
「俺は二千年前の人間だ、未来のこの世界じゃ異端だぞ。それにこんな話、信じられないだろうし…」
「…俺!ニッドからもっと色んなこと教わりたい…!だからその…これからも一緒に旅をしたい…」
「信じてくれるのか?」
「信じるも何も、そんな音機関を持ってるのはニッドだけだしな」
「ええ、とても心強いですわ」
「私も…准将から学びたいことがたくさんあります」
「だそうですよ、ニッド。どうします?」
『離れるなんて今更しなくても皆元々お前のことを信じてくれてたみたいだぞ』
「…ありがとう。ノルン共々よろしく頼む」
自分の存在は異端だと思って不安を抱えていたニッドだが、仲間からの言葉を聞いて安心した。一行はアッシュを追って宿屋へと歩き出した。
